本記事は「ESQUIRE」US版に掲載された、スタイルエディターのクリスティーン・フラミアによる寄稿です。


 バドライトを飲みすぎた結果、「お腹を触ったら破裂するかも」という事態となるのは、あまり上品なものではありませんでした。そんな自分に嫌気がさし、飲み物のすすめを断ったり、バーに行くことすら避けてみたりもしました。ですが、そう思うようにはいかないことがほとんどでした…。

 私と同じようにお酒を愛し、アグレッシブに飲み会に参加している友人たちに、「なぜ? どのように? 何の目的で? 何を犠牲にして? お酒を飲むことを断るのか…」を説明しなければならことはとても面倒かつ難しく、理解を得ることなどほとんど不可能でした。

 友人たちへ説明を求められるたびに、私はこう答えていました。

「確かに、私は長い間バドライトを飲んできた。でも、同じくらい長い間、ウンチを漏らしてしまうんじゃないかって心配もしながら飲んでんだ。今まで言わなかったけど…。だって、言えるわけないでしょう!? 実はずっと心配していたんだけど、その理由はわからなかったんだ。でも、今ならわかるよ。原因は、バドライト自体だったのさ!!」

 それまで「グルテン関連障害」に関しては、何回か聞いていました。ですが、それまでの自分は「その症状は女性が飲まないための言い訳や大騒ぎするために、デフォルメしてでっち上げたものだ」と信じていました…これまでは。そういった方たちは、実際に「グルテンを摂取できない」わけではなく、「余分なカロリーを摂取したり、お腹が膨れるのが嫌なだけだ!」と思っていたのです。

 実際のところグルテンフリーの食事にこだわりを持つ方の多くは、「食べたくない」「食べることができない」からではなく、「健康のためにパンを避けている」と声高に言っている方ばかりの印象だったのです。自分の回りは特に、そういう方が多かっただけかもしれせんが…。

 世界最高の炭水化物の結合タンパク質であるグルテンを避けることが、特権的な階級とも言える健康志向のコミュニティというレッテルを勝手に貼っていたわけです。つまり私は、「グルテン関連障害」などという疾患自体、ただの幻想にすぎないと思っていたのです。しかし、なんとそんな私がその1人だったわけです。

 病院で「グルテン関連障害」と診断が下されたのは、23年間胃腸の不調を抱えつづけた2016年のこと。その結果によって、私はライフスタイルが激変するほどの食事制限を言い渡されたのです。そして、私の身体に不調をもたらす食品は…乳製品であり大豆であり、そしてグルテンであることがそこで明らかになったのでした。

 この健康問題を改善する際に一番大変だった(今もですが)のは、社会的な影響です。お腹の刺すような痛みを隠さなくてすむときには、普段の私でいられるし、周囲に対しても優しく接することができています。しかし、そんな中で難しい状況は、カジュアルな社会的な場に溶け込むことです。パーティーに参加したり、バーで飲み物を注文したり、デートしたり…。私は突然、付き合いにくい人になってしまったのです。

 最もカジュアルな、「ビール頼んでおいたよ」という状況が一番心苦しく感じています。色々、気をつかわなくてはいけないこと自体が苦痛ですが、それよりも私はとにかくビールが飲みたいのです。

 しかしこの数年は、グルテンフリーが流行というよりは、健康上の選択肢として認識されるようになりました。そうしてビール業界も、見た目や香りや味が本物そっくりの、グルテンフリービールをつくり始めてくれたのです。

 キビやソバ、米、キヌアを使ったビールや、化学物質を使ってグルテンタンパク質を細かく砕いたビールなどが存在するようになりました。とは言え、どこでも手に入るというわけではありません。食料品店の在庫やドリンクメニューを事前に確認する必要がありますが、そのクオリティは上がってきているのは確かです。

グルテンフリーとグルテン除去ビール

 ビール好きの方が完全にビールを避けるようになってから、グルテンフリーという選択肢を発見した場合、スタイルや醸造方法や味まではあまり気にしないかもしれません。少なくとも、私はそうでした。グルテンフリービールを見つけた最初の数回は、それが何であろうと手に取ったものです。

 現在、麦芽に含まれるグルテンの悪影響を意識したビールの市場は成長しており、近所のコンビニでさえ1種類陳列されています。そして、ついつい買ってしまうのです(日本のメーカーでは、麦芽の替わりに大豆などを原材料に使用した『キリンのどごし生』や、麦芽の替わりにえんどう豆から抽出したタンパクなどを使用した『サッポロ ドラフトワン』、麦芽を使用せずコーンなどを原材料に使用した『サントリー ジョッキ生』などが挙げられます。しかし、それぞれの原材料にアレルギーを持っている方は当然、飲むことは避けてください)。

 現在、グルテンフリー市場には、主に2種類のビールがあります。1つめは最初からグルテンを含まない材料でつくられているものになります。グルテンフリーのビール用穀物には、米、ソルガム、ソバ、キビなどです。2つめは、グルテン除去ビールです。小麦、大麦、ライ麦などの標準的な原料からビールをつくった後で、グルテンを取り除く製法です。

 最初からグルテンフリーのビールのほうが、わかりやすいかと思います。コロラド州にある完全にグルテンフリーでビールをつくっているHolidaily Brewing Companyの創設者であるカレン・ヘルツさんは、キビとソバのブレンドが最も汎用性が高いことを発見しました。

