加害者擁護の勝手な
「解説」が恥ずかしい

「テンションがまず上がっていました。昔からDJ SODAさんのことが好きだった。『今日は宴や』みたいな感じで若いノリでお酒をいっぱいいってしまって、その勢いで近づいていってしまった」

「お酒をけっこう飲んでしまって、軽い気持ちでやってしまったなと思っています」

大阪の音楽フェスで、韓国出身の女性DJ・DJ SODAさんの胸を触った20歳の大学生と会社員は殊勝な顔をしてこんな謝罪をした。2人は「青汁王子」こと実業家の三崎優太さんが公開したYouTube動画に出演し、その後に大阪の警察署に出頭したという。

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このような加害者からの「全面謝罪」を聞くと、恥ずかしさで耳が真っ赤になっている「愛国者」も多いはずだ。

というのも、今回の事件は、ネットやSNS、YouTubeで、「韓国人のお騒がせアーティストがわざと肌を露出して、熱狂する観客に近づいて挑発をして、ちょっと触れたくらいで性被害を受けたと大騒ぎをしている、反日当たり屋事件」という感じで、愛国心あふれる人たちの溜飲を下げるような「解説」が広まっていた。

実際、ネットのコメント欄には、「客は規制エリア内で楽しく騒いでいただけなのに罰せられて、ルールを破って観客席に侵入してきたDJ SODAとそれを制止しなかった警備や運営がおとがめなしは不公平だ!」と、胸を触った側を「被害者」だと主張する人が多くいた。中には、「日本人のイメージをおとしめるための新手の反日工作では」なんて感じで「ゴルゴ13」も真っ青の国際陰謀論までささやかれる始末だった。

しかし、それは大きな誤解である。例えば、加害者の1人はDJ SODAさんが昔から好きで、酒の勢いで触ってしまったというので、アイドルファンが泥酔して握手会で「問題行動」を起こしてしまったようなものだ。また、もう1人もお酒を結構飲んでいて“ノリ”で触ったという。

つまり、DJ SODAさんのファッションや行動に「挑発」されたわけではなく、シンプルに好きな女性への衝動を抑えきれなかったり、酔ってムラムラしただけなのだ。これが「被害者」なら、世の性犯罪者はみな無罪放免だ。

一部の人々が事件発生後から一生懸命に主張していた「音楽好きな日本人が興奮状態に陥っているところを、肌を露出して女性が接近して挑発をされたわけだから、盛り上がるあまり触ってしまうのもしょうがない」というストーリーとまったくかけ離れた実態が浮かび上がっているのだ。

「何かと被害者ヅラして日本人を悪者にする韓国人のいつもの手口だ!」という推理を披露したものの、それが単なる「願望」だったと明らかになってしまい、内心恥ずかしくなっている人もいるだろう。

e sports music festival hong kong
Anthony Kwan//Getty Images
2018年8月24日、香港で開催された「E-Sports & Music Festival Hong Kong」のステージ上でパフォーマンスをみせるDJ SODA。
「スーフリ事件」を思い出す、加害者の無責任さ

だが、それでも納得のいかない人は多いようで、今もネットやSNSで加害者を責めることなく、やたらと「警備」や「運営」が悪いという主張をしている。世界一礼儀正しい日本人が、性犯罪などするわけがない、と願うそのお気持ちは痛いほどわかる。

ただ、過去に多くの性加害者たちから、実際に話を聞いてきた立場で言わせていただくと、今回出頭した2人の話していることは、典型的な性加害者の言い分だ。

今から20年前、スーパーフリー事件というのがあった。

早稲田大学のインカレサークル「スーパーフリー(スーフリ)」で女子大生らへの集団性的暴行を常習的に行っていて、被害者は数百人以上にのぼるということで、加害者たちは社会から厳しく糾弾された。しかし、立件されたのはわずか3件で、関わっていた大学生の多くはおとがめなしとなった。

筆者は加害した側の大学生たちに何人かにインタビューをしたが、多くはDJ SODAさんの胸を触った2人と同じようなことを言っていた。つまり、「今日は宴だという感じ」とか「酒に酔っていた」「ノリでやってしまった」と、ちょっとした勢いで集団性的暴行をしてしまったくらいの軽い感じだったのだ。

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マスコミは「鬼畜の所業」と彼らを叩いていたが、当の本人たちはそんな非人道的なことをしたという気はなかった。「まわりのみんながやっていたので仕方なく」と自己正当化したり、「女性側もその気だった」と耳を疑うような弁明をする者が多くいた。むしろ、マスコミに追いかけ回されたり、ネットで実名がさらされたりすることで、「自分も被害者」くらいに思っている者までいた。

「露出した韓国人DJの胸を触ったくらいでスーフリと一緒にするのは気の毒だ」と思うだろうが、スーフリの残党たちも、自分たちのことをそう思っていた。日本中の大学生と同じく、酒を飲んでちょっと羽目を外しただけなのに、なぜ自分たちだけが世紀の性犯罪者扱いされるのだ、と。

他にも共通点はある。今回、DJ SODAさんを触った2人も謝罪の場で、これからどうするか問われたところ「流れに身を任せようと」と発言をしたことが無責任だと批判されているが、スーフリ残党のある大学生もこれからどうするのかと尋ねたら、「なるようにしかならないし、退学になったら、この経験を活かして起業とかしたい」なんて笑っていた。

つまり、彼らの頭には自分が「加害者」で、相手の女性が「被害者」という構図がスコーンと抜けている。この無責任さが、性犯罪者に共通する特徴だと思っている。

last day of the hong kong sevens
NurPhoto//Getty Images
2023年4月2日、ラグビー7人制国際大会「香港セブンズ」にて、ゲストとしてDJ SODAも参加。
社会には性犯罪者や予備軍が溶け込んでいる

