記事のポイント

  • クジラのような大型の海洋哺乳類が死ぬと、その死骸は海底に漂着します。
  • 10年以上もの間、クジラの体を剥ぎ取ったり、骨の中に潜り込んで栄養分を探したりして、海の生き物たちが次々とその体を利用して生きていきます。
  • 科学者たちがカナダのブリティッシュコロンビア沖に沈むクジラの死骸に、10年間で3度目となる訪問を行い、クジラの腐敗した骨格にまだしがみついている生物を垣間見ました。その映像が、アメリカの非営利団体オーシャン・エクスプロレーション・トラストによって公開されました。

クジラの死骸が
一つの生態系を生み出す

生命の循環については、誰もが知ってるはず。ですが、地球を動かす生と死のエンジンを理解することと、実際にそれを目にすることは全く別のことでしょう。

2009年、モントレーベイ水族館研究所(カリフォルニア州モスランディングにある非営利の民間海洋研究センター)の研究者たちは、ブリティッシュコロンビア沖の海底で腐敗している(と思われる)全長16フィートのコククジラの死骸を発見しました。

クジラの死骸が朽ちていく過程は「ホエールフォール(whale fall)」として知られ、食糧に乏しい海域に住む生き物たちの生存にとって極めて重要なものです。

このクジラの腐乱体は、オーシャン・ネットワークス・カナダ(=ONC。カナダのビクトリア大学が所有し、研究および海洋観測を行っている世界有数の施設)の科学者が、海底から放出されるメタンガスを監視している「クレイクオット・スロープ・ブルズアイ・サイト」と呼ばれる場所にあります。

2012年と2020年、オーシャン・ネットワークス・カナダの科学者たちはクジラの骨格の中で成長する鯨骨生物群集(クジラの死骸を中心に形成されるコロニー)を記録するために、海面下約1250メートルに位置するこの場所を再訪しました。そしてアメリカの非営利団体オーシャン・エクスプロレーション・トラストの海洋探査船「EVノーチラス号」とともに2023年に潜ると、死骸が海底で発見されてから15年近く経った今もなお、骨格に生命が息づいていることを発見しました。そしてありがたいことに、彼らはその驚くべき発見の映像をYouTubeにアップロードしたのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Revisiting a Whale Fall on Clayoquot Slope | Nautilus Live
Revisiting a Whale Fall on Clayoquot Slope | Nautilus Live thumnail
Watch onWatch on YouTube

「この骨格は、多くの無脊椎動物や数種の魚種を含む豊富な底生動物(海底近くに生息する生物)を支えているのです。その中には、腹足類(巻き貝の類)や等脚類(甲殻類の総称)、そしてカニやイバラヒゲ、チューブワームなどがいます」

オーシャン・エクスプロレーション・トラストは、最近の探検のブログ記事で以上のようにつづっていました。また、「これらのチューブワームは、恐らく2009年に見られたものと同じ個体で、クジラの左顎の骨にまだ住み着いています」とも記しています。

クジラの死骸は
3段階で分解される

クジラの死骸は死肉をエサとする「移動性スカベンジャー*」によって、次に骨食海洋虫や貝類などの「栄養便乗者」によって、そして脂質を分解して硫黄を生成するバクテリアによって3つの段階で分解され、各段階で深海生物に恩恵を与えています。

※スカベンジャー(Scavenger):動物の死骸を食べる動物たちを指す英語。海底に沈んだ魚やクジラなどの生き物を食べるオオグソクムシやヌタウナギ、カニなどがそれに当たります。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
The Stages of Whale Decomposition
The Stages of Whale Decomposition thumnail
Watch onWatch on YouTube

例えば、2019年モントレー湾国立海洋保護区の科学者たちは移動性スカベンジャーの段階で、ウツボに脂身を剥ぎ取られながら深海のタコに栄養を提供する、比較的新しいクジラの死骸を発見しました。最終的にバクテリアが骨を分解し、やがて骨の中の脂質を硫黄に変えるまでに、今度は栄養便乗者が栄養分を消費するようになるでしょう。

preview for Watch This Octopus Escape Through This Small Hole in the Boat

写真測量調査も実施した2023年の調査は、過去にこの地を訪れた際に得られた既存のデータに加え、「ホエールフォール」という生命維持のサイクル全体を詳細に示す驚くべきデータセットを海洋生物学者に提供することになります。

深海においても世界中のあらゆる生態系においても、死は始まりです。結局のところ、生命の循環には終わりがないということです。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Kotaro Tsuji
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です