記事のポイント

  • ウクライナ侵攻が続く中で実現した、2023年9月の金正恩氏のロシア訪問。今回の露朝首脳会談の影響は、欧州以外に及ぶ可能性も。
  • プーチン氏は、「ロシアを米国の覇権に対抗する存在にする」という野望があり、そのために北朝鮮からロシア軍への軍需品供与を必要としています。
  • 一方の金正恩氏が求めているのは、衛星技術や戦闘機、軍備増強のための知見であり、これらは全てプーチン氏から得ることが可能です。

ロシアのウクライナ侵攻によってもたらされた事象の中で、最も奇妙なことの一つが、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が2023年9月にロシアを訪問したことでした。6日間の日程で行われた金氏の訪ロは、「金氏とプーチン露大統領がウクライナ問題だけでなく、東アジアという地域全体のパワーバランスに影響を与え得る軍需品や技術移転に関する問題で、合意したのではないか?」との懸念を呼んでいます。

両首脳はいったい、相手から何を得ようとしているのでしょうか? 「ポピュラー・メカニクス」誌が分析します。

装甲列車で極東へ

north korea leader kim jong un in russia
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ロシア側の国境の町ハサンに到着後、専用装甲列車から降りて歩く北朝鮮の金正恩総書記。2023年9月12日撮影。

9月12日(火)、金正恩氏は北朝鮮の首都平壌から防弾仕様の専用列車に乗り、国境を越えてロシアの極東連邦管区に入りました。金氏は6日間にわたり、ロシア海軍太平洋艦隊の司令部のあるウラジオストクなど、ロシア軍の主要拠点や本部を次々に訪問しました。米CNNは、金氏が「戦闘機や飛行場の様子を見学し、太平洋艦隊のフリゲート艦を視察した」と報じました。

また、「金氏はロシア国内で2400マイル(約3862キロ)の距離を移動し、主に各地の軍事施設を視察した」と伝えられています。そうして極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地を訪れ、プーチン大統領と5時間に及ぶ会談を行ったのです。金氏はプーチン露大統領に防弾チョッキを贈り、プーチン氏は金氏に偵察用ドローン5機と「Geranium (ゲラン)2」(イラン製無人機「Shahed(シャヘド)136」のロシア版)1機を提供しました。

両首脳が会合に至ったのは、互いに自身の政権の目的を果たすためでしょう。プーチン氏の場合は、想定以上に難航しているウクライナ侵攻も背景にあると考えられます。が、今回の金氏のロシア訪問が持つ意味について、さらに掘り下げた考察を行うため、「ポピュラー・メカニクス」誌は長年北朝鮮軍の分析に携わり、現在はワシントンD.C.に本部を置く非営利政策シンクタンクで「戦略国際問題研究所(CSIS)」内のiDeas LabKorea Chairで画像分析シニアフェローを務めるジョセフ・ベルムデス氏に話を訊(き)きました。

プーチン氏の思惑とは?

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2023年7月30日、サンクトペテルブルクでの「ロシア海軍の日」を記念する海上軍事パレード出席した、ロシアのプーチン大統領とコンゴのドニ・サス・ンゲソ大統領。プーチン氏が目指すのは、米国主導の秩序に代わる勢力圏のリーダー。

ベルムデス氏は今回のプーチン氏が金氏を迎えた目的について、「世界的な影響拡大を睨(にら)んだものであるとともに、戦争の後方支援を得るための地ならし」としています。

まず国際的な目的としては、プーチン氏は米国の覇権に対抗する国々を主導する機会を狙っており、北朝鮮との関係強化はそうしたリーダーシップのイメージを印象づけるのに役立つということです。ベルムデス氏は次のように説明しています。

「ウクライナ侵攻を必ずしも悪としていない国々は、多数存在します。そうした国々はロシアを米国に対抗できる世界の大国として、権力、資金、軍事物資の供給源として見ているのです。

プーチン氏自身もそうしたグループのリーダーとして見られることを望んでおり、ロシアが他国を支援することができる強力で実行力のある国家であることを示したいのです」

russia wwii parade history
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152mm自走榴弾砲「Msta(ムスタ)-S」などのロシアの大砲は、容易に北朝鮮の弾薬を利用することが可能とされています。

プーチン氏はまた、「ウクライナ侵攻の軍需工場として北朝鮮に目をつけた」と考えられます。ベルムデス氏は「ロシアの軍需支出は想定をはるかに上回っており、ロシアは同国中央部と極東から軍事備蓄を移動させています。北朝鮮が弾薬を供与すれば、それによって極東の軍事備蓄が補充され、さらに西側(ウクライナ)に向けて使われる可能性があります」と指摘し、「もし北朝鮮製の装備がウクライナで発見されれば、実際に北朝鮮の弾薬がウクライナ侵攻で使われたという証拠だ」と説明しています。

