◇研究組織グーグルブレインの共同創設者グレッグ・コラード(Greg Corrado)について
「TedMed」カンファレンスに登壇したAI研究者のグレッグ・コラード博士は、医療の専門家たちを前に次のように率直に語りました。
「AIの手助けを得て意思決定を行う医者たちが増えることで、過去100年のあらゆる進歩にも増して、飛躍的に治療技術は向上するでしょう」
コラード氏はGoogle AIの主席研究者であり、機械学習(人工知能における研究課題の一つであり、人間が自然に行っている学習能力と同様の機能をコンピュータで実現させようとする技術・手法のこと)の専門家でもあります。Googleの医療AIの研究を統括するプリンシパルサイエンティストです。
彼曰く、「現代の診療において大切なことは、情報の嵐をどうのように乗り越えるかになります。そうしたときにAI(そしてマシンラーニング)を味方につければ、暴れまくるデータという獣をまるで手なづけることができたかのように有効利用できるのです。そしてさらに、需要に応える的確な治療を拡大するために最高の手段となるのです」とのことです。
これは現時点では、「SFじみている」と思う人も多いかもしれません…。ですが、マイクロソフトやアップル、IBM、グーグル、インテル、GEなどと連携する病院や研究者、メディカルスクールなどで働く人々にとっては、これがいま現在展開している現実なのです。
企業はあらゆるアルゴリズムを開発しています。このなかには医療記録を分類したり、治療法を決定するものだけでなく、敗血症を早ければ12時間以内に診断したり、次の医者のアポイント(予約)をキャンセルする患者を予測するものさえあるのです。
さらには、クラウドベースのディープラーニング技術によって、すでにMRI画像を解析して血流の状態を評価し、最高の放射線科医よりもスピーディーかつ正確に心臓病を発見するために利用されているのです。
この分野はまだまだ未成熟ですが、今回はすでに健康を改善するために利用できる12の革新的なAI技術を紹介します。
◇健康の改善に利用できる12の革新的なAI技術
【1】センスリー(Sensely)
「自分だけの専属看護師が欲しい」と思ったことはありませんか?
そう願う人のうち、次に手術を受ける機会があったときには、術後・退院後、というインタラクティブなバーチャルヘルスアシスタント「モリー」があなたの面倒を見てくれるかもしれません。彼女は音声認識機能を備えながら、医療の知識をもった優秀なAIナースです。
このアバターは、患者が自宅で使用する様々な医療機器やウェアラブル端末から病状をチェックし、次回のアポイントを予約してくれます。
ユーザーは文字を打つ必要はなく、「モリー」の質問に応えるだけで情報が入力でき、これらの情報は患者の担当医が確認する医療ファイルに自動的にアップロードされるのです。
《こんな人に最適》
従来の面倒なフォローアップ治療にうんざりと言う人や、慢性的な疾患の経過を注意深く観察する必要がある人。
【2】ウーボット(Woebot)
メンタルセラピーに懐疑的な人や、メンタルヘルスの状態について人に話すのが嫌いな人には、このチャットボットがいいかもしれません。
スタンフォード大学で臨床研究を行う心理学者のアリソン・ダーシー博士が開発したこのボットは、「Facebook メッセンジャー」をプラットフォームとした自動会話型エージェントです。日常会話や気分の記録、高揚するような動画、単語ゲームなどを使って患者の状態をモニタリングし、CBT(認知行動療法)データに基づいて感情の状態(機嫌・ムード)を読み取り判断。
そして人工知能によって、自然言語処理でユーザーとの会話を行います。こうしてチャットボットは、われわれに自分を見つめ直せるようサポートをしてくれるのです。
「Woebot」はコニュニケ―ションを重ねるたびに患者が反応する物事を学び、そのリアクションはより具体的になっていきます。2017年の研究によれば、「Woebot」と2週間にわたって平均して12回ほどの会話セッションを行った患者は、うつや不安などの症状が大きく改善した結果もあるそうです。最初は14日間の無料セッションが利用できますが、そこから先は課金制となっています。
《こんな人に最適》
セラピー嫌いの人
《料金》
月額39ドル
公式サイト
【3】Aiキュア(AiCure)
処方薬の飲み忘れは治療の妨げになり、ときに命に関わる状況にもなり得ます。また、処方薬の飲み忘れは医療業界にとっても大きな損失であり、患者が薬を飲み忘れることで医療業界に生じる損失は米国でおよそ3.8兆ドル(2016年の数値)にも上るとも推定されています。
こうした懸念に貢献するのが、こちらの「Aiキュア」というアプリ。服薬の時間になると患者に対してリマインドを行ってくれ、 実際に薬を飲んだことをカメラで確認します。また患者は、モバイル機器のディスプレイに向かって薬を見せると指示メッセージが送られ、それに従って服薬すれがいいだけになります。
