ロシア軍によるウクライナ侵攻に対して、スポーツ業界は一致団結して反対運動を起こしています。政治的・軍事的な観点から、「これはプーチンによる行き過ぎた行為」という流れをつくりだしています。

スポーツ業界が平和主義を訴えるためにとった措置のひとつに、国際柔道連盟(IJF)が現地時間2022年2月27日に発表した「プーチン大統領が務める名誉会長の職務を停止する」といったニュースもあります。他にもサッカーからバレーボール、ボクシングからテニスまで、世界各所のスタジアムが青と黄色に染まり、侵攻された国ウクライナに味方し、平和を求め、少なくとも何年も続いている紛争の外交的解決を再開するための停戦を呼びかけました。

ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアの首都モスクワ市内にあるクレムリン宮殿で、つまり自国でこのような反対運動が起きるとは予想していなかったかもしれません。それもロシアで最も有名で、象徴的で、成功したアスリートたちによって始められたという事実は、決して小さな仕返しではないはずです。

ここ数十年、ロシアがスポーツを政治的な武器としてどれだけ使ってきたか、振り返ってみてみてください。2016年夏のリオ五輪では開会前に、ロシアが国家主導でドーピング隠しをしていたことが発覚した問題は記憶に新しいことでしょう。

そんな背景の中、国内で反戦運動を主導したのは、元バレーボールナショナルチームのエースとして大活躍したエカテリーナ・ガモワと、直近のATP250 マルセイユ(2月13日〜同月20日)とATP500 ドバイ(2月21日~同月26日)で2大会連続優勝を果たしたテニス選手、アンドレイ・ルブレフの名前です。言わずもがな、この2人はロシアを代表するスポーツ選手です。

アスリート選手が
意見を発信する時代へ

ガモワは2メートルを超える高身長を武器に、ロシア・バレーボールの歴史をつくり上げた選手の一人です。彼女のダンクやサーブのおかげで、ロシア代表チームは2000年代のほとんどの期間で世界トップクラスの成績を収め、ワールドカップ2回、ヨーロッパ選手権2回、オリンピック銀メダル2個を獲得しました。海外から多くのオファーがあったにもかかわらず、常に国内でプレーし、一国の象徴となった人物です。彼女は、弾圧の恐怖にさらされながらも、ロシアのさまざまな都市の街頭で行われているデモに参加し、「私たちはこの戦争を支持していません」と訴えています。彼女はおそらく、スポーツ界で反戦を唱えた最初の人物でしょう。

「この恥ずべき1ページは、わが国の歴史に永遠に残るでしょう。ロシアには、この戦争に反対している人がたくさんいることを知ってください」と、自身のインスタグラムのストーリーズに投稿しています。

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また、東京オリンピック2020で金メダルを獲得したテニス選手アンドレイ・ルブレフも彼女の投稿をリポストし、賛同を示しています。さらにアンドレイは、ATP500 ドバイ(現地時間2022年2月24日)の準決勝でホベルト・ホルカシュを破った後、コートサイドの1台のカメラに「No war please(戦争はやめてください)」という3つの言葉を書いて世界中に発信しました。

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この力強いメッセージには、現在世界ランク1位のダニール・メドベージェフ(ロシア出身)や、エリナ・スビトリナ(ウクライナ出身)も共鳴。ここで世界は、スポーツ界と国の政治的リーダーシップの分裂を確認することができたのです…。

カレンダーを戻しましょう。2013年にロシア・モスクワで開催された第14回世界陸上競技選手権大会で、スウェーデンの女子走り高跳び代表のエマ・グリーン・トレガロは、ネイルをレインボーカラーに塗ることでロシアの同性愛者への支援を表明しました。このトレガロの会見の直後、女子棒高跳びで優勝したロシアの選手エレーナ・イシンバエワは、「私たちはさまざまな意見に寛容であり、同性愛を支持しようとしまいとそれは個人の自由。ですが、法が禁じている以上、同性愛を宣伝してはいけない。ここはロシアであり、欧米とは違います」「私は異性愛こそがノーマルであると考えている。男は女と共に生きて、女は男と共に生きる。それが人類が歩んだ歴史です」と語り、暗にトレガロを批判したと思える発言をしたのです。

当時、イシンバエワはソチ五輪をPRする「五輪大使」であり、ソチ五輪の「選手村村長」に任命されています。そんなわけで、プーチン政権の意向を強く反映しての行動と話題になり、波紋を呼びました。

世界陸上男子800メートルで銀メダルを獲得したアメリカのニック・シモンズは「優れたアスリートであり、教養もあるイシンバエワの発言とはとても思えない。信じられないし、ガッカリだ」と語り、メダルを同性愛の友人にささげると宣言、ロシアの反同性愛法への反対を表明した初の選手となりました。

しかし、これはもう9年の月日が経った昔話です。世界は変わり、ロシアも変わりました。特にアスリートは、選手それぞれが個人の意思を尊重し、発信できるようになったのです。

さらに、もう一つ確信できることは、プーチン大統領がこれまでのような人気や力をほとんど持っていないことです。2022年2月中旬に北京で行われた冬季オリンピックでは、フリースタイル スキー選手のオレクサンドル・アブラメンコ(ウクライナ)とイリア・ブロフ選手(ロシア)の抱擁が見られました。これがその最初のサインと言えるでしょう…。

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Ukrainian and Russian celebrate with hug at Beijing Olympics
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ウクライナで声を上げる選手

ウクライナにも世界中から愛され、尊敬されているチャンピオンがおり、彼らもすぐに発信しています。そのうちの一人は、元プロボクサーで現キエフ市長のビタリ・クリチコです。彼は兄のウラジミールとともにボクシング界を2000年代の大半、支配していました。どちらも史上最強の重鎮の一人ですが、特にビタリは2014年からキエフ市長を務めており、国内で最も人気のある政治家の一人です。国内で愛され、海外でも有名な彼らは躊躇することなく軍服を着用し、2メートルの高さに広がるその姿は“侵略への抵抗”の象徴となったのです。

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左がビタリ・クリチコ、右がその兄ウラジミール・クリチコ。

「私たちはこの国で育ち、友人も家族もこの国にいます。離れることはできませんし、選択の余地もありません」 と話すのは、世界のボクシング界の王と呼ばれるワシル・ロマチェンコです。1度は家族を連れてギリシャに避難していたロマチェンコですが、現地時間27日に、単身で母国に戻って領土防衛軍に入ったことを報告しています。さらにもう一人のボクシングのスター、ロマチェンコの友人で現ヘビー級チャンピオンのオレクサンドル・ウシュクもウクライナへ戻り、軍服を着た姿が撮影されています。

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ウシュクはプーチン大統領に敵対行為の停止と交渉を直接求め、SNSでメッセージを送っています。「あなたの子どもたちを、私たちの国へ送らないでください。私たちと戦わせないでください。ウラジーミル・プーチン大統領に申し上げます。あなたはこの戦争を止めることができます。われわれと交渉してください」と…。

サッカー界はロシアを出場停止に

さらにこの流れは、サッカー業界にも同様に広がっています。元ACミランのエース、アンドリー・シェフチェンコはロンドンのトラファルガー広場でデモを行い、ユヴェントスなどに所属していた元選手のパベル・ネドベドはチェコ政府に平和的解決のための仲介を依頼しました。ヨーロッパ中のスタジアム、すべてのリーグで、ウクライナの国旗、ウクライナ人への支援要請、プーチン大統領への軍隊撤退を訴える横断幕が見られました。

ポーランド代表のキャプテンであり、サッカー界を象徴するメンバーの1人であるロベルト・レヴァンドフスキは、FIFAワールドカップカタール2022欧州予選でポーランドサッカー協会(PZPN)が、ロシア代表との対戦拒否したことに対し賛同の意を示しています。そして現地時間2月28日に、国際サッカー連盟(FIFA)はロシアを大会から除外し、当面の間すべての国際大会でロシアの各クラブの出場を停止すると発表しました。

バスケットボールも同様で、ユーロリーグはロシアのクラブに対する全面的な対策を検討しており、一方でソチでのグランプリやロシアでのチャンピオンズリーグ決勝戦は中止となりました。

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今日、スポーツマンが社会的・政治的な意思を積極的に示すことは、ソーシャルメディアの普及によってとても簡単になりました。

この観点からすれば、2016年8月26日に行われたNFLプレシーズンマッチで、「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」として試合前の国歌斉唱時にベンチで座ったまま立ち上がらず、起立を拒否したコリン・キャパニック(当時サンフランシスコ・フォーティナイナーズのエースQB)の行動が、史上最も重要な瞬間と言えるでしょう。彼は当時こそ批判の対象になりましたが、歴史が彼の正しさを証明しています。

この直近の数日間、プーチン大統領はポーカーフェイスを貫いています。が、テニス選手やサッカー選手、ボクサーやスキーヤーなどの内外の猛攻を受けたことで、想像しているよりもはるかに、きっと…彼はダメージを受けているに違いありません。

Source / ESQUIRE IT
Edit / Mirei Uchihori
※この翻訳は抄訳です。