筆者は女性を殺した後にいわゆる「屍姦」をしたような異常な犯人や、下校中の少女を草むらに連れ込んでわいせつ行為をした犯人、少女を誘拐して9年2カ月間、自分の部屋に監禁した犯人など、さまざまな性犯罪者に直に話を聞いたことがある。彼らの多くは自分がいかに不幸だとか、世の中から迫害を受けているというような話は一生懸命熱弁を振るうが、「被害者」の心情に寄り添うような話はほとんどしない。

罪悪感から避けているとかではなく、あくまで自分の欲望が抑えきれなかった対象というだけで、その人が何を考えて、どんな人生を歩んでいたかなどに興味がないのだ。相手を「人」として見てないので、卑劣な性犯罪ができるのだろう、と妙に納得をした覚えがある。

そして、なかなか受け入れ難い話だが、こういう性犯罪者やその予備軍が我々の社会の中には一定数いる。彼らは普段は社会に溶け込んで、欲望を抑えこんで暮らしている。が、何かのきっけで自制がきかなくなって、逆らわない者、バレる恐れがない者を毒牙にかける。

先日も、大手中学受験塾「四谷大塚」の講師が、教え子の女子児童のわいせつな写真を撮ったり、小児性愛仲間に住所や名前などの情報を流して逮捕されたが、性犯罪をしやすい仕事につく小児性愛者もいる。また、作曲家の服部良一氏の息子が告発したように、ジャニー喜多川氏も10代から小学生の男子児童に繰り返し「いたずら」をしていた。その後、ジャニー氏は少年野球チームをつくって、アイドルビジネスをスタートする。先の塾講師と同じく、自分の欲望を発散するため、これらの仕事を選んだ可能性は高いだろう。

このように性犯罪者と予備軍が、普通の顔をして息を潜めているという現実を踏まえれば、熱狂した人々が薄着で密集する「音楽フェス」が「欲望の発散場所」になってしまうのは自明の理だろう。

実際、『夏フェスで痴漢から「薄着女性」をどう守る?』という記事からもわかるように、もう何年も前からフェスでの性犯罪は問題になっている。

今年2月には、フェスに参加した女性客がSNSに「ちかんされて服穴空いた」「ブラ外されたし胸揉まれた」などのコメントと共に、破れた服の写真をアップして問題になった。

残念ながら、満員電車で痴漢をする日本人が一定数いるように、音楽フェスでも酔った勢いや、自分の欲望が抑えきれないことで、目の前にいる女性にわいせつ行為をする日本人が一定数いるのだ。

だから、この犯罪自体を深く掘り下げても何もいいことはない。「やはりこういう場では性犯罪が起きるね、これからどうやって防ごうか」という建設的な話をしていくべきだ。

しかし、「韓国」というパワーワードが出てきてしまったことで、ナショナリズムが暴走して不毛な論争が始まってしまった。とにかく「日本の未来ある若者が性犯罪者の汚名を着せられた」という結論に持っていくため、欲望を抑えきれず酒でムラムラした加害をどうにか「被害者」として擁護をする、というかなり強引なストーリーがゴリ押しされることになってしまったのだ。

dj soda attends hong kong e sports and music festival
VCG//Getty Images
2018年8月24日に香港で開催された「E-Sports & Music Festival Hong Kong」の開催中に、ティンカー・ベルに扮したDJ SODA。
露出のせいとすればするほど、自分たちをおとしめる皮肉

こういう強引なストーリーを押し通すと、必ずブーメランになって日本のイメージを低下させる恐れがある、というのはこれまで歴史が証明している。つまり、愛国心あふれる人たちがDJ SODAさんを叩けば叩くほど、それが日本をおとしめることになるという、なんとも皮肉な現象が起きるということだ。

「胸を触られるのは肌を露出した格好をしているからだ」という主張は、「日本人の男は目の前の肌を露出した女がいると音楽フェスだろうがなんだろうが自制がきかない」と言っているようなものだ。

つまり、「被害者が悪い」という無理筋の主張をゴリ押ししていることがかえって、「日本では露出した服をきた女性は性犯罪にあっても仕方がないという考え方がある」ということを、世界に発信するという逆PRになっているのだ。

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しかも今、日本人女性が海外で性犯罪にあうというケースも増えている、と外務省が注意喚起をしている。一部の人々が主張する「胸を触られるのは肌を露出させて、観客席に近づいた女性が悪い」という話が日本の常識として広まれば、性犯罪被害にあった女性たちに「どうせ海外で開放感から肌の露出した服を着ていたんだろ」「外国人に甘い言葉でささやかれて危ない場所についていったんだろ」などと心ないセカンドレイプ被害も誘発されてしまう。

奇しくも、「人類史上最悪の性犯罪」と言われるジャニー喜多川氏の70年に及ぶわいせつ事件も世界にバレた。Netflixでは、欧米女性が性的暴行・殺害された「ルーシー・ブラックマン殺害事件」のドキュメンタリーが海外でも注目を集めている。

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『警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件』予告編 - Netflix
『警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件』予告編 - Netflix thumnail
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そんなご時世で、性犯罪被害者の韓国出身女性を「当たり屋」「自作自演」などと叩けば世界にどんな印象を与えるか。

本当に日本のことを愛しているのなら、ちょっと冷静になって、そんな誹謗中傷が「国益」になるかを真剣に考えてみた方がいい。

ダイヤモンド社
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