ハリウッドでは、カクテルの誤ったつくり方がそのまま表現されてしまうことはよくあることです。1934年公開の『影なき男』(おそらく、これまでで最も飲酒シーンが多かった映画と言えるでしょう)では、バーテンダーにマティーニを“振って”つくるように指示されています。「007」では、ジェームズ・ボンドが「ウォッカマティーニを、ステアせずにシェーク(シェーカーを使って材料を混ぜ合わせて作る方法)で」と要求しています。このつくり方は視聴者に衝撃を与えましたが、今ではウォッカマティーニを注文すると、あえてこのつくり方で提供するバーもあるようです。
しかしその反面、劇中で驚くほど正確に、オールドファッションドをつくっている作品もあります。それは…「言葉巧みに、毎晩新しい女性を落とすプレイボーイだったライアン・ゴズリング扮するジェイコブ・パーマーが、エマ・ストーン扮するハンナと真剣な恋に落ち、彼女一筋の男へと変化していく…」といった、2011年公開のラブコメディー映画『ラブ・アゲイン』です。ストーリーのあらすじについては割愛するので、気になる方は予告編をご覧ください。
ここでゴズリングが、初めてエマ・ストーンを自宅に招いたときに定番の口説きテクニックの1つであるオールドファッションをつくるシーンは、本当に魅惑的です。慣れた手つきで角砂糖を潰し、オレンジピールや氷を盛りつける約10秒程度のシーンは、まるでクラフトカクテルの広告のようにも見えます。一体誰が、こんな完璧な指導をしたのでしょうか!?
その背景をたどっていくと、ロサンゼルスで話題のバー「The Varnish」の共同経営者であり、「アメリカン バーテンダー オブ ザ イヤー」ファイナリストのエリック・アルペリン氏にたどり着きました。
彼が2009年にバーをオープンしたとき、「The Varnish」は最もホットなクラフトカクテルバーとして注目されており、多くのセレブや著名人の顧客も獲得していました。そんな初期の常連客の1人に、ある注目の映画スターの姿もありました。
「彼はダウンタウンに住んでいました」と、アルペリン氏はゴズリングについて語っています。「ロフトのある家に住んでいました。彼はあるコミュニティーに属していて、お酒目当てによくやってきました。そうしているうちに、お互いをよく知るようになったんです」
ある夜、ゴズリングはアルペリン(彼自身、元俳優でした)氏に、「これから演じる役づくりのために、いくつかのカクテルのつくり方を教えて欲しい」と頼んだそうです。「私はこう言ったんです、『きみなら、オールドファッションがぴったりだよ』って。ゴズリングがこれから演じるキャラクターは、間違いなくオールドファッションドが似合うはずだと思ったんです」と、アルペリン氏は話します。
アルペリン氏はゴズリングとともに、シルバーレイクにあるカクテルギアブティック「The Bar Keeper」へ行き、器具をそろえました。それからゴズリングは、「The Varnish」でオールドファッションドのつくり方を学び、バーと自宅の両方で練習を始めました。「彼はすぐに、その技を習得していました」とアルペリン氏は振り返ります。「彼はそれを自然な仕草のようにできるまで何百回と練習し、身体に教え込んだんです」
そうして、映画史上最高の「オールドファッションドをつくる男」が誕生したのでした。というわけです。
アルペリン氏は最近、カクテル本「Unvarnished」を著しています。ゴズリングのようにマスターホームバーテンダーになりたい場合、レシピは本に記載されていますのでぜひご検討ください。
Source / ESQUIRE US