E.C.D オートモーティブデザイン(E.C.D. AUTOMOTIVE DESIGN)とは、ヴィンテージカーのカスタムメーカーです。その前身となったのが、3人の男性がフロリダ州オーランド郊外で2013年に立ち上げたイースト・コースト・ディフェンダーズ(East Coast Defenders)でした。

設立当初は小規模に過ぎなかった事業も、今では年間60台を超えるランドローバーのレストアやアップグレード、カスタムを手掛けるカスタムカービジネスの代表格にまで成長しました。最新作には、テスラのパーツを取り入れた電動パワートレインが搭載されています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
East Coast Defender presents Project Tuki
East Coast Defender presents Project Tuki thumnail
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現在は小さな工業地帯に点在するガレージをつないで事業を展開しているECDですが、創業者の一人であるスコット・ウォレス氏によれば、「会社がこんなに大きくなるなんて、驚きしかありません」とのこと。

トム・ハンブル氏とエリオット・ハンブル氏のハンブル兄弟とウォレス氏の3人で立ち上げたメーカーですが、近い内に10万平方フィート(約9290平方メートル)の新施設に移転する予定とのこと。事業が順調に推移すれば、生産台数も年間72台、84台、96台と、拡大していくつもりであることも言っています。

新施設への移転に際してこだわったのは、2列の生産ライン、そして50万ドル(6000万円超)を費やした塗装部門の増設です。もはや場末のカスタムトラック工場などではなく、本格的な自動車メーカーへと成長を遂げた…という事実は明白と言えるでしょう。

E.C.D オートモーティブデザインは、ゼロからのトラックづくりを行っているわけではありません。しかしながら、「それに近い地点まで来ている」とは断言できます。現在では、インテリアトリムからボディパネル、サスペンションやドライブトレインに至るまでの全てのレストアや開発、付け替えなどを自社だけで行っているのです。

フレームとして用いられているのは、25年以上前につくられたランドローバー「ディフェンダー」。ですが、他のあらゆるボディパーツについては、新型車のものが使われています。部品などの調達と輸送手配を担当するスタッフがイギリスに7名、オーランドの本社では63名のメンバーが「ディフェンダー」(ときには「レンジローバー」の旧車も)を完璧な状態へと仕上げます。

クルマ本体のレストアを行う部門に加えて、電気系、内装系を受け持つ三部門に分かれています。「オリジナルのフレームに対するブラスト処理とAC充電周り、自社で行っていないのはその2つだけ。つまり、それ以外は何もかも自社で行っているということです」と、ウォレス氏は語気を強めます。

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E.C.D. AUTOMOTIVE DESIGN

有能な職人たちが夢のレストアを具現化する

E.C.D オートモーティブデザインがここまで成功した秘訣は、品質に対するこだわりと効率の良さに集約されます。プライベートエクイティ(編集注:未公開企業や不動産に対して投資を行う投資家や投資ファンドのこと)や、ベンチャーキャピタルでの経験を持つウォレス氏にはハンブル兄弟と会社を起業する前にも、さまざまなビジネスの拡大を手掛けてきた経験があります。

事業が軌道に乗ったと感じた彼は、自身の専門知識を活かして企業としての成長を実現させてきたのです。自動車業界で特に優秀な人材を採用すること、そして彼らが社に定着するように待遇すること、それがウォレス氏の方針です。

毎週月曜日と金曜日には2時間を費やし、インターネットでの人材発掘にも打ち込んでいます。「ウチの会社の従業員定着率は95パーセント。すでに5年以上も勤めてくれている人も大勢います」と、ウォレス氏は胸を張ります。

 
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依頼者の注文に応じた「ディフェンダー」が完成するまでには、およそ16カ月という時間が必要です。が、その半分の期間が設計に費やされています。収益の7パーセントが設計部門に充てられており、クルマのあらゆる点を個々のクライアントの希望通りに仕上げるべく、綿密な打ち合わせが重ねられています。

E.C.D オートモーティブデザインでは、「ディフェンダー」のボディスタイルからルーフラック、車内の座席数に至るまで、ほぼあらゆる要素のカスタムを行います。ドライブトレインについては、シボレーのクレートモーター、カミンズ社製のディーゼルエンジン、そしてランドローバー純正エンジン、さらに冒頭でもご紹介したテスラのパワートレインなど、9種類の選択肢から選ぶことが可能です。

ボディの塗装やインテリアトリムについては、クライアントの想像力にどこまでも応じる構えです。結果として、色鮮やかで個性的な(ときに奇抜な)「ディフェンダー」が生まれることも少なくないそうです。

憧れの車体に最新のテクノロジー。
品質管理と保証制度も抜かりなし

設計が固まれば、いよいよ製作スタートです。完成までには20段階もの工程があり、その中には3段階の品質管理も含まれています。納車後に何か問題が生じた場合には、自社工場での修理を行う保証制度も設けています。本格的なメーカーや高級ディーラーと同様、高級車ブランドならではのマンツーマンのホスピタリティあふれる対応がされています。

実際、結果が質を物語っています。E.C.D オートモーティブデザインの顧客の約25パーセントがリピーターですが、完璧な仕上がりを求めてどれだけの作業が行われているのかをひと目見れば、このリピート率の高さにも納得せざるを得ないでしょう。間近で見れば、その品質の高さを強く実感できるはずです。

ボディパネルの組み立ては、一流メーカーと呼ぶに相応しい完璧のひと言。フロリダの太陽を浴びながら施された塗装は、塗装部門の素晴らしい働きを映し出すガラスのような滑らかさで明るく輝いています。心地良い音と共にドアが開けば、真新しい上質レザーの香りが漂います。

