EV市場の勢力図が塗り替えられる起爆剤にも

わずか10分以下の充電で、航続距離1000キロにも達する――?

そんな夢のようなBEV(バッテリー式EV)を、トヨタは「2027年にも市場投入する」と宣言しました。それはトヨタの研究拠点である静岡にて開催された、“クルマの未来を変えていこう”をテーマにした技術説明会「Toyota Technical Workshop」にて発表された今後の方針です。

中嶋裕樹副社長
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CTO(最高技術開発責任者)の中嶋裕樹副社長。

CTO(最高技術開発責任者)の中嶋裕樹副社長が壇上に上がり、「全固体電池」の課題を克服したこと、さらに実用化の時期として2027年~28年を目指し、EVへの搭載を進めていくと話しました。ちなみにトヨタのBEV「BZ4X」向けリチウムイオン電池は、約30分の充電で航続距離はおよそ600キロ、テスラ「モデルY」向けリン酸鉄リチウムイオンバッテリーは約15分の充電で、最大260キロの航続距離です。

2022年のEV世界販売台数はわずか2万台ほどと、EVシフトへの出遅れが指摘されていたトヨタですが、もしトヨタの計画が実現すればEV市場の勢力図を塗り替える可能性も指摘されます。

次世代電池の大本命として研究が続けられてきた「全固体電池」

長い間、全固体電池は次世代電池の大本命と注目されてきました。実際、研究開発を続けているのはトヨタだけに限りません。

全固体電池
Toyota
公開された全固体電池。次世代電池をさらに上回る航続距離と、10分以下の急速充電が可能になるとされています。

現在のEVで主流となっているバッテリーは、液化リチウムイオン電池です。これは、+極と-極の間に液体の電解質があるタイプですが、全固体電池とは電解質を液体から固体に切り替えた電池となります。その特徴としてエネルギー密度が高いため、航続距離が長く、充電所要時間も短い。小型であり、液体の電解質よりも発火しにくいので安全性も高いとされています。

一方でコスト高、量産体制の整備が難しいこと、さらに耐久性という課題も指摘され続けてきました。耐久性についてですが、全固体電池は使用する(充電と放電を繰り返す)につれて性能が低下してしまう…という欠点がありました。これまでは一般的に充放電が数十回~数百回しかできず、実用化に必要なめどとされる数千回以上の放充電が達成できていませんでした――。

今回のトヨタの発表では、「全固体電池の課題を克服した」とありますが、今後の普及を占ううえで、量産化による低コスト生産体制の確立も不可欠となるでしょう。

液化リチウムイオン電池のさらなる改良も視野に

今回の発表の場では、全固体電池の他にも注目すべき内容がありました。トヨタはBEVへの搭載を見据える二つのリチウムイオン次世代電池を開発しています。その一つが「パフォーマンス版」と呼ばれるもの。2026年の搭載予定で、既存の液化リチウムイオン電池の性能を高めることで、急速充電20分以内で従来型比2倍の航続距離を目標に据えています。

もう一つが「普及版」と呼ばれるリチウムイオン次世代電池。2026~27年の実用化を目指しているバッテリーで、航続距離は従来型の20%増、急速充電は従来と同じ30分以内ですが、部品点数を1/4~1/5程度に抑えられるため40%近くのコスト減を見込んでいるとのことです。

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なお、今後は2026年に最初の次世代BEVを市場に投入し、同年のEV目標販売台数を世界150万台と設定。2030年には350万台のBEV販売を見据え、その中の170万台を次世代BEVが占めるという見通しであることも発表されました。