スペインが牽引するグリーン水素:新再生可能エネルギー計画
CEDRIC DIRADOURIAN

ヨーロッパ大陸南西端のイベリア半島に位置し、17の自治州で構成されているスペイン。アフリカ大陸とは両岸の最短距離が約14kmと近く、地中海と大西洋を結ぶ要所でもあることから、ヨーロッパやアフリカといった多様な地域の文化を有しています。共通の公用語はスペイン語ですが、バスク語やカタルーニャ語、ガリシア語とそれぞれの地方で独立した言語が使われているのも特徴です。

「観光立国」として
魅力度の高いスペイン

“情熱の国”とも呼ばれるスペイン(漢字表記:西班牙)は、観光部門が国内総生産(GDP)の約12%を占める観光大国としても知られています。サグラダ・ファミリアをはじめとする奇才ガウディが残した建築物、イスラム建築の最高峰と称されるアルハンブラ宮殿といった文化遺産が各地に点在し、ユネスコ世界遺産登録数は世界第3位を誇ります。

また、同じユネスコの中でも“形のない文化”を対象とするユネスコ無形文化遺産に登録されているスペイン料理、フラメンコや闘牛などのさまざまな伝統文化も、旅行者を魅了してやまないスペインの魅力です。ちなみに日本からの直行便は少ないにも関わらず(*2023年5月現在は運航停止中)、2019年には約68万人もの日本人が訪れていたということ。

再生可能エネルギーの取り組み

スペインは先端産業や科学技術において、国際的に高い競争力を持つ国でもあります。特に風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの分野では、主要先進国の中でも非常に高い水準にあります。“再生可能エネルギー先進国”として世界リードを目指すスペインのサステナブルな活動を知るべく、スペイン駐日大使公邸を訪問。

2022年2月に駐日スペイン大使に就任したフィデル・センダゴルタ氏に、再生可能エネルギーに関する現在の取り組みや、これからのビジョンについて訊いてきました。

センダゴルタ駐日スペイン大使にインタビュー

フィデル・センダゴルタ fidel sendagorta 駐日スペイン大使
CEDRIC DIRADOURIAN
フィデル・センダゴルタ(Mr. Fidel Sendagorta)駐日スペイン大使

エスクァイア編集部(以下編集部):風力発や太陽光をはじめとする再生可能エネルギーに対して、日本に比べるとスペインは積極的な国だと思います。それは国土の広さや地形なども関係しているのでしょうか。

フィデル・センダゴルタ大使(以下センダゴルタ大使):スペインは世界的にも再生可能エネルギーに関して、非常に多くの可能性を持っている国と言えます。徐々にグリーンエネルギーへの移行も進んでいて、2022年は国内電力の42%が再生可能エネルギーでした。ちなみに2023年は、それを上回る50%を達成しようという目標があります。特にチカラを入れているのは風力発電と太陽光発電で、すでに2つの資源は非常に豊富です。日本のように山が多い国や国土が狭い国に比べると、スペインは国土面積も地形も「再生可能エネルギーに向いている」と言えるでしょう。

ただ、再生可能エネルギーにはひとつ欠点があります。それが蓄積できないことです。需要より多く生産してしまった場合は、そのエネルギーは失ってしまうことになってしまうのです。

再生可能エネルギーの欠点を
凌駕する水素エネルギー

再生可能エネルギーの欠点を凌駕する水素エネルギー
CEDRIC DIRADOURIAN

編集部:蓄積できないという再生可能エネルギーの欠点…。すごくもったいないですね。

センダゴルタ大使:その問題を解決するために期待されているのが、水素エネルギーです。風力や太陽光などと違って余ったエネルギーで水素を生産することができ、さらにはその水素を使って水素エネルギーをつくることが可能と期待されています。

今後は、天然ガスの代わりにもなるのではないかといわれているので、いずれは自動車産業や鉄道、船、飛行機などにも水素エネルギーが使えるようになるのではないかという、非常に明るい未来が想像できるわけです。実際にスペイン政府や企業は、今後数年において約90億ユーロの投資をして、水素エネルギーをさらに推進させていこうと動いています。

編集部:持続可能な未来をつくる可能性を顕著に示す水素エネルギーに国を挙げて着目することは、実に素晴らしいですね。日本との共同での取り組みも視野に入れていますか?

