新作『トップガン マーヴェリック』がどんな映画かと言えば、多くの点で第1作目の『トップガン』を踏襲しています。もちろん、これは最高の賛辞としてです。迫力ある音響に包まれ、大胆で美しいショットを目にしたら、時空を飛び超えて懐かしい感覚がよみがえること間違いありません。

1作目同様、CGI(Computer generated imagery=コンピュータグラフィックスによって生成された画像または映像)はほとんど使われておらず、本作もやはり「通過儀礼(成長過程で、次なる段階の期間に新しい意味を付与する典礼)」的なストーリー展開となっています。

ただし、マーヴェリック(トム・クルーズ)は実験機を操縦する海軍のトップパイロットとして登場しているわけですが、そこで、いかにパイロットたちの真のリーダーになるのか? また、前作で亡くなった僚機のパイロットであるグース(アンソニー・エドワーズ)の息子ルースター(マイルズ・テラー)の父親代わりとしての役割をいかに果たすか? を学ぶ必要にの迫られています。これを言い換えれば、「中年になったマーヴェリックにも、まだ成長しなければならないことがあった」ということに他ならないのです。

ヴァル・キルマーもアイスマン役で大スクリーンに戻ってきてくれる…それはもう、まさに感涙モノです。前作を楽しんだ人なら、今回も必ずやトキメクはず。久々にシネコンを飾る最高級、かつノスタルジックな超大作なのです。

そんなわけで、2010年には映画『トロン・レガシー』で今作同様に80年代の人気SF作品『トロン』(1984年)を現代によみがえらせた実績を持ち、その上で2013年には、映画『オブリビオン』でトム・クルーズとタッグを組んだ経験を持つ監督ジョセフ・コシンスキーに、80年代の代表的映画として、人々の脳裏に最も焼き付いている作品のひとつである『トップガン』のリバイバル…今作について話をうかがいました。


『トップガン』と『マーヴェリック』のつながり

エスクァイア:タイトルカード(場面の途中にインサートされる字幕)や空母、音楽が1作目で使われていたものと同じという、いきなりノスタルジー感全開のオープニングにはびっくりするやらうれしいやらでした…。最初からそのつもりだったのですか?

ジョセフ・コシンスキー監督(以下、コシンスキー):あれはとてもインパクトのあるオープニングですからね、シンプルに…。私は1986年、12歳の子どものときに第1作を観ました。今回の作品はあの『トップガン』であること、そして、この映画を製作している私たちもトップガンのファンであることを観客に知ってほしかったんです。空母でのオープニングはまさにそのためのもので、観客を海軍の世界に引き込むために最適の手段だったのです。だから、「つくられた感」がないでしょう? 引き込まれるような感覚…これこそ、私がこの映画に込めたかったものです。

エスクァイア:さらにオープニングで、ケニー・ロギンスの名曲「デンジャー・ゾーン」が聴けるとはとてもうれしかったですね。他の曲を検討されたこともあったのですか?

コシンスキー:検討はしました。ケニーにも新曲についての話をしたこともあるのですが、これはもうジョン・ウィリアムズの曲のようなものでしょう? 『スター・ウォーズ』に、他のテーマ曲は不要じゃないですか、そうですよね? 『デンジャー・ゾーン』は、『トップガン』の世界観をそのまま引き継ぐものです。1作目を観た観客に、同じ世界にいる感覚を味わってもらいたかったのです。

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Kenny Loggins - Danger Zone (Official Video - Top Gun)
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エスクァイア:オリジナルの『トップガン』とのご自身の関わりは?

コシンスキー:私は、あの映画を観るのにうってつけの年齢でした。子どもの頃は飛行機に夢中で、父と一緒に模型飛行機をつくったり、ラジコン飛行機を飛ばしたりしていました。マーヴェリックの物語自体、「少年」から「大人の男」へと成長する物語です。高速のジェット機を操縦し、教官と恋に落ちる。そんな少年時代のファンタジー的な要素も盛り込まれていますし…。

でも私は、映像好きの少年として、この映画が大好きだったのです。トニー・スコット監督の手法は他のどの超大作とも違うものでした。プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーは実にヨーロッパ的なアート映画『ハンガー』(1983年)を観て彼を起用し、壮大さを誇るハリウッド映画の世界に連れてきたのですが、トニー監督はこのジャンルを基本的に再定義したのです。この映画の様相はすべて私の心に残り、そしてサウンドトラックは私にとってあの夏を代表するテーマ曲となったのです。この映画は、完璧な夏の超大作を象徴しているようなものでしたね。私自身、今作でもそんな感覚を引き出したいという強い思いがあったというわけです。

当初、トム・クルーズは続編製作に乗り気ではなかった⁉

エスクァイア:続編プロジェクトの話は常に出ていましたが、実現していませんでした。今回はどのようにして、トム・クルーズをやっとその気にさせたのですか?

コシンスキー:プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーが、彼らが取り組んでいた脚本の初期バージョンを送ってきたのです。いろいろな考えが浮かんだので、私の解釈を彼に伝えたところ、彼はそれをとても気に入ったようでした。そして、「そのアイデアをトムに投げてみるべきだ。実際に会って話したほうがいい」と言ってくれたのです。そこで私たち2人は、当時『ミッション:インポッシブル』第6作を撮影のためパリに滞在していたトムを訪ねたのです。会えたのは撮影の合間、30分くらいの時間しかなかったのですが…。

私たちはホテルの一室でトムと会い、アイデアのすべてを説明しました。まず、マーヴェリックと(マイルズ・テラー演じるグースの息子ルースターとのストーリーが、この映画のエモーショナルな軸のようなものであることを伝え、36年後のマーヴェリックが登場するオープニングのシーンの流れを説明しました。「50代になったこの男は、海軍で何をしているのだろう?」といった疑問を多くの人が抱き続けているはず…と考えたのです。そして私たちは、それを現実的に撮影することを提案したのです。で、彼は明らかに乗り気になってくれた様子でした。そして、タイトルを提案したのです。みんな『トップガン2』と言っていたのですが、私は『トップガン:マーヴェリック』を提案したのです。なぜなら、この作品は1作目同様、この主人公あってこそのストーリーだからです。

そしてミーティングの最後に、彼は電話を手にしてパラマウントの社長に電話をかけ、「トップガンの新作をつくるぞ!」と言いました。こうしてその場で、映画製作の基本的なゴーサインを取りつけることができたというわけです。すごいことじゃないですか? 映画業界のことをよくご存じの方なら、映画の製作を決定するのがいかに大変かおわかりでしょう。それを電話一本でやってのけるとは、何ともかっこいいではありませんか。

後でわかったのですが、トムはこの話し合いに来たとき、続編の製作にはあまり乗り気ではなかったそうです。でも、ジェリーは聡明なプロデューサーですから、パリに着くまで私にそのことは言いませんでした。幸運なことに、結果としてはすべてうまくいったわけですが…。

映画『トップガン マーヴェリック』のトム・クルーズ
(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

伝説のビーチバレーシーンを取り入れた理由

エスクァイアこれがうまくいってなかったら、きっと、Zoomミーティングにしておけばよかった…と思っていましたよね。ところで、1作目の名シーン(上半身裸でビーチバレーを楽しむシーン)も取り入れていますね。このオマージュを盛り込むことは、必須だと思われたのですか?

コシンスキー: 私が『トップガン』を撮っていることを知った人々から、いつも最初に聞かれるのは「上半身をさらし、汗まみれでバレーボールをするシーンはあるのか?」ということでした。そして、誰もが私に期待していた答えは、「イエス」だったのです。

ですから、このシーンが必須条件みたいなものであることは分かっていたし、これがなければ、「みんながどれだけがっかりするか」ということもわかっていたのです。ただ問題は、「どうやってストーリーに組み込むか?」ということでした。というのも、ただ単に、「やりたいからやる」というのではダメなんです。マーヴェリックがパイロットにこんなことをさせるのには、何か理由がなければなりません。そこで脚本家のエーレン・クルーガーが、攻撃と防御を同時に行う「ドッグファイト・フットボール」というコンセプトを考え出したのです。それを聞いたとき、「これは素晴らしい案だ」と思いました。前回同様、そのシーンも訓練の一部となり、必要なシーンへと進化したのです。だから皆、このシーンの存在理由を納得した上で、楽しんで取り組みました。

俳優たちは6カ月先のその日を、カレンダーに丸を付けて待っていました。そして、前日の夜中までジムで鍛え上げ、身体を絞り込んでいたのです。

当初は、服を着ている人と脱いでいる人の両方を想定していました。そこであなたは服を着て、あなたは脱いで、と分けていったら、服を着るように言った俳優は感情的な面持ちを見せるんです。ある俳優は私のところにやって来て、「6カ月間もトレーニングに励んできたんですよ! だから、Tシャツを着るほうにしないでください!」と言うんです。そこで私は、「じゃあ、みんな裸にしよう」と言ったというわけです。別に構わないわけですから…。

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エスクァイア「ドッグファイト・フットボール」のルールは?

コシンスキー:それは今後、誰かが考えなければなりませんね! 実際に流行るかどうか、今後様子を見てみましょう(笑)。

エスクァイア『マーヴェリック』を観る直前に『トップガン』1作目を観て、あの作品では、全体を通して誰もが汗だらけになっていたことに改めて気づきました。ですが、今回のあなたの作品では最後のほうまで汗だくのシーンがありませんね。それはかなり意識的な選択だったということでしょうか?

コシンスキー:そうですね、汗まみれのシーンは彼らがコントロールセンターにいるときはまだありません。必然性のあるシーンで使おうと思ったからです。もちろん、映画の筋が進むにつれて、明らかにリスクが高まりますよね。だから間違いなく、時間の経過とともに汗だくになっていくのです。完璧な汗の玉をつくるには、オイルを少し塗って、その上に水を少し吹きかけるというコツがあるんです。『トップガン』の美学の秘密を学ぶ必要がありました。

でも、撮影現場ではこんなジョークも聞くことができましたよ。「あれ、私はこんなに汗っかきだったかな?」とかね。俳優さんたちからよく言われました。でも、カメラに映るような汗をかくのは大変なんですよ。自分では汗びっしょりだと思っても、カメラではそう見えないものなのです。

アイスマン(ヴァル・キルマー)の再登場と配役について

エスクァイア:1作目について、もうひとつ新たな発見がありました。アイスマンに対する自分の見方が、実に変わっていたことには驚きましたね。1作目では彼は嫌な奴で、弱い者いじめをするというイメージだったのですが、実はそうではなくて、どちらかというとマーヴェリックのほうが嫌な奴なんですよね。

コシンスキー:ちょっと不思議なことに、私たちの多くが過去を振り返ってみたときに同じような反応になるんですね。ちょっと待てよ、アイスマンのほうが正しかったのかも? ってね。だから、今回の映画の中のアイスマンは海軍で出世して、今や太平洋艦隊司令官になっているのです。彼はトップガンであり、偉大なパイロットであり、偉大なリーダーでもある…。お分かりかと思いますが、彼は悪役ではないのです。だから彼とマーヴェリックが、1作目の最後で和解し、本作ではそれが長きにわたる友情に変わっている…という事実は、お気に入りのポイントでもあります。

トニー・スコット監督作品『トップガン』の撮影現場での米俳優ヴァル・キルマーとトム・クルーズ。
Sunset Boulevard//Getty Images
トニー・スコット監督作品『トップガン』の撮影現場での、ヴァル・キルマーとトム・クルーズ。

エスクァイアここ数年のヴァル・キルマーの健康状態(2017年に咽頭がんで2年の闘病を経験しています)を知っている人がオープニング・クレジットで彼の名前を見たら、感激しますよね。

コシンスキー:そうなんです、トムとジェリーも…。もちろん多くのファン、そして私自身も、アイスマンの登場を願っていました。でもヴァルが、健康面でかなり困難な時期を過ごしていたことも知っていました。そこでヴァルに来てもらって、話をしたのです。ジェリーは長い間、彼に会っていなかったと思います。そしてヴァルは、「アイスマンはこのストーリーの一部でなくてはならない」、と言ってくれたのです。彼のキャラクターを今回の作品にどのように組み込むか? その方法を考えついたのは、ヴァル自身でした。それは…「何かを演じようとするのではなく、今の彼により近い形で演じられるようにする」という、まさに真実味のある方法を。

トムはヴァルに長い間会っていなかったので、そのシーンを撮影することになったとき、とても感動していました。2人が一緒にスクリーンに映るのは、『トップガン』以来ですからね。2人ともまだスーパースターになる以前、86年に一緒に仕事をした経験があるからこそ、お互いをリスペクトし合うことができるのです。

ヴァルは最初の『トップガン』の撮影現場で、「目の前で起きていることがどんなことであるのか? を十二分に理解することができた」と言っていました。つまりトムがマーヴェリックを演じているのを目の当たりにし、トムがこの先スーパースターへと成長すること間違いないと確信したそうなのです。ヴァルは、「今自分の目の前にいる男は、これから先すべてを自分ものにできるはずだ」と思ったそうです。

エスクァイア:ジョン・ハムとトム・クルーズの共演シーンは、本当にワクワクしました。というのも、ドラマ『マッドメン』でのジョン・ハムの役柄、ドン・ドレイパーを広告界のマーヴェリックとして見ていたからです。「ラッキーストライク」のマーヴェリックと、パイロットのマーヴェリックを観るようなものです。キャスティングの際に、そのようなことを意識されたのですか?

コシンスキー:ええ、ジョンが演じたボー・"サイクロン"・シンプソン副提督という役は、マーヴェリックを諭すことのできる信頼のおける人物ということで、これが難しい立ち位置なのです。なぜなら、トム・クルーズは「トム・クルーズ」なのですから…。

大スターを相手に、権威的な圧力を感じられる俳優を見つけるのは非常に難しいのです。でもジョンなら、まさに海軍の提督になれそうじゃないですか…。でも実生活では、これ以上ないほどのいい人なのですが。彼は、昔ながらの古典的な映画スターのような人格を持っていますし、普通とは一線を画した存在感を放っています。そうして実際に、その役になりきって、素晴らしい演技を見せてくれました。彼はマーヴェリックを厳しく非難することもありますが、それでも彼は憎めない存在を演じてくれました。

映画『トップガン マーヴェリック』のジョン・ハム
(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

『トップガン』の視聴者とともに成長した
マーヴェリックの現在が描かれている

エスクァイア:1作目の『トップガン』が公開されたのは1986年でした。ニューヨーク・メッツがワールドシリーズで優勝し、シカゴ・ベアーズがスーパーボウルで優勝した年ですね。当時は、これでもかというほどの「男っぽさ」が受けていました。「今はどうか?」と考えてみると、当時ほどではないのではないでしょうか…。マーヴェリックというキャラクターが、現代ではどのように認識されるか? について、考えたことはありますか?

コシンスキー:実は、私はこれまでに2回、他の人と一緒にこの作品を観ました。が、彼ら、そして私もそうなのですが、われわれと同年代かそれ以上の年齢の男性は、「この映画を観て、どれほど心が揺さぶられたか?」 と言う感想を口にします。何かその年代の男性たちの感情にスイッチを入れるところがあるのでしょうね。それは、懐かしさからでもあるし、マーヴェリックがこの映画で中年の、男性が背負っている問題を扱っていることもあるのかと思います。そして、現実の世界でそういう仕事をしている司令官たちと話すとわかるのですが、自分自身が若者として戦地に赴くのと、若者を戦場に送り出す責任者という立場になるのとでは、背負っている重みが違うと言うのです。

そしてこの、他者に対する責任感というのが、この映画でマーヴェリックが格闘しているまさに概念なのです。『トップガン』の続編映画としての期待以上に、この点が最もエモーショナルな体験になるのだと思っています。

エスクァイア映画の冒頭でマーヴェリックが登場すると、思わずテンションが上がります。革ジャンにアビエーターサングラス、バイク、そして飛行機が置かれた巨大な格納庫で生きている…。まるで、中年の男がかかる熱狂的な夢のような世界ですが、そのうち、彼は一匹狼だということも確認できるのです。

コシンスキー:ええ、そうです。それこそが、本当に言いたかったところなのです。おっしゃるように、彼はずっと自分の思い通りの生き方をして、驚異的な功績を手にし、航空界のトップに登りつめます。オープニングのシーンで、史上最高のパイロットになった彼が登場しますが、でも彼はひとりぼっちですよね。彼は一人きりでそこにいるのです。私たちが伝えたかったのは、これはパイロットになるためにすべてを捧げた男の物語なのです。ただ個人的には、天涯孤独という大きな犠牲を払って…。だからエンディングは、意図的に同じ場所でのショットにしたのです。格納庫のマーヴェリックは、エンディングでは家族と一緒です。正確に言えば、ウィングマンだった相棒の息子とかつての恋人(ジェニファー・コネリー)、そして、その娘という「家族」に囲まれているのです。

つまりマーヴェリックは、この映画のストーリーの中で今まで彼が実現できなかったこと…つまり、自分の好きな仕事をして、それを分かち合える「家族」を手に入れたのです。それがこの映画における、彼のジャーニー(人生という名の旅)なのです。1作目は少年が男になる話でしたが、今回の物語は1人の男が「父親」になる話なんです。「それでこそ映画『トップガン』だ」と言えるではないでしょうか。壮大なアクション映画という外装に包まれてはいるものの、『トップガン』は主人公の内面が軸となる通過儀礼のストーリーなのです。

とにかく観る人みんなに、ぜひ楽しんでもらいたいですね。飛行機が好きかどうかに関係なく…ね。

映画『トップガン マーヴェリック』のukプレミアに出席したジョセフ・コシンスキー監督。
Lia Toby//Getty Images
映画『トップガン マーヴェリック』のUKプレミアに出席した、ジョセフ・コシンスキー監督。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。