2000年に浦和レッドダイヤモンズ入団以来、このチーム一筋でプレーし続けたバンディエラ(ワン・クラブ・マン)である鈴木啓太氏。日本代表(2002~2004年はU-23代表、2006~2008年は日本A代表)としても活躍した彼は、プロサッカー選手として16年間のキャリアを積んで2015年に現役を引退した。
現在もレッズファンからも絶大なる信頼を得ている彼が、引退後に選んだセカンドキャリアが「起業」です。それが引退と同時に設立した、アスリートの腸内環境研究を手がけるスタートアップ「AuB(オーブ)」です。
この「AuB」は五輪代表選手やプロ野球選手、Jリーガーなどのスーパートップアスリートの腸内細菌を研究し、そこで得た知見を商品やサービスに活かして、アスリートばかりでなくわれわれ一般市民の健康にも貢献することを目指しています。
2019年10月には応援購入サービス「Makuake」にて、健康に有効な菌を摂取できるフードテック商品第1弾として、酪酸菌などの菌を独自に配合した「アスリート菌ミックス」を使用したサプリメント「AuB BASE(オーブベース)」を販売。その達成率は906%。その後、一般販売を併せるとその累計販売個数は1万個を超えたということ。
コロナ禍において、多くの方々が自らの「健康」をさらに見つめ直すようになったタイミングとも重なり、この鈴木啓太氏の視点および動向は非常に注目すべき存在となっています。以前より叫ばれている「腸内細菌と健康」の関連性、および、多くの腸を題材にして書籍では、自律神経との密接な関係性から「腸は第二の脳」とも呼ばれるようになったこともこれに拍車をかけたと言えるでしょう。
そうして鈴木氏が運営するAuBでは2021年1月14日(木)、サプリメントとしての「AuB BASE」に続く第2弾のフードテック商品として「AuB MAKE(オーブメイク)」の発売を開始しました。この「AuB MAKE」とは、「身体」と「腸」と栄養の関係にフォーカスした、腸内環境を整えるマルチ栄養プロテインです。
そこで、なぜ鈴木氏が腸内環境の研究という未知の分野に挑戦しようと思ったのか? その挑戦の裏にある思い、そして今に至るまでの歩みについてうかがいました。
僕たちの腸内には、重さにしておよそ1.5kgほど、そして約1000種類ほどの菌が棲んでいると言われています。これらの菌が太りやすさ、痩せやすさ、そして身体の形成からメンタルの部分まで、さらにはこのコロナ禍に注目もされている免疫力などにも関係していることが近年の研究でも明らかになっています。
それでも、まだまだ腸の中は宇宙のように未知なる菌も多く存在しています。今後も腸内環境の研究を進めていくことで、アスリートばかりでなく多くの方々の「健康」というコンディションに大きく関わる菌の存在が明らかにしていきたいと思っています。
そこで、そんな志をなぜ僕が描き始め、現役引退と同時に会社を設立して腸内環境の研究に取り組もうと思ったのか? その根底には母の教えがあります。サッカー少年だった以前の頃からですね。幼少期の頃から調理師である母から、僕は「人間は腸が一番大事」といつも言われていました。そんな母は職業柄とも言えますが、健康に留意した食事ばかりを用意してくれていました。高校生の頃には、腸内細菌のサプリメントも飲むようにすすめてくれていたのです。
とは言え、僕が高校生だった1990年代の頃、「腸内細菌」という言葉はあまり一般的ではありませんでした。しかも、「お腹の問題など、何もしなくても健康であることがアスリートである」といったような神話めいた勘違いも多かったと思います。そんな当時の僕は、恥ずかしさから「ビタミン剤飲まなくちゃ」と嘘をついていましたね。
こうして母親と共に自分自身にも根差した「腸へのケア」の大切さから、同じサッカー部の仲間たちよりもコンディショニングを高レベルで保っていることを自覚できていましたね。そう実感すると、さらに「腸へのケア」の大切さが高まって、お腹を温めること、例えば食事を温かい緑茶で終えることや、冷たいものを控えること…さらには腹巻をして寝るといったことも実践するようになりました。また、海外遠征時には、必ず緑茶と梅干を持っていくことを徹底するなど。そして、自分の便を欠かさずチェックして、日々のコンディションを確認するようになっていました。
そんな「腸へのケア」の大切さを最も実感したのが、2004年3月に行われたアテネ五輪の最終予選UAEラウンドです。現地の水か食事か、いずれかは不明のままですが、代表選手の23名中18名が下痢に見舞われる事件が発生しました。ほとんどの選手は直前までトイレにこもりきり。そんな中、僕は日頃の腸ケアのおかげなのか、体調を崩すことなく試合に挑むことができたのです。そこで腸を整えることの大事さを、これまでになく痛感しました。
