クッキー部分を外して食べるツイスト(Twist)派、クリームをなめて味わうリック(Lick)派、ミルクにひたして食べるダンク(Dunk)派、もしくは、ただムシャムシャと噛んで食べるファストスナック派など、オレオ(Oreo)の楽しみ方は人によって実にさまざまです。

 また、これまで「Brookie-O(ブルーキー・オー)」や「Limeade(ライムエード)」、さらには中国限定「Hot Chicken Wing(ホットチキンウィング)味」など、多彩な限定販売のオレオが生み出されてきました。牛乳を飲む際の最高のパートナーとしても、長い歴史を誇るオレオのビスケット。ですが、その「究極の食べ方」については、今だファンの間で意見の一致を見たことがありません。

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 そんなオレオの楽しみ方を、最大化するために立ち上がった科学者たちがいます。そしてその科学者たちの研究成果を、メーカー側も公式なものとして採用しているのです。

 「皆さんもご存じの『ツイスト』『リック』『ダンク』というのが、オレオの最もクラシックな味わい方ということでまず間違いないでしょう。オレオを愛する方の数だけ独自の楽しみ方があり、どれも美味しそうです。それでもやはり、基本が最高と言えるかも知れません」と話すのは、本国アメリカでオレオのマーケティング・ディレクターを務めるマリオン・デルガット・サエネン氏です。

 とは言え、食品科学や感性科学を領域とする専門家たちも、オレオから得る喜びを最大化するための研究に余念がありません。まずは、チョコレートとバニラという基本に忠実な組み合わせの解析から見てみましょう。

 この組み合わせこそが、研究用語で「congruent(適合・一致・調和)」と呼ばれる、感覚的満足を促す要因となっているのではないかと見られています。適合の度合いを測定し、数値化するのは困難です。しかし、2016年に科学系学術メディア『ケミカル・センス(Chemical Senses)』誌に掲載された研究報告によると、チョコレートの豊かで温かみがあって、やや土っぽい香りが、バニラクリームの甘さに良くマッチすることが報告されています。

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SOPA Images//Getty Images
オレオのクッキーとクリームの組み合わせが、ダイナミズムを生んでいるのです

 毎年およそ400億個も生産されているオレオですが、ただ甘いだけでなく、一定の脂質も含んでもいます。人間の脳を活性化させるために、糖質と脂質の組み合わせが有効であることは、食品化学の分野では常識となっています。一般に味の基本となるのは、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の五原味(基本味)であるとされています。その甘味にオレオ独自の脂質が加わることで、私たちの脳が良い刺激を受けているというわけです。

 「脂質と糖質の組み合わせは、単純な足し算ではなく、乗算的な効果をもたらします。つまり、1+1=2ではなく、1+1=4にもなり得るのです」と目を細めるのは、フィラデルフィアにあるモネル化学感覚センターリンダ・フラマー上級研究員です。「『脂質と甘味の組み合わせは格別の美味しさがある』というのはもちろん、化学的知見からによるものです」とフラマー氏は続けます。

 さらにオレオの魅力は、味わいだけに留まりません。香りもまた、豊かな食体験に大きく貢献しています。フラマー上級研究員によると、オレオを噛むことでクッキーに含まれる化学物質が「匂い物質」となって口内に放出されるということ。そして、鼻腔に流れ込んだ香りが嗅覚受容体に作用することで、脳が解読プロセスに入るわけです。

 「脳がオレオの匂いを喜んでいる可能性が高い」と分析するのは、イギリス・オックスフォード大学で実験心理学の教鞭をとるチャールズ・スペンス教授です。スペンス教授によると、「チョコレートとバニラは、いずれも世界的に最も好まれる香りを備えている」と言うのです。

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Mizina//Getty Images

 そのスペンス教授が2004年に発表した研究が、化学系メディア『Journal of Sensory Studies(ジャーナル・オブ・センサリー・スタディーズ)』誌に掲載されています。その研究は、オレオのもう1つの特徴である歯ごたえ(クランチ=食感)に関してのものであり、「歯ごたえによって人々は、その食品の魅力を推し量っている」という可能性についての論考が展開されています。

