ディエゴ・マラドーナの新たなドキュメンタリー映画の予告編が2019年4月に初公開されました。シンプルに『Diego Maradona(原題)』と題されたこのドキュメンタリーは、エイミー・ワインハウスやアイルトン・セナのドキュメンタリーでもメガホンを取った、アシフ・カパディア監督によるものです。

 この予告編はわずか1分ほどですが、マラドーナがサッカーをする様子を一切映すことなく、当時の彼がどんな存在であったかを見事に描き出しています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Diego Maradona's Arrival in Naples | DIEGO MARADONA | Altidue Films
Diego Maradona's Arrival in Naples | DIEGO MARADONA | Altidue Films thumnail
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 1984年7月5日、鮮やかな青空が広がったある暑い日に、マラドーナはナポリのファンへのお披露目会見のために、スタディオ・サン・パオロに降り立ちました。彼は当時、690万ポンド(約9億9360万円)という史上最高の移籍金でバルセロナからナポリに来たばかりで、ブルーのハンチングをかぶったこの男へ期待は、最高潮に高まっていました。

 スタジアム内部の曲がった通路は両側に砂色の石が積み上げられ、この間を歩きながら群衆をどよめかせるマラドーナは、さながらグラディエーター(剣闘士)やママドール(闘牛士)のようです。 
 
 その後、場面は記者会見に切り替わります。

 ナポリの職員は、「これ以上近づけば、会見自体をキャンセルします」と警告します。ですが、そんな警告も、興奮した記者たちの不満の声にかき消されています。ここでカメラが上を向くと、そこにはマラドーナを一目見ようと建物の屋根によじ登り、空気口から覗き込んでいるファンたちが熱狂の声を上げているのです…。 
 
 これはマラドーナが、世界の人々の記憶に深い爪痕を残したあの世紀のゴールを決めるよりも前のことです。いわゆる「神の手ゴール」と呼ばれるものですが、彼はそれ以前から、すでに神のような存在だったわけです。また、1994年に目を見開いたゴールパフォーマンスや、2018 FIFAワールドカップ ロシア大会での奇行の数々などがパロディにされる以前のマラドーナでもあります。



 この映像は、いまやレジェンドとなったマラドーナが世界一の選手であり、時代や彼が現在でも歴代最高の選手の1人とされる理由を確認ことのできる偉大な手がかりとなるでしょう。ここでメッシとロナウドの2強時代のことは、一旦忘れてみましょう。

 確かに「メッシの動画満載のツイッターアカウントを運営する」、あるいは「クリスティアーノ・ロナウドの太ももの写真をロック画面に設定する」というような熱狂的なファンのカタチもあります。ですが、「建物の屋根によじ登って会ったこともない男の名を叫ぶ」のは、かなり別次元の話となります。

 ファン文化は、時代によって変化するものです。しかし、2018 FIFAワールドカップ ロシア大会の観戦に訪れたマラドーナを見て、「常に酔っ払っており、誰彼構わず中指を立てる困ったおじさん」というイメージを持ってしまった若い人々こそ、この映像を見なければなりません…。 
 
 20世紀のフットボールは、かなり理想化される傾向にあります。これ自体はかまいません。ヘアクリームを塗りたくり、大きな襟のついたシャツを着た紳士たちのスポーツであった50年代、ラフプレーが多かった70年代、エキゾチックで表現に富む南米の名手たちが、英プレミアリーグに現れた90年代も悪いものではありませんでした。ですが、偉大な選手たちの理屈抜きのインパクトは時代とともに薄れ、最近ではこういった選手たちの成し遂げた仕事や人生は、単にタイトルやスタッツにまとめられるだけです。
 
 この予告編における彼の理想化した姿は、虚像ではありません。その時代におけるリアルな姿であり、評価でもあるのです。

 ここではマラドーナの視点から、彼を取り巻く熱狂や起こったことをありのままに捉えており、色あせたおぼろげなビデオテープ映像にあふれています。マラドーナについては、次のように覚えておきましょう。「すでに偉大であり、今後さらに偉大になる存在である」と…。 
 
 サッカーファンにはもちろんのこと、サッカーをあまり知らない人でも、マラドーナの性格や行動に興味を持つ人はいることでしょう。彼が一体、どのように長年生きてきたのかをぜひ振り返ってみてください。 
 
 『Diego Maradona(原題)』の日本公開予定日は未定です。 
 

 
 
From Esquire UK 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。