アート界の異端児、バンクシーっていったいどんな人?
その正体、知らないほうがみんなのためなのでしょうか!?
素性を一切明かすことなく世界に驚きを与え続けるゲリラアーティスト、バンクシー。
その素顔は、私たちを挑発する天才アートテロリスト? はたまた正義に燃える心優しき、現代の鼠小僧なのでしょうか?
ベールに包まれたプロフィール
公式なプロフィールをほぼ何ひとつ明かしていない異例のアーティスト、それがバンクシーです。
生まれは1974年(あるいは1973年、1975年とも)、イギリス西部の港湾都市ブリストルの出身とされています。本人いわく、「本名はロバート・バンクス(Robert Banks)で、両親すらも息子がバンクシーとは知らず、画家とインテリアデコレーターだと思っている」のだとか…。
その神出鬼没ぶりから、コンビやグループの可能性もあると言われています。が、彼をサポートするチームこそ存在するものの、「バンクシー本人はひとり」とされています。こうしたミステリアスさが、余計に人々をひきつけるのかもしれません。
“中の人”はいったい誰?
明確な答えはまだ出ていないものの、1990年代の音楽シーンに欠かせないイギリスのユニット、マッシヴ・アタック(Massive Attack)のメンバーで、通称“3D”ことロバート・デル・ナジャ(Robert Del Naja・写真)がバンクシーの正体だという説がかねてから根強く存在しています。
ですが現在は、ブリストル州イエート出身のロビン・ガニンガム(Robin Gunningham)という男性こそバンクシーだという見方が有力なようです。ガニンガムの写真が載った卒業アルバムが、ネットでオークションにかけられたこともあります。
中学を退学させられアーティストに
中学時代に濡れ衣を着せられ、クラスメイトが大ケガを負ったとある事故の犯人にされてしまい、地元ブリストルの中学校を退学になったそう。
そこで14歳ころからグラフィティ活動をスタートさせ、最初はフリーハンドだったのですが、「警察に捕まらないようスピーディーに作品を完成させるため、ステンシル(型版)を使うようになった」と述べています。
2000年ごろから徐々に、その名を知られるようになってゆきます。
どんな作風で、どんな活動をしている?
消費社会や戦争、ブレグジットなどを題材にしており、既存のモチーフやよく知られたアイコン、有名人などを用いた鋭い風刺とユーモア、強い政治的&社会的メッセージが特徴です。
ステンシルを用い、スプレーペイントを世界各地に出没してゲリラ的に描き続けているほか、MoMAや大英博物館など各国の超有名美術館内に無断で自作を展示したことも…。しばらくの間、誰にも気づかれないまま放置されていたことで大きな話題となり、こうしたスタイルから彼を「芸術テロリスト」とも呼ばれています。
グラフィティ作品は消されることもあれば、壁ごと剥がされオークションにかけられることもあります。
本人は、「人々に議論を促し、社会問題に目を向けさせることがアートの役割」と語っており、グラフィティを通じて私たち民衆を啓蒙することが狙いのようです。また、チャリティー活動にも積極的で、地元ブリストルで展覧会を開いて現地経済を活性化させたり、各地の慈善団体や施設に寄付や作品の寄贈をしたりしており、さながら現代アート界の鼠小僧といったところでしょう。
アート制作以外にも、テーマパーク「ディズマランド(Dismaland)」や“世界一眺めの悪い”ホテル「ザ・ウォールド・オフ・ホテル(The Walled Off Hotel)」のプロデュース、アカデミー賞ノミネート映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(2010)の監督など、その活動は多岐にわたります。
なぜ正体を明かさないの?
世界的なアーティストとは言え、街の公共物などに落書きをするのは犯罪であり、もし逮捕され身元が明らかになってしまうと、これまでとこれからのすべてがムダになってしまいます。そのため、本人も捕まらないよう細心の注意を払っている様子ですす。
彼の故郷ブリストルにあるギャラリーのスタッフは、「彼の素性が明るみに出そうになったことが過去何度かあったが、ブリストルの住民はそれを防ぐために話し合い、行動した」「彼はサンタクロースのような存在。その夢を台なしにしたくないと、みんなが思っている」と語っており、地元民からは特にヒーロー的存在として親しまれているようです。
なぜ身元がバレていないの?
バンクシーが初期に活動をしていたころのブリストルは、ごく小さなコミュニティーだったため、彼の素性を知る人がいないはずはないと考えられています。
ではなぜ、その正体が今でもバレていないのかというと…もし誰かが彼の正体を明かしてしまったら、その人はバンクシーの身元を明かしたことで手に入れるものより、もっと大きな信頼や友人関係を失うことになるからではないでしょうか…。
…どうやらその正体、明かされないほうがみんなのためになりそうです。
セレブたちもとりこに
ブラッド・ピットやキアヌ・リーブス、ジュード・ロウ、マコーレー・カルキン、クリスティーナ・アギレラ、デザイナーのポール・スミスなど、各界にファンがいるバンクシー。ポール・スミスにいたっては、「20世紀で最も優れたアーティストだと思う」と太鼓判を押しています。
写真は2006年、LAで行われたバンクシーの展覧会『Barely Legal』のオープニングパーティーに訪れたブラピ。
偽物は許さない!
バンクシーの名が知られるようになってきた2005年前後から、なんと彼の贋作を販売する詐欺が多発。それを見かねたバンクシーは2008年、「罪のない人が騙されてしまわないように」と、「ペスト・コントロール(Pest Control)」という名の独自の認証組織をオンラインで設立しています。
ここで作品が本物か偽物かを鑑定(ストリートアート以外に限る)し、本物の場合は証明書を発行してくれるそうです。
ちなみに「ペスト・コントロール」とは、「害虫駆除」という意味。このネーミングセンスもバンクシーらしいですね。
保証書なしのバンクシーの作品を手に入れる機会がもし万が一あったら、ぜひともここで鑑定してください。
アート界を震撼させた大事件
バンクシーが手がけた作品の中で最も有名なもののひとつが、もともとは『Girl with Balloon(風船と少女)』と呼ばれていた『Love is in the Bin(愛はゴミ箱の中に)』。
2018年のサザビーズのオークションで、バンクシー作品では4番目に高い104万2000ポンド(約1億4200万円)という額で落札された。
ですが落札が決まった直後、額縁に仕込まれていたシュレッダーで絵の半分近くが細断されてしまうという前代未聞の事件が発生しました。アート界に激震が走り、バンクシーの名をさらに有名にすることになりました(しかし、出展するにあたり、サザビーズがこの仕掛けに気づいていないことのほうがおかしいのでは?という疑問もありますが…)。
結局、落札者はそのままの状態で作品を購入していますが、細断されたことでかえって価値が上がったと言う専門家もいるとか…。
バンクシー自身がオークション会場にいて、シュレッダーの仕掛けを作動させたという説もあります。その衝撃の瞬間は、バンクシー本人のインスタグラムでもチェックできます。
最高落札額は約13億円!
2019年10月、サザビーズのオークションで987万9500ポンド(約13億円)で落札された『Devolved Parliament』という絵(写真)が、バンクシーの作品における最高落札額。
420 × 250cmというその大きさや、現在の英国議会の没落ぶりを予言していたような内容に加え、前述の“オークションシュレッダー事件”がアート界に与えた大きな衝撃によって、これまでバンクシーに興味のなかったコレクターやギャラリスト、企業までも彼の作品を購入しようと大きな注目となったからの金額と言えるでしょう。
日本にも作品が!?
2019年1月17日に、小池百合子都知事が「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました!」と、写真付きでツイート。バンクシーの存在は、日本のお茶の間にも広く知られるようになりました。
公式作品集にも載っていることから、バンクシーのものである可能性が高いとされるこちら、現在は日の出ふ頭にある2号船客待合所(シンフォニー乗り場)で見ることができます。
待望の展示が横浜で開催
現在~2020年9月27日(日)、『バンクシー展 天才か反逆児か』が横浜アソビルにて開催中です。
本展では、前述の「ペスト・コントロール」が認証した本物の作品も見ることができます。
開催後は、10月より大阪やその他の地方にも巡回する予定なので、気になる人はぜひ足を運んで、バンクシーのミステリアスな軌跡をたどってみてください。