これまでの、こうしたアスリート経験を通じて、「腸を中心にお腹の調子を整えれば、身体の調子が整えることができる」「便の状態とコンディションには相関関係がある」といったことを身をもって経験し、その過程で自分自身に蓄積した思いや知見を多く方に共有できたら…と考える中、今のビジネスアイデアが浮かんできたのです。「腸内環境を整えることこそ、コンディションアップにつながる」というコンセプトで、アスリートにおけるコンディショニングのサポート、および一般の方々の健康維持も応援できるのではないかと思い、引退後、すぐさま小さな一歩ですが、周りからの大きな強力を得て前に進ませていただきました。
2015年6月に、チームのトレーナーから便の研究をしている腸の専門家を紹介してもらい、面会させていただきました。そこで「アスリートの腸内環境は特有かもしれません。調べたら面白いのでは?」と自分の志を話したところ、すぐに意気投合してしまい、2015年10月にはAuBを設立することになったというわけです。引退試合を前に、ちょっとフライング気味ですが…。
より日常のコンディショニングに注力しているアスリートの腸内データをまとめ、さらに分析していけば、「将来的には一般の人々の健康にも貢献できるのではないか?」ということを強く思い、ぜひそれを実現したいと願って歩みを早めたくなったのです。
ここで「人々の健康に貢献したい」という願いには、もうひとつの理由があります。それは、あるサポーターから聞いたひと言にあります。それは浦和レッドダイヤモンズの観客動員数が減っていた頃のことです。当時の僕は、サポーターの皆さんに接するたびに、「スタジアムに観に来てください」という願いを伝えていました。そんな僕の言葉に対し、とあるサポーターから「Jリーグが始まって20年経つでしょ。当時40歳だった僕も今や60歳。スタジアムまでの道のりも、厳しくなってきたんですよ」とのこと。ここで新たな面に気づかされました。多くの方の「健康」を応援することができれば、その相乗効果でサッカーばかりでなく、「さまざまな経済活動の活性化に役立つのでは?」と思ったのです。そうして僕は、AuBでの事業が価値あることだということを再確認できたのです。
AuBとして最初に注力したのが、データ集めです。 2016年1月から始めました。まずはプライベートでも親交のあるラグビー選手、ワールドカップ日本代表としても活躍した松島幸太朗選手に。他にも2015年正月開催の箱根駅伝競走で、「三代目山の神」とも呼ばれたプロ長距離ランナーの神野大地選手、さらにプロ野球で東京ヤクルトスワローズ所属の嶋 基宏選手など、続々と協力してくれました。そうして2020年4月時点で、集めた便の数はアスリート700名分を越えました。
こうして便の研究に費やしたわけですが、その4年間は我慢の期間と言っていいかもしれません。実はAuBの設立早々から、「サプリメントを販売しましょう」という声が周りからあったのは事実です。ですが僕は、頑なにそれを反対してきました。アスリートから貴重なデータをいただいたわけですから、きちんと丁寧に綿密な研究を重ねた上で、成果がより期待できる商品やサービスとして具現化することこそが大切だと思ったからです。
事実、第1弾の商品である「AuB BASE」を販売することに至るまでは、4年もの年月が必要となりました。ですがこの時間によって、この商品の価値は高めることができたと思っています。さらにAuB側にも自信をもたらして、皆さんに堂々とおすすめることができるようになったのです。実際、恥ずかしい話ですが、「AuB BASE」の発売を控えたちょっと前に、AuB運営の資金が枯渇するという事態にも直面しました。ですが、なんとかその危機を乗り越えることができ、「AuB BASE」を発表することができたというわけです。実は、その瞬間は感極まるものがありましたね…。
アスリートの日々の願いは、一般の人々にくらべ多岐にわたります。「身体を増強したい」または「減量したい」、さらには日ごろの鍛錬をベストな状態で行うことでフルでそれを会得したいという願いから「お腹の調子を常に整えたておきたい」など、アスリートたちは明確に課題を持っています。しかしながら実は、このことは誰にでも当てはまることだと、僕は思っています。
エスクァイアの読者の皆さんで言うなら、多くの方がビジネスパーソンでしょう。そんな皆さんは、いわゆるビジネス界におけるアスリートとして、常に最大限のパフォーマンスを発揮したいはずです。そこでは、「健康を維持」こそ大切なことではないでしょうか? 健康であることで第一印象もアップできれば、仕事の効率もより発揮できるわけです。さらには、次のチャレンジへの英気も健康だからこそ養えるはずです。
