映画『アバター』とメルセデス・ベンツ?

メルセデス・ベンツは2022年11月、映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のプロデュースチームと共同で、『アバター』の生みの親であるジェームズ・キャメロン監督がカリフォルニアに構えるスタジオに数名のジャーナリストを招いています。『ターミネーター』や『エイリアン2』、『タイタニック』などの撮影に用いられたセットが並ぶそのスタジオで新作映画のクリップ映像が披露され、同時にメルセデス・ベンツ「ヴィジョンAVTR」のコンセプトカーの試乗会も開かれました。

新作映画のクリップ映像を見たうえでまず明言しておきたいのは、「ジェームズ・キャメロン監督は現在の映画界において、最も信頼のおける投資先である」ということです。クリップはかなりの出来栄えでした。とは言え、青い巨人たちがそこかしこを泳ぎまくる架空の世界を舞台にした映画とメルセデス・ベンツとの関係は、一体どの程度の深さなのでしょうか?

「誰もが環境に応じて行動を変化させます。一度『アバター』の世界を歩いてみれば、そのような変化をおのずと感じることができるでしょう。手を触れることで光が放たれる、言わば「バイオルミネッセンス(生物発光)」です。自動車が環境に及ぼす影響もまた同様である、と言えるでしょう」

このコメントの主は、本作プロデューサーの一員として名を連ねるジョン・ランドー氏です。関係がわかりましたでしょうか?

メルセデス・ベンツが描く未来のカタチ

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ヴィジョンAVTR」が、未来的であることに異論を挟む余地などありません。サイドインパクト・ドアビームなど、まさに未来そのもの。シートベルトを過去の遺物へと押しやり、タイヤにまでもアクセントとなる照明が装備され、小型のフラップドアはエラのように開閉します。そして、荷室はほとんど用をなさない…そんな未来のイメージです。

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ROBIN TRAJANO

実車とは別に用意されたコックピットのサンプルを使って披露されたのは、メルセデス・ベンツが構想している新技術の数々でした。例えば、頭上のプロジェクターにより一個の発光体と化したダッシュボード全体が総合的な情報ツールになります。また、運転席と助手席の間に位置するコントロールバーを前後左右に動かすことで、車を操縦することも可能です。

「ヴィジョンAVTR」は、既存のメルセデス・ベンツやEVをベースにして設計されたものではありません。巨大なホイールの半ば内部に、4基の電動モーターが搭載されています。4つのホイールとモーターがそれぞれ独自に稼働するため、蟹のように横向きに走ったり、自由に旋回することも可能です。

ただしこの「ヴィジョンAVTR」の仕様が現実的なものであるのか? それとも、ただの願望に過ぎないのか? その点は「やや曖昧」と言わざるを得ないかもしれません。確かなことは、「4基のモーターによって生み出されるのは、350キロワットを活かした469馬力以上の出力である」という点です。

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ROBIN TRAJANO

バッテリーパックには現在の業界標準となっているリチウムイオンではなく、有機合成を特徴としたグラフェン電池が採用されています。これなら、レアアースや有害物質などを一切使用せずに製造することが可能です(おまけにリサイクルも可能です)。メルセデス・ベンツの見立てでは、100キロワット時の容量を持つバッテリーの充電時間はわずか15分程度とのこと。

そして、遂に試乗

そして遂に、私(この記事の著者、米国カーメディア「CAR AND DRIVER」のジョン・ハフマン氏)の試乗体験です。実車に乗り込みカリフォルニアの太陽の下を快調に走らせながら、私はとあることに気づきました。ガラスに限らず透過性のあるパーツが多いためか、太陽電池が調子よく充電されていくのです。

サスペンションはまだ開発途上、タイヤは乗り心地よりもビジュアル重視ということで、スタジオ内の敷地を走る「ヴィジョンAVTR」はゴルフ用カートのようにガタガタと振動してしまいます。ですが、前部座席の中央に配置された操縦レバーの操作性には大いに感心させられるものがありました。そう遠くない将来、互いに交信しあう車が人工知能に操られるようになれば、ドライバーに必要なのはこのうようなレバー1本ということになるのかもしれません。

もちろんこの「ヴィジョンAVTR」が、“来るべき未来”を正確に映し出しているとは限りません。青い巨人たちの住む惑星と行き来できるようになるとも思えません。でも、そのような想像を働かせることこそが、未来に向けての楽しみと言えるでしょう。現状、あらゆる可能性は否定することはできないのですから…。

映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は12月16日から公開され、早くも話題を集めています。しかしながら劇中に、この「ヴィジョンAVTR」が登場するようなことはありませんので、その点については期待しないでください。

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です