地球にとって月は、唯一の“友人”とも言えます。それは何十億年も続く、まさに“蜜月”と言っていい関係です。しかし実のところ、月は地球から年々遠ざかっているのはご存じでしょうか。その“溝”は広がるばかり…というわけです。いつの日かずっと先の未来には、地球は独りぼっちになるでしょう。そして月が去ったあとの地球に起きることは、決して美しいものではありません。

月の誕生は?
現在わかっている
地球との関係

まず、この友情の起源に関してから言えば、「The Earth-moon system(地球-月<重力>シス)」という考え方が有力で、「The Giant-impact hypothesis(ジャイアント・インパクト)」という学説を加味したうえで成り立っています。地球が46億年前に形成されてから間もなく、火星大の別の原始惑星の大衝突(実際には、かすめる形で衝突したという説があります)があったとされる学説で、その際に月を誕生させることにもなったというものになります。

これは1946年にハーバード大学のレジナルド・アルドワース・デイリー教授が唱えたものでありましたが、当時は受け入れられず、1975年に惑星科学研究所(PSI)の創設者でもある二人、ウィリアム・K・ハートマンとドナルド・R・デービスによって科学雑誌『Icarus』に発表した論文で再提唱されたことによって、今日では広く受け入れられるようになりました。

この「ジャイアント・インパクト」の衝撃で地球全体が融け、それまでの歴史はリセットされて核とマントルの分離が起こったいうものです。そこで逆に岩石となじみやすいNa(ナトリウム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Cl(塩素)、K(カリウム)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、U(ウラン)などはマントル(そして地殻)に多く残ったとしています。

その衝撃で地球の岩石の大部分は蒸気化して、地球の周りに円盤を形成。そのほとんどは凝結して地球に降り注いだとされ、ほかの一部はそのままとどまって、ついには一つにまとまって冷やされて月になった…というのが、「ジャイアント・インパクト」という学説のあらすじになります。

つまり月は、このときにはぎ取られた原始地球のマントル物質と、衝突した別の原始惑星からはぎ取られたマントル物質の混合物が再び集積してできたということになります。このように考えると、太陽から同じ距離、つまり同じ材料(ダスト→微惑星)が存在していた所に誕生した地球と月の組成の違い(月には大きな金属核がない)ということも説明できる…ということに現在落ち着いているようです。

しかしながら月は、実に興味深い存在です。地球型惑星(水星・金星・地球・火星)の中では地球に月があるように、火星にはフォボスとダイモスの2つあります。ですが、水星や金星には衛星はありません。また、月の質量は地球の質量の約80分の1と、母惑星との比率において太陽系の他の衛星の中でも目立って大きいことで知られています。

何かがおかしい…
異変の発見

月と地球との関係はうまくいってきましたが、永遠に続くわけではなかったのです。それを最初に発見したのは、ハレー彗星の軌道を計算したことで有名なエドモンド・ハレーでした。

17世紀から18世紀への変わり目の時代に生きたハレーは、友人アイザック・ニュートンの研究の強力な支持者であり、ニュートンが新たに発見した運動法則および万有引力の法則を利用して、その法則が適用されるさまざまな事象を発見しました。彗星の進路を予想したほか、1715年の皆既日食を予測したのです。このような正確な予測は、史上初めてのこととされています。

日食
buradaki//Getty Images

ハレーは日食に関する過去の記録の中に、奇妙な点を発見しました。数千年前に古代メソポタミア人が残した日食の記録までさかのぼって調べてみると、「月が常に現在の軌道を回っていたとするなら、日食の周期に矛盾が生じる」というものです。ニュートンの万有引力の法則と古代の記録との辻褄を合わせようとするなら、「月が地球から徐々に遠ざかっている」という仮説を立てざるを得えなかったのです

しかし、その仮説はハレーの存命中には立証されず、後世のアポロ計画でようやく証明されました。アポロ計画で宇宙飛行士が月面に鏡を設置し、地球の科学者がその鏡にレーザーを当てることで、月が地球から遠ざかっていく速度をリアルタイムで測定したのです。それは1年に約3.8センチメートルという速度。かなり遅いようにも思えますが、天文学的には「何十億年という年月が経てば、月は地球の衛星ではなくなってしまう」と考えられています。

潮汐は減り
1日の時間は長くなる

waves and rough blue ocean sea, fuerteventura
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月が離れてしまうことで影響があるのは潮汐(ちょうせき)、つまり潮の満ち引きです。地球には常に月の引力が働いており、月の方向に海水は引っ張られます。しかし地球も自転しているため、自転方向にも海水を引っ張る力が発生します。月からすれば、地球の質量のほうが大きいため、そちらの引力自体も大きくなります。よって、地球の自転方向に引っ張られた海水面からの引力が、歩きたがらない犬に付けたリードのように月を引っ張り、月の公転方向にエネルギーを加えて月を進ませると考えられています。そのエネルギーはどこからか供給されなければならないので、地球の自転はその分減速するという考えになります。

良いニュースは、この(月が遠ざかっていく)プロセスが非常にゆっくりで、月がなくなるまでには、とてつもなく長い時間がかかるということです。しかし、悪いニュースもあります。それは、悪影響がすでに進行中だということです。