また、現在は一般の方々の間でもタンパク質摂取の大切さが浸透してきました。多くの方が厚生労働省が定める日本人が摂らなければならないエネルギーや栄養素の基準値を定めた「日本人の食事摂取基準」の数値、「18歳以上の男性の推奨量は60g/日、女性では50g/日」を目安に摂取に努めている方を目にするようになり、自分が選んだ第2弾の商品として、「AuB MAKE」という新たなタイプのプロテインを選んだことが間違っていないことも確認できました。
とあるアスリートから、「筋肉がつきにくいんです」と相談されたことがありました。そこで僕たちは他のアスリートたちからも聞き取り調査を行って、「トレーニングを行い、さらにプロテインも欠かさず飲んでいるにも関わらず、筋肉がつきにくい」と悩むアスリートが意外と多く存在していることが判明しました。
「しっかりトレーニングはしているけれど、なぜ筋肉がつきにくいのか?」という要因には、もしかするとAuBが研究している腸内環境が関係しているのでは?と考え始め、この課題を解決できる方法を追求することに努めたました。この課題に悩む選手らは、日々の食事をチェックし、さらに血液および尿検査をしてもその原因がわからなかったと言います。ですが、腸内環境を検査させてもらうと、「筋肉のつきにくいアスリートの皆さんは、腸内細菌の種類やバランスといった多様性が低い」という傾向が発見できたのです。
そこから、「そのアスリートの腸内の菌の構成によって、栄養を吸収しにくい腸の状況をつくっているのでは?」と仮説を立て、各種論文や我々の研究データを調べていくうちに、タンパク質の吸収効率を高めるためには腸内環境を整える必要がある…という研究結果にたどりついたのです。さらに、タンパク質の代謝を促すためには、ビタミンなどの栄養素も重要な役割を果たす可能性も見出しました。
こうして第2弾の商品は、マルチ栄養プロテインで行こうと邁進したわけです。開発にあたってはメンバー内で自由にそれぞれの熱い想いをぶつけ合ってつくりあげました。栄養素からその容量、さらにパッケージデザインからプロダクトネームまで、全員でディカッションを重ね、さらにはサンプルを開発しては何度も改良を重ねた…まさにAuBの全身全霊を込めた魂の逸品なんです…。
AuBが常に重要視している研究データも、とことん突き詰めていったと言えます。マウス実験においては、「一般的なプロテインに比べ筋力4.9%、筋肉量3.4%が増加した」という結果が報告されています。また、「中性脂肪は減少、腸内の多様性向上とビフィズス菌の数は20倍以上も向上する」という結果を得たのち、満を持して鈴木氏はこの「AuB MAKE」を販売することを決定したのでした。
ここで忘れてはいけないことは、プロテインはアスリートだけに必要な商品ではないということ。腸内環境までも配慮したこの「AuB MAKE」は、一般生活者の方も摂取すべきではないでしょうか。
日ごろ、食事をコンビニに頼りがちな方も少なくないでしょう。また、朝食を抜いてしまいがちな方も…。多くの方にとって、毎食バランスが整った食事をすることは難しいはずです。また、ダイエットをしている方には特に、タンパク質は必要な栄養素のはずです。そんな状況において、この「AuB MAKE」を摂取することでタンパク質の摂取が補填でき、さらに腸内環境を整えることも期待できるのです。これほどわれわれの願いをかなえてくれるプロテインは、未だかつて他にあったでしょうか? 試してみる価値は、大いにアリです。
「AuB MAKE」は粉末タイプ。一般には1食あたり通常は40gを、150~200mlの水または牛乳に溶かして摂取することをAuBでは推奨しています。またアスリートの方など、日頃の運動強度が高い方には1食80gを摂取することをおすすめしています。1日1~2回の摂取を目安に、運動前後や特にタンパク質不足に陥りやすい朝食時での摂取をAuBでは推奨しています。味は、継続して摂取しやすいことを目指し、AuB内でディスカッションを重ねた結果グリーンアップルスムージー味に決定したということです。
鈴木啓太
AuB株式会社 代表取締役
元プロサッカー選手。東海大翔洋高校卒業と同時に、Jリーグ浦和レッドダイヤモンズに入団。2015シーズンで引退し、その後はサッカーの普及に関わるとともに、自身の経験から腸内細菌の可能性に着目し、AuBを設立。「すべての人をベストコンディションに。」を目標に掲げ、アスリートの腸内細菌の研究成果よってヘルスケア、フードテック事業を行う。第1弾の商品はサプリメント「AuB BASE」は、累計出荷個数1万個を突破。さらに2021年1月には第2弾となる商品はプロテイン「AuB MAKE」を発売。腸内環境改善を目指した上で身体づくりをサポートするプロテインはこれまでなかったことで、絶大な注目を浴びている。