クレムリンは幾日もの間、ウクライナ国境に19万人もの兵士を集めながら、ウクライナへの侵略に関して各国から浮上する仮説の数々を頑固として否定してきました。アメリカのバイデン大統領にも、ドイツのシュルツ首相にも、フランスのマクロン大統領に対しても直接、「“侵攻”の意図などなく、舞台は撤収に向かっている」などと嘘をつき、アメリカ側の訴えを「ヒステリーだ」「誤った情報だ」「完全な偽情報だ」とまで言い放ちました。そしてアメリカ側のほうは、それを名誉毀損として非難を重ねてきたのです。
そして2022年2月21日(月)遂に、2014年にウクライナ東部で勃発した紛争をめぐって2015年に締結された和平協定「ミンスク合意」を破棄し、ウクライナ東部で親ロシア派の武装分離勢力が実効支配してきた2つの地域、自称「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」を一方的に「独立」を承認。そうして同年同月24日(木)に、ロシアは陸海空からウクライナ侵攻を一斉に開始したのです。
ウクライナのドミトロ・クレバ(Dmytro Kuleba)外相は24日に、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が「全面侵攻を開始した」と投稿しています。
プーチンは24日の演説で、「14年にウクライナでクーデターを起こし権力を奪った勢力が、紛争の平和的解決を拒否している」と、ウクライナのゼレンスキー政権を強く非難します。そして同政権を「ネオナチ」と決めつけ、ウクライナ国民に向けて「あなた方の父や祖父らがナチス・ドイツと戦ったのは、今日ネオナチが権力を握るためではない」とまくし立てたのでした。
それは2014年の政変によって、ウクライナが親欧米に転じたことへの根深い恨みとウクライナへの異様なまでの執着を感じさせ、最終的な目標がゼレンスキー政権の排除とウクライナ解体にあることをうかがわせていました。一方、ロシア軍の支援を受けるウクライナの親ロシア派は同24日に、これまで一部しか支配していなかった東部のドネツク、ルガンスク両州の全域の掌握を目指す考えを表明しています。
そして24日、ロシア軍は陸海空からウクライナ侵攻を一斉に開始。最初に攻撃したのは、ウクライナ各地の都市に近い空港や軍本部でした。首都キエフ(キーフ)のボルィースピリ国際空港も標的になりました。続いて戦車や部隊は、人口140万人の北東部の都市ハルキウの近くから国境を越えて侵攻。東はルハンスクの近くから、北はベラルーシから、南はクリミアから、次々と部隊を進めます。空挺部隊により、キエフ近郊の空軍基地は制圧され、オデッサやマリウポリの大港湾都市にもロシア軍は上陸することに…。
ここで、侵攻開始の直前にテレビで放送されたプーチンの演説を振り返ってみましょう。
プーチンはこの中で、今のウクライナからロシアは脅かされているため、「安全を感じられないし、発展もできなければ存在もできない」と述べています。ですがプーチンの主張のほとんどは、事実と異なり、非合理的とも言えます。
ロシア側の目的は、「威圧され民族虐殺に遭っている人たちを守るため」としたほか、「ウクライナの非軍事化と非ナチス化を実現する」と述べているのです。実際のところ、ウクライナで民族虐殺が行われていることに対して、表立った報告などありません。
世に知られているウクライナの現状は、民主国家として活性化している最中であり、しかも大統領はユダヤ系です…。「一体、どうしたら私がナチスだというのか?」と、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はプーチンの発言に対して反発しています。そしてゼレンスキー大統領のほうが逆に、「ロシアによる侵攻は、第2次世界大戦のナチス・ドイツによる侵略に匹敵する」と批判しているのです。
ウクライナでは2014年に、親ロシア派であるヴィクトル・ヤヌコヴィッチ前大統領が、数カ月続く国内の反対運動の末に失脚しました。これ以降、プーチンはこれまでも頻繁に「ウクライナは過激派にのっとられた」と非難を続けていました。そしてヤヌコヴィッチ失脚を機に、ロシアはクリミア半島を併合。さらにウクライナ東部の反政府分離運動を引き起こしながら、分離派の後押しを続けてきたのです。この分離派とウクライナ国軍の戦いでは、すでに1万4000人もの人々が命をなくしています。
このような背景とともに、ウクライナが欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に入ろうとする動きとなり、ロシア政府は常にそれに対し反発してきました。それに対するロシア側のストレスがピークに達したのか、それともある種、自分なりの機を得たのか、2月24日(木)に侵攻開始をプーチンは宣言。そこで、「NATOがわれわれの民族としての歴史的未来」を脅かしていると非難しています。
代表作に『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などがあり、その上、政治・社会にも大きな影響を与えた非暴力主義者としても知られるロシアのレフ・ニコラエヴィチ・トルストイをご存知かと思います。彼は、「戦争というものは、最も卑しい罪科の多い連中が権力と名誉を奪い合う状態をいう」という名言を残しています…。
誰もが、「戦争は常に恐怖の源である」ことは言わずともわかっているはず。ウクライナとその国民が、現在計り知れない危険に直面しており、得られる限りの援助を必要としているのです。そんな中、われわれができることは何でしょう?
