ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で開催され、先日2022年11月6日に閉幕した「Fashioning Masculinities: The Art of Menswear」。ファッションにおける「男性性」がどのように移り変わってきたのか? その変遷を詳細に解説したこの展覧会に象徴されるように、いまメンズのハイファッションでは「男らしさ」の解体が始まっています。

そこでここに、その兆候を可視化した代表的トレンドを“今買える”2022-2023秋冬コレクションからピックアップ。「古臭い男」にならないための(?)スタイル提案として紹介します。

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ジャケット57万7500円、シャツ9万5700円、パンツ24万7500円、ボウタイ2万4200円、イヤリング40万1500円(すべてグッチ/グッチ ジャパン クライアントサービス TEL 0120-99-2177
公式サイト

トレンド 01.
GUCCI

ツイストの効いたクラシック・スタイル

ファッションの成り立ちから考えても、メンズにおけるスーツはやはりその柱となり続けているアイテムです。その中でもダブルブレストがここ数シーズン、コレクションブランドにおけるトレンド。それが2022-2023AWは、よりエレガントにクラシック回帰しています。しかし、その一方でスタイリングは大胆なジュエリーやアクセサリー、もしくは小さなボウタイや極小バッグなど、女性的・少年的テイストとミックス・マッチさせることがトレンド。旬のスーツの着こなしは、「男らしさ」の引き算が命。


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エスクァイア 日本版
Sang-Hun Lee
左/トップ16万5000円、パンツ22万円(以上ヴァレンティノ) グローブ9万1300円、ネックレス10万100円、スニーカー13万3100円(以上ヴァレンティノ ガラヴァーニ) 右/コート51万7000円、トップ参考商品、パンツ22万円(以上ヴァレンティノ) スニーカー13万3100円、バッグ25万1900円(以上ヴァレンティノ ガラヴァーニ/すべてヴァレンティノ インフォメーションデスク TEL 03-6384-3512
公式サイト

トレンド 02.
VALENTINO

ピンク

ピンクはいつから女の子の色になったのか--。これには諸説あるものの、「V&A」の展覧会では、18世紀の貴族社会で権力を持つ男性にのみ許された色がピンクだったことを示す絵画が展示されていました。日本でも京都服飾文化研究財団のアーカイブには、同時代の鮮やかなピンクの男性用宮廷服が収蔵されています。アメリカでこの色が「女性の色」として刷り込まれたのは、1950年代ドワイト・D・アイゼンハワー大統領の妻マミーが愛用してから…などいろいろありますが、いずれにしても最近(近代)までピンクは「男性の色」でもあったことは確かと言えるはずです。「ヴァレンティノ」のメンズ・レディスを統括するクリエイティブ・ディレクター、ピエールパオロ・ピッチョーリが「最も(ジェンダー)ニュートラルな色」と語ったこのピンクを前に、たじろいでいる場合ではもはやなさそうです。


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Sang-Hun Lee
ブルゾン 75万9000円、Tシャツ 23万1000円、ネックレス 13万2000円、ジーンズ 12万1000円、ベルト6万3800円(以上すべて予定価格)(すべてセリーヌ オム バイ エディ・スリマン/セリーヌ ジャパン TEL 03-5414-1401)
公式サイト

トレンド 03.
CELINE HOMME BY HEDI SLIMANE

肌見せ

社交界において女性のドレスは、デコルテ(胸元から首筋、肩まわりなど、ワキの上から首までの広い範囲のこと)を見せることがマナーとなっていた一方、ソックスガーターからウィングカラーシャツまで、現代男性ファッションの基本となってきたとされる英国紳士服は、いかに肌を見せないように整えるかがマナーでした。スポーツシーンでもない限り男性が肌を「見せる」ことは、ある一定の特殊な意味をはらんできたのです。しかし、そんな時代は去り、ここ数シーズン“男の肌見せ”はトレンドの位置にとどまり続けています。素肌も、「男のファッション」の一部になる時代が来たようです。


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Sang-Hun Lee
コート77万円、シャツ8万3600円、デニム 参考商品、ハット9万2400円、シューズ 参考商品(すべてルイ・ヴィトン/ルイ・ヴィトン クライアントサービス TEL 0120-00-1854
公式サイト

