首脳会談後の会見も、インディアナ州インディアナポリスにあるフェデックスの施設で銃乱射事件が起きた翌日であったため、バイデン大統領に対しての質問は、会談とは全く関係ない銃規制問題についてだった。
そして一方、菅首相に対して投げられたのは「公衆衛生の観点から疑問視されるなか、オリンピックを開催するのは無責任ではないか」という質問だが、これに首相が答えずに終わってしまった。
アメリカでは新型コロナウイルス・ワクチンの投与が急激に広がっていて、ニューヨークでも人出が増えつつあるが、その一方、銃撃事件やアジア系に対するヘイトクライムが頻発している。その現状をリポートしよう。
先日、ファイザー社のコロナワクチン二回目の接種を終えてきた。
全米では延べ2億万回の接種が行われ、ニューヨークでは610万回が接種（2021年4月26日時点）。ニューヨーカーのうち約46%が少なくとも一回の注射を、必要回数の接種を完了した人は約32%に達している。
アメリカでは昨2020年12月から始まったワクチン投与だが、当初は遅遅として進まなかった。それが政権交代1カ月後から、ロジスティクスが整って驚くほどのスピードでワクチン接種が進むようになった。
バイデン大統領は就任時に、ワクチン接種を就任100日以内に2億回実施するとの公約をしたが、公約より1週間早い期間で達成した。
ワクチン投与は75歳以上から始まったのだが、4月頭には一気に30歳、さらに16歳以上という条件にまで広がった。
接種会場も病院のみならず、ドラッグストア、またニューヨークではジェイコブ・ジャヴィッツセンターという巨大な展示会場も利用されている。移動式で接種をするワクチンカーも登場したし、現在ニューヨーク市では50歳以上であればアポイントなしで直接サイトにいっても接種を受けられる。
ニューヨークでは、昨2020年春にコロナ禍で死者が増え、遺体を葬儀場で引き受けられないために、病院には冷凍保存できる大型冷凍コンテナが設置されていた。そのときの絶望的な眺めを忘れられない。
それだけ悲惨な状況を経験したニューヨークでは、感染を広めないためにできる対策として、ワクチン接種には住民も積極的だ。
デブラジオ市長の会見によると、現在における新型コロナウイルス感染症の70％以上が変異株に起因する。そのうちB.1.1.7（英国種）が 約30％、B.1.526（ニューヨーク市種）が約45％であり、従来の株よりも感染率が高く、市内全域で増加している。世界中で変異種が増えていると言えるだろう。
現在までの接種状況をみると、マンハッタン在住者の接種が多く、また白人、そしてアジア系の接種が進んでいる。
反対に黒人の接種率が低い。黒人層については、1930年代から70年代にかけて、タスキギーで黒人に梅毒実験が行われ、治療されなかったという、悲惨な歴史があって、政府に対する不信感が強いという背景がある。
このあたりの格差があるのだが、ピューリサーチセンターの調査によると、昨年11月の時点では、「ワクチンを打つつもりだ」と答えた黒人は42％だったが、今年3月にはそれが61％にまで増えている。
アメリカ全体でいうと、保守派エヴァンジェリカル（福音派）のキリスト教徒たちに宗教上の理由から反ワクチン派が多い。米国カトリック司教協議会では、ワクチンを打つことを「私たちの隣人への愛の行為であり、公益に対する私たちの道徳的責任の一部と見なされるべき」として許容しているが、「副作用」より「福音」が障害になるあたりがアメリカだ。
また支持政党別でいうと、PBS NewsHourの調査では、共和党支持者の41%がワクチン接種をするつもりがないと答えている集計もある。本来、ワクチン接種と支持政党は別問題なのだが、いまだにトランプ前大統領が新型コロナウイルスを軽んじた影響が根強いようだ。
おかげでイヴァンカ・トランプ氏がインスタグラムで、自身がワクチン接種を受けたポストをアップしたのだが、そこには「なぜ？」「自分は絶対にノーだ」といったネガティブなコメントがフォロワーから山ほどついてしまったのだった。
また、熱心なトランプ前大統領の支持者であり、全米ライフル協会の幹部であり、銃規制に反対の立場を取るロックミュージシャンであるテッド・ニュージェント氏は、「コロナのパンデミックは偽物」と言い続けていたが、自身が罹患したことを告白。
