「ソウルの女王」と、米元大統領の長い付き合いに注目してみました。
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Why Aretha Franklin Meant So Much to Barack Obama
2018年8月16日、音楽業界からまた一人のスターがこの世を去っていきました。
その人の名は、アレサ・フランクリン…。アメリカ出身のソウルシンガーとして、これまで多くのパフォーマンスを披露してきた彼女。76歳で亡くなられたフランクリンに向けて、多くの著名人が悲しんでいました。その中には、バラク・オバマ前米大統領も…。
それは2015年12月に行われた、ケネディ・センター名誉賞の授賞式でのことになります。
『ナチュラル・ウーマン』を歌う故アレサ・フランクリンのパワフルな歌声が響き始めると、ほぼ同時に、会場にいたバラク・オバマ元大統領は目に浮かんだ涙を指でぬぐっていたのです。
このパワフルでドラマティックな瞬間を捉えた映像は、その後YouTubeで再生回数1270万回を超えるほどのバイラルヒットとなったのです。その中でフランクリンは、ピアノの鍵盤の前に座って、『ナチュラル・ウーマン』の例の有名な歌詞 “Looking out on the morning rain, / I used to feel . . . so uninspired.”を歌い出します。
次に画面が別のカメラへと切り替わると、そこには思わず涙ぐんでいるオバマの姿が…。オバマ氏は妻のミシェルと、この晩の主役であるキャロル・キングの間に座っていました。オバマ氏は自分の頭を両手で支えるようにして泣いていたのです。
のちに「ザ・ニューヨーカー」誌に対してオバマ氏は、「とても感動していた」と語りながら、さらにその裏側も語ってくれたのです。
「アフリカ系米国人の精神、ブルース、リズムアンドブルース(R&B)、ロックンロールと苦難と悲しみが美しさと生命力、そして、希望にあふれた何かに姿を変える様子との間にある結びつきを、アレサほど完全なカタチで具現した人は未だかつていなかった」と…。
ピアノに腰掛け『ナチュラル・ウーマン』を歌う、アレサ・フランクリン
「ソウルの女王と呼ばれたアレサの歌には、アメリカという国自体で支持する精神が具現化されているから…」と、オバマ氏は語っています。
「アレサがピアノに腰掛け、『ナチュラル・ウーマン』を歌うと、涙が出るほど感動してしまうのはそのためだ(レイ・チャールズの歌った『アメリカ・ザ・ビューティフル』にも、私は同じように感動してしまいます。レイの『アメリカ・ザ・ビューティフル』は、これまで歌われた中でいちばん愛国的な音楽であり続けるだろうというのが私の見方です)、なぜならアレサの歌には、米国人として遭遇する日常のすべてが具現化されているからだ」と、オバマ氏は「ザ・ニューヨーカー」誌に語っていました。
また、「底辺からの眺めと頂点からの眺め、善と悪、そして〔異なる要素の〕統合、和解、超越の可能性(といったものが彼女の歌には表現されている)」とコメントしています。
「アメリカのあらゆるジャンルの音楽に、アレサの影響を見て取る(=聴き取る)ことができる」と、オバマ氏は考えているようです。
「あのような影響力をもったアーティストが、他にいただろうか? ボブ・ディランは確かにもっていた。スティービー・ワンダーやレイ・チャールズもそうかもしれない…」と、オバマ氏は2016年の「ザ・ニューヨーカー」誌に対して語ったのでした。
「そこにはビートルズ、それにローリング・ストーンズも、ルイ・アームストロングのようなジャズの巨人たちの名もあるでしょう…とはいえ、そのリストに含まれる名前は極めて少ないことは確かです。そしてもし、私が孤島にひとりで置き去りにされるとし、そこにレコードを10枚だけ持っていっていいと言われたなら、私はその中にアレサの曲を入れるのは間違いありません。なぜなら彼女(の歌)は、私の中にある人間性を高めてくれるから…われわれすべての人間の中にある、本質的な魂を奮い立たせてくれるからなのです。また事実、彼女の歌は本当に美しい…。ではここで、ちょっといいことを教えましょう。パーティーでDJをやる機会があったら、最初にアレサの『ロックステディ』をかけるといいです」と、オバマ氏はさらに語ってくれています。
彼女は多くの人に、生きていることを実感させてくれた。そして、そのままの自分でいいのだと…
写真:バラク&ミシェル・オバマ夫妻とキャロル・キング。2015年12月6日、ワシントンDCで行われた第38回ケネディ・センター名誉賞(Kennedy Center Honors)の授賞式の会場で。Photograph / Getty Images
この感動的なジョン・F・ケネディ・センターでのパフォーマンスが終盤に差し掛かると、フランクリンはピアノを離れてステージの中央に立ち、裾が床まで届くミンクのコートを脱ぎ捨て、アドリブで本来とは違うメロディを歌ってみせたのです。それを聴いて会場は、一斉にスタンディングオベーションとなったのは言うまでもありません。
のちに「ヴォーグ」誌に対し、「あのときの観客の反応、それに電話やショートメッセージをくれたすべての人の反応は私に、まさに生きていることを実感させてくれたわ。あんな経験ができて、とても嬉しい」と、フランクリンは語っていました。
オバマ氏の大統領就任式で『マイ・カントリー・ティズ・オブ・ジー』を熱唱
ここでオバマ氏とフランクリンの関係を振り返ってみましょう。それはかなり前までさかのぼります。
それは2009年1月に行われた、オバマ氏の1期目の大統領就任式。そこでフランクリンは、『マイ・カントリー・ティズ・オブ・ジー』を見事に歌ってみせたのです。あれは米国の歴史に残る、パワフルでしかも誇り高い瞬間でした。
オバマ氏のアシスタントを務めていたアリッサ・マストロモナコさんは、2018年8月16日にあの大統領就任式でのパフォーマンスについて、オバマ氏が最も希望したアーティストがフランクリンであったとするツイートをしていました。
ツイート内容:
「私は、第44代大統領とのプライベートな会話についてはあまり話はしないことに決めているのですが…。私がバラクと最初の就任式に起用するタレントについて話を始めると、彼はすかさず私を遮って、『アレサがいい!』と言っていました。#RIPArethaFranklin」とアリッサ・マストロモナコさん。
2018年8月16日、オバマ氏はフランクリンを讃える以下の声明を発表していました。「アレサは米国(人)の経験を定義することに力を貸した…」とツイートしています。
ツイート内容:
「彼女の声から、われわれは自分たちの(国の)歴史のすべて、そこに宿るあらゆる色彩を感じ取ることができるだろう(われわれの力と苦しみ、われわれの暗闇(ダークネス)と光、われわれの救済の探求、われわれの苦労して手に入れたリスペクトなどが感じとれる)。このソウルの女王が、永遠の安らぎのなかで眠れますように」
偉大なる前大統領の熱い思いに対し、きっとアレサ・フランクリンも、「ありがとう」とメッセージを発していることでしょう。
By Rose Minutaglio on August 17, 2018
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ESQUIRE US 原文(English)
TRANSLATION BY Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。
編集者:山野井 俊