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歌手としての歩み。
どうしても訊きたかった
角川映画時代のハナシ
エスクァイア:デビューから41年とのことですが、私(小川)は映画『時をかける少女』(1983年7月公開)から拝見させていただいていますので、今年は“個人的な40周年”。そんな記念すべき年に念願のインタビューが叶い、とても嬉しく思っております。歌手と俳優、ふたつの世界で活動を続けていらっしゃいましたが、今日は、歌手・原田知世についてうかがいます。
角川映画『時をかける少女』(1983年)でスクリーンデビューを果たした原田さんなのですが、原田さんにとっては、角川映画は歌手としての出発点にもなっています。そんな角川時代の、歌手・原田さんの、音楽に対する意識はどのようなものだったのでしょう。
原田知世さん(以下、原田):あの当時は、素晴らしい作品に俳優として出させていただき、また、その作品のイメージで書かれた素晴らしいテーマ・ソングを歌わせていただいたことをとても幸せなことと思っていました。
ただ、俳優って、オファーされた役を演じていくもので、この作品が終わったら次の作品へと続いていくのですが、私の場合、全く違うイメージの役を演じることがあまりなかったのです。そんな中で、年々確実に変化している自分がいるわけです。そういう変化していく自分を表現する場として「歌」というものに取り組んでいけたら楽しいかな、と思うようになりました。
エスクァイア:それは、いつ頃でしょう。何かきっかけがあったのでしょうか。
原田:作品で言えば、『私をスキーに連れてって』(1987年、ホイチョイ・プロダクション原作)の後くらいからです。
映画俳優にとっては、次の作品のオファーを待つことも仕事の一部のようなもの。そういう時間を重ねるほどに、「これから自分はどうなっていくのかな」と考えるようになって…。それからいろんな方との出会いがあり、映画と切り離して、歌手としてアルバムを制作するようになりました。
エスクァイア:1990年代、私も鈴木慶一さんやトーレ・ヨハンソンさんのプロデュースによるアルバムはよく聴きました。
原田:その頃から、「このアルバムのこの曲が好きです」という私の音楽の部分を好きでいてくれるファンが増えてきました。でも、俳優と歌手、両方やっていなかったら、こんなに長くお仕事はしていなかったかもしれません。今では、切り離したふたつが別々のようでいて、実は両方が自分自身の中の一部なんだって感じるようになりました。
エスクァイア:片方だけだったら、私の“個人的な40周年”は迎えられなかったことになるわけですね。
とりわけ近年は、伊藤ゴローさんプロデュースによる作品をコンスタントにお出しになっています。そんな中で、2022年のアルバム『fruitful days』収録の「ヴァイオレット」が印象的でした。“(編集長の個人的見解で)小憎らしい(笑)川谷絵音さん”の曲が、原田さんの歌唱によって心にすっと入ってききました。
原田:ありがとうございます。とてもうれしいです。絵音さんには、私からオファーをしました。その頃から、裏声と地声の間に存在するミックスボイスを強化したいと思っていていたのです。それで、曲をお願いするときに「絵音さんのミックスボイスはどうやっているんですか?」なんて話もしたのですが、それで出来上がってきたのが「ヴァイオレット」でした。
絵音さんは私のイメージを思い浮かべながら曲を書いてくださったようなのですが、私にとっては歌ったことのないものでした。歌ったら、それがものすごく楽しくて、いいコラボレーションができたと思っています。
エスクァイア:そんな背景をおうかがいしたら、ますます好きになりました。
絵音さんだけでなく、これまで錚々たるミュージシャンが原田さんのためのオリジナル曲を手がけていらっしゃいますが、今度の10月25日に発売された『恋愛小説4~音楽飛行』はカヴァー・アルバムです。楽曲のセレクトはどんな風に決まったのでしょう。
原田:今回のアルバムは、8年ぶりの洋楽カヴァー集です。前の洋楽カヴァー集『恋愛小説』は隠れた名曲だったのですが、こんどは誰もが知っている名曲で、それも'60~'70年代に的を絞って、とレコード会社の担当の方から提案をいただきました。