 私たちは噛むことで生じた音によって、その食べ物の好みを示す傾向にあります。「音がするものを噛むと、その音によって意識が口の中へ向けられ、味覚をより鮮明に意識させるようになります。朝食のシリアル、ビスケット、ポテトチップスが同様で、加えてリンゴやセロリのような生鮮食品も、その音によって新鮮さを感じる伝わるという効果が生じるわけです」と、スペンス教授は解説しています。

 つまり、ダークココアがたっぷりと練り込まれたオレオのビスケットの優しくも確かな歯ごたえによって、「脳に、しっかりと丁寧に“焼き上げた”という信号を送っている」と言えるのはないでしょうか。

 スペンス教授はまた、「オレオを口に運ぶ前から、すでにその美味しさが主張されています」とも指摘します。人間は角張ったり尖ったりした物よりも、丸い物に親しみを覚えやすく、また丸さは甘さを連想させます。テネシー大学の感覚科学センターのディレクターを務めるカーティス・ラケット教授は、「オレオのカタチの良さに加え、その均一さもまた親しみやすさにつながっている」と指摘しています。いつどこで買ってもブレることのない、同じクッキーであることが一目で保証されているというわけです。

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 「全てのオレオが、ほぼ均一の形状をしています。慣れ親しんだもの、期待通りの、ものは、より好まれる傾向にあります」と、ラケット教授は分析します。「ミシュランの星のつくような高級レストランでもない限り、人々の期待と異なるものを提供するのは得策とは言えません。このことからも言えるように、ナビスコが製造過程やクッキーの構造を一定に保っていることもまた、オレオが好まれる理由の一端を担っていると言えるでしょう」とも言います。

 このように絶大な安定感を誇るオレオですが、そこに最大の魅力をもたらす要因となっているのが「食感」と言っていいでしょう。

 食品の味について評価しようとすれば、「酸っぱすぎる」とか「塩味が足りない」などといった一面的な表現が可能です。ですが食感にまつわる要素は、実に多彩です。手軽なスナック類と言ってもクリーミーなもの、歯応えのあるもの、波状のもの、ふっくらしたもの、クリスピーなもの、滑らかなもの、弾力あるもの、噛み応えのあるもの、柔らかなもの、フレーク状のものなどとさまざま。それらがあらゆる文化圏で独自に組み合わされ、好まれるコントラストを演出しているわけです。

 
TREVOR RAAB

 サンノゼ州立大学とニュートリライト(Nutrilite)社が1993年に行った共同研究では、「ダイナミックなコントラストを表現した食品こそが、最も美味しいと感じさせる」という結果が示されました。オレオの場合なら、「あのなめらかでクリーミーな食感とカリッとした歯ごたえという、一般的に好まれる食感特性が備わっている」と、ラケット教授は言います。

オレオには…、好まれる組み合わせが全て備わっています

 1つのオレオの中に、歯ごたえあるクッキーと、なめらかなクリームが共存しています。しかしこの組み合わせは、食べ方によって好み通りに変えることができます。クッキーを外してクリームを先に食べたいという方は、クッキーの歯ごたえだけを後から楽しんでいるのかもしれません。丸ごと噛み砕いて食べるのが好きという方であれば、なめらかさとサクサク感の組み合わせを楽しんでいると言えるでしょう。

 ミルクに浸して食べるという“ダンク派”の方は、よりダイナミックな喜びを得ているかもしれません。良く冷えたミルクがクリームの甘さを抑え込み、また口の中で起こる温度変化による甘味の変化も演出してくれます。さらには、ミルクがオレオそのものに与える食感の変化もまた小さくはありません…。

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Scott Olson//Getty Images

 「ダンク派の方は、自己流の工夫が好きな人かもしれません」と言うのは、前出のフィラデルフィアにあるモネル化学感覚センターのリンダ・フラマー上級研究員です。「オレオをミルクにたっぷりと浸せばとても柔らかくなりますし、さっとつけるくらいなら表面は多少ソフトになる程度です。入れ歯をするような方であっても、まだ小さな乳歯の子どもであっても、異なるアプローチで自分なりの味わい方ができるのです」と言います。

