この記事をざっくり説明すると…
- 特殊カメラを用いた長年にわたる調査の結果、名画「モナ・リザ」にはスポルヴェロという技法を用いた下絵があることが明らかになりました。
- 多ジャンルにおいて才能を発揮したレオナルド・ダ・ヴィンチは、この作品を描くに当たり、ある種のトレース技術を用いていたと言うこともできます。
実に16年に及ぶ調査と解析の結果、名画「モナ・リザ」の下に眠る、下絵の存在が初めて明らかになりました。
イタリア語の「スポルヴェロ(spolvero)」という専門用語で知られる、木炭を用いたステンシル(あらかじめ用意された型を使用して文字やイラストをプリントする技法)とでも呼ぶべき技法でその下絵は描かれています。
人文系メディア「Journal of Cultural Heritage(ジャーナル・オブ・カルチュラル・ヘリテージ)」にその研究論文が掲載されたのは、2020年8月のことでした。
「今回の研究は、ルーヴル美術館の依頼を受けて始められたものです。リュミエール・テクノロジー社の高解像度マルチスペクトルカメラを用いて、モナ・リザのデジタルデータ化を行いました」という研究チームのコメントが、その記事で紹介されています。
高解像度マルチスペクトルカメラは、赤外線を照射することで絵画の表面だけでなく、あらゆる層の隅々まで解析を行います。その上で、特殊なアルゴリズムを用いて微細な痕跡を観測し、目に見えるものとして示すという重要な役割を果たします。
今回の調査によって「モナ・リザ」には、周到に計画された下絵があることが判明しました。ですが、そのことを“最大の発見”と呼ぶのは、少し違うかもしれません。なぜなら、この「モナ・リザ」に限らず、それに類する具象絵画の多くがさまざまな手法で描かれた下書きの上に成り立っていることは、すでに知られている事実ですので…。
むしろ、この絵画の最大の特徴と呼ぶべきポイントは、写実性の高さもさることながら、まるで生身の人間であるかのような生命力を見事に表現している点であると言えます。絵筆を持つ手の親指を定規のように用いることで、描き出す対象のスケールや他のモチーフとの位置関係などを、画家は正確に把握しています。
巨匠と呼ばれる画家たちの中には、それぞれが得意とする同じ構図を流用しながら、いくつかの“バージョン違い”とも言える作品を残しているケースが見受けられます。それらの構図が同じ絵を描く際に、過去の習作の絵の具を削り取った上に新たに描き直すことも珍しくありませんでした。
新たなパトロンのために肖像画を描くのであれば、得意の構図を用いようとするのは自然なことと言えるでしょう。その際に使われたのが、「スポルヴェロ」という技法だったということになります。
好みの作品が仕上がると、画家はそれを薄い羊皮紙などに写し取ります。その写し取った絵の線に沿って、木炭の粉を通すほどに小さい穴で点線を打ちます。そうして新たな作品を描く際の、アウトラインとして活用したのでした。
そしてここで登場するのが、赤外線反射型カメラの新技術です。光のビームを用いて、絵を破壊することなく光学的に「穿孔(せんこう:穴を空けること)」することで、ダ・ヴィンチが用いた「スポルヴェロ」の下絵を探り当てていくというわけです。
この調査についてアート専門誌「ArtNews(アートニュース)」は、次のように報じています。
「美術史家のパスカル・コッテ氏は、モナ・リザの手や頭髪のラインといった、比較的明るい部分に『スポルヴェロ』が用いられた痕跡を見つけ出しました。その痕跡をたどることで、ダ・ヴィンチがモナ・リザの頭部の角度を調整し、鑑賞者をより直線的に見つめているように描くことができるよう、構図を整えていたことが分かったのです。そして、例えばマドリードのプラド美術館に飾られているモナ・リザの複製を描く際にも、同じ『スポルヴェロ』が用いられた可能性があることが、この調査によって指摘されています」とのこと。
コッテ氏は「ArtNews」に対し、次のように語っています。
「1枚の傑作に基づいた複数のバージョンが存在することを明らかにするよりも、何年もの時間を費やして創作を続けた画家の作業が、どのように計画され、また繰り返されたものであったのかという、その“創造の謎”に迫ることこそ、より高い研究の価値があるのです」
Source / POPULAR MECHANICS
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。