そこから、伊藤ゴローさんはプロデューサーとアレンジャーという立場から、私は歌うという立場から、そして、他のスタッフやメンバーたちもそれぞれ意見を出し合い、擦り合わせをして選びました。
どんな方たちにとっても、この曲は知っているけど、いつ出会ったのかも分からないくらい自然に心に残っている、そんなエヴァーグリーンな曲ばかりになっています。
エスクァイア:究極の名曲をカヴァーするに当たっての心持ちは、どんなだったのでしょう。
原田:ほんとに誰もが知っているラブ・ソングばかりなので、いろんな歌手の方もカヴァーをしています。YouTubeを観たりすると、プロだけでなく、世界中のいろんな人たちが歌っています。
男性ヴォーカルの曲を女性が歌っていたり、その逆もあったり。それを聴くのが楽しかったのですが、何より刺激になりました。いいところは真似をしてみたりしもしました。
もちろん、オリジナルが一番の先生なのですが、先生がいっぱいいたということ。おかげで、自分の引き出しが増え、歌を育ててもらうことができたと思っています。
エスクァイア:それでまた原田さんが歌うカヴァーを聴いた人たちが、それを引き継いでいくということですね。なんだかロマンを感じます。
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兄の部屋から
聴こえてきたあの曲
エスクァイア:『恋愛小説4~音楽飛行』、すでに何度も聴かせていただいています。ジャズ研でヴォーカルをやっていた私も歌いたくなるような名曲ばかりで……そんな私はともかく(笑)、原田さんの歌声がすんなりと心の中に入ってきます。どの曲もナチュラルに歌っているように聴こえますが、実はすごく手強かった、という曲もあるのでしょうか。
原田:どれも手強かったです(笑)。
すべて英語の歌ですから、発音の勉強からしなければなりませんでした。リズムの言葉の乗せ方とかもきっちりやらないと、英語のよさが出てこないのです。ひと言ひと言ていねいに繰り返して口に馴染ませることで、だんだんと口が動くようになっていきました。だから、普通のレコーディングよりかなり時間がかかりました。
エスクァイア:8年前もやはり同じように勉強なさったのでは?
原田:はい、あのときも練習しました。
でも、去年、とてもいい先生に出会うことができ、本格的にヴォイス・トレーニングを始めたおかげで、よりていねいに歌をやろう思うようになりました。これまでは感覚的だったものをより理論的に歌を知り、それをまた応用できるよう学んでいくのですが、それも楽しくて。
エスクァイア:トレーニングが効いているということですね。
原田:そうですね。でも、なかなかうまくならなくて。それでも、歌うことが楽になってきたと思えるようになりました。芯はあるんだけど柔らかい雰囲気に、だけど地に足をついたように歌いたいと思っています。
エスクァイア:まさに、私(編集長個人)にとっての原田さんのイメージそのものです!
ところで、アルバムに入っている9曲がリアルにヒットしたのは原田さんより年上のお兄さん世代の頃ですよね。
原田:そうなんです。ニール・ヤングの曲を歌ったのですが、みんなから意外だと言われました。ただ、これにはちょっとした思い出があるんです。
私には10歳年上の兄がいるのですが、長崎の家にいたときにその兄が自分の部屋でギターの弾き語りの練習をしていたのです。それが、家族に聴こえない小さな声で歌っていて、3歳年上の姉と私は「何の曲なんだろう?」っていつも気になっていました。それが、ニール・ヤングの「オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」だったのです。そのことを思い出すことがあり、いつかカヴァーしたいと思っていたのですが、今回、そのチャンスが来たというわけです。
私と姉の大切な思い出。兄がギターを弾いて歌っていなかったらカヴァーしなかったかもしれません。
エスクァイア:「お兄さん」からの影響が大となれが、原田さんの歌手としての歩みの中で、それこそ年齢を重ねたお兄さん以上のミュージシャンの方々との出会いがたくさんあったと思いますが…。そこで「わっ、オシャレ! 」なんて心トキメク方はいらっしゃいますでしょうか?
