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トヨタ自動車は高級車ブランド「レクサス」の
最上級クーペ「LC」を3月16日に
全国のレクサス店で発売した。
セダンやSUV(多目的スポーツ車)に加え、
車好きが多いスポーティーなクーペの
ラインアップも充実させることで
顧客層のすそ野を拡大させる狙いだ。
ライバルに見据えるメルセデス・ベンツ、
BMW、アウディのドイツ高級車”ジャーマン3”を追撃する。

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レクサスの最上級クーペ「LC」。FR(前エンジン・後輪駆動方式)でスポーティーな走りを実現した。 Photography/尾形文繁

レクサスLC

 LCはトヨタの新しい設計手法「TNGA」に基づいたFR(前エンジン・後輪駆動方式)車用の新型プラットフォームを初めて採用した。エンジンの位置を従来に比べて80ミリほどずらすなど重量物を車両中心近くに配置したうえ、炭素繊維強化プラスチックやアルミ部材の積極的な採用によって100キログラム軽量化。低重心で気持ちのいい走りを実現した。

 ガソリン車「LC500」(V型8気筒、排気量5.0リットル、10速AT)と、ハイブリッド車「LC500h」(V型6気筒、排気量3.5リットル)を用意。全11色をそろえ、価格は1300万円~1450万円。販売目標は世界全体で月550台。うち国内は50台で、すでに事前受注が1100台あるという。

当初、開発予定はなかった

 LCの原型は2012年の米デトロイトモーターショーで公開したコンセプトカー「LF-LC」まで遡る。レクサスインターナショナルの福市得雄プレジデント(トヨタ自動車専務役員)は「レクサスを唯一無二のブランドにしていくために、マーケティングリサーチとして提案してみたが、当初開発予定はなかった」と明かす。だが、その斬新なデザインへの反響が大きく、「豊田章男社長含めて社内で出しましょうとなって開発に踏み切った」という。

 生産へのこだわりも強い。従来の大量生産ラインとは大きく異なり、元町工場(愛知県豊田市)にLC専用の組立ラインを新たに設置。床面や天井は白一色にして作業しやすい環境を整備した中、レクサス技能認定を特別に受けた熟練技術者が、時間をかけて1台ずつ手作業で組み立てる。また品質確保のため、一人一人の作業工程をタブレット端末で確認するなど、新たな生産システムも導入した。

 レクサスの歴史は、1989年に米国で発売した最高級セダン「LS」(日本名は当時セルシオ)からスタートした。LSに続き、ラグジュアリーSUVの草分けである「RX」やハイブリッド車も積極投入し、高級車ブランドで後発ながら北米で一定の地位を確立した。日本でも2005年から事業展開するなど、今では世界90カ国でレクサスブランドを投入している。

世界販売は4年連続で過去最高

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「LC」は新プラットフォームを採用。エンジンの位置を変え、重心を車体の中心に近づけた。 Photography/尾形文繁

 こうした新車のラインアップ拡充が奏功し、レクサスの2016年販売台数は国内で初めて5万台(前年比8%増)を突破して過去最高を記録。全世界でも前年比4%増の67万台超と、過去最高を4年連続で更新した。最大市場の北米では原油安でピックアップトラックなど大型車へのシフトが進み、前年比4%減の35万台と苦戦したものの、LXやRX、NXのSUV群が牽引した中国では、前年比25%増の11万台と初めて10万台の大台を突破した。

 
  レクサスの福市プレジデントは「品質とサービスで評価してもらっている」と自信を示す。実際、レクサスは米J.D.パワーが2月に発表した「2017年米国自動車耐久品質調査」で1位を6年連続で獲得。新車購入者からの不具合指摘件数が最も少なかった。同率で1位だったのはドイツ高級車メーカーのポルシェ。3位はトヨタ、4位はビュイック、5位はメルセデス・ベンツだった。

 だが、順調にみえるレクサスも北米市場が販売台数の過半を占めており、強い地域は偏っている。日本では2016年に6万台を超えたメルセデス・ベンツやBMW(MINIも含む)の後塵を拝し、自動車が生まれた本場の欧州市場でも台数を伸ばしてはいるものの、ドイツ勢が席巻したままで、レクサスの存在感は低い。

五感に訴えるクルマ作りが必要

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レクサスインターナショナルの福市得雄プレジデントは「新しい方向性を示せた」と語る。 Photography/尾形文繁

 そこを突破するには、品質やサービスだけでは難しい。ジャーマン3に比べて劣っているとの指摘がある感動やデザイン性など“五感”に訴える部分を磨くしかない。福市プレジデントも「車は止まっている限り品質は問われない。だが、止まっていてもメッセージが出せるのはブランド力。ジャーマン3は歴史の長さやストーリーとも重なって、メッセージを出せている」と認める。そのうえで「ブランドイメージを向上させていくためには、車両を変えないと変わっていかない。今回は新しいレクサスの方向性を示せた。皆様の心を動かす車になったと自負している」と胸を張る。

 エモーショナルなブランドになるには、台数規模が少なくてもLCのようなラグジュアリークーペが必要だったレクサス。「BMW6シリーズ」や「ポルシェ911」をベンチマークしたという。

 2017年はレクサスのフラッグシップセダン「LS」も約11年ぶりにフルモデルチェンジする。新たなストーリーを作ることはできるか。今後のレクサスを占う試金石の年となりそうだ。

冨岡 耕 :東洋経済 記者
2017年3月19日
「レクサスが「最上級クーペ」にこだわる理由」