 「口当たりを、普通のビールにできるだけ近づける方法を探しました。また、穀物の効率性、つまりどれくらいの糖分を抽出できるかということにも注意を払い、最終的にでき上がった製品に、慣れ親しんだコクが出るようにしました」と話すカレンさんの醸造所ではこのブレンドを使用して、ワインのように香りと味わいを楽しめる「エール」、香りと苦みが非常に強い「IPA」、色が濃く香味の特に強い「スタウト」など、さまざまなスタイルのビールをつくっています。

 確かに、麦芽以外の原料からつくられたビールには、少し変わったところがあります。個人的に気になるのは重さで、グルテンフリービールは軽い傾向があります。ギネスとは大違いです。しかし、飲んだことのないような味や感覚というわけではありません。グルテンフリーはビールのスタイルの一種であり、エールとラガーが異なるように、好きな方もいれば合わない方もいることでしょう。

グルテン除去はグルテンフリーよりも複雑

 グルテンを除去したビールの原料は小麦や大麦なので、味や感覚は通常のビールに近くなっています。しかし、発酵プロセスとマーケティングが複雑です。

 ポートランドを拠点とするOmission Brewingでは、グルテン除去ビールをつくっている企業の1つです。ビールの原料は大麦麦芽、ホップ、水、酵母という一般的なもので、普通のビールとの違いはというと、発酵の際にBrewers Clarex®(ブリューワーズクラレックス)という酵母を使っている点です。

 「ビールの味は、原料通りです」と、Omissionのブルーマスター、ジョーイ・ケイシーさんは言います。「クラレックスを使って、大麦麦芽からグルテンを除去したビールをつくることができるので、従来のビールの味を保てています」

 自家醸造が最大の市場となっているBrewers Clarex® (ブリューワーズクラレックス)はもともと、常温保存されたビールが時間とともに濁ってしまう原因となるタンパク質を分解することで、ビールの寒冷混濁を減らし、透明度を上げるためにつくられました。

 「醸造家たちがこだわるのは、泡と透明度です」と、ブリューワーズクラレックスを製造するWhite Labの創設者であるクリス・ホワイトさんは話します。「醸造家が濁りを取り除くのに役立つものをつくるのが目的でした。しかし結果的に、グルテンタンパク質中の化学結合も破壊することが判明しまたのです」ホワイトさんはこれを、グルテンタンパク質を「細かくする」プロセスだと説明しており、非常に細かくすることでグルテンに敏感な方にも拒否反応が出ないということです。

 しかし、ここからがややこしくなります。アメリカ食品医薬品局(FDA)が「グルテンフリー」と公式に表示することを許可しているのは、Holidailyのキビとソバでつくったビールのように、初めからグルテンフリーの製品だけです。Omissionのビールのように、グルテンを含んでいたことがある製品については、FDAの承認を受けることができません。ただし、グルテンが20ppm(パーツ・パー・ミリオン=百万分率)未満の場合は、グルテンが除去されている旨をラベルに表記することができます。これが混乱の原因となるところと言えるでしょう。

 研究では、20ppm未満のグルテンを含む飲食物は、ブルテンフリーと同等の効果が報告されています。法律によると、グルテンを減らすようにつくられたビールには、グルテンフリーのステッカーを貼ることはできません。しかし科学的には、ほとんどのグルテン関連障害を持つ方が(そしてセリアック病の方も)、これらの製品を飲んでも問題ないというわけです。

 私の場合は、微量のグルテンであれば心配する必要はありません。ですが、中には絶対にグルテンを避けたいという方たちもいます。そんな方たちの不安を和らげるために、Omissionのウェブサイトではテスト結果を公開しており、誰でも製品のグルテンレベルを確認することができます。その社内基準はFDAのものよりも厳しく、数値は検出不可能となっていることがわかります。

 Stone Brewingのように、情報を公開している醸造所は他にもあります。New Belgiumはテスト結果を公開していませんが、グルテン除去ビールの社内基準は10ppmで、こちらもFDAより厳しい基準を設けています。

 「皆さんに、安心してビール飲んでもらいたいと考えています」と、ケイシーさん。「『大丈夫です、信じてください』と言うのは簡単ですが、消費者に私たちがどうやって実現しているのか証明しなければ、限界があるでしょう。テストをすること、そしてテストについて説明することが、私たちのプロジェクトの大きな一部となっています」

 グルテン除去ビールをつくる醸造所もブリューワーズクラレックスの製造者も、グルテンフリーの表示ができないことについては特に心配していません。

 「ビールは健康ビジネスではありませんし、そうなるべきでもありません」と、ホワイトさん。飲食物にグルテンフリーのラベルを貼るだけで、健康的な選択肢であると誤解されやすくなります。しかし、目的は健康に見せることではありません。真の目的は、グルテンを摂取できない方が楽しく飲めるビールを提供することなのです。

 これまでさまざまなグルテンフリーとグルテン除去のエールやスタウト、ラガーを試してきましたが、どれも素晴らしいものでした。長い間、ビールに関する話題を避けてきたので、ビールの仲間は大歓迎してくれました。もう、バドライトを飲んだときのような症状も出ていません。事前にリサーチしなければならないのは変わりませんが、グルテンフリーの蜃気楼(しんきろう)を追いかけているというよりは、宝探しのような気分です。見つけるのに苦労した分、その見返りも大きいのですから…。

 友人と同じように、バーで注文することだってできます。私は幸せで、お腹も幸せ…。そして何より、「代わりにサイダーなんて、飲むわけないじゃん」と、胸を張って言えるようになりました。

Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。