 ところで、人によって食べ物を口に運んだ後、それをどのように味わうかが異なります。そして、それは大きく分けて4種類の食べ方に分類することができるとされています。商品開発や戦略立案を担当する「アンダースタンディング・アンド・インサイト・グループ」のメンバーがリサーチ結果に基づき、人々の異なる「口の働き」を分析しています。

 その4種類の食べ方とは以下の通りです。

  1. 人気アニメキャラのバッグス・バニーのように「思いっきり口を動かす」ことで、瞬間的に大きな効果を得る「クランチャー(Crunchers)」タイプ。
  2. 口の中を食べ物で満たし、水分の感じられる柔らかい食感を味わうことに喜びを覚える「チューワー(Chewers)」タイプ。
  3. 舌と口蓋(こうがい=口の内側)とで、食べ物をすり潰すのほどの柔らかさを好む「スムーシャー(Smooshers)」タイプ。
  4. 咀嚼(そしゃく=摂取した食物を歯で咬み、粉砕すること)して飲み込むまでに、口に運んだ食べ物から全ての味を吸い出すことを好む「サッカー(Sucker)」タイプ。チョコレートを舌の上で溶かした経験のある方なら、その感覚もよくご存じのことでしょう。
 
Kristen Parker using images from Trevor Raab

 自分の食感の好みを把握し、その食感に合った食べ方を見つけることで、オレオの楽しみがどこまでも広がるというのが、フラマー研究員とラケット教授の共通した見解です。その自由度の高さこそが、オレオの色あせない人気の秘密ということになるでしょう。いかなる食感を好む方であれ、好みに合った食べ方を見つけることができるというわけです。

 しかし心理学の知見を借りれば、オレオの最高の楽しみ方は、やはり伝統的な方法が良いということになるかもしれません。

 心理学の専門メディア『Psychological Science(サイコロジカル・サイエンス)』誌が2013年に掲載した論文によれば、オレオは分解したり重ね合わせたり、もしくは最初にクリームだけを舐めたりという昔ながらの食べ方こそが、満足感を高める秘訣だとされています。

「オレオを口の中に味わうことで、“見守ってくれていた誰か”の存在を、脳が思い出そうとするのです」

 
The Washington Post//Getty Images

 「親友や、愛する家族と共に、オレオをミルクに浸して(ダンクして)食べたあの日のことを思い出そうというのであれば、“ツイスト”も“リック”も歯が立ちません」と断言するのは、伝統的なアメリカのデザートについての著書『BraveTart(ブレイブ・タルト)』で知られる料理研究家のステラ・パークスさんです。

 パークスさんは同書によって、ジェームズ・ビアード財団賞を授与されています。そんなパークスさんは、「また、オレオを勢いよく齧(かじ)ることで、口の中に広がるチョコレートの深い味わいと結びついた記憶を呼び起こしたいと思ったら、クッキーを外してクリームをなめたところでその目的を果たすことなどできません…」とも言います。

 そのようにして、幼き日々の思い出や当時好んだ食べ方を再現することも、オレオの楽しみ方の1つです。マーケティング専門メディア『Qualitative Market Research(クオリタティブ・マーケットリサーチ)』誌に2014年に掲載された論文によると、懐かしさを喚起する食品は、ポジティブな感情と結びついて記憶されているということです。

 また2017年にオックスフォード大学で行なわれた研究によれば、他者と食事をする方は社会性を自ら育み、幸せをより感じやすくなるそうです。つまり、先ずクリームをなめたいという方も、ダンクしか認めないという方も、楽しかったあの瞬間のことを思い出すためには、当時とおなじようにオレオを口に運んでみることで、素晴らしいクッキー体験を得ることができるかもしれないというわけです。

 「自分が守られ、大切にされていた時代のことを思い出させてくれるのが、オレオなのかもしれません」と見解を述べているのは、ボストン大学メトロポリタンカレッジの食科学分野のプログラム・ディレクターを務めるミーガン・エリアス准教授です。「優しく保護されていたあの頃への逃避行、そのような感覚を得ているのかも知れません。オレオを口の中に味わうことで、“見守ってくれていた誰か”の存在を脳が思い出そうとしていることが推察できます」と言います。

Source / POPULAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です