月が地球の衛星でなくなれば、月の引力による潮汐力もなくなります。もちろん、実際には潮汐力が全て失われるわけではありません。潮汐力の約半分は太陽の引力が影響しているからです。ですが、多くの水生生物や半水生生物は、潮の満ち引きの規則性と予測可能性に依存して生きており、こうした生物は(今後数百万年の間に)変わっていく現実に適応する必要があります。

地球を守ってくれる
“自然の盾”がなくなる

月を見上げてその表面のクレーターを見れば、月が地球の頼もしいボディーガード役として重要な役割を果たしてきたこともわかるでしょう。地球に向かってきた小惑星や彗星は月の引力に引き寄せられ、月に衝突して、地球への破壊的な衝撃を回避してくれていると考えられています。月の表面に残されたクレーターの数々は、地球への破壊的衝突がそれだけ減ったことを意味していると理解できます(大きな隕石が地球に衝突した際に生き物に起こる影響は、恐竜に聞くしかないかもしれませんが…)。

月が遠ざかれば、地球を守る盾としての月の役割は年々小さくなり、次に大きな隕石が太陽系内惑星に侵入してきたら、月が遠くに行き過ぎていて地球への衝突は避けられないかもしれません。そのときまで人類がまだ地球に存在していたら、月に頼らない防衛策を考えなくてはならないでしょう。

皆既日食はなくなる

あまり致命的ではないものの重要な影響は、皆既日食が見られなくなるということです。人類とは、太陽系が進化する過程のある特異な時期に、たまたま知性を得たに過ぎないのです。時の経過とともに、太陽はゆっくりと大きさと明るさを増し、月は着実に遠ざかっていきます。

現在、地球から太陽までの距離は、地球から月までの約400倍ですが、太陽の大きさは月の約400倍。そのため空に浮かぶ太陽と月の見た目の大きさはほとんど同じになり、皆既日食という現象が見られるというわけです。これは宇宙の中で起きた、全くの偶然でしょう(「全くの偶然ではない」と主張する人々も少なからず存在していますが…)。

annular solar eclipse sequence
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あと数億年もすれば、月は地球から遠く離れて見かけの大きさも小さくなり、皆既日食はなくなると見込まれています。もちろん、そのこと自体は地球の生命や文明に影響を及ぼしませんが、非常に残念なことです。

将来の気候災害の可能性

最後に、月が地球にもたらしている効果がもう一つあります。月が離れて行ってしまうと最も困ることは、この役割かもしれません。それは月が、地球の気候の安定化に寄与しているということです。

地軸は公転軌道に対して、約23.4度傾いています。この傾きのおかげで、北半球と南半球はそれぞれ、太陽に近い位置にあって日照時間が長くなる時期が1年で半分ずつになり、私たちは季節の移ろいを楽しむことができるのです。

驚くべきことに地軸の傾きは何十億年もの間、安定していました。これは太陽系の他の惑星では例のないこととされています。他の惑星における自転軸の傾きはさまざま(金星の自転軸は逆回転、天王星は横倒し)で、傾きは常に変化しているとのこと。傾きが変わるのは、全ての惑星間に複雑な重力の相互作用が働いているから」と考えられています。その影響は非常に小さいそうですが、何億年も経てば小さな変化も大きな変化に変わります。そのため、「時の流れとともに惑星の向きは変わっている」ということになります。

太陽系
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そんななか、地球は例外的な存在です。月の大きな質量が、他の惑星のさまざまな重力作用に対する自然のカウンターウエイト(バランスを取るための重り)となっているという学説で現在は広く認識されています。地球の地軸の傾きは、長い間驚異的な安定を保ってきたため、予測可能な四季がある環境の中で生命が進化できたとされています。気候は場所によって変わりますが、冬はいつも冬であり、夏はいつも夏なのです。この規則性のおかげで生命は適応し、さまざまな興味深い生態的地位が生まれたとされています。そもそも知性を持つ人間が生まれたのも、この特別な適応現象のおかげと考えられています。

月が存在しなかったなら、私たちは今ここに存在していないかもしれません。その月が地球から離れていけば地軸の傾きを安定させる機能は失われ、地球は他の惑星の重力の影響を受けることになるでしょう。はるか先の未来では、規則的に季節が訪れるという概念はもはや過去のものになっているかもしれません。

そして数十億年後には、地球と長い年月連れ添ってきた月が最終的な運命を迎えることになる可能性があります。が、そのときに「月に何が起きるか?」を予測することは不可能なことは確かです。

太陽に関して言えば、「約40億年後に終末を迎え、赤色巨星となってほとんどの質量をガスとして放出。こうした変化が太陽系内を荒廃させ、地球を焼き尽くす…」と考えられていますが、このシナリオでは、月は猛烈に活動する巨大な太陽に飲み込まれるというシナリオになります。

ですが、かしその頃には重力に不安定性が生じ、月が太陽系から完全に離れている可能性もあるというわけです。その場合、月は星間空間の淵を永遠にさまようことになるでしょう。

今晩は外に出て、月を探してみませんか? 月はすでに私たちから遠く離れた場所にありますが、月がなくなってしまったら本当に寂しいものです。

Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics