エスカレートする気候の危機に関する報告がますます増加する中で、しばしば見落とされていることが1つあります。それは、世界を学ぶ方法としての科学が、かなり保守的なものであるということです。

 ある科学界が何らかの主張をしたとしましょう。すると、その主張(論文など…)が、科学的プロセスに従って実証されない限り、決して受け入れられることはないのです。このプロセスには、Peer review(ピアレビュー=査読)という信じられないほど徹底的な審査手続きが含まれており、それには同分野の専門家たちがあたります。

 ですが、平常心のままで臨むのであればいいのですが、どちらかと言えば…そこに穴があることを前提に、是が非にも探し、さらにその穴を拡大しようという意気込むを強く持つ専門家たちによってチェックされるのですから堪りません。

 基本的は審査方法は、その主張の中に登場する実験を何度も再現し、同じ結果が得られるかどうかを確かめるのです。

 このような検証プロセスは、科学界の大部分で取り入れられているものです。ゆえに、「気候変動が実際に起こっており、その原因が人間の活動にある」というコンセンサスは、実は長年にもわたって様々な研究者たちの手によって徹底的な検証が重ねられてきた…という事実も再確認できるわけです。つまり、人類は大きな自信を持って、「世界における様々な気候変動は、人間によって起こされた」と、胸を張って言えることなのです。 
 
 ですが化石燃料業界は、米国政治に多大な影響を及ぼしているため(実際、彼らは米国の2大政党のうちの一方を支配下に置いているだけでなく、もう一方にも影響を与えており、これらの政党やシンクタンクのような他の中立的機関への影響力によって、より大きな既得権益層たるメディアにも影響を及ぼしています)、この問題にはしばしば「意見や信念、政治的忠誠の違い」というレッテルが貼られてしまいます。

 先進諸国の中でも共和党は、この科学的コンセンサスに異を唱える唯一の主要な政党であり、彼らの極端な姿勢はこの問題をめぐる議論を歪めてきました。現在論じられているのは、「気候変動が実際に起こっているのか」ではなく、「気候変動にどう対処すべきか」ということです。

 にもかかわらず、共和党やその一派は、気候研究者たちのことを大げさに言い立てる「アラーミスト(alarmist)」と呼んで攻撃し、中には「グローバリスト(globalist)階級の悪の手先」という正気でないレッテルを貼る人々もいます。

 また、共和党と結びつくシンクタンクは、都合のいいデータと査読対象になっていない研究を用いて、このコンセンサスに反論する研究者たちに対し、1人あたり1万ドル(約109万円)もの謝礼を支払っているのです

Rapidly-Spreading Wildfire In California's Butte County Prompts Evacuations
Justin Sullivan//Getty Images
山火事で燃えるカリフォルニア州の住宅。


 気候変動というコンセンサスを政治的な問題にする「政治問題化」は、重大な影響を与えてきました。米国人は一般的に科学者たちを信用していますが、気候研究者たちについてはこの限りではありません。同じようなことは、予防接種など政治問題化されている他の科学的分野にも言えます。共和党員の85%は、「気候変動は今すぐ行動が必要な深刻な問題である」という考えを拒絶しているのです。 
 
 当然ながら気候研究者は、他分野の研究者と比べても慎重に発言します。このことを前提にしたのが、2017年の「ニューヨーク」誌の記事です。

 この記事では、ほとんどの研究者たちが公に説明する危機(すでに圧倒的に強い科学的根拠があるもの)と最悪のシナリオとの間にある大きな隔たりを明らかにしています。2018年1月22日(米国時間)に、「ニューヨーク・タイムズ」紙は気候変動が加速しており、研究者たちの以前の想定よりもはるかに、深刻な結果を招く可能性を示唆する新たな研究について報じました。端的に言えば、人類には着実に最悪のシナリオが見え始めているのです。以下の引用をご覧ください。
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 科学者たちは2019年1月21日(米国時間)に発表された研究の中で、「グリーンランドの広大な氷床は加速度的に融解しているため、『ティッピング・ポイント(大きな転換点)』に達した恐れがあります。よって今後20年以内の、世界中での海面上昇の主要な要因となる可能性がある…」と指摘しています。
 
 北極は地球上のその他の地域と比べ、平均して2倍の速度で温暖化しています。そして新たな研究では、大部分が北極圏に属するグリーンランドにおける氷の消失が温暖化により加速していることのさらなる証明がなされました。この研究の著者は、2012年の氷の消失が1年間で4000億トン以上と2003年の4倍となったことを発見。氷の消失は、2013年〜2014年には一時的に停滞しましたが、その後再開しています。

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 また「ニューヨーク・タイムズ」紙は、最近の研究の傾向についても解説しています。

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 今月発表された一連の研究に続いて、地球温暖化の影響に関する科学的な見積もりが今回なされましたが、どちらかといえばこれは、かなり保守的であったことを示唆しています。

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 「ニューヨーク・タイムズ」紙が「一連の研究」と呼ぶのは、南極における氷の消失がこれまでの想定よりもはるか深刻であり、結果として海面上昇が加速していることを示唆する先ごろの研究のことです。また、同紙は海水温がこれまでの予想よりもはるかに、早く上昇していることを示す研究についても取り上げていました。

 海水温の上昇は、フィードバックループの懸念を強めます。海水が温まって海氷が溶けると、その表面に水たまりができ、この水たまりがより多くの熱を吸収してしまうのです。

Melting Iceberg In Antarctica
Barcroft Media//Getty Images
南極の融氷 の様子。


 海水温の上昇はより猛烈な嵐の原因にもなり、強烈な風や大量の雨をもたらします。また、サンゴの白化現象を引き起こし、海のエコシステムの根幹をなすサンゴ礁を破壊してしまいます。
 このため、研究者たちは2015年の時点で、人間が世界の海洋での大量絶滅を引き起こしている可能性を懸念していました。このような種の絶滅の世界的な加速は、研究者たちが「6度目の大量絶滅」と呼ぶ現象の一部です。さらに、干ばつや山火事など気候変動が引き起こす災害はまだまだあります。 
 
 この1カ月の新たな発見は、人類の現状に関する2つの重大な評価に続くものです。

 1つ目は米政府の13の機関が協力した「全米気候評価報告書(National Climate Assessment)で、300人以上の研究者が作成したこの報告書の中では、気候変動の危機が経済や人々の健康、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)、水へのアクセス、その他多くの分野に壊滅的な影響を与える可能性が指摘されていました。

 また2つ目は、「国連の気候変動に関する政府間パネル(U.N. Intergovernmental Panel on Climate Change)から出された報告書です。40カ国91人の指導的研究者が、さらに多くの専門家の手による6000件以上の科学的研究に基づいてまとめたこの報告書ですが、その予想はより悲観的なものでした。

 というのも、現在の人類文明は2040年までに深刻な危機に直面するとされ、このシナリオを避けるために劇的な方向転換をするためのリミットは、あと12年しか残されていないというなのです。

Reports Indicate 2016 Was Hottest Year On Record
Lukas Schulze//Getty Images


 端的に言えば、気候変動についての議論を、これまでとは完全に違う見方でとらえ直す必要があります。もはや「気候変動は現実に起こっているのか」、「人間が引き起こしているのか」といった論点で誤魔化したり、混乱させることは受け入れられません。この問題を研究し、その仕事が科学界で広く検証され、正しいことが認められた研究者たちがそう言っているのです。

 気候変動が起こっているかを疑問視し続けている人は、公の議論から追放されるべきです。彼らはケーブルニュースや日曜日の討論番組で誤った情報やあからさまな嘘を撒き散らすべきではありません。彼らの発言には、あまりに長い間正当性が与えられてきました。彼らには化石燃料業界の利益を守る用心棒として尽くす権利こそありますが、大声でデマを広げる権利はありません。

 チャック・トッドが司会を務める報道番組『ミート・ザ・プレス』には、その点で明るい兆しがありました。

 この番組では、2018年11月に全米気候評価報告書が発表されて以来、右派シンクタンクの気候変動否定論者がパネリストとして出演していました。ですが、2018年12月30日の放送では、気候変動問題が事実であるという明白な前提とともに、番組全体でこの問題について特集したのです。 

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Politics and climate change: How to break the paralysis | Meet The Press | NBC News
Politics and climate change: How to break the paralysis | Meet The Press | NBC News thumnail
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 最低限の現実に基づいて、そこに多少のモラルを加味しながら行えることと言えば…この危機にどう対処すべきか…というものになります。これは社会に受け入られる、唯一の議論でもあります。

 たとえば左派が好むものとしては、政府がエネルギーシステムの転換を主導することになるでしょう。これまでの化石燃料から、風力や太陽光、水力、地熱、原子力などの再生可能エネルギーへの転換を進め、移行期のつなぎとして天然ガスを利用するのです。

 一方、気候変動を理解している保守系政党であれば、この転換を実行する民間企業を動機づけする方法を好むかも知れません。

 いずれにしても純然たる事実は、転換が必要だということです。

 人類は大気中に放出される温暖化ガスの量を、劇的に減らす必要があるのです。このことに異論を唱える人は誤解をしているか、あるいは誤った情報を伝えるようお金をもらっている人になるのです。 
 
 「人類が行動を起こさない」ことでもたらされる結果が、これまでの想定よりもひどいものとなるという証拠は、ますます増えつつあります。これこそデヴィッド・ウォラス・ウェルズが「ニューヨーク」誌に書いた「The Uninhabitable Earth」の内容そのものと言えるでしょう。この問題の解決法において、“想像の欠如”は許されないことなのです。 
 




From Esquire US 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です


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