オークションサイトで映える車の写真は、一体どうすれば撮ることができるのか? そして、カメラマンは実際どのような機材を使っているのでしょうか? そんな疑問を米オークションサイト「ブリング・ア・トレイラー(Bring a Trailer)」の専属カメラマンの一人、テディ・パイパー(Teddy Pieper)さんに訊きました。そんな彼は、10年以上前から自動車関連の商業写真とビデオ撮影を専門とし、販売中のコレクターカーからビッグブランドのデスティネーション撮影、イベントビデオ撮影、モータースポーツまで、あらゆるものを撮影しています。そんな彼のこれまでの仕事はダイジェストとしてサイト「ベロシティ・コンセプト(Velocity Concepts LLC)」で公開されています。
「Bring a Trailer」と言えば、オンライン・オークションサイトであると同時に、カーマニアたちのコミュニティとしても人気です。出品されるクラシックカーやコレクターズカーをより魅力的に見せるための撮影テクニック、そしてお気に入りの機材まで、プロカメラマンならではの秘訣をご紹介します。
編集部:まず、どのような経緯で「Bring a Trailer」の仕事を始めたのかをお聞かせください。
テディさん:オークションサイトになる以前の「Bring a Trailer」(以下BaT)は、ランディ・ノネンバーグ(Randy Nonenberg 編集注:サンフランシスコ在住の、同オークションサイトの創始者。ブルームバーグで「ネット上で最もクールな自動車マニア」などとも評されたこともある)が個人的に運営していたブログサイトでした。私はその頃からランディの自動車記事のファンでした。そうしてBaTはオークションサイトとして起業します。一方、その当時の私は数年間にわたって、RMサザビーズや自動車オークションサイト「ミィーカァム(Mecum)」などのオークションハウスで自動車カメラマンとして働いていました。
のちにBaTがカメラマンを募集していると聞き、すぐに応募しました。同サイトが「White Glove」というプレミア会員向けのサービスを立ち上げるタイミングで、初仕事となりました。その流れで、「White Glove」の出品者の方々を個人的なクライアントとするようにもなりました。
▼テディさんが撮影した車の写真
編集部::撮影する際の手順を教えてください。車の魅力を引き出すために、気をつけていることはありますか?
テディさん:私が撮影する車の9割ほどが、売り物もしくはこれから売り物となる車両です。なので、背景はなるべく目立たないように抑えめにして、車自体に目が向くようにすることが重要です。
もちろん、背景に他の車が写り込んでしまうような場所はNGです。ですが、撮影現場に制約があることも珍しくありません。オーナーが車を遠くまで移動させるのを嫌う場合には、自宅での撮影を求められることになります。そんなときには、限られた条件下で可能な限り見栄えを良くする必要があるので、公道をロケーションに選ぶことが多くなります。
キャノン「RF 70-200mm F2.8 L IS USM」のような望遠レンズがあれば、背景をぼかして焦点を絞り込むのに役立ちます。1日のうちに15~20台もの車を撮影しなければならないこともあり、柔軟性と適応力とを失わないことを常に意識しています。
日中の明るい環境での撮影なら、Polar Pro(ポーラープロ)の偏光板やNDフィルターなどを使用します。NDフィルターを使えば、レンズに入る光量を減らすことができます。フロントガラスやメッキパーツ部分の反射やハイライトは偏光板で抑えつつ、直射日光の影響を上手く回避するように心がけています。
編集部:BaTの撮影で、特に重用するカメラやレンズはありますか?