トレンド 04.
LOUIS VUITTON

総花柄

「花柄と言えば女の子のもの」とされていたのも、今は昔。大胆なプリントがメイン・トレンドに入り込んできた現代において、花柄こそ最も個性を演出できるメンズ・ファッションの必須要素!…と言い切れそうなくらい「ルイ・ヴィトン」のこのルックをはじめ、2022-2023秋冬シーズンにはフラワー・プリントが咲き誇っています。


エスクァイア 日本版
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エスクァイア 日本版
Sang-Hun Lee
シャーリングムートンパーカ324万5000円(エルメス/エルメスジャポン TEL 03-3569-3300)
公式サイト

トレンド 05.
HERMÈS

毛足の長いファー

妖艶さやゴージャスなムードを醸し出す、毛足の長いボリュームファーは女性性を演出する要素のひとつとして多用されてきたものの、2022年秋冬はメンズラインに数多く登場。首元や裾から主張する“フワフワ”をジェンダーにかかわらずエレガントに取り入れることからも、「装いの自由」を広げられそうです。


esquire エスクァイア
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エスクァイア 日本版
Sang-Hun Lee
バッグ:“キャンディ カセット”各16万5000円(ボッテガ・ヴェネタ/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL 0120-60-1966
公式サイト
エスクァイア 日本版
Sang-Hun Lee
ウォッチ/上から「タンク ルイ カルティエ」手巻き、PG、レザー、ケースサイズ29.5mm × 22mm。149万1600円、ウォッチ「サントス デュモン」クォーツ、スティール、レザー、ケースサイズ38mm × 27.5mm。51万1500円(2点共カルティエ/カルティエ カスタマー サービスセンター TEL 0120-301-757)※2022年11月8日時点の価格です。
公式サイト

トレンド 06.
BOTTEGA VENETA
CARTIER

スモールサイズ

「大きいことはいいことだ」はもう古い? バッグもウォッチも小さいものが増々人気に。その勢いは今2022年、「ウォール・ストリート・ジャーナル」が2022年8月25日付配信記事で「The Rise of Tiny Men’s Timepieces(小さなフェイスの男性時計の勃興)」と銘打って特集したほど。「男らしさ」と「大きさへのこだわり」の関係に、今まさにパラダイムシフトが起きている…のかもしれません。


esquire
Sang-Hun Lee
パーカ15万2900円、タンクトップ4万5100円、ショーツ6万6000円(すべてロエベ/ロエベ ジャパン クライアントサービス TEL 03-6215-6116)
公式サイト

トレンド 07.
LOEWE

ポップ&インパクト・プリント

「男らしい服」の反対側には「女性らしさ」と別にもうひとつ、「少年らしさ」があります。幼少期のおやつやおもちゃを思い出させるような、ポップで楽しい遊び心たっぷりのインパクト・プリントをトップメゾンも次々に発表。大人になってもファッションに遊び心を忘れずに!


エスクァイア トレンド
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esquire
Sang-Hun Lee
ブルゾン49万円、ニット37万円、パンツ21万円、ベレー帽13万円、ソックス8万9000円(参考価格)、サンダル15万5000円、ピアス(片耳)4万9000円、パールネックレス15万円、(すべてディオール/クリスチャン ディオール TEL 0120-02-1947)
公式サイト

トレンド 08.
DIOR

くびれ

強調された腰のラインは、かつては“女性”の身体を象徴するものでした。ですが、今季のメンズウェアにおけるウエストシェイプはさらなる進化を遂げ、主導権を奪うかのようにも。クリスチャン・ディオールが女性たちのために生み出した「バージャケット」、これをキム・ジョーンズが大胆にメンズコレクションへと落とし込んだこのブルゾンを代表に、ウエストシェイプを追求したアイテムが登場。腰から伸びるAラインは、ミリタリーコートなどにも見られる特徴…と考えれば、非常に“男性的”とも言えそうです。


エスクァイア 日本版
Sang-Hun Lee
ジャケット45万6500円、ニット 参考商品、サングラス6万3800円(すべてフェンディ/フェンディ ジャパン TEL 03-3514-6187)
公式サイト

