サッカーにおけるカップ戦。それはジャイアントキリング(番狂わせ)が起きたり、普段は対戦しないチームとの試合が組まれたりと、少し特別な香りが立ち込めるステージです。

 まずは日本の例にしてみましょう。2020年の元日、日本国内ではヴィッセル神戸がカップ戦の1つ、天皇杯を制したことは記憶に新しいところでしょう。しかしながら天皇杯決勝は、毎年元日に行われます。その日程について、長年、「元旦にやるべきかどうか」の是非が問われるなど、少しずつではありますがその議論の温度は上昇しています。

 ですが、このカップ戦のスケジュールを中心とした問題に関しての議論は、他国のほうがヒートアップ気味です。「王様イブラ」「ズラタン様」こと、ズラタン・イブラヒモビッチ選手が帰還したイタリア・セリエAも例外ではありません。この記事を書いたイタリア人記者ガブリエレ・リッピ氏が述べているのは、元日本代表の中田英寿氏も優勝経験のあるイタリアのカップ戦、コパイタリアについてです…。

ACミランのズラタン・イブラヒモビッチ
Alessandro Sabattini//Getty Images
電撃的にACミランへと復帰を果たしたズラタン・イブラヒモビッチ選手。38歳を過ぎても、プレイスタイルの洗練さはさらに増しています。

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※本記事は、イタリア人記者ガブリエレ・リッピ氏による署名記事をもとに構成された記事です。
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 先日(2020年1月10日~17日の期間)行われたコパイタリアのベスト16はいかがでしたか? 楽しんだ人がいらっしゃったら、手を挙げてください!

 いらっしゃいますか? 私の感想を言わせていただければ…それは史上稀(まれ)に見る退屈な「ベスト16」でした。そこにはパッションもなく、歴史に刻まれるようなプレーもなく、さらには観客さえもいなかったのですから…。

 SSラツィオ・ユヴェントスFC・FCインテル…。さらには、イブラヒモビッチ選手が再降臨したACミランでさえ、準々決勝に出場するのは「簡単すぎる」と断言できるミッションでした。SSラツィオに敗れたUSクレモネーゼ、ユヴェントスFCの前に沈黙したウディネーゼ、FCインテルに粉砕されたカリアリは完全に敗者としての役割を期待され、事実その通りの結果となりました。

ラツィオの往年のプレーヤー
Claudio Villa/ Grazia Neri//Getty Images
セリエAが世界のサッカー界において栄華を誇っていた2000年当時、コパイタリアの覇者はSSラツィオでした。

 これはコパイタリアの話。

 当然ですが、同じ週に国内のリーグ戦もあります。コパイタリアで敗退したチームはリーグ戦へ戻り、90分間ひたすらフィールドを駆け回ります。ウディネーゼはリーグ戦での好調を保とうとするでしょうし、カリアリは1カ月前から続くネガティブな嵐からの脱出を図ろうとするでしょう…。

 何が言いたいのか? つまり、コパイタリアはある意味で「実に厄介な存在」ということです。リーグ戦も同時並行することを考慮に入れれば、弱小チームにとってはベストメンバーで最善を尽くすことはあまりにも無謀であり、それは不可能なミッションとも言えるでしょう。

 前年度の国内1部リーグ・セリエAの順位が上位8位以上の成績ということで、ベスト16から登場した8チームは、アタランタBC(ホームスタジアムが改修中につき、アウェイのACFフィオレンティーナのスタジアムに乗り込みました)を除き、すべてのチームが準々決勝に進みました。 

 同じ競技場をホームとするSSラツィオが使用したために、ホームスタジアムが使えないASローマ以外は、すべてのチームがホームで試合を行っていました。これは実に順当な結果と言えるでしょう(コパイタリアは、ホーム&アウェイで行われる準決勝以外は、1試合で決着をつけます)。

インテルの選手
Alessandro Sabattini//Getty Images

 で、サプライズ? ジャイアントキリング? はあったのか…今のコパイタリアにおいて、そんなことは期待できません。

 試合が始まる前から、結果が見えてしまっている試合なのです。ここまでを見ていみると、その解決策はとてもシンプルに思えます。つまり、常に弱いチームのホームで試合を行うのです。 

 これは、スペインのカップ戦である国王杯(コパ・デルレイ)が参考になるかもしれません。

 と言いますのも、スペインの国王杯は新たなレギュレーションを導入しました。それは、「準決勝以外はすべて1試合で決着をつけ、常に下部カテゴリーに所属するチームのホームで試合が開催される」というものです。

 例えばリーグ1部に所属するFCバルセロナが、リーグ2部のレアル・サラゴサSADと対戦する場合、元日本代表の香川真司選手がプレイするレアル・サラゴサSADのホームスタジアムであるエスタディオ・デ・ラ・ロマレーダで1発勝負をするということになるわけです。

 これなら、サプライズも起こりやすくなるでしょう。少なくとも、下部リーグに所属するチームのファンにとっては、普段のリーグ戦ではお目に掛かれないスターたちを間近で見られる特別な夕べとなるはずです。

 実際、2020年1月22日には実質リーグ3部に所属し、元イタリア代表FWマルコ・ボリエッロがプレイするUDイビサがFCバルセロナをホームに迎えています。結果は1-2でUDイビサは敗退しましたが、あのイビサ島にバルサが来たことに変わりはありません…。

 次に、サッカーの母国であるイングランドのケースも見てみましょう。

 世界で最も歴史のあるサッカーの大会、FA(The Football Association)カップは全試合が一発勝負。どちらのホームゲームとなるかも抽選時に決定されます。引き分けとなれば延長戦は行われずに、その試合アウェイだったチームのホームで再試合が行われます。そして試合の収益は、参加チーム間で折半されます。

 例えビッグクラブと言えども、場合によっては郊外の小さな街へと出向いて玉蹴りに興じるわけです。そんな光景が150年近く繰り広げられることで、FAカップのトロフィーの伝統が受け継がれてきたとも言えるのです。

イギリスサッカー界のカップ戦であるFAカップの表彰式
NurPhoto//Getty Images
2019年のFAカップ覇者は、ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティFCでした。

 イギリスのFAカップには長い伝統があり、スペインの国王杯に関しては新レギュレーション導入によって存在感がさらに磨かれます。

 ではイタリアで、そういった改革を断行する勇気がないのはなぜでしょうか? ベスト16で繰り広げられたような予定調和な結果で、退屈な上に観戦に痛みを伴う試合をこの先どれだけ見ればよいのでしょうか?

 皆さん、まだ覚えていらっしゃいますか?

 2016年には当時セリエC(3部リーグ)のUSアレッサンドリアが準決勝に進出しました。その翌2017年にも、当時セリエCだったヴィルトゥス・エンテッラがセリエA(1部リーグ)所属のジェノアCFCを破り、ベスト16へとコマを進めました。

 そういったチームが珍しい存在ではなくなり、毎年ベスト16からベスト4の間に、セリエBやセリエCのチームが進出する…そして決勝戦へと進む下部所属チームが現れたとしたら…その状況を想像してみてください。いいですよね⁉

Source / Esquire IT
Translation / Esquire JP
※この翻訳は抄訳です。