テディさん:私自身はキャノン派で、ミラーレス一眼の「EOS R5」をメインに使用しています。カメラはどのメーカーのものでも良いと思いますが、私の場合、ボタン類の配置という点でキャノンとの相性が良いようです。
より重要なのはレンズでしょう。背景をぼかしたり、光量の不足した状況でより明るい写真を撮る必要に迫られることは多々あり、そのため開放(絞りを最大に開いた状態)で撮影することが多いです。車の外観を撮る際には通常、先に述べているキャノン「RF 70-200mm」というレンズを使用します。インテリアの撮影になると、ズームレンズが便利です。単焦点レンズを使うことはあまりありません。気に入っているのはキャノンの「EF24-70mm F2.8L II USM」です。持ち歩くのにも最適なレンズで、車の内外を問わず、どのような撮影にも向いていると思います。
編集部:撮影のためのロケーション選びは? その他にも何か気に留めておくべき要素はありますか?
テディさん:とにかく広い場所で撮影するようにしています。森林地帯や駐車場は、車にあれこれ反射して写り込んでしまうので、できれば避けたいところです。なるべく開放的なロケーションが理想です。ですが最近では、「生活の匂いを感じられるシチュエーションで撮影をして欲しい」と、オークションサイトから求められるケースも増えてきました。
車の個性と背景の雰囲気とをマッチさせるのは重要で、そのための努力は惜しみません。ここは直感がものを言います。
編集部:撮影後の編集や補正処理などにも工夫すべき点はありますか? ソフトウェアは何を使っているのでしょう?
テディさん:写真のデータ整理には、「Photo Mechanic(フォトメカニック)」を使っています。そこから「Adobe Photoshop Lightroom(アドビ フォトショップライトルーム)」に取り込むという手順になります。編集はほぼ「Photoshop(フォトショップ)」です。オークション用の車両の場合、その状態をできる限り正確に表現しなければならないので、編集や補正は最小限に留めるようにしています。
広告写真の撮影の際には編集の幅も広く、それもまた楽しみの一つですね。最近ではスチル写真だけでなく、宣材用の動画撮影などを行う機会も増えました。「Canon Log(キヤノン仕様のLogフォーマット)」で高画質な4Kの動画を撮影し、「Adobe Premiere Pro(アドビ プレミア プロ)」で色調補正などの処理を行っています。
編集部:バイヤーにとって気になるディテールなどを撮影するには、具体的にどのような点に注意すれば良いのでしょうか?
テディさん:その車ならではの特別なパーツがあれば、間違いなく撮影しておきたいところです。BaTには200種類ほどのストックフォトのリストが常備されています。ヘッドライトのクローズアップ、ホイール、ミラー、ハンドル、フェンダー、バンパー、テールランプ、エンブレム、フロントガラス、ボンネットなど、細かく分類されています。
基本的には、車の周囲を歩き回りながら、撮れる限りのアングルを撮影します。特にBaTに出品するオークション車両の場合には、傷などあればそれも記録しておく必要があります。バイヤーは実車を見ずに購入を決意しなければならないのですから、できるだけ、ありのままの状態を写真で確認できるようにしておきたいですよね。
編集部:自動車写真というジャンルで気になるカメラマンがいれば、ぜひ教えてください。
テディさん:写真を撮るようになったときから、クリント・デイヴィス(Clint Davis)の写真には刺激を受けています。他には、ジョッシュ・ブライアン(Josh Bryan)は「The Image Engine/イメージエンジン」の写真も素晴らしいですよね。彼の撮ったポルシェ「911R」の写真なんて、本当に最高です。常に良い写真を撮るカメラマンです。
また、ジェレミー・クリフ(Jeremy Cliff)とアレックス・ベルス(Alex Bellus)の二人には、いつも相談相手になってもらっています。あとはRMサザビーズの専属カメラマンのダリン・シュナーベル(Darin Schnabel)を忘れるわけにはいかないでしょうね。
編集部:テディさん自身の写真やこの先のプロジェクトについては、どこをチェックすれば見ることができるのでしょうか?
テディさん:BaTのサイトから「vconceptsllc」で検索すれば、私が撮影してきたさまざまな車をご覧いただけますよ。個人サイトはつくり直している最中ですが、インスタグラムにはときどき投稿しています。
Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です