“Lotharibro(ロタリブロ)”と呼ばれるスタイルを持つ、カンヌの憎たらしいほどハンサムな男性たちは、胸元が大きく開いたシャツをとても自然に着こなしていました。第2ボタンや第3ボタンまで開けたシャツや、開襟シャツからきらりと光るジュエリーと胸をのぞかせる彼らの独特のスタイルは海外旅行にぴったりですが、残念ながら2020年は海外に行くことは難しそうです。

 しかし、「ロタリブロ」のような色男たちのスタイルは、今後しばらくメンズファッションに定着しそうです。少なくともアイテムの1つ、「シルクのシャツ」はこれからも出番がありそうは兆しです。

 光沢のある軽い質感のシャツは、夏用のアイテムに見えるかもしれません。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行で、ファッションショーをオンラインで開催せざるを得なくなる前に開催された2020年秋冬のランウェイを復習してみてください。そこには、冬のモノクロームのローテーションに質感と躍動感を加える方法として、寒い季節にシルクシャツを提案しているブランドがいくつかあります。

左上から時計回りに、「casablanca(カサブランカ)」、「johnlawrencesullivan(ジョンローレンスサリバン)」、「dolce  gabbana(ドルチェガッバーナ)」、「ami(アミ)」
RICHARD BORD / EAMON MCCORMARK / SAVIKO / VICTOR VIRGILE//Getty Images
左上から時計回りに、「Casablanca(カサブランカ)」、「Johnlawrencesullivan(ジョンローレンスサリバン)」、「Dolce & Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)」、「Ami(アミ)」

 そうです。今シーズンのシルクシャツは、今までにないほどの変化を遂げているのです。

 ロックンロールのテイストを少し怖くしたメンズウエアの反乱者として知られる、日本人デザイナーによるブランド「John Lawrence Sullivan(ジョンローレンスサリバン)」は、ガーネットのようなリッチな色合いの、ルーズで流れるようなフォルムを採用しています。いつものような悪魔的なレザーの雰囲気ではありませんが、ショーでは真っ黒なスーツの下で、ムーディーで吸血鬼のような雰囲気を漂わせていました。

 「ドルチェ&ガッバーナ」も、いつもより控えめです。通常のイタリアの基準に比べれば控えめという意味ですが、あるシャツには夕暮れ時の石畳職人の机のイラストをベースにした、琥珀色のプリントが施されていました。もはや『ゴットファーザー』のテーマ曲を流して、アランチーニ(ライスコロッケ)をつくってほしくなるぐらいの雰囲気でした。

 もう少し軽く、のどかな喜びに満ちたシルクシャツもあります。それが「Ami(アミ)」のフリルがついたクリーム色のシャツです。これはまるで、マリー・アントワネットの男性版のような雰囲気でした。また、クリーンで洗練されたミニマリズムの神「ジル・サンダー」は、クリーンで洗練されたシャツの前面に水彩色で多肉植物を描いています。「ヴァレンティノ」は大きな春らしい花柄を取り入れ、驚くほど着こなしやすいシャツとなっています。マグノリア、クリーム、オフホワイトの色合いは、シルクシャツとしても飽きることはないでしょう。

 特筆すべきは、「カサブランカ」ではないでしょうか。

 フランス系モロッコ人デザイナー、シャラフ・タジェルが立ち上げたこのブランドのシグネチャーアイテムは、まったく新しいものです。言うなれば、『グランド・ブダペスト・ホテル』で撮影したコリン・ティリーのミュージックビデオに登場する、70年代のマラケシュのような世界です。そんな「カサブランカ」からは実に素晴らしいメンズウエアとして、見事なシルクシャツが登場しています。

 インターコンチネンタル・パリ・ル・グランホテルの大きな日よけの下で行われた2020年秋冬のショーでは、手足の長いダルメシアンのプリントに緑とピンクのストライプを合わせたものや、『タンタン』シリーズのカラフルな世界を描いたイラストレーターのジョルジュ・プロスペル・レミを思い出させる、イタリアのどこかの街の風景をアニメ風に描いたものが登場しました。これほど楽しいシルクシャツは、きっと他にはないでしょう…。

 少々冷静に考えてみましょう。確かにシルクシャツは、ちょっとやり過ぎに感じられる可能性もなきにしも非ずです。が、現在はさまざまな種類のシルクシャツが登場していますし、現在のメンズウエアシーンはゆっくりと実験的な方向に向かっていることを理解するならば、かつては特殊なスタイルに限定されていたこのアイテムも、通常の選択肢のひとつになるに違いありません。

 そうです、シルクシャツはもはや「ロタリブロ」たちだけのおしゃれ着ではなく、誰もが着こなすことのできるデイリーなアイテムになってきているのです。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。