トヨタの新型「プリウス」こそ、近年の自動車史上最も革新的なモデルチェンジの一例と呼べるかもしれません。どちらかと言うと、野暮ったかったはずの車…。それが突然、トヨタのラインナップの中でも最高に洗練された車として生まれ変わったのです。

さらに性能も大きく向上し、そのうえ運転しやすくなったことで価値が大いに高まり、アメリカでも若年層を中心に広い層から注目される存在となっています。ディーラー各社はすでに、数十万台規模の売り上げは固いと踏んでいるようですが、トヨタ自身はそれほどの販売台数を期待している様子ではありません。

トヨタの北米法人のマーケティング担当副社長を務めるリサ・マテラッツォ氏は、アメリカのカーメディア「Road and Track」の取材に対して、今回の「プリウス」の標準モデルの年間販売台数については「3万5000台程度になるのではないか」と慎重な姿勢を示しています。この数値は前モデルの通年販売台数と比べて、わずかな上乗せに過ぎないのです。

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MACK HOGAN

2021年の「プリウス」の販売台数は、3万3968台という結果でした。が、これは旧型であることに加え、サプライチェーンが混乱をきたした中での数字と言えます。長期化が懸念されるガソリン価格の高騰や水面下でいよいよ深刻化する不況を考えれば、今こそ「プリウス」のような車がその真価を発揮する絶好のタイミングであるはずです。史上最低の実績しか残すことのできなかった去年の数字に対して、わずか1000台ほど販売台数の増加という予想はかなり控え目な印象を受けます。ちなみに「プリウス」の黄金期と呼ぶべき2012年および2013年には、ともに23万台を超える販売台数を記録した実績があります。

マテラッツォ氏は同じく「Road and Track」の取材に対し、「もちろん、3万5000台という予想が上振れする可能性はあります。需要が高まるのであれば、私たちもできる限りのことをするつもりです」と答えています。つまり、トヨタの予想する控え目な数字はサプライチェーンの混乱等によるものではなく、実際のマーケットを分析した結果の数字ということと見て取れます。

「水晶玉で未来を占うことなど、私たちにはできません。なので、短期的に見てサプライチェーンがどうなるかなど予想することは不可能です。その問題と向き合わざるを得なくなってから、もうかなりの時間が経ちました。これからも引き続き対処していかねばならない問題です。ですが、実際どの程度の販売台数になるかという点については、マーケット次第としか言いようがないのです」

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もし最高のシナリオに沿って物事が運んだとしても、「過去に記録した最高水準の売り上げに匹敵するようなことはないだろう」というのが、トヨタの見通しなのかもしれません。ただし、予想を覆す需要が生じないとは限らず、販売開始を控えたディーラーの反応もまた、その可能性を示唆するものに違いありません。2005~2017年の全盛期に記録した年間6桁の販売台数は実際、もう二度と実現しないのかもしれないのです。

「当時と比べ、ハイブリッドカーや電気自動車のラインナップが充実しているというのが重要なポイントです。つまり、選択肢が2011年よりぐっと増えているのです」と、マテラッツォ氏は言います。

かつては低燃費のハイブリッドカーを買おうと思えば、その選択肢は「カムリ」や「プリウス」に限られていました。ところが現在のアメリカ市場で展開するトヨタのラインナップだけ見ても、「RAV4ハイブリッド」、「RAV4プライム」、「プリウス プライム」、ハイブリッドモデルの「タンドラ」、BEV(バッテリEV)の「BZ4x」など、選り取り見取りの状況です。

そして2012年にはほぼ存在しなかった競合他社も、今やハイブリッド、プラグイン、バッテリEVなどのラインナップを充実させており、いったいどの車種が当時の「プリウス」の記録を打ち破ることになるのか?など、もはや誰にも予測がつきません。

素晴らしいデザインやこだわりぬいた性能による進化は確かに大きいものの、それだけでは風向きを変えることなどできない…ということを、トヨタも十二分に理解しているということです。

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です