「死ぬかと思った。数日間、ベッドから這い出ることもできないほど苦しんだ」と語り、新型コロナウイルス陽性になったことを発表した。ただしワクチンについては、「何が入っているかわからない」と接種するつもりはないようだ。
その理由が宗教心であれ、あるいは反ワクチン主義であれ、ワクチン接種を受けようとはしない人々が一定数いるのは確かなことであって、4月末時点に来て、全米でのワクチン接種スピードが鈍化している。集団免疫ができるのは、75%くらいの人々が感染するか、ワクチン接種を受けるかして抗体を持つこととされているので、この先どのくらい広げられるかがポイントになるだろう。
私自身はマンハッタン市内の病院で接種を受けたが、申し込みはオンラインで行った。オンラインのサイトに行って、予約可能なスロットがあれば申し込めるのだが、これがタイミング勝負であって、例えば「今は受付なし」とか「明日700スロット可能」とか「明日10スロット可能」といった表示が刻々と移りかわる。
私自身が予約した時は空きスロットがあれば、数時間後には全部が埋まっているといった具合だったのだが、若い層まで枠が広がった途端に争奪戦となり、秒殺でスロットがなくなるようになった。
たまたまサイトをチェックしたときに「空きが2枠」とあったので、予約が取れていなかった友人の分を予約できたこともある。
申し込みの時点では、年齢の他に、既往症を書き込む欄があり、疾患を持っている人、またレストラン従事者やエッセンシャルワーカーも優先的に受けられる。
第一回目の接種の時には長蛇の列となっていた。まず窓口では、写真付きIDの提出を求められる。あらかじめメールでは疾患を持っている人は医師の証明書を持参し、エッセンシャルワーカーも証明が必要という指示があったのだが、窓口ではIDと住所確認のみであって、証明書の提示は求められなかった。
既往症のある条件に当てはまっていなさそうな若者たちも多く来ていたが、それをいちいち調べたり、断ったりするよりは、とにかく多くの人にスピーディにワクチン接種を広めようとする姿勢が感じられた。
そこから接種ブースへと進む。ここでは担当看護師によって、「アレルギーがあるかどうか」「この2週間以内にワクチンを打ったかどうか」「妊娠しているかどうか」といった質問がなされる。それから注射を行うのだが、これがいつ刺したかわからないほど、まったく痛みがなかった。
「打った箇所を揉まないように」と指導されて、つぎに待機場所に移動する。
ここでは15分間、経緯を見守るために椅子に座って待つことになっている。15分が経つと、名前を呼ばれて出る許可を与えられる。この時点で2回目の接種日を予約できる。そして15分経って問題なければ退出してよく、出口で今いちどワクチン接種のカードをチェックされて終了だ。
これらすべての行程が、スムーズに進められているのには感心した。ふだんアメリカの郵便局もスーパーのレジも、非常にモタモタとしていて効率が悪い。ところが今回のワクチン接種ではゴールに向かって一丸になって取り組んでいて、驚くほど合理的にプロセスが進んでいるのが感じられた。
しかも2回目の接種のときには、行列が全くなくてガラガラだったのだが、その理由を看護師に訊いてみると、「予約時間に関係なく、みんな自分にとっての都合のいい時間帯に接種に来るんです。朝か夕方に集中しますね」との答えだった。
予約時間を守らないで来ること自体が、日本人の感覚からすると信じがたいが、実際に接種にあたっている看護師に質問してみると、「その日に確保したワクチン数を余らせないのが一番大事。断りなく現れないのが一番困るので、予約時間はあまり関係ない」との見解だった。
ワクチン接種を進めるために、ほとんどの企業ではワクチン接種の翌日に病欠を取ってよく、またマクドナルドやターゲットなどの企業では、ワクチンを接種した社員にインセンティブを支払うようにしている（マクドナルドでは、接種日に4時間の有給休暇を提供。ターゲットでは、接種1回につき2時間分の給与と交通費を支給するなど、社会全体でワクチン接種を推進しようという動きを見せている ）。
面白いサービスとしては、ワクチン接種済みを示す「ワクチン・カード」を提示すれば、「クリスピー・クリーム」ではドーナッツを一日一個無料でくれ、これは年内いっぱい続けられる。
また変わったところでは、ワクチン接種者にマリファナを無料で提供というサービスも、ユニオンスクエアで行われた。果たしてこれで、ワクチン接種が進むのかはわからないが、アメリカならではだ。