 
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運転席に腰をおろせば、「ディフェンダー」本来の威風堂々とした視界が目の前に開けます。低く構えたフロントエンドパネルとコンソールを備えたクルマが多い中、直立したフロントガラスと高さのあるダッシュボードがむしろ新鮮に映ります。

E.C.D オートモーティブデザインでは、2007年以降の「ディフェンダー」に搭載された“プーマ”スタイルのダッシュボードを採用しており、2020年以前に販売されていた米国仕様のどの「ディフェンダー」よりも現代的なキャビンに仕上がっています。インフォテイメントシステムやカスタムされたメーター、新型のスイッチ類など、この会社独自のモダナイゼーションにより、夢のような空間が広がっています。

E.C.D オートモーティブデザインの「ディフェンダー」は、公道においてその真価を最もよく発揮します。今回の試乗は短時間に留まりましたが、それでもウォレス氏のチームが素晴らしい仕事をしたことは舗装路でもよくわかりました。

見た目的にも魅力的な「ディフェンダー」ですが、そもそも快適な乗り心地を最優先した行儀の良いクルマというわけではありません。ところが、E.C.D オートモーティブデザインの手に掛かれば、実に乗り心地の良い一台へと姿を変えるのですから驚かずにはいられません。

実際に試乗した感想は…

今回の試乗で私(この記事の著者であるブライアン・シルベストロ氏)は、主にテスラ「モデルS」の電動モーターを搭載したEV仕様車を走らせました。

本来トランスミッションがある場所に、縦置きされたモーターの動力がドライブシャフトを経由してライブアクスルに届けられまる。エンジンルームとトランクルームに置かれたバッテリーパックからの電力を受け、4つのタイヤにトルクが送り込まれるのです。航続距離は220マイル(約345キロ)とのことですが、空力特製など皆無と呼ぶべきクルマであることを思えば、決して悪い数字ではないでしょう。

 
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瞬発力に優れた電動モーターのトルクによって、高速道路でも楽に加速します。E.C.D オートモーティブデザインによれば、「EVディフェンダー」の0-60mph加速(停止状態から時速約96キロまでの加速に要する時間)は5.5秒。これはあのポルシェ「パナメーラ」と同程度の実力とのこと。巨体のSUVで体験する驚きの加速性能には、絶大な満足感が伴います。

これほどのパワーともなれば、オリジナルの「ディフェンダー」なら転倒しかねないところかもしれません。ですが、この「EVディフェンダー」なら冷静な対応力を見せてくれます。その秘密は、エアサスペンションシステムにあります。回生ブレーキにも万全の調整が施され、スロットルペダルを緩めるだけで減速が生じます。減速が必要になれば、硬すぎず感度の高いペダルが小気味よく働いてくれるのです。

モーター周りの遮音材は最小限に留められ、ペダルを踏めばその甲高い音がフルレンジで響き渡ります。電動パワートレインに期待する静寂とは異なりますが、まるで宇宙船のようなサウンドが古典的な車体の雰囲気ともよくマッチしているとも言えるでしょう。繊細な木製リムと3本スポークのステアリングホイールの感触も見事。新旧のあれこれが時代を超えて融合し、そして見事な調和を奏でているかのようです。

 
E.C.D. AUTOMOTIVE DESIGN
唯一無二の価値を堪能できる夢のクルマ

でき得る限りの改良が施された「ディフェンダー」ですが、それでも「オリジナルの欠点を100パーセント払拭している」とは言えません。見た目こそ新品そのものですが、ベースは25年以上も昔のクルマです。ステアリングには曖昧なところもあり、カーブを曲がろうとすればバランスも少し気になります…。

しかしながら、それが欠点であるかと問われれば、必ずしもそうとは言い切れません。むしろ「E.C.D オートモーティブデザインなりの魅力」と呼んでも良いかもしれません。あらゆる性能を備えた最新SUVが欲しいのであれば、選択肢は他にもたくさんあります。この「EVディフェンダー」は現代のSUVとしての性能を備えつつ、最新型のモデルやSUVには絶対に真似できないスタイリングを実現しているのです。

30年前の機械や電子機器に囲まれて暮らそうとすれば頭が痛くなるでしょう。ですが、この「EVディフェンダー」なら、そのような悩みを抱えることなくレトロな体験が満喫できることは間違いありません。そしてそれこそが、このクルマの追い求めるものに他ならないのではないでしょうか。そしてそれが、見事に実現されていると言えるのです。

 
E.C.D. AUTOMOTIVE DESIGN

E.C.D オートモーティブデザインによる「EVディフェンダー」の価格は、20万9995ドル(約2670万円)。…それは確かに高価です。しかもこの値段は、青天井のカスタマイズのオプションや、アップグレードを施す前の数字です。とは言え、実際にこの会社の施設を見て回り、彼らが一台一台のクルマにどれだけのこだわりを持って対峙しているかを目の当たりにすれば、納得のいく金額というほかありません(この記事を読んで、もうすでに納得している人がいることも願っています)。

LS3エンジンを搭載した旧式「ディフェンダー」ではなく、「可能な限り最高に仕上げた1台」と呼ぶに相応しいものとなるよう再設計された、真新しく珠玉のクルマを手にすることができるのです。メルセデスの「G63」なら運転は快適かもしれませんが、この「EVディフェンダー」の放つ個性やクールさの前では、もはや敵とは呼べないのではないでしょう。

つまりこの「EVディフェンダー」にとってのライバルは、新車市場には存在しないのです。ECDの事業拡大計画を見ても分かる通り、そのことの優位性がいかに重要なものであるか? 人々も気づきつつあると言えるでしょう。

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
この翻訳は抄訳です。