2023年2月6日(月)にトルコ南部とシリアで発生した地震は、命とインフラを破壊しました。ビルが人々に倒れかかったマグニチュード7.8の地震と、わずかに後に起こったマグニチュード7.5の地震、さらにその後、数日間にわたる多数の余震が最も壊滅的でした。両国で計4万1000人以上の死者(現地時間2023年2月18日時点)が記録されましたが、死亡者数は引き続き増加することが予想されています。

トルコ・シリアの地震が世界を驚かせた一方で、地震を研究する地質学者たちは、「いずれこの地域で大規模な地震が発生する」ことを知っていました。それは、この地域はアラビア・アフリカ・アナトリア(小アジアも指す古代地方名)の3つの対立する地殻プレートの上に位置しているためです。これらのプレートは時間をかけて摩擦し合い、プレートが強くはまり合ったときに十分なストレスがたまると、プレートの一つが横滑りするか、他のプレートの下に滑り込んで地上を揺らすために膨大なエネルギーが放出されるか、になるのです。

20世紀だけでトルコでは、42回の地震が発生しました。これ以前、「Big one」と呼ばれるほどの巨大地震は1939年12月に起こっており、そのときもマグネチュードは7.8で約3万2700人が亡くなっています。さらに古くは西暦17年までさかのぼり、最新の地震を含めたトルコと周辺地域の歴史的記録や古地震学によると、数世紀にわたって多くの大地震が記録されています。2000年以降には、17回もの大地震がこの地域に影響を与えているのです。

Know Your Terms: Magnitude(マグニチュード)は、地震が放出するエネルギー量を測定する指標です。シズモグラフと呼ばれる装置が地震の振動波を記録します。その後、科学者たちは、波の振幅(上下の高さ)を計測し、地震の震源地(地下で地震が発生した場所)と計測装置の距離を考慮に入れます。

1999年8月17日にトルコ北西部でおきた地震「イズミット地震」(死者1万7000人以上、マグネチュード7.6)以降、トルコは耐震基準が強化され、現在では日本と同水準とされています。ですが、最近の災害に関する『Popular Mechanics』の調査では、それらの建築基準が厳格に守られていないことがわかりました。つまり、違法建築や手抜き工事が今でも横行し、基準は空文化していることが実情ということになります。

この、トルコとシリアで最近起きた地震についてもっと知るために、オレゴン州立大学の海洋学者で、サブダクション・ゾーン(沈み込み帯)地震の世界的な権威の一人であるクリス・ゴールドフィンガー氏にインタビューを行いました。彼は、「科学者たちがこれらの地震から学び、世界中の地震の多い地域が将来的にどのように備えることができるか」について話してくれました。

※以下のインタビューは、明瞭性と簡潔性のために平易に編集されています

なぜ、この地震がこんなにも大きかったのですか? 地下ではどのように進行したのでしょうか?

クリス・ゴールドフィンガー:今回、大きな地震が起こった場所は3つのプレートが集まるトリプルジャンクションと呼ばれる場所です。世界中には多くのトリプルジャンクションがありますが、それらは複雑なものが多いのです。このトリプルジャンクションの一部は、基本的には山間部にある(日本で言うフォッサマグナのような)衝突ゾーンになります。他の2つは、2つのブロックが横方向に動くストライク・スリップ断層になります。そのため、こうした場所の地震の頻度は非常に高くなるのです。

どのような条件が重なり、トルコとシリアでこのような大きな破壊を招いたのでしょうか?

古い基盤に加えて、建築基準の順守が欠如していたことが大きな原因と言えます。新しい構造物も崩壊していますが、それは予期されていなかったことです。つまり、その原因はなんであれ、基本的に建築基準に従っていなかったということです。

これは、トルコに限ったことではありません。他の国でも起こっています。実際にアメリカでも、建築基準に違反している事実はあります。例えば、1994年に南カリフォルニアで発生したノースリッジ地震では、いくつかの溶接部分に手抜きがあり、被害が拡大されたと言われています。ただしトルコの場合と比べると、比較的小規模なものであり、トルコでは建物全体が崩壊するような事態が起きたというわけです。

トルコにおける具体的な崩壊の原因を言えば、ひとつは補強にない石造建築、リフトスラブ型建物(プレハブ建築等で使用される建築工法)、非耐震コンクリート建物や不十分な鉄筋など、建物の耐震性が十分でなかったことが被害を拡大させた要因になっています。トルコでは、人々がこれらの建物に働くだけでなく、住居にもなっています。職場も住居も崩壊してしまったため、人々はどちらにしても安心できない状況となってしまったのです。

地震の予測はどの程度進んでいるのでしょうか?