ニューヨーク州では「エクセルシオール・パス」（Excelsior Pass Wallet）というアプリが出され、ワクチン必要回数完了後2週間経ってから登録できる。これがワクチン接種済みや検査の陰性を示すデジタル証明書となり、今後さまざまなイベントやライブ、移動といった場面で活躍されそうだ。
さて、気になるのは、ワクチンの副反応だろう。大きなニュースとなったのが、ジョンソン＆ジョンソン（J&J）製ワクチンの一時使用停止だ。
全米ではすでに700万人近くが、このJ&J製ワクチン接種を受けているが、そのうち6人に血栓を伴う障害を発生したことから、米疾病対策センター（CDC）と米食品医薬品局（FDA）が警告を発して、ニューヨーク州でもただちにJ&J社ワクチンの使用停止となった。
なおニューヨーク市でJ＆J社ワクチン接種を受けた23万4000人については、血栓のケースはまったく報告されていない。私はファイザー社ワクチンを接種したが、一回目は打った箇所が筋肉痛のような痛みになり、これは2〜3日で消えた。
2回目の接種の時に副反応が出やすいというので、覚悟して注射を受けたのだが、翌日には、頭がぼんやりとして、だるい感じがあった。風邪の引き始めというよりは、ちょうど病みあがりのような疲労感というのだろうか。眠くてたまらず、この日は長時間の睡眠を取った。
それが翌々日には、「抜けた」と表現するにぴったりな感じで不快感が消えて、ふだん通りの体調に戻ったのだった。
ワクチンの副反応は、女性のほうが副反応は出やすく、また免疫反応がしやすい若い層ほど抗体ができているために、二回目の接種で、より副反応が強く出るとされている。とはいえ、人さまざまだ。
乳幼児睡眠コンサルタントである愛波 文さん（38歳）はニューヨーク在住で、すでにファイザー社のワクチンを2回接種している。
愛波さんはコロナ禍が始まった頃から、前線でコロナ感染患者の医療に係わっている友人の医師、安川康介内科専門医/感染症専門医に、一般人が持つ疑問をぶつけて答えてもらうという公開オンラインセッションを続けてきている。まだ治験の少ないワクチンに対する不安の声もあるものの、愛波さんが接種を決断したのは「打たなくてコロナに感染した時のリスクを考え、家族だけでなく、妊娠している友だちや基礎疾患を持っている友だちが感染して欲しくないからワクチン接種を選びました」と語る。
安川医師は、「こびナビ」で新型コロナウイルス感染症やワクチンに対する知見を公開していて、それを参考にしているという。
愛波さんは、「一回目の接種後は痛みも全くなく、少し腕が重いぐらいでした。ワクチン接普通に当日お酒も飲んだし、次の日はランニングもいきました。2回目は針を刺した時にちょっと出血しましたが、たまたま筋肉内の血管に当たったようです。翌朝は腕が重いくらいだけど、（腕は）上がりました。あとは眠い、お腹が空くといった感じもありましたが、ふつうにお弁当をつくり、ふつうに仕事をしました」と経験を語る。
愛波さんは感謝の気持ちを表して、一回目二回目とも接種時に医療スタッフに100個ずつドーナツを差しいれたそうだ。
彼女はほとんど副反応がなかったケースだが、反応については人それぞれだ。幾人かの実例を挙げてみよう。
■JKさん（55歳）
ファイザー社ワクチン
「1回目のときは、熱は全くなくて疲労感がすごい感じ、ある意味ハイなボーっとした感じでベッドに吸い込まれるように身体がだるい感じでした。完全復帰まで5日間かかりました。何やら新しい奴が細胞に入って来たぞって、身体が教えてくれている感じがありました。ですが二回目は、ああー、また奴かって感じで体が慣れてきた感があり、翌々日にはすっきりしました。腕の痛みさえもない感じでした。水をたくさん飲んだのもよかったのかもしれません」
■HYさん（60歳）
ジョンソン＆ジョンソン社ワクチン
「1回で済むジョンソン＆ジョンソンのワクチンを選びました。接種はジェイコブ・ジャコヴィッツセンターでした。接種後に、注射の後が痒くなったくらい。友だちでもJ&Jのワクチンを選んだ人は多く、ひとりだけ接種後に頭痛を覚えた人がいました。あれこれいわれているJ&Jワクチンですが、12カ月後にまたワクチンを接種するとしても、またJ&Jを選ぶと思います」
■MHさん（55歳）
モデルナ社ワクチン