原田:思うんですけど、音楽のセンスがいい方ってみんなお洒落だなって…。それぞれのお洒落を持っていて、好奇心が強くて、ちょっとしたアイテムを取り入れたりしている。年齢が上がれば上がるほど自分に似合うものを分かっているようで、そういう先輩の方ってカッコいいなって思います。
本当の意味でのお洒落っていうと高橋幸宏さん。いつも完璧で素敵でした。
エスクァイア:2007年に高橋幸宏さんを中心にしたバンド、pupa(ピューパ)結成の発表があって、ヴォーカリストが原田さんだったことを知った時は意外でしたし、めちゃくちゃ嬉しかったです。全員のステージ衣装もかっこよくて。原田さんの赤いスカートが記憶に残っています。
原田:赤いタイツです(笑)。バンドができるなんて思っていなかったので、pupaは本当に楽しかったです。
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“今の自分”のアプローチで
歌うラヴ・ソング・カヴァー
エスクァイア:今、歌うことが楽しくてたまらない。ここまでのお話をうかがって、そんな印象を受けました。ところで、プライベートでも何か楽しんでいることはあるのでしょうか?
原田:50歳になってからゴルフを始めたんです。
年上のお友だちが「知世ちゃんが始めたら一緒に旅行とかできるんだけどな」ってすごく勧めてくれて、そこから始めたのですが、まさかこんなに夢中になるとは思いませんでした。全然うまくならなかったのですが、コツコツやっていて1年前の自分の動画と比べてみるとずいぶん違うんです。
50歳くらいからは出来ないことがじわじわと増えてくるんじゃないか、と思っていたのですが、ゴルフは少しずつ上達していて、フォルムもだんだんよくなっている。のびしろがあるんだって気づけて、ものすごく希望が持てました。
それと、歌やお芝居にも繋がっているところも多いのです。ただ練習するだけでなく、体の動きとか理論を学んで正しいやり方とコツをつかめば、出来なかったことが出来るようになったりする。ボールを打つ時に力が入れば入るほどダメなんですが、お芝居も歌も同じで、力んでしまうとうまくいかない。ゴルフは自分と向き合うスポーツなのですが、そういうメンタル的なところでも学ぶことがたくさんあります。
エスクァイア:もともと凝り性なところがあるのでしょうか?
原田:凝り性ではないです。ゴルフやってなかったらポワ~ンとしていたかもしれないのに、50歳になって目覚めることがあるんだって分かり、うれしくなりました。
エスクァイア:ポワ~ンではないですが(笑)、原田さんの柔らかいイメージはずっと変わりませんよね。年を重ねても変わらないって言われませんか?
原田:イメージが変わらないっていいことなのでしょうか。でも、変わっているところもあるんですよ。目が見えづらくなりました。でも、それでいいのかな、と(笑)。細かいところを見ないようになって、チマチマしなくなりますから。
それと、若い頃は先のことに追われて、目の前にある大事なことを見失いがちでしたが、今はこの瞬間をしっかり見つめるようになった気がします。たとえば、話すより人の話をきちんと聞こうとする。それでいて、人に対して素直に自分の意見を言えるようになりました。
エスクァイア:そういう年齢の積み重ねって歌にも出るんでしょうか。
原田:松任谷由実さんの「守ってあげたい」を16歳のときに歌っているのですが、去年の『fruitful days』で歌い直しています。10代の女の子が言う「守ってあげたい」には愛おしさがありますが、39年の時を経て歌ったときには、本当の意味で「守ってあげたい」と言えるようになっていて、自分も大人になったんだなと感じました。
エスクァイア:とてもいい話ですね。
原田:同じように、今回のアルバムの6曲目にジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」(Both Sides Now)が入っていますが、この曲は、『カコ』(1994年)というミニ・アルバムで一度カヴァーしているんです。
20代で歌ったそのときは、もっとアコースティックな感じで、伸びやかに一生懸命に歌っています。そして今回は、大人の今の自分のアプローチで歌っています。これもニール・ヤングと同じように、10歳年上の兄の影響で耳にしていた曲なんです。