患者と薬の照合は人工知能によって顔識別が行われ、その人の薬の種類や量のチェックまですべてが行ってくれます。さらには、その服薬のデータはレポート化されて医療機関へと送信される仕組みにもなっています。
《こんな人に最適》
極めて忙しい、あるいは絶望的に忘れっぽい人。遠隔で高齢の両親をケアする子どもなど。
《料金》
無料(医者や病院のすすめで利用できます)
公式サイト
【4】セマンティック・スカラー(Semantic Scholar)
もしあなたが健康診断で人生が変わってしまうような診断を受け、その治療法の選択肢について勉強する必要が出てきたとしたら…そんなときはグーグルに頼るはやめましょう。
その状況下でおすすめとなるのが、この論文サーチエンジン「Semantic Scholar(セマンティック・スカラー)」です。科学論文は、かなりの頻度で世に発表されています。主要な分野の最先端にいる人が論文の情報を追跡しようとするとなると、それだけでかなりの時間を必要となることでしょう。
しかし、この論文サーチエンジンである「Semantic Scholar(セマンティック・スカラー)」があれば自動で論文を読み込み、トピックやその影響力、引用回数などの情報を取り出す機能が発動。ユーザーは簡単に、最新の論文や探しているものをみつけることができるわけです。
このAIを活用した検索エンジンでは、4000万件以上の査読済み研究のデータベースをチェックし、もっとも引用が多く、関連性の高い研究を探すことができるのです。検索エンジンの開発チームは将来的に機械知能(machine intelligence)に使って、様々な研究を結びつけてくれるでしょう。そうすることで、「現在、見落とされがちな治療法を見つけることができるように」と志しています。
《こんな人に最適》
信頼できる最新の医療情報を必要とする人。
《料金》
無料
公式サイト
【5】 ARTASロボティック・ヘア・レストレーション
「ドナーの頭から採取した髪を、手作業で患者のはげた部分や薄毛部分に植え込む」という現在の植毛法には、かなりの労力がかかります。このAIを利用したロボットなら、採取する髪の選択や植毛において医者をサポートし、よりスピーディーな植毛や自然な見た目を実現します。
実際、脱毛や薄毛は世界共通の悩みです。ですが、これまでの植毛手術では大掛かりなうえ、治療の傷跡が残るなどの欠点が多いことで躊躇する人々が多かったかと思います。そこに登場したのが、ロボットです。
レストレーション・ロボティクス社は、世界で初めて植毛治療に利用されるロボット「ARTAS(アルタス)ロボティック・ヘア・レストレーション」を開発しました。そして2011年には、米食品医薬品局(FDA)の認可を取得。これまで世界へと、50台以上のこの「ARTASロボティック・ヘア・レストレーション」が出荷されています。
従来のマニュアルによる自毛植毛手術と比べ、生体を傷つけないように施術することができることで大きな注目を集めています。
《こんな人に最適》
十分なお金があり、薄毛に悩んでいる人。
《料金》
植毛する本数によります。
公式サイト
【6】ハートフロー(HeartFlow)
心臓疾患の診断においては、カテーテルと造影剤を使った血管造影検査の代わりに、CTスキャンとコンピューター生成された血流シミュレーション、ディープラーニングアルゴリズムを使って心臓を3Dマッピングするという非侵襲的(生体を傷つけないよう)な技術が利用され始めています。
この方法では閉塞や血流を詳細に分析することで、不要な侵襲的血管造影検査を80%以上減らせることが証明されています。これによって医療費を25%以上削減できる可能性があるとのことです。また、診断精度も86%とかなり高いもの(冠動脈CT血管造影法で65%ほどの精度です)になっています。
2018年の時点では、米国のおよそ40の病院で導入されており、今後さらに増える見込みとなっています。
《こんな人に最適》
心臓疾患の総合的な診断を必要とする人。
《料金》
保険の補償範囲によって異なります(多くの民間保険会社で支払いを受けることができます)
公式サイト
【7】バタフライIQ(Butterfly IQ)
健康診断や人間ドッグで経験済みなので、もはや皆さんご存じかと思います。内臓の診療が長時間におよぶ場合のひとつのネックとして、第一に上がるのは超音波診断装置と言って過言ではないでしょう。この機器での診療自体が、すぐに済むものでもないのです。
よって、この診療の順番待ちは常。しかし、ここでたとえば、あなたに腎臓結石の可能性があって強い痛みがある…としたらいかがですか? その待ち時間ほど、耐え難いものはないでしょう。