「1回目は“モデルナ・アーム”といわれる、接種した位置を頂点に、その下に向かって上腕に広範囲の赤くて硬いパッチが出ました。これは10日くらいで赤みと硬い腫れが一気に消えました。2回目は午前10時20分に接種、午後8時頃から腕の痛みと倦怠感が出始め、その夜中2時に微熱、頭痛、身体の痛みで目が覚めました。熱は華氏100.3（摂氏およそ39.9）だったと思います。ここからずっとこの状態がつづき、24時間目の翌日午後8時に少し副作用が軽くなった感じがあり、30時間後の午前2時に熱が引き、36時間後の翌朝8時には突然頭痛や身体の痛みなどに不快感がスーッと消えて、薬がいらないと思える感じになりました。結果としては接種日とその後2日まるまる、何もしないで寝て過ごしました。またリンパに腫れが出て、特に接種した左側の鎖骨の上に瘤ができて、左脇や左胸も腫れて痛みがありました」
■TYさん（54歳）
ファイザー社ワクチン
「以前、アフリカ旅行に行く際に必須のワクチン接種をしたら、副反応がひどかったので、ためらいもありました。しかし実際に受けてみると、特に副反応はありませんでした。2回目の接種後がつらいと聞いていたので、鎮痛解熱剤も用意しておきましたが、問題は起こらず。しいて言えばしいて言えば、よく寝ました。寝ておきたら、スッキリという感じでした。私はもともとインフルワクチンをしない派ですが、今回は人体実験承知でしないと、今後に未来がないと思って受けました」
■YKさん（43歳）
ファイザー社ワクチン
「1本目は、翌日から腕に筋肉痛のような重い痛みがあったのみでした。2回目を打ったあとは夜から頭痛が始まり、翌日は朝から頭痛と吐き気の二日酔いのような症状に摂氏38度台の熱。解熱剤を飲んで一日中寝ていました。腕の筋肉痛は一切ありませんでした。それも2日目には引きました。少し副作用はあったものの、2本目を打った後、解放感と安堵感でいっぱいになりました。新型コロナウイルスに関しては自分がやれることはやったと肩の荷が降りた気持ちです」
これは私も同感であって、たかがワクチンで気持ちが変わるというのはおかしなものなのだが、率直にいって気持ちが明るくなる。自分ができる予防策を果たしたという達成感だろうか。
私自身は、日系人シニアに接するボランティアにも係わっているのだが、実際にシニア層の方たちはワクチン投与で、非常に明るくなったと感じる。
4月20日から21日かけて、大きく全米で報道されたのがジョージ・フロイド氏死亡事件の裁判だ。
ちょうど10カ月前に、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に膝で首を抑えつけて死亡した事件は、全米でブラックライヴズ・マター運動を巻き起こした。
裁判では、元警官のデレク・ショービン被告は第2級殺人（計画性のない殺人）と第3級殺人、第2級過失致死の罪に問われて、すべての罪で有罪評決が下った。たった二日間のスピード判決ということは、陪審員の間でも意見が割れなかったと言える。これで有罪判決がされなかったら、全米で抗議運動が起きていただろう。
警官の逮捕における暴力は裁かれない領域のことであったので、今回の判決は歴史的なターニングポイントと言える。
しかしながら警官による誤殺も続いており、4月に同じくミネソタ州ブルックリンセンターで起きたのが、黒人男性が女性警官にテイザー銃と銃を間違えて、射殺されるという前代未聞の事件だ。この事件は、ダンテ・ライト氏がナンバープレートの期限切れを理由に停車させられたという些細なきっかけから起きた。彼が別件で逮捕令状が出ていために、警官たちが逮捕しようとすると、ライト氏が車に乗り直し、そこをキム・ポッター警官が「テイザー、テイザー」と繰り返して発砲した。直後にポッター警官が「しまった、発砲してしまった」と声をあげている。
電気ショックを与えるテイザー銃というのはプラスチックでできていて、銃とは重量も質感も異なるものだ。しかもポッター元警察官がベテランであるのに起きたことから、全米に衝撃が走った。キム・ポッター元警察官は、第2級殺人の容疑で逮捕訴追されている。
またイリノイ州シカゴでは、13歳の少年が警官に射殺されるという傷ましい事件が起きた。公開された警官のボディーカメラの映像をでは、武器を持っていないアダム・トレードさん（13歳）があっという間に撃たれている。オハイオ州コロンバスで起こったのが、ナイフを手にしていた16歳の少女に対して、警官が4発を撃って射殺した事件もあり、こうした過剰とも言える警察の発砲に、抗議の声があがっている。