エスクァイア:原田さんが長く歌い続けてきたからこそできた歌い直しですね。すぐにでも、聴き比べをしてみたくなりました。きっと、今の原田知世さんをもっともっと好きになる予感がして困ります(笑)。
原田知世
女優・歌手。1967年11月28日生まれ、長崎県出身。A型。1983年、映画『時をかける少女』(大林宣彦監督)でスクリーンデビュー。以降、多数の映画、TV ドラマに出演。そしてドキュメンタリー番組などのナレーションを担当するなど幅広く活躍。また、歌手としてもデビュー当時からコンスタントにアルバムを発表。鈴木慶一、トーレ・ヨハンソン、伊藤ゴローなどさまざまなアーティストとのコラボレーションが話題に。 2024年6月から、アルバム『恋愛小説4〜音楽飛行』リリースツアーがスタート。
ヘアメイク&スタイリング/藤川智美(Figue)
◇詳細
連れていって、
あの歌の記憶へ。
架空の映画のワンシーンのようなラヴ・ソング・カヴァー・アルバム第4弾。
2022年のデビュー40周年を経て発表するニューアルバムは、『恋愛小説』(2015年)、『恋愛小説2~若葉のころ』(2016年)、『恋愛小説3~You & Me』(2020年)に続く、好評のラヴ・ソング・カヴァー・シリーズの第4弾。
今回は『恋愛小説』以来8年ぶりとなる洋楽カヴァー集で、「世代を超えて愛されてきた1960~70年代の名曲」をセレクト。ザ・ビートルズ、カーペンターズなど、原田知世自身もお気に入りの有名ナンバーが満載。
アルバム・プロデュースは、15年以上にわたり原田知世の音楽活動のパートナーを務めるギタリスト/作曲家の伊藤ゴローが担当。言葉の垣根を超えたヴォーカルの表現力と、伊藤ゴローによるアコースティックを基調にした芳醇なアレンジのマッチングが冴えわたっています。
それぞれの歌詞の主人公を演じるように歌う、女優であり歌手である原田知世ならではのナチュラル・テイストのポップ・アルバムです。
<参加ミュージシャン>
伊藤ゴロー(Gt, Programming)、佐藤浩一(P, El-p)、鳥越啓介(Bs)、小川慶太(Ds, Per)、角銅真実(Per)、伊藤彩(Vn)、結城貴弘(Vc)、坂本楽(Fl)、北村聡(Band0neon)、SARA(Cho)
◇リリース情報
原田知世『恋愛小説4〜音楽飛行』
2023年10月25日(水) 日本先行発売
初回限定盤(SHM-CD):UCCO-9245 4070円
通常盤(SHM-CD):UCCO-2230 3300円
TELARC / ユニバーサル ミュージック
UNIVERSAL MUSIC公式サイト
【収録曲】
※( )内はオリジナル・アーティスト
1.ヒア・カムズ・ザ・サン
(The Beatles)
2.デイドリーム・ビリーバー
(The Monkees)
3.遙かなる影
(Carpenters)
4.オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート
(Neil Young)
5.イン・マイ・ライフ
(The Beatles)
6.青春の光と影
(Joni Mitchell)
7.ビー・マイ・ベイビー
(The Ronettes)
8.マイ・シェリー・アモール
(Stevie Wonder)
9.シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン
(Billy Joel)
◇原田知世『恋愛小説4〜音楽飛行』リリースツアー 2024
2024年6月13日(木)
名古屋市公会堂
OPEN 18:00 / START 19:00
2024年6月15日(土)
東大阪市文化創造館
OPEN 16:00 / START 17:00
2024年6月20日(木)
LINE CUBE SHIBUYA
OPEN 18:00 / START 19:00
MEMBER:原田知世(Vo) 、伊藤ゴロー(Arr, Gt)、佐藤浩一(Pf, Key)、鳥越啓介(Bs)、能村亮平(Ds)、角銅真実(Cho, Per)、伊藤彩(Vn)、結城貴弘(Vc)、坂本楽(Fl)
チケット:SS席 1万6500円/ S席 1万2000円 / 指定席 9000円