2022-23シーズンも佳境を迎えているヨーロッパサッカー。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)では、イタリアからインテルとACミランの2チームが準決勝に進出し、18シーズン振りとなるCLでのミラノダービーが実現しました。結果は2戦合計3-0でインテルが勝利し、6月11日(日)に準決勝でレアル・マドリ―ドを粉砕したイングランド・プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティとの決勝戦に臨みます。
UEFAヨーロッパリーグ(EL)もこれからクライマックスを迎えようとしていますが、コチラもイタリアのチームが善戦。準決勝に2チームが勝ち残りました。決勝は、延長の末にユヴェントスを降したスペインのセビージャとASローマの対戦が決定しました。2012-13シーズンから数えて10年間で5回の優勝を誇るなど、ELで圧倒的な強さを見せるセビージャと、昨年のヨーロッパカンファレンスリーグの覇者ASローマによる6月1日(木)の一戦も気になるところです。
富めるものが勝つ、だけではありません
さて、契約満了となったEU加盟国の選手がEU圏内のクラブへの自由移籍が可能となった1995年のボスマン判決以降、ヨーロッパのカップ戦や各国リーグの上位争いとなると、相対的に収益や予算規模が大きい強豪クラブの争いとなるのは致し方ないことかもしれません(ちなみに、世界的な監査法人として知られる「デロイト」が発表した世界のサッカークラブの収益ランキング『フットボール・マネー・リーグ』の2021-2022シーズン版によると、1位はマンチェスター・シティで2位はレアル・マドリード、3位はリバプール。ユヴェントスは11位、インテルは14位、ミランは16位でした)。
ですが、サッカーの楽しみ方はそれだけではありません。小規模ながら奮闘するチーム、予算は少ないながらも上質なサッカーを展開するチームを応援するのもまたサッカーを楽しむ醍醐味の一つにほかなりません。
1990年代にはチェコの名将ズデネク・ゼーマン監督率いるセリエAのUSフォッジャが、2000年代に入ると“ミラクル・キエーヴォ”と呼ばれたキエーヴォ・ヴェローナが躍進を遂げ、資金だけでは計れないサッカーの魅力を改めて知らしめてくれました。
さらに2010年代には、プレミアリーグのレスター・シティが健闘どころか奇跡の優勝を果たしています(2016-17シーズン、そのとき元日本代表の岡崎慎司選手も一員でした)。当時の英国ブックメーカーによるレスター・シティの優勝予想倍率は5001倍です。ちなみに「ネッシーが実在する」という説の倍率が501倍だったことを考えれば、いかに彼らの優勝があり得ないことだったのかがわかるはずです。
果たして、今最も注目すべきクラブはどこになるのか――?
「イタリア版エスクァイア」が注目したのは、イタリア人青年が監督を務めるプレミアリーグのクラブ、「ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFC(以下ブライトン)」です。そう、日本代表の三笘 薫(みとま かおる)選手が所属するあのチームです。2017-18シーズンからプレミアリーグで戦い、現在同リーグ6位(2023年5月19日現在)。三笘をはじめ、モイセス・カイセド、アレクシス・マック・アリスターなど、他クラブも興味を持つ注目選手を数多く抱えています。本拠地は、イングランド南東部イギリス海峡に面したイースト・サセックス州のブライト・アンド・ホーヴ。愛称は、チームのエンブレムにも描かれているシーガルズ(カモメ)です。
ロベルト・デ・ゼルビとは、いったい何者?
ロベルト・デ・ゼルビ監督は元プロサッカー選手で、主にセリエBやCなどの下部クラブを中心に活躍しました。2012-13シーズン終了をもって引退し、その後指導者としてのキャリアをスタートさせます。
カルチョ・フォッジャ1920の監督を皮切りにイタリア国内数チームを指揮し、USサッスオーロの監督で名を挙げて、2021-22シーズンからウクライナの強豪シャフタール・ドネツクの監督に就任します。ところが、ロシアのウクライナ侵攻に伴うリーグ戦の中断により、クラブとの双方合意という形でクラブを退団することに。
その後、2022年9月にブライトンの監督に就任するのですが、イギリスの地にたどり着いた彼のことを当初イタリアサッカー関係者は気にも留めていませんでした。というのもブライトンは、それまでチームを上手く回していたグレアム・ポッター監督をシーズン半ばで引き抜かれ、さらに主力選手だったベルギー代表FWレアンドロ・トロサールもアーセナルへ移籍することに。つまり監督就任時には、現在のようなハイパフォーマンスな試合運びぶりなど予想することもできなかったのです。
ところが現在では、ビッグネームに頼るのではなく、チームに合った若い選手を的確に補強し、全員が連動するサッカーを展開 。結果とサッカーの質という両面から高い評価を集めています。少なくとも2,3のチームがデ・ゼルビ監督に興味を示しており、「イタリア版エスクァイア」は彼を、現時点における最も偉大なイタリア人のフットボール・イノベーターであるとも表現しています。
ブライトンが魅せる魅力的なサッカーの中身
フォーメーションは4-2-3-1をメインに、ときにポッター監督時代に採用していた3-4-2-1を敷くこともあります。ボールの所持率を極限まで高め、最後尾のディフェンダーからしっかりとボールをつないでいきます。とは言え、決してボール保持を目的とするのではなく、サイドの三笘やソリ―・マーチを中心とした素早い縦への展開や、セカンドボールへのアグレッシブな寄せにも特徴を見てとれます。守備面では強度の高いプレッシングが特徴で、フィールドのあらゆる領域で密度と優位性を生み出します。
全体的には攻撃的なサッカーに分類され、流動的に動き回る選手から美しいパスワークが展開されます。そして連動した動きとともに、相手ゴールへと襲い掛かります。そういった観ていて楽しいブライトンのサッカーは多くのファンから賞賛を集め、BBCのサッカー解説者で元イングランド代表のゲイリー・リネカー氏は「彼らのプレーは、攻撃的で魅力的。そして冒険的だ。見ていて本当に気持ちがいい」と賛辞を惜しみません。
逃したデ・ゼルビは大きかった
FAカップこそマンチェスター・ユナイテッドに敗れ、準決勝敗退となりましたが、リーグの6位までに出場権が与えられるELというクラブ初のヨーロッパの舞台はほぼ確実のものとしています。今シーズンの彼らは相手がどのチームであろうと怯むことがなくデ・ゼルビ監督も射当てチームを恐れることはありません。その理由はとても単純で、監督自身がこの若手中心のチームのポテンシャルを理解しているからでしょう。
「自分たちのことを、何かを成し遂げた名のある選手だと思わないこと。むしろ、自分はこのグループの歯車だと思ってほしいんだ。僕たちが一つとなって挑めば、個人としては目立たなくなるかもしれない。でも、全体としては大きな恩恵を受けることができるはずだからね」
そんな風にゼ・デルビ監督は、若い選手たちを奮い立たせているのではないかと「イタリア版エスクァイア」は思いを馳せています。そして、「デ・ゼルビ監督はイタリア最大の『新しいサッカー』の創造者であり、彼を逃がすことは愚かなこと以外の何物でもありません」と結んでいます。
Source / Esquire IT
※この翻訳は抄訳です