同時に発砲事件が多く起きて、インディアナ州のフェデックスの施設で銃乱射事件をはじめ、この1カ月で3人以上が犠牲になる銃撃事件が50件にも上っている。
人々が外に出られるようになったとたん、銃発砲事件が増えているのが、あまりにも悲しいアメリカの現状だ。
引きつづき、アジア系住民に対するヘイトクライムは増え続けている。
ヘイトクライムの加害者たちには、中国がわざとアメリカに被害を与えるために新型コロナウイルスを巻き散らかしたと信じこんでいる人たちが少なくない。
ニューヨークのマンハッタンでは、西43丁目で65才のフィリピン人女性がいきなり男性に蹴られて暴行を受けるという事件があった。この事件では、目の前のビルディングのガードマンたちが暴行を目撃しているにもかかわらず、助けたり、警察に連絡したりするどころか、ドアに鍵を閉めたという「見て見ぬふり」をしたことが、市民に大きな怒りを呼んだ。
この事件を受けて4月4日には、タイムズスクエアを占拠するアジア系ヘイトクライムに対するプロテストが開催。
登壇した人たちには、ブラックライヴズ・マターの活動家も、トランスジェンダーのスピーカーもいた。そこで語られたのは、ブラックに対する、アジア系に対する、あるいはLGBTQに対する絶対的なNOだ。LGBTQのアジア系女性はマイクを握りながら、「アジア系女性を、フェティッシュの対象にしないで欲しい」という主張を声高に語っていた。
アメリカでは、アジア系女性は「従属的で、おとなしく、男に従う」といったイメージの刷り込みがある。歴史的に見れば、アメリカがアジアの国々を蹂躙（じゅうりん）し、ベトナム戦争、朝鮮戦争といった過去があり、アジア人女性は購入できる性的な商品といったイメージも蔓延した。
デモ隊は、タイムズスクエアからビルディングの前にマーチして、抗議の座りこみを行った。歌手のリアーナもこのマーチに参加していた。
こうした暴行や嫌がらせがヘイトクライムとして認定されないことも多く、米上院はアジア系住民に対する暴力に対処することを目的としたヘイトクライム関連法案を、97対1の賛成多数で可決した。
法案は民主党のメージー・ヒロノ上院議員とグレース・メン下院議員が主導。メイジー・ケイコ・ヒロノ（Mazie Keiko Hirono）氏は、アメリカ史上初のアジア系女性上院議員だが、彼女が福島生まれだとご存じだろうか。
ヒロノ議員は福島県生まれで、小学生までは福島で育ったものの、母親が3人の子どもを連れてハワイに移住。その後、アメリカに帰化して、ハワイ州下院議員を務め、2013年1月から上院議員を務めている。
在米邦人もヘイトクライムにあっており、ニューヨークでも4月19日夕方、地下鉄5番ラインで125丁目から86丁目に走行中の車内において、寝ていたと思われる男性が突然起きて、顔面を殴られて負傷した事件があった。他の乗客が車内のインターフォンでMTA職員に通報して、地下鉄は86丁目駅で停車してMTA職員が調査を行ったが、混乱に紛れて加害者は地下鉄から降車したと言う。
こうしたアジア系に対するヘイトクライムに対して、「つきそい」ウオークをしてくれるボランティア活動をSAFE WALKSという団体が初めて、2000人のニューヨーカーが登録している。ひとり歩きの不安があるアジア系住民に、「一緒に目的地まで同行」してくれるというものだ。
また「カフェ・マディ・キャブ」では、60歳以上のアジア系住民に、あらかじめリフトの利用料金40ドルまでフリーにする乗車サービスを始めている。オンラインで登録して利用するシステムとなっている。
なお先日、道で蹴られた65歳のフィリピン系女性にも、$24万の寄付が集まった。暴力も憎悪もあるけれど、一方で親切も勇気もある人たちがいるのが、ニューヨークだ。
コロナ生活で溜まった鬱憤ばらしのように、弱い者に暴力をふるうようなヘイトクライムが、一日も早く減ることを願ってやまない。
黒部エリ
Ellie Kurobe-Rozie
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。『Hot-Dog-Express』で「アッシー」などの流行語ブームをつくり、講談社X文庫では青山えりか名義でジュニア小説を30冊上梓。94年にNYに移住、日本の女性誌やサイトでNY情報を発信し続けている。著書に『生にゅー！ 生で伝えるニューヨーク通信』など。