プーチン氏は、北朝鮮製の砲弾やその他の弾薬の不発が意外と多いことに気づくことになるかもしれません。ベルムデス氏によれば、「(プーチン氏にとっての)課題は、北朝鮮の軍備品の品質管理の問題。北朝鮮製はロシア製よりも故障率が高い」とのことです。

不発弾という問題はあるものの、北朝鮮は工場の生産能力を増強し、ロシアの戦闘活動を支援することが可能なのです。ベルムデス氏によれば、「労働力、経験、設備がそろっている北朝鮮は、工場を24時間稼働させることができ、比較的早いペースで弾薬の生産を始めることができる」ということ。北朝鮮には弾薬、軍需品工場があり、ロシア向けの弾薬生産の原料として使える天然資源があるからです。

北朝鮮がロシア向けに弾薬の生産を開始すれば、金氏が訪ロに使った鉄道路線はロシアへの弾薬の輸送を担うことになるでしょう。そして実際にCNNが11月2日(木)には、「韓国の情報機関・国家情報院が、8月上旬以降から北朝鮮がロシア向けに100万発以上の砲弾を輸出していたことを明らかにした」報じました。

金正恩氏の思惑とは?

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2012年4月8日、北朝鮮北西部の東倉里にある西海衛星発射場で、ロケット「銀河3号」の前に立つ北朝鮮の番兵。

金氏はまた、「単なる軍事装備だけでなく、ある“威信”を追い求めており、ロシアはその実現を手助けできる」と見ています。北朝鮮は既に核弾頭とそれを搭載するロケットやミサイルを開発していますが、偵察衛星の打ち上げという点では「実現はまだ遠い」という実情があります。

ベルムデス氏は、金氏が望んでいるのは、現実的に機能する衛星を軌道上に打ち上げること」としたうえで、「具体的に言えば偵察衛星です。金氏にとって、これは威信に関わる非常に大きな問題なのです。ロシアに打ち上げを打診することもでき、それは間違いなく可能なはずですが、金氏はおそらく自国製SLV(人工衛星打ち上げロケット)で打ち上げたいのだと思われますと述べています。

宇宙開発はさておき「金氏はもっと現実的な兵器について支援を求める可能性がある」とのことで、ベルムデス氏は次のように語っています。

「金氏は核保有国が配備を望む、『戦略核の三本柱(大陸間弾道ミサイル・潜水艦発射ミサイル・戦略爆撃機)』の半分を保有しています。北朝鮮が核弾頭を搭載可能なロケットやミサイルを多数保有していることはよく知られており、金氏は現在、弾道ミサイル潜水艦(戦術核攻撃潜水艦)も保有しています。三番目の柱は戦略爆撃機なのですが、北朝鮮空軍の装備は韓国、日本、中国、米国などと比較すると信じられないほど遅れています」

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Rob Schlieffert/Creative Commons
「MiG(ミグ)-27」は旧ソ連時代の旧式戦闘爆撃機ですが、北朝鮮のような国ではまだ役に立つ可能性があります。

ベルムデス氏によると、「ロシアは第3世代戦闘機(第4、第5世代ではなく)や予備機、現役機のスペアパーツ、電子戦装置などを譲渡することが可能」だということです。これらはロシアがもはや必要としない戦闘機や装備品ですが、北朝鮮にとっては操作方法や整備方法が既にわかっているもの。これらの戦闘機はもともと、旧ソ連時代に核重力爆弾を投下するために設計されたもので、北朝鮮が再利用することが可能です。

ベルムデス氏はまた、「武器以外に北朝鮮が望んでいるものの一つは、同国軍を最先端の状態にするために必要な、戦争に関する知見や人材だ」と指摘し、次のような見方を示しています。

「ロシアの経験豊富なパイロットを何人か北朝鮮に派遣すれば、北朝鮮にとっては大きな助けになり、ロシア海軍が北朝鮮に来れば名誉かつ貴重な体験になります。また、北朝鮮からウクライナに代表団を派遣するのも有益かもしれません」

北朝鮮がウクライナでの戦闘に参加する可能性が取り沙汰されていますが、「その可能性は低い」というのがベルムデス氏の見方です。同氏は、1967年の第3次中東戦争で北朝鮮空軍がシリア軍を支援したことや、1973年の第4次中東戦争で北朝鮮の戦闘機パイロットが戦時経験を積むために積極的に戦ったこと、イラン・イラク戦争の間はイランに駐留軍を置いていたことに言及したうえで、それでもウクライナ戦争の最前線への北朝鮮軍の派兵については、「ウクライナでの戦いに北朝鮮軍が参加するのは難しいのではないかという見方を示しています。

まとめ

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が援助し合える要素は多数あります。両者とも威信と軍備、そしておそらく長期的な協力関係を求めていますが、ただ、合意が成立するかどうか? は全く別問題のようです。

ベルムデス氏は、「人々がまるで露朝の合意が既定路線のように話している」ことを疑問視し、「北朝鮮は過去にもロシアと協定を結んでいますが、互いに独自路線を走っているため、平行線のまま終着点に至っていないのが現状だ」と最後に述べています。

Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics