1985年のハイン・S・ニョール(『キリング・フィールド』)以来、38年ぶりとなるアジア系受賞の快挙を達成しました。

「オー・マイ・ゴッド! 本当にありがとうございます。私の母は84歳です。家から観てくれています。母さん、オスカーを獲ったよ!」と、歓喜の声を上げるとこう続けました。

95th annual academy awards backstage
Handout//Getty Images
助演女優賞を獲得した共演者ジェイミー・リー・カーティスと、舞台裏でハグするクァン。

私の旅路は難民ボートからはじまりました

「私の旅路は、ボートからはじまりました。1年難民キャンプで暮らしました。そうしてなんとか、遂にここまできました。よくこう言われます。『そんな話は、映画だけの話だよ』と…。まさかそれが私に起こるとは、信じられません。これこそがアメリカンドリームです。

人生最高の名誉ある賞をお贈りいただいたアカデミー、そして私をここまでたどり着かせるため、数多くの犠牲を払ってくれた母親に感謝しています。そして、弟のデイヴィッドにも。彼は毎日私のことを気遣って連絡してくれました。愛してるよ、ブラザー。A24にも、(監督のふたり)ダニエルズ、ジョナサン(・ワン)、ジェイミー(リー・カーティス)、ミシェル(・ヨー)、そして『グニーズ』以来生涯の友、ジェフ・コーエンにも感謝します」

最後に名前を出したジェフ・コーエンは、『グーニーズ』(1985)でクァンとは子役同士共演し、のちに弁護士に転向。『エブリシング~』出演時、彼のマネージングを務めました。

from left to right, jeff cohen, sean astin, corey feldman and ke huy quan in a scene from the film goonies, 1985 photo by warner brothersgetty images
Michael Ochs Archives//Getty Images
『グーニーズ』より。左端がジェフ・コーエン、右端がキー・ホイ・クァン
burbank, ca october 27 actor joe pantoliano, actor jeff cohen, actress lupe ontiveros, director richard donner, actor ke huy quan, director robert davi and actor corey feldman attend the warner bros 25th anniversary celebration of the goonies on october 27, 2010 in burbank, california photo by alberto e rodriguezgetty images
Alberto E. Rodriguez
2010年『グーニーズ』25周年記念イベントでのコーエン(左から2番目)とクァン(右から3番目)

そして最後に、妻の支えが大きかったことを示す言葉で締めくくります。

「ここに至るまでの全ては妻、エコーのおかげです。彼女は毎月、毎日、この20年間、『いつかあなたの時代が来るわ』と言い聞かせてくれました。夢は抱き続けなければならないものだと…。自分の夢を諦めかけたときもありました。皆さんにお願いです、どうか夢を諦めずに生き続けてください。本当にありがとうございます。私をこの世界に再び迎えてくれてありがとう! 私はあなたたちを愛しています。本当にありがとうございます!」 

the 95th annual academy awards arrivals
Gilbert Flores//Getty Images
妻エコーと

 

「α」の存在になれなかったアジア系キャストたち

彼は以前から俳優としてのカムバックに関して、「ミシェル・ヨーらオール・アジア系キャストで実現させた大ヒット映画『Crazy Rich Asians(邦題:クレイジー・リッチ!』(2018)の存在が後押ししてくれた」と語っていました。まさにあの作品は、蝶の羽(規模的にはモスラの羽クラスでしたが)のひと振りだったというわけです。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で彼が演じ分けたのは、「α male(アルファ男性)」と「β male(ベータ男性)」を思わせる役。いわば、ひと握りの勝ち組とその他負け組の構図です。生き残るのはαであり、βは彼らに制圧される(べき)とする…マチズモ(男性優位主義)と暴力と筋肉が支配する世界。

当然のことにように皆が受け入れている非常にアメリカ的な「αを目指す闘争の世界」を否定した物語であり、ハリウッドでヒーローになるはずもなかったキー・ホイ・クァンのような俳優がオスカーを手にしたことはまさに、「サル山のてっぺんに上らなくても、人間は認められるのだ」というメッセージを送ることになりました。

その点からも『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の登場は、アメリカ映画界の歴史的転換点になるのかもしれません。