• ブリヂストンは現在、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とパートナーシップを結び、月面の過酷な環境に耐えられる特別なタイヤの開発しています。
  • このプロジェクトは、2019年3月にJAXAとトヨタ自動車で発表されたオールジャパンによる「月面探索」事業の一角であり、これにブリヂストンも協力していたのでした。

 2019年3月12日にJAXA主催「国際宇宙探査シンポジウム」が開催され、トヨタ自動車の寺師茂樹副社長とJAXAの若田光一理事/宇宙飛行士は対談を行いました。そこで「チームジャパン、オールジャパンで挑む月面探査」に関する詳細が発表されたのでした…。

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国際宇宙探査シンポジウム
国際宇宙探査シンポジウム thumnail
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 では皆さん、夏に海水浴へクルマで行ったことのある方なら、一度は経験があるかもしれません。砂浜での運転がいかに困難であるか…ということを。砂にハマって、苦労したこともあるのではないでしょうか。

 では、そのイメージを月面に置き換えてみましょう。

 月面には、塵(ちり)や埃(ほこり)、岩、その他の破片が堆積しています。実はそんな月の表土こそ、この地球に最も近い天体を探索する上で人類が直面する最大の課題となっているのです。

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 なぜなら、月の表土は超微細で研磨性が極めて高く、あらゆる隙間に詰まってしまうことはもとより、静電気を帯びてもいるからなのです(ちなみに太陽系で、同じような星と言えば…土星を中心に、かなり遠くで周回する第7衛星「ヒペリオン」だけです)。そのため研究者やエンジニアたちは、この埃っぽい月面上で安全な探索を可能にする技術を開発することに躍起になっているのです。

 そこで登場するのが、ブリヂストンです。創業地は福岡県久留米市ではありますが、現在本社は東京中央区です。もともとは1930年(昭和5年)に日本足袋株式会社のタイヤ部門として発足したのが会社の源流であり、1931年(昭和6年)に「日本タイヤ株式会社」として独立分社化します。その後、1951年(昭和26年)に「ブリヂストンタイヤ株式会社」へと社名変更し、1984年(昭和59年)に現在の社名「株式会社ブリヂストン」となりました。

 そんな日本が誇る世界的なタイヤメーカーは現在、チームジャパンの一員として月面を難なく走行することが可能となる特別なタイヤの開発を推し進めています。ブリヂストンは2029年に、月面基地の設置を計画するJAXA(宇宙航空研究開発機構)、特別な月面ローバーを開発中のトヨタとパートナーシップを結んでいるわけです。

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Pressurised Rover Concept | Toyota and Japan Aerospace Exploration Agency
Pressurised Rover Concept | Toyota and Japan Aerospace Exploration Agency thumnail
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 アポロ時代の月面ローバーは、最長でも約35キロメートル(このミッションではニール・アームストロングの「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という名言も生まれましたが、実際はかなりの距離を移動しました)を走行しただけでした。

 ですがJAXAが結成したチームジャパンが現在開発中の高性能有人与圧ローバーは、最大4人までの宇宙飛行士を乗せ、月面を約1万キロメートルも走行できるものとなるようです。また、このローバーは「有人与圧」という言葉からも想像できるように、機密性を保ち宇宙飛行士が宇宙服を脱いで車内で45日間生活できることも求めているということ。しかも、一回の補給で走れる距離は1000kmで、総走行距離は前述のとおり1万kmという条件も課せられているのです。

 原動力に関しても気になります。これには燃料電池を使うようですが、それ以前に気圧を保つ仕組み、そして安全維持装置や飛行士の出入りなどなど…と、いろいろな技術が必要なことは言わずもがな…。これにはやはりトヨタ、JAXAだけでなく、さらになる英知が必要となります。よって、ここで紹介するブリヂストンに加えて三菱重工も含めた宇宙事業版のチームジャパンを結成されたというわけです。

 では、話を再びホイールに戻しましょう。アポロ時代のホイールには、亜鉛がメッキ(被覆)のピアノ線を網目状にしたものが被せられ、その上からチタン製のトレッドで包んだものでした。ですが、このブリヂストンが開発中の新たなホイールリムは、これとは大きく異なるものです。

 2020年1月にラスベガスで開催された「CES2020」でブリヂストンは、ラクダのつま先にヒントを得た、鋼を編み上げた2つの丸い部品を組み合わせたホイールデザインを披露しています。

 米国ブリヂストンのCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)を務めるニザール・トリギィ氏はこのタイヤについて、「生物模倣(自然界の生物が有する構造や機能を模倣し、新たな技術を開発すること)であり、その模様はタイヤを土に深く沈み込ませることなく重さを支えることに役立ちます」とオンラインメディア「ポピュラーサイエンス」に説明しました。

 しかし、なぜ月面でタイヤを使おうと思った場合、普通のゴムではダメなのか知っていますか? それは、月の表面はマイナス170度にもなるからです。その温度では、ゴムはゴムの物性を保ってはいられないのです。

 そのほかにも、当然周囲はほぼ真空であり放射線も強い、さらに前述のレゴリスは粒子がとても細かいので、砂浜での状況をはるかに超えてレベルでグリップすることはできないのです。よって、このような鉄素材を使いつつ、ゴムにも負けないグリップ力を砂漠で発揮する特性を持たものを開発しているのです。

 その結果が、こんなスチールウールによるトレッドであり、ドーナツ形状となったのでした…。そしてブリヂストンは現在、砕いた溶岩石や割れたガラスなど、月面を想定した環境でこの高強度タイヤのテストを行っているそうです。2029年はまだまだ先の話ですが、このタイヤの完成は今から楽しみで仕方ありません。


Source /Popular Mechanics
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。