世間に対し挑発的なドラマを連発してきたケーブルネットワーク、HBO。そのHBOから再び『ホワイト・ロータス』というヒット・コメディが生まれました。2022年はエミー賞で作品賞を含む5冠を獲得。助演女優賞を獲得したジェニファー・クーリッジは時の人(2023年ゴールデン・グローブ賞候補にも)となり、間髪入れずシーズン2も立て続けに放映されました。監督と脚本を務めるマイク・ホワイトは、ぴりっとした味わいと面白味、観客が満足感する要素と挑発する要素を同時に与え、より深みのある作品にすることに成功。内容は非常に皮肉でどぎついジョークに満ちながら、多くの視聴者の満足度を獲得しています。

近年、私たちは人種間の不平等や白人の特権について多くの時間を費やして考えてきました。テレビのゴールデンタイムで討論し、街頭で議論し、研究者たちは論文を書き、チェックリストまで作られました。なんとまとめ記事まで出ています。では私たちは、この白人特権主義者についてどこまで理解しているのでしょうか? あまりにも知らなさすぎるのでしょうか? ――いや、実のところいろいろ知っているのではないでしょか。ただ、見てみない振りをしてきただけでなのでは…。

他の人よりもはるかに裕福であり、会議に遅刻しても「これだから黒人は」「これだからアジア人は」と人種のせいにされないこと。そして、彼らの行動や思考回路が滑稽なこと。頭がおかしいだけでなく(その事例もたくさんあります)、自分の地位と金、正当化、行動の結果に対する無責任さ、また無責任でいられる特権…。これらによって身動きが取れなくなっていると言っていいかもしれません。そして、身動きが取れなくなっているが故に、自分たちのことが自分たちでもわからなくなっているというわけです。

とはいえ、そんな彼らにとっても休暇は必要です。

そこで監督で脚本家のマイク・ホワイトが、HBOとタッグを組んで制作した風刺ドラマ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』(日本ではU-Nextで配信)の登場です。「ホワイト・ロータス」とは、ハワイにある架空の高級リゾート。太平洋の楽園でリラックスし充電しようとVIPたちがやってきます。 

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『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』予告編【U-NEXTにて見放題で独占配信中】
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観客はこのドラマで、満足することを知らない手に負えないゲストたちと、彼らを満足させることを仕事にしているスタッフたちの人生と脆弱さが露わになっていくのを目の当たりにします。

休暇を過ごそうとやってくるメンバーを見てみましょう。まずモスバッカー一家。母親が(『ニューヨーカー』誌によればシェリル・サンドバーグ風の)ハイテク企業の最高財務責任者で、一家の稼ぎ頭です。次に新婚旅行中のカップル、シェーンとレイチェルには経済的格差があります。そして、ある任務を果たすために1人でやってきたタニヤ・マックワッド。リッチで「とにかく今すぐマッサージを受けたい」と言い出すタニヤを、LAの名門コメディ劇団「The Groundlings」(SNLのクリスティン・ウィグやマヤ・ルドルフも所属していた)出身の俳優ジェニファー・クーリッジがコメディエンヌぶりを発揮して好演しています。

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『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル シーズン2』予告編<U-NEXTにて見放題で独占配信中>
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スタッフ側にはホテルの支配人、穏やかで上品なアーモンドがいます。見ているうちに彼が大きなプレッシャーにさらされているのが観客にもわかってきます。スパのマネージャーを務めるのは、ベリンダです。とても優しくて思いやりがあり純粋な女性であることから、観客たちは彼女の行く末を心配せざるを得なくなります。

ストーリーは多岐に渡り、陰謀、激しい執着心、犯罪、家族の秘密などが描かれています。植民地制度や償い、19世紀の詩、彼らの”現実”、再生、自然界についての考察が登場し、「パワーボトム(ゲイの性行為における”受け”)」というパワーワードすら出てきます。また、フロントデスクで繰り広げられる支配人とゲストのやりとりが英国のコメディ集団「モンティ・パイソン」のチーズショップのコントを意識しているのは間違いありません。観客はこのリゾートの名前の由来(もちろん、こう名づけられたのは偶然ではありません)、白人によって植民地化された際の土地などの略奪に端を発する笑えない紛争についても知らされます。そしてこれらのストーリーの背景に存在するのは、地位と金そして彼らが金を払って買っている他の人や世界、そして「自分自身」と自分を隔てる境界線です。

監督と脚本を手がけたマイク・ホワイトは、これまで映画『スクール・オブ・ロック』(2003)や『グッド・ガール』(2002)の脚本、映画『ラブ・ザ・ドッグ 犬依存症の女』(2007)など、かなりシニカルなコメディ作品を手掛けてきました。奇妙なストーリーをスマートに、そして面白く伝えることを得意としている監督です。

2011年のHBOオリジナルシリーズ『エンライテンド』ではそれまでの作品に比べ、よりドラマティックにストーリーを展開しました。が、今作ではぴりっとした味わいと面白味、観客が満足感する要素と挑発する要素を同時に携え、より深みのある作品にすることに成功しています。

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The White Lotus | Invitation To The Set | HBO
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この作品の魅力は、アンサンブルキャストの他にもう1つあります。それは、アメリカ人が抱える大きな問題を扱っていること。白人の特権と政治がドラマ全体の根底にあり、それがモスバッカー家のディナーテーブルのシーンでは中心となり、真正面から描かれています。世間知らずの親と政治的な意識に目覚めた子どもが言い争うだけなので、それほど重いものではありません。が、そのやりとりは観客の記憶に残ります。

闘ってディナーテーブルについた人たち-つまり、権力を手にした人たちがそれを自発的に人に譲り渡すことはあるのでしょうか。現代の英雄とは、どのような姿をしているのでしょうか。16歳の息子クインの放つ疑問は、とりわけ観客の心を打ちます。彼は世界で起きているさまざなな社会問題に突然感情的になり、こう問いかけます。

「痛みは一体どこに行くんだ?」と。

痛みはどこに行くのでしょうか? と問われれば、その答えは「おそらくどこにも行かないのでしょう」になるでしょう。どうあろうとも、私たちは個人としても集団として、どこにも行かず消えることのない痛みと共に生きていくしかないのかもしれません。それを生み出した白人社会の傲慢さを、自分たち自身で手放さない限りは…。


この課題について明快に、かつ暴力的にかつ嘲笑的に切り込んでいるのがリューベン・オストルンド監督が2022年、前作に続き2作品連続カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞という快挙を成し遂げた『逆転のトライアングル』です。

「白人が自分たち自身では手放せない特権を無理やり引きはがされたら…」とするファンタジーあるいはユートピアが、そこでは展開されます。併せて鑑賞すればより楽しめるはずです。

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映画『逆転のトライアングル』本予告【2.23(木・祝)全国ロードショー】
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Traslation: Yoko Nagasaka
Edit: Keiichi Koyama

From: Esquire US