トレンド 09.
FENDI

赤いトップス

ピンクと並び女性の象徴とされてきた「scarlet(※緋色)」。ナサニエル・ホーソーンの『The Scarlet Letter(緋文字)』などの文学作品、何より聖書の中で「娼婦」の象徴とされたこの色が、今季のメンズファッションを席巻。とりわけ上半身を真っ赤な色でまとめれば、一気に今年らしい着こなしに。

※「scarlet red」と日本の「緋(ひ・あか)」は、厳密には異なる赤です。


エスクァイア 日本版
Sang-Hun Lee
パイソンプリントジャケット99万円、ニット(参考色)17万500円、シャツ12万9800円、パイソンプリントスカート39万6000円、ベルト(参考色)各7万1500円、ソックス4万9500円、ローファー 14万5200(以上すべて予定価格)(すべてミュウミュウ/ミュウミュウ クライアントサービス TEL 0120-45-1993)
公式サイト

トレンド 10.
MIU MIU

スカート

ついに、ブラッド・ピットまでがスカートを穿き始めた2022年。これまで男性セレブが着用するアイテムは「コスチューム」に近い使われ方だったものが、今季はリアルに落とし込まれています。「ミュウミュウ」のこのスカートのように、プリント、シルエット、サイズ感、全てにおいてハードなイメージになればもはやスカートなのかパンツなのかは、真ん中で分かれているかどうかの違いに過ぎないのでは? 「ミュウミュウ」はウィメンズラインでありながらランウェイで男性モデルを起用。このスカートをはじめ、大胆なヘソ出しバイカースタイル、丈が極めて短いショートパンツなど、ティモシー・シャラメやBTSのVら今季多くの人気男性セレブリティにより着用されています。シーンや季節に合わせて男性も、「女性もの」と「男性もの」の間を自由に行ったり来たりする時代が来たようです。


エスクァイア日本版2022-2023秋冬トレンド
Sang-Hun Lee
イヤーカフ(上)18KWG × 18KYG × DIA0.10ct 13万2000円、 (中)スターリングシルバー 1万1000円、(下)18KWG × DIA0.10ct 13万7500円、ネックレス(スターリングシルバー)7万9200円、ロングネックレス(スターリングシルバー)14万8500円(以上すべてジョージ ジェンセン/ジョージ ジェンセン ジャパン TEL 03-6743-7006)
公式サイト

トレンド 11.
GEORG JENSEN

イヤーカフ

すでに市民権を得て久しいメンズのイヤーカフ。重ね付けも当たり前になり、シルバーだけでなくダイヤなどの宝石で飾られたアイテムも定番に。ジュエラーからビッグメゾンまで、シーズン毎に新作が登場し続けています。今シーズンは「ジョージ ジェンセン」のメンズのキャンペーンモデルを正真正銘デンマーク王室のプリンス、フェリックス王子が務めるなど、文字通り男性が身に着けるジュエリーが「王道」になったと言えるのかもしれません。


esquire
Sang-Hun Lee
コート61万6000円、シャツ13万9700円、パンツ12万2100円、ブーツ14万8500円(すべてメゾン マルジェラ/マルジェラ ジャパン クライアントサービス TEL 0120-934-779)
公式サイト

トレンド 12.
MAISON MARGIELA

光沢素材

サテン生地から除く男性の胸元が退廃的に見えるのは、まるでナイトウェアのようであり、スーツに代表される「肌を隠す」服装が陽の光の下を歩く「真っ当な」男性ファッションのマナーとなってきたから…とも言えます。肌色を演出しセックスアピールすることはみっともないこと…という観念自体が揺らぎ、男性の身体美にストレート男性もフォーカスするようになっている現代を象徴するかのような艶やかなルックです。

【編集長からのお願い】

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Photograph / Sang-Hun Lee 
Styling / Motoko Hayashi
Hair
/ Go Utsugi(PARKS)
Make-up / Miho Hamaya
Model / Kio(TOMORROW TOKYO)
Fashion Editor / Mirei Uchihori, Senior Editor / Keiichi Koyama