言うまでもなくわれわれ個人では、ロシアへの大きなインパクトを与える行動はできません。しかしながら現在、多くの人が自分にできることを探しているのも事実…。そこで、ここでは寄付で今すぐ支援する方法を紹介します。
◇在日ウクライナ大使館
ウクライナに寄付金を送る口座の詳細を発表しています。
◇The Ukrainian Red Cross(ウクライナ赤十字)
公式サイト
難民支援から医師の養成まで、人道的な活動を数多く行っています。
◇ユニセフ「ウクライナ緊急募金」
◇Doctors Without Borders(国境なき医師団)
ウクライナで、さまざまな地域の病気や医療問題への支援を行っています。
◇Revived Soldiers Ukraine
ウクライナの前線にある陸軍病院への薬や、医療品に資金を提供する非営利団体です。
◇Nova Ukraine
カリフォルニアを拠点とする非営利団体で、ベビーフードや衛生用品から衣類や日用品まで、あらゆる物をウクライナの一般市民に提供しています。
そして、このロシアによるウクライナ“侵攻”によって…例えば日本に住む私たちなど…世界的にどのような影響を及ぼし、各国の社会をどのように危険へとさらすか? について話すことはかなり複雑と言えるでしょう。
「プーチン大統領の一貫した要求は、ウクライナをNATOに加盟させないというのを文書で明示してほしいということ」と、さまざまなメディアが解説しています。そして、「解決策があるとしたら、アメリカが降りること。文書で『NATOを拡大しません』という旨を、プーチンに渡せば止まるであろうと。でが、そこまでプライドを捨ててアメリカが折れるかというのは少々疑問である」と推測してもいます。
その上で、経済的な打撃については、「リーマンショック並みの大きな被害を受けることになる」と分析していました。“原油価格の高騰”という現状が火種になりうるとして、「アメリカは現状で7.5%のインフレ状態になっており、さらに原油価格が上がっていくと、強烈な金融引き締めを行わなければならないだろう」という予測もされています。そして株価の暴落などにつながる恐れがあるとし、「アメリカだけではなくて日本も含め、世界恐慌になるような大きなショックになる可能性もある」と懸念を示す学者のコメントも目立ちます。
アメリカの国際政治学者であり、コンサルティング会社ユーラシアグループの社長であり創設者のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)は、2月24日に ロイター (REUTERS)のインタビューで「ロシア のウクライナ への軍事侵攻は、地政学的に極めて重要な出来事であり、“第2次冷戦の幕開け”である」と述べながら解説を始めています。
「プーチン氏は自らの意思を強制するために権力を行使して、 ヨーロッパにおける安全保障制度を打破するために、実力行使で勢力圏を拡大しようとしている…それこそが彼がやろうとしていることだ」と発言しています。
さらに、「彼がついた嘘は驚くべきもので…この1カ月で私たちが見た唯一の緊張緩和とは、ロシア大統領がついた多くの嘘だけだったと言えるでしょう。彼らがやってきたことはすべて、この侵攻に向けてのことだったのです。完全に罪のない…ロシアに敵対しているわけでもなく、脅威になることも何ひとつしていないウクライナ政府を侵略するためだったのです」と語っています。
またブレマー氏の、中国に対してのコメントも注目すべきところでしょう。
「中国は、ヨーロッパが中国とビジネスをしなくなるような、さらにアメリカ人が中国に投資すすることがさらに難しくなるような戦いに巻き込まれることは望んでいないでしょう。ですが中国は、アメリカが自分たちをアジアに封じ込めようとしていると見ています。一方でロシアも、アメリカが自分たちをヨーロッパに閉じ込めようとしていると見ています。このことによってロシアと中国の距離は、結果的に縮まっているのは確かなことです」と述べています。
最後に経済に関しては、「おそらく先進工業国は今年のGDPがおよそ1%低下するだろう。ただそれは、大規模な情勢悪化がないと仮定した場合です。この侵略によって明らかに、原油やガスの価格は上昇しています。この点からも、サプライチェーンの面でも大きな問題が発生するのは明らかです。これはとりわけ黒海の港の混乱の影響とともに、欧米が科す経済制裁の影響によるものです」とのこと。
私たちが、今回のロシアによるウクライナ侵攻について話すとき(例えそれが、どんなに長くなろうとも)、私たちが最終的に示す見解は“戦争反対”以外ありえません。これはもはや「アメリカ」と「プーチン」の間の問題ではなくなりました。これは、“自由とは何か?”を決定する問題とも言えるでしょう。
イタリア版の筆者であるダヴィデ・ピアチェンツァ(Davide Piacenza)氏の見解は、「自由が制限された権威主義帝国を築くことは、誰の利益をもたらさない」と言っています。これには日本版も同意します。ヨーロッパの主要国が隣国に侵攻するのは、第2次世界大戦以来、初めてのことになります。その渦中にいるウクライナの人たちと、それを目の当りにしているヨーロッパ人にとって、これは想像をはるかに超えた恐ろしい事態に違いありません。
これを「プーチンの戦争」と呼ドイツではこの戦いで、すでに軍人・民間人を問わず、数十人が死亡しているとのこと。1940年代以降、ヨーロッパ諸国の首脳たちがこれほど暗く重く、そしてこれほどまで厳しい思いをしたことはなかったでしょう。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「ヨーロッパの歴史にとって転換点」と述べています。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアが新たな“鉄のカーテン”を閉じて、文明世界を排除しようとしている」と冷戦時代を念頭に入れての発言をした上で、「ウクライナがそのカーテンの後ろに引き込まれることがあってはならない」と述べています。
いかなる国においても自国優先の考え方で実力行動を取れば、勝者などどこにもいない結末が待っているでしょう。地球規模で…国際社会全体の持続可能な発展のためにも、ここでロシア…プーチンに理性を取り戻させるよう世界的に規模で働きかけることが必須となります。この侵攻を受けて、国際社会が厳しい経済制裁を科すのは当然のことと言えるでしょう。
そして、市民の悲劇を最小限にするためにもNATO(北大西洋条約機構)による緊急対応も早急に整えなければならないでしょう。それと同時に、ロシアを説得する外交努力を重ねるべきことは明らか。短期的な停戦交渉とともに、中長期的に軍備管理交渉も視野に入れた新たな安保構造の創出を探るべきところであり、これを躊躇する余裕などない段階まで来ているのです。
冷戦時代は終わり、もはや特定の大国に(頼ることは可能かもしれませんが)すがる時代ではなくなりました。ですがこれを機に、ロシアは再び、列強国が力で覇を競う旧時代を復活させ、自国がその上に立っているという構図を描いているとしか思えません(そこにプーチンが、自身の支持率低下への懸念が加わり…)。
私たちは世界的に結束して、そんな時代へと戻すことは断固として阻止すべきことなのです。そして、力ではなくルールで律される国際秩序の構築を目指し、各国が協働するときではないでしょうか。今回の侵攻への緊急対応は、その一歩となるのです。日本も、今回のロシアに対して決然たる態度で臨まねばなりません。
プーチンは2月27日(現地時間)、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は核戦力を含む軍の核抑止部隊に高レベルの警戒態勢へと移行するよう指示。 核戦力行使の可能性をちらつかせ、対ロ制裁を強化した欧米をけん制する狙いと言えるでしょう。とは言え、懸念もあります。この発言に対し米国防総省高官は同日、「不必要であるだけでなく、緊張に拍車をかける措置だ」と批判しながら、「誤解が生じるととても危険だ」とも語り、偶発的な核使用もあり得ることを示唆しています。
一方、ウクライナ大統領府は同日、「ロシアの代表団と停戦協議を行う」と明らかにしました。ですが緊張はさらに高まり、一時その協議の成否は不透明となりました…。双方が実施への意欲を表明していたものの、ロシアが同盟国であるベラルーシでの開催を主張する一方、「他国での開催であれば応じる」とするウクライナと対立…。次にロシアが「ベラルーシ南東部ゴメリに代表団を派遣した」と発表する一方、ウクライナは「ロシアがウクライナ軍に武器を置くよう求めたため、交渉を拒否した」と表明するなど、互いに神経戦が続いています。
そんな中、ウクライナ大統領府は同日、ベラルーシとウクライナの国境地帯での交渉実施に応じると発表。露大統領府も、プーチン大統領と電話会談したイスラエルのベネット首相がロシアとウクライナの停戦交渉仲介を申し出たことをタス通信で明らかにしました。
Source / ESQUIRE IT
※この翻訳は抄訳です。