テニスは、「とてもワクワクする面白いスポーツ」と言ってもいいかもしれません。
ただし、テニスはイケてるスポーツではありません。少なくともファッションの点ではそう言えます。スポーツウエアの復権の波に乗って、ほかのスポーツがランウェイや世界の街角に影響力を拡げるなか、テニスのイメージは昔も今も「プレッピー」のままです。
もちろんプレッピーのイメージを保ち続けていることはそう悪いことではありませんが、センターコートで見かける嵩(かさ)張るスーツ、そして選手たちが着用するウエアなど…あまり感動に値するようなスタイルが、ここ最近なかなか見つからなかったのも事実です。テニスは結局のところ保守的なスポーツであり、そしてそのファッションにも、そのことが大きく反映されているのです。
しかしながら、テニスのファッションが常に保守的なものだったわけではありません。
1930年代には、テニスの最初の黄金時代(そしてテニスに着想を得たファッションの黄金時代)がありました。私たちが現在知るメンズウエアの定番の多くもこの時に生まれたもので、なかにはテニスシューズやポロシャツ、ホワイトのスラックスのように、センターコートからそのまま一般に広まったものもありました。
当時フレッド・ペリーやビル・チルデンのようなスター選手が着ていた特注のテニスウエアは、現在の選手たちが身につける性能優先のウエアに比べ、はるかにシャープなものであり、これはテニスのクオリティを高めるための素晴しい事象だったのです。
現役引退後に自身のブランドを立ち上げたフレッド・ペリー
ウィンブルドンで3度の優勝を飾ったペリーは、現役引退後の1952年に自らの名前を冠したファッションブランドを立ち上げました。
そして、フレッドペリーの洋服はそれ以降、メンズファッションのさまざまなサブカルチャー(1970年代のノーザン・ソウル・ムーブメントから80年代のパンク・ムーブメント、90年代のブリットポッパーまで)に採り入れられることになります。
一方チルデンは、ハンプトンズ(米ニューヨーク近郊のビーチリゾート)の保守的な人々よりもハリウッドの人々のほうが、共通点が多い人でした。
彼は背が高くて男前で、非の打ち所のない服装をし、そしてこれがいちばん重要なのですが…魅力に溢れた佇まいをしていました。テニス選手としてのピークを過ぎた後でさえ、米国人はチルデンのプレイする姿を見ようと、試合会場に詰めかけたものです。
そうして、それまでニューヨーク州にあるカントリークラブのメンバーがやるようなスポーツだったテニスがチルデンによって、観客を呼べるスポーツという地位を手に入れることができたのです。
さらに1970年に入ると、本物のスター選手が新たに登場してきたことによって、テニスはその勢いを取り戻しました。
ジョン・マッケンローとアーサー・アッシュは、そうしたスター選手の代表格でした。
マッケンローはかっとなりやすい性格で、その結果、出場停止や罰金をくらうワイルドなプレーヤーでした。そして、たくさんのラケットを壊すことにもなりましたが、その一方で、彼は時代の申し子という面も強く、セルジオ・タッキー二のトラックスーツとハンサムなパーマを好んでいました。
そんなトレンドが今になって振り返ってみると、何とも残念なものであるのは間違いありませんでした。しかし、それが当時のトレンドでした。そんなトレンドのおかげで、マッケンローの存在はテニス界のみならず、誰もが知る存在となったのです。
それに対して、アッシュは黒人選手として、テニスの世界で最初に名声を手に入れた人物のひとりでした。彼のスタイルは、とても大きな襟のついたポロシャツ、カラフルな色づかいのウエア、それにティアドロップの形をしたサングラスなど、70年代らしさが凝縮されたものでした。
グッチやプラダ、トム フォードなどのおかげで、私たちが最近目にするようになったトレンドは、実はこの流れに属する70年代スタイルなのです。
2018年は3度目の黄金時代が到来している!?
その後、いわゆる「ビッグ4」(ノバク・ジョコビッチ、ロジャー・フェデラー、アンディ・マレー、ラファエル・ナダル)という聖なる4人組が台頭してきたときには、テニスウエアはパフォーマンスのみを競い合うゲームとなり、真似できるスタイル(他の分野で真似されるようなファッション性)はほとんどすべて失われていました。
観客は過去最高レベルのプレイを目にすることになりましたが、ただ、そのスタイルに関するクレデンシャルはナダルのヘッドバンドとフェデラーの恥ずかしくなるようなエンボス加工のトラックスーツで始まり、そして終わりました。
そんな状態がつい最近まで続いていましたが、今年2018年には3度目の黄金時代(テニスがふたたびファッションの流行に影響を与える時代)がまもなく到来することを示す、いくつかの徴候が見られることに(そして私たちが話をしているのは、ユニクロがフェデラーとスポンサー契約を結んだという最近の話題のことではありません)。
テニスには各ブランドが利用していたり、新たに想像し直すことができる、何十年分ものスタイルの遺産があります。そして、現在勢いのある各ブランドがテニスのスタイルに注目しており、同時に昔からあるブランドの復活も流行しています。
たとえば、最近ではパレス(流行に敏感で、熱心なファンがついているストリートウエアのブランド)が、アディダスと提携してウィンブルドンで着るようなテニスウエアのコレクションを発表していました。
このキャンペーンには、ごく控えめにブランドネームが入ったスポーツウエアを着て、ゴールドのジュエリーを身につけたお洒落な子供たちがたくさん登場していますが、彼らはウィンブルドンの周辺にいる人たちよりも、むしろシュプリームの店に行列する人たちとの共通点のほうが多く、これは良いことです。
このコレクションに含まれるポロシャツとジムショーツは技術的な性能だけでなく、ファッション性にも優れたもので、今年のウィンブルドンでは何人かのキープレーヤーがパレスとアディダスのコラボウエアを着用していました。
そのほか、80年代に一世を風靡したスポーツブランドのセルジオ・タッキー二ーを覚えていますか? インターネット上を流れるストリートファッションのフィードのなかに、マッケンローのポロシャツの画像が登場したりもしています。
私たちは、これからどちらに向かうのでしょうか?
ペリー、チルデン、アッシュ、マッケンローに比肩する、新たなスーパースターの登場がテニス・ファッションの復権の第1歩となるでしょう。
ゴールドのチェーンとホワイトのテニスウエアを身に着けたファッションの流行に、敏感な若者たちを大勢見かけることになるのでしょうか? それともラルフ ローレンを着た審判にヒントを得たファッションが、ランウェイに登場することになるのでしょうか?
あるいはスポーツウエアとしての性能とファッション性の両方を兼ね備えたウエア(今年のサッカーのワールドカップでみかけたようなもの)が、今後もっと登場してくるのでしょうか?
こうした問いに対する答えが「イエス」であれば、テニスがついに再びポップカルチャーの分野で注目を集めることになるかもしれません。そして、テニスが再びかっこいいスポーツになることを期待しましょう。
Source / ESQUIRE UK
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。