記事のポイント

  • 新しい研究によれば、「ウイスキーを20パーセント以上薄めると独特の香りが失われ、他のウイスキーと見分けがつかなくなることが判明した」と言います。
  • ウイスキーは蒸留所によって、あらかじめ消費者の好みに合う最適な濃度に希釈されていますが、依然として氷を入れて飲むことを好む人もいます。
  • この研究はまた、表面積が少ないという理由で、ウイスキーを飲むときの氷は「大きな角氷1つ」という意見が正しいことを証明しています。

ウイスキーの飲み方は、ニート(氷や水を入れず、常温でウイスキーを飲む言い方)がいいでしょうか? もしくはロック? はたまた水割り…?

これはウイスキー愛好家の間で長い間議論されてきたテーマで、現代に至るまで個人の好みに委ねられてきた問題でもあります。

そんな中、2023年3月に発表された新しい研究で食品科学者たちは、ウイスキーを水で割った場合、その独特の香りを認識できなくなるほど変化してしまう、正確なポイントを突き止めたということ。この研究はワシントン州立大学、ミシガン州立大学、オレゴン州立大学の食品科学者5名による共同研究。査読付きのオープンアクセスジャーナル(ウェブ上で無料で自由に論文が閲覧可能な学術雑誌)の『Foods』に掲載されました。

この研究では、実験のために訓練されたウイスキー常飲者を20人集めて行われたそうです。ひとつの結果を言うなら、「彼らにウイスキーを水で20%以上希釈したものを与えると、ライウイスキーとバーボンウイスキー、あるいはシングルモルトとブレンデッドスコッチウイスキーの区別がつかなくなった」ということ。

そこで疑問が発生するでしょう。ウイスキーの香りとはどのように働き、ウイスキーのような液体の場合どのように香りは発せられるのか? です。

ウイスキーの味覚テスト

まずこの研究では、ウイスキー常飲者を対象にウイスキーから感じる香りについての調査を行っています。その香りはオークやピート、バニラ、おがくずなど、ワインのテイスティングノートに似たものです。

研究者たちは15個のチェックボックスリストを作成し、実験に参加した20名のウイスキー常飲者にそのリストを提示。彼らは実験の一環として、これらの香りを嗅ぐ訓練を受けたのです。チェックボックスリストに載ったウイスキーの香り15 種は、以下のとおりになります。

  • ベーコン
  • バンドエイド
  • 塩水
  • コーンミール/ポレンタ(トウモロコシの粉で作られたお粥状のイタリア料理)
  • 干し草
  • モルト(麦芽)
  • オーク
  • ピート
  • スモーク
  • 仁果類(落葉樹から実る果実で、芯に種があるもの。ナシやリンゴ、ビワなどの果物)
  • ゴム
  • おがくず溶剤/ケミカル
  • バニラ

この実験で使用されたウイスキーは、アメリカ、アイルランド、スコットランド産を含む全25種類。その濃度は原酒100パーセントから、ウイスキー50パーセント:水50パーセントの割合まで、さまざまな濃さに希釈します。

そしてそれぞれの希釈液を20人のウイスキー常飲者に提示し、彼らはその香りを嗅ぎ、上記の15種の香りのうち当てはまると思うものにチェックをつける、という方式が採用されました。

すると「ゴム」「ベーコン」「ピート」「スモーク」というスモーク関連の属性はピートを使用したシングルモルトのスコッチウイスキーを、「オーク」「バニラ」はバーボンウイスキーを強く想起させました。

また、「仁果類」はブレンデッドのスコッチウイスキーの強く思い起こさせるものでしたし、一般に原酒は、「ケミカル」「バニラ」「オーク」「ベーコン」の香りと関連が強く、一方で希釈したウイスキーは「仁果類」「杉」と関連が強いという結果が出たそうです。

ウイスキーの風味と香りは
水でどう変わるか

ウイスキーにおける香りとは、その文脈と状況に対する反応性によって左右さるものです。このことを理解するためには、いくつかの製造における専門用語を振り返る必要があるます。

まず重要なことは、「分子が水と脂肪のどちらにくっつきやすいか」ということです。料理のためにさまざまなスパイスを調合したり、ビタミンのサプリメントがどのように消化されるかを考えたことのある人なら、このことを知っているかもしれません。親水性の分子は水を好み、親油性の分子は脂肪を好む傾向にあります。

ウイスキーの香りは、醸造から熟成までのプロセスでさまざまな化合物が生成される結果として生まれます。グレイン、モルト、木樽などがウイスキーの香りに独自の要素をもたらします。例えば、香ばしいモルト由来の親油性の分子は、豊かな脂肪として香りを形成することがあります。一方、フルーティーなエステル類や芳香族化合物は、愛飲家の舌を刺激するウォーター愛好家の親水性分子として認識されるかもしれません。

愛飲家は、ウイスキーの香りの持つ多様な特性を堪能しながら、その繊細なバランスを楽しむことができます。時には一つの香りが別の香りと組み合わさり、それによって新たなアロマが生まれることもあります。また、飲む前にウイスキーを軽くかき混ぜることで、香りを引き立たせるテクニックも心得ていることでしょう。

香りがウイスキーの愛飲体験において、重要な役割を果たしていることは疑いの余地がありません。この素晴らしい蒸留酒をより深く理解し、愛することで香りの驚くべき世界に一層没頭できるでしょう。

「希釈によってバニラの香りが減少するのはバニラの香りの主成分バニリン」や、合成的なバニラ香料の原料となる「グアイアコール」などのフェノール類が、両親媒性であるためと予想されます」と研究者たちは示唆します。ちなみに両親媒性とは、「分子および原子団で、水との親和性が大きい部分(親水基)と親和性が小さい部分(疎水基)の両方をもち合わせていること」になります。

バニリンは私たちが「バニラ」と考える香料の主成分であり、両親媒性とはこの分子が水と脂肪の両方を同時に好むことを意味します。なおマスタードや卵黄のような乳化剤も、石鹸の一部として使用される化学物質と同様に両親媒性と言えます。

a line of whisky tasting glasses
Marieke Peche//Getty Images

「『オーク』の香りは希釈すると『杉』の香りに変化しますが、これはバーボンウイスキーに含まれる『オークラクトン』と呼ばれる成分の多くが、疎水性であるためと考えられます」と話す研究チーム。

疎水性の分子は水と自然に混ざり合うことはありませんが、その代わり、より親和性の高い他の物質と一緒に固まったり、混ざり合ったりします。つまり「オークラクトン」は、水の量が増えるにつれて逃げ出すため、「オーク」の香りが少なくなったということになります。

ウイスキーを薄めると香りはどのように進化するか:
スモーキー → 仁果類
バニラ+オーク → コーン+穀物
オーク → シダー

よって、「水を嫌う疎水性または脂肪を好む親油性分子の存在が、希釈によって香りがこれほど顕著に変化した理由の多くを説明している」と言えるでしょう。希釈するにつれ親水性ではない分子が押し出され、ちょうどウイスキー 80パーセント:水 20パーセントのところから顕著な違いが出づらくなり、各ウイスキーの違いがわかりづらくなりました。

しかしウイスキーは、そのほとんどが水分ではないでしょうか? 一見、それほど大きくないように見える水分量の増加が、なぜこれほど大きな問題となるのでしょう…?

ウイスキーにはすでに水分が含まれていますが、その水分は他のウイスキーと同じ木樽などの環境で熟成されたもので、水分を好む香味成分がぎっしり詰まった状態になります。これは一般的な水とは、別物と言えるのです。

ボトリングの際には、ウイスキーはアルコール度数55~65パーセントの「カスクストレングス」と呼ばれる無加水の状態から、約40パーセントまで希釈されます(加水せずに出荷されるウイスキーもあります)。もし仮に、もっと水を加えることが全面的にいいことだと蒸溜者が認識しているのであれば、彼らはきっとそうしていたことでしょう。同じ樽のサイズから、さらに多くのボトルを販売していたはずです。

bruichladdich produce quadruple distilled whisky
JEFF J MITCHELL//Getty Images
樽からウイスキーのサンプルを取り出す、スコットランド・アイラ島のブルイックラディック蒸溜所の従業員。2006年。

それでも彼らが約40パーセントに希釈していることを考えると、水分含有量は20%程度が上限であることも納得がいくのではないでしょうか。

ウイスキーの水割りを好む人は、アルコールのきつい風味をもう少し薄めたほうが、香りや風味をより楽しみやすく、味わいやすいと感じるのかもしれません(ウイスキーをジンジャーエールやベルモット、あるいはただの炭酸水など他の飲み物で割った場合は、その香りは単に薄まるのだけではなく変化します)。

「Whiskey」か「Whisky」か? そのスペル問題を解説
「ウイスキー」の英語がしばしば、「e」なしでつづられることにお気づきでしょうか。アメリカ産とアイルランド産は「e」付きで、スコットランド産、カナダ産、日本産は「e」なしでつづられることが多いようです。
では、ウイスキーに最適な氷とは?

この研究の筆頭著者であるトーマス・コリンズ氏は、「この研究はウイスキーに特大の氷を1個入れることをすすめてきた人々の意見に、信憑性を与えるものだ」と言います。

「あの大きくて四角い氷がなぜ、これほど人気があるのかを理解するのにも役立ちます。なぜなら、同じウイスキーでなくなるほど薄まる前に、ウイスキーを楽しむことができるからです」と、コリンズはワシントン州立大学のプレスリリースで述べました。

氷は「表面積が大きいほど熱が伝わり溶けやすくなる」とされています。一辺が3インチ(約7.6センチメートル)の角氷の表面積は、54平方インチ(約39平方センチメートル)。同じ量であっても1インチ(約2.5センチメートル)角の氷は、27個で表面積は162平方インチ(約1045平方センチメートル)。これは3倍に値します。

つまり、大きな角氷のほうがウイスキーを楽しむのには適しています。が、それでも最善の策というわけではありません。実際のところ、同じ体積の27立方インチ(約442立方センチメートル)でも、球形の氷であれば表面積はわずか43平方インチ(約277平方センチメートル)なのですから…。

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source / POPULAR MECHANICS
Translation / Kotaro Tsuji
※この翻訳は抄訳です