センダゴルタ大使:もちろん水素エネルギーは日本企業も既に注目していて、「スペインで考えられているプロジェクトなどに参加したい」という声も多くいただいています。実際に今年の2023年4月、福島県の内堀雅雄(うちぼりまさお)知事がバスク地方を訪れ、水素エネルギーに関する協定を更新したばかりでした。

ちなみにスペイン国内で進んでいるプロジェクトのひとつは、電力大手のイベルドローラ(Iberdrola)社が行なっている水素エネルギーを使って肥料を生産する事業です。他にも試験的にさまざまなプロジェクトが進められていますが、それらが実現すれば大きな成果となり、飛躍的な発展につながると思います。だからこそ、生産から使用されるところまでのサイクルを、現在スペインで進めているところです。

編集部:将来的には自動車や飛行機にも水素エネルギーが使われるようにしたいとお話しされていましたが、いずれは家庭でも使う時代が来るのでしょうか。

センダゴルタ大使:ちょうど今年の1月に、NEDO(国立開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)とスペイン政府の共同で、山梨県甲府市で水素エネルギーに関するセミナーを開催しました。なぜ甲府で行われたかというと、甲府では水素エネルギーを家庭で使う試験的なプロジェクトがすでに始められているからです。将来的には家庭でも水素エネルギーを使うことになるとは思いますが、まずは他のところで使って様子を見ている段階です。

また3月末に、「日本スペイン経済委員会」がマドリードで開催されました。これは日本商工会議所が事務局を務めているのですが、今回最も注目されたテーマが水素エネルギーだったのです。今後、両国間で水素エネルギーの協力関係が、より深まっていくことを期待しています。

EU理事会の議長国としての役割

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編集部:2023年7月に、スペインはEU理事会の議長国になります。その際、促進させたい活動を教えてください。

センダゴルタ大使:そもそも議長国の期間は、半年になっています。現在はスウェーデンで、その後はスペイン、ベルギーというようにリレー式に変わっていきます。議長国になった際に行う活動はとても重要です。もちろん、EUにはメンバー国全員で決めた優先課題もあり、それもみんな(EU加盟国)で進めていきますが、議長国になると自分たちが促進させたい事業活動を強化することができます

スペインが議長国の期間に重要視したいのは、デジタル経済とグリーン経済の2つです。現在は世界情勢によるエネルギーの依存度などの問題も発生していますので、エネルギーの安全保障についても進めたいと思っています。例えば、ロシアに対するエネルギー依存を、どのようにすれば減らせるのか…などが挙げられます。また、新しい分野が拡大されていく中で、それに対する人材育成も必要だと考えています。

外交政策に関して今後進めていきたいのは、これまでも行なってきたウクライナへの支援です。

他のテーマとしては、中南米地域に対してEUはどう協力していくのか…。これに関しては2023年7月に、「EU・中南米地域サミット」が開催される予定です。そしてもうひとつわれわれにとって重要なのが、スペインの南にある北アフリカへの支援です。問題がたくさんあるのですが、モロッコやアルジェリア、チュニジアなどは私たちの協力や支援を必要としているので、そういったところも課題として注目していきたいと思っています。

eu理事会の議長国としての役割
CEDRIC DIRADOURIAN

編集部:センダゴルタ大使は2022年2月に駐日大使に就任しましたが、これまで日本に訪れたことはありましたか?

センダゴルタ大使:実は1980年代に外交官としての最初の赴任先が日本だったので、今回で2回目になります。40年ぶりに来日して、大使館がある六本木エリアが近代的になっていることに驚きました。六本木ヒルズやアークヒルズ、東京ミッドタウンなどは40年前にはありませんでしたから(笑)。街もより清潔になっていますし、昔に比べると渋滞も少なくなっているように感じますね。

今回は駐日大使として在住していますが、日本が魅力にあふれている国だと改めて感じています。私は日本庭園や文学・映画といった日本の文化が好きですし、非常に生活もしやすい国です。40年の時を経て、再び日本に来ることになったのは光栄ですし、強い縁を感じています。