実際のところ、全く進んでいません。私たちの分野をはじめ、他の分野でも、「予測」と「予報」の間には大きな差があります。例えば、地震が高い確率で起こることがわかっていても、それは天気予報における「1月には雨が降る確率が高い」と言うのと同じ程度なのです。その一方で予測となれば、「木曜日か金曜日に、この場所でこの程度の地震が発生する」と明言しなければなりません。つまり、地震に関する予測は全く存在していないのと同じです。

基本的な問題は、プレートや断層、断層運動についての理論が1964年まで存在しなかったことから始まります。現在のプレートテクトニクスについて最初に提唱されたのは1912年でしたが、何十年もの間、多くの地質学者によって徹底的に否定され続けました。他の科学分野には、数百年も前から研究してきたという歴史的な積み重ねがあります。つまり私たちは、いまだ非常に大きなレッスンを受けている最中なのです。

残念ながらこれらの大地震は、私たち地質学者にとっても驚きの連続で、どこで起こるか? どのように起こるか? どの程度の規模か? など、予測できないことが多いのです。今回のトルコ・シリア地震でも、詳細を理解するために専門家が詳しく調査しています。そして後になって、過去のデータや統計に基づいて、「この場所での地震の発生確率は高い、中程度、低い」と予報することができるようになるでしょう。

地震の予測がされたことはかつてあったのでしょうか?

severely cracked and lifted concrete footpath
Simon McGill//Getty Images

私が知っている限りで予測は2回なされています。1回目は中国です。1975年に中国で発生し、たくさんの小さな予震があり、すべての動物が奇行を見せました。そうして 中国のある都市部では避難が実行されました。そして翌日、その都市部は地震の被害に遭いますが、10万人以上もの命が救われました。

もう1つの例は、1989年にサンフランシスコのベイエリアで発生したロマ・プリエタ地震です。ある地質学者が、新聞の行方不明のペットの広告や動物が奇行を見せるといった記録を基に(潮汐などの他の要因とともに)、地震を予測する基礎になるかもしれないと考えを持っていました。そんな彼が、その調査をもとにロマ・プリエタ地震を数日前に予測したのです…。ですが、このことは科学コミュニティではほとんど言及されていません...おそらく、単なる偶然の一致だったからでしょう。

このロマ・プリエタ地震の後、地球が地震に先立ち超低周波(ULF)の電波を放出していたことが発見されました。クォーツクリスタル(水晶=石英)は振動によって、電波を生成します。そして地球の内部には水晶がたくさん存在しているため、それは何となく理にかなっています。

地震予測を改良し、(本格的に)予測を始めるには何が必要ですか?

予測することは、潜在的には可能と言えます。人々はこれを試みてきましたが、まだ成功していません。カリフォルニア州パークフィールドでは、20世紀を通して等間隔で発生した一連の地震がありました。彼らは、可能な限り多くの種類のセンサーでこの断層を配線し、すべての前兆を記録することにしました。しかし、次の地震はスケジュール通りに起こらず、人々が推測した前兆もありませんでした。つまり、それは莫大な費用がかかった失敗だったのです。

その一方で、私たちは地震の後に、人々が推測できなかった事象も検出しています。例えば、1995年の日本の神戸で起こった地震(阪神淡路大震災)の前に水の化学変化が起こったことが報告されています。このような現象が今後も起こる可能性はありますので、このことで完全に絶望する必要もないでしょう。しかしながら、どこから始め、どこへ行き、どのようなセンサーを使うのか? という問題はあるのですが…。

世界で最も地震対策に対応できているのはどこの地域ですか?

earthquake seismogram recording by a seismograph image
Furchin//Getty Images

それは間違いなく日本です。日本は多くの地震の歴史を持っているため、文字通り他の国々より1000年進んでいます。城が崩れるたびに、その城主たちは少しずつ改良して再建してきた歴史を持っているからです。そして現代に至るまで、そのことは非常に良好な状態にあると思います。