そんな折、この「バタフライIQ」が登場したのです。こちらは、iPhoneに接続して使うポケットサイズの超音波スキャナーで、AIソフトウェアによって医者が超音波画像を迅速に解釈する手助けをしてくれるのです。このデバイスはFDAから、13の異なる臨床用途で認可を取得しています。これは消費者向けの製品ではありませんが、2018年中に救急医療機関に導入される予定となっています。
《こんな人に最適》
直ちに超音波スキャナーが必要な医療供給者。
《料金》
2000ドル
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【8】ワトソン・フォー・オンコロジー(Watson for Oncology)
がんの症例に取り組む医師は、ときに数週間をかけて治療計画を作り上げるそうです。
IBMの「ワトソン・フォー・オンコロジー」は、メモリアルスローン・ケタリング記念がんセンターの専門家のトレーニングを受けており、300以上の医学学術誌や200以上の教科書などの多数の医学文献のデータ、およそ1500万ページ分の医療情報をベースに患者の症状や遺伝子、病歴に基づいた治療計画の作成を行います。
そして、これをわずか数分でやってしまうのですから、偉大なのです。
《こんな人に最適》
医者のような現実的な感性と、AIベースの知見を求めるがん患者。
《料金》
医療機関によって異なります。
公式サイト
【9】ルモ・ラン(Lumo Run)
「Lumo Run(ルモラン)」は専門データを活用して、ランナーのランニングフォームをしてくれる優秀なウエアラブルデバイスになります。シリアスなランナーであればあるほど、最高の・最速の・最長距離の…追求することでしょう。
そのこだわりを突き詰めると、常にそこにはランニングフォームに行きあたるはずです。
そこで、ベストなフォームでの走りを個人的に実現できないか?と願う人のために、この「Lumo Run(ルモラン)」は開発されたアプリと言ってもいいでしょう。ために日々尽力を重ねる人も多いはず。
このクリップ型センサーをショーツに取りつければ、「モーションサイエンス・プラットフォーム」が生体力学的フィードバック(歩調や制動、足の上がり方、骨盤の回転や低下など)を分析し、ランニングフォームをリアルタイムで指導してくれるのです。
また、弱点に対処するためのランニング前後におけるお役立ちエクササイズについてのアドバイスももらえます。ちなみに同様に鎖骨に装着し、姿勢を矯正してくれる「Lumo Lift」という製品もあります。
《こんな人に最適》
フォームを改善して怪我を防ぎたいランニング選手やランニングが趣味の人。
《料金》
100ドル(Lumo Liftが80ドル)
公式サイト
【10】ペイシェンツ・ライク・ミー(PatientsLikeMe)
診断で病気が判明した後、自らの病気の経験や症状、治療法などの情報は「ペイシェンツ・ライク・ミー」で共有するといいでしょう。世界最大の患者ネットワークであるこのSNSでは、同じ病気をもつ人々からの知見が得られるのです。
2800の異なる疾患をもつ60万人以上の会員が登録するこのプラットフォームは、現在、AIを活用した「DigitalMe」プログラムをすすめています。このプログラムは患者の遺伝子やバイオマーカーを分析し、病気の進行を追跡。これに影響する要因を学ぶことで、より完璧に患者を分類してくれるのです。
《こんな人に最適》
クラウドソーシングを活用して疾患の知見を得たい人。ALSのような難病のリサーチ・アドボケート。
《料金》
無料
公式サイト
【11】コルゲート・コネクト・E1
この歯ブラシは3Dモーションセンターと加速度計、ジャイロスコープ、磁力計により口の中での正確な場所と方向をトラッキングし、磨き方にリアルタイムでフィードバックをしてくれます。
また、AIがデータをふるいにかけ、週ごとに歯磨きのヒントを送ってくれるのです。
《こんな人に最適》
売出し中の俳優や虫歯になりやすい人。
《料金》
99ドル
公式サイト
【12】ヌーム(Noom)
これまでに4500万人の人生を変えたとするこのアプリ。利用した78%のユーザーが減量に成功し、9カ月後も体型を維持できたということです。
AIと人間の目標達成コーチが、一人ひとりに合わせた食事や運動のコースを作成してくれます。「Noom」は米疾病対策予防センター(CDC)から、糖尿病予防の認定を受けた初のプログラムになります。
《こんな人に最適》
パーソナルコーチングが必要で、毎日データを入力できる几帳面な人。
《料金》
14日間のトライアルは無料。その後は1カ月32ドル。
公式サイト
Source / Men's Health
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。