日本はもうすでに全てをやっているため、私たちは日本を手本にすべきでしょう。チリも実はかなり良いですね。…例えば、高速道路や鉄道にかかる歩道橋を基礎分離式にする方法を目にすることができます。そのため、大地震(東日本大震災)の後、電車が運休している間も、人々は歩道橋を渡って家に帰ることができました。

2011年の震災後では、何千人もの日本のビジネスマンが歩いて帰りました。東京には、ノイズキャンセリングヘッドセットと同じ機能を持つ、ノイズキャンセリング機能を擁した窓が設置されたビルもあります。これらの窓は地震の信号を受け取り、窓を振動させて地震の振動を打ち消し、窓が振動で割れ、通りに落ちるのを防ぐものです。建物が振動している間でも、窓を安定させるよう導くものです。2011年の震災はマグニチュード9程度のものでしたが、この仕組みは成功の実績を残しました。

さらにもう1つの日本の利点は、「いつ、どこで、どんな地震が発生してもおかしくない」という考えを人々は備えているということです。このように、社会全体が事前に地震に対する弾力性のある認識を擁していれば、大きな混乱の可能性も和らぐ…そう考えています。

次の「大地震」から広範囲な被害を未然に防ぎ、人々を守るために、地震の多い地域は理想としては何をすべきでしょうか?

earthquakes of magnitude 6 or above rocked turkiye over last 125 years
Anadolu Agency//Getty Images

それは一番難しい質問ですね。有名な言葉に、「地震は人を殺さない、建物が人を殺す」というものがあります。もしあなたが外にいて地震に遭遇したら、不安でたまらないはずです。つまり、ここであなたが不安に感じている数々のリスクに対し、社会がどう対応するか? が、結果を左右するのです。日本が歴史的に「そうすることが当たり前」と考えるように、建物を一からつくり直す場合に耐震性を付加することはそれほど高価なことではないのです。新しい建物において、一般にその全体のコストの10~20%を耐震性向上のために当てると考えられています(※ただし、建築物の種類や地域、規制等によっても異なるため、一概に言及することはできません。目安として認識ください)。ですが、それは地震の際に建物が倒壊せず、地震後も再利用できるようにするためのもの。有用な目的を持ったコストです。これを、余計なものと考えるべきものではないことは実に明白です。

そうは言っても、「トルコは異常」と考えるべきではありません。トルコには現在、国際レベルの建築基準法があります。実際、病院には免震構造を義務づけるようになりました。これは私の知る限り、日本を除く他の国にはない要件です。ここでの問題は、この地には何百年、何千年も前に建てられた古い建物が現役で存在しているということ。それを免震構造に改修することまでは義務づけられていないのです。一都市はともかく、国全体を改装するということは非常に困難なことで、どこの国も実施しようとは考えていないはずです。

ですが、建築基準を守らない」という基礎的な問題が加わると、災害拡大のレシピは完成されることは間違いありません。2008年5月12日に発生した中国・四川地震では、地震に見舞われた地域の中に汚職が多発していた学区がありました。その学区では、多くの学校が崩壊してしまったという事実があるのです。一方、このような問題を起こしていなかった近隣地区にある学校はこの地震を乗り越えることができたのです。

アメリカは北西部にある地震地帯に対し、どのような支援強化を行っているのでしょうか?

アメリカの太平洋岸北西部は、トルコと日本のちょうど中間地点に位置しています。1994年頃から長い時間をかけて、太平洋北西部やその他の西部の地域では、優れた建築基準が採用されてきました。いくつかの場所では、耐震改修も多年にわたって進められてきました。特にカリフォルニアでは、数カ月または数年ごとに地震の再警戒を促されています。

しかしながら太平洋岸北西部のどの都市でも、これまで建築物の耐震化が公的機関から要請されたことはありません。それは単に、そのことが義務づけられていないためです。そのため、建物所有者は自己裁量での耐震改修を行うことになります。学校や病院は、明らかに改修を進めるべき建物ですが、それは難しく、高価で、誰からも義務づけられていないため、非常に乱雑な状況となっているのが現状であることを知っておくできでしょう。

※日本の場合は耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)によって、不特定多数の方が訪れる「要緊急安全確認大規模建築物」と、避難路の沿道等の「要安全確認計画記載建築物」を対象に耐震診断を義務づけられています。

From: Popular Mechanics