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ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女|予告編|Disney+ (ディズニープラス)
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たったひとつの動機「大金持ちになりたい!」 

米カリフォルニア州北部地区連邦地裁は2022年11月18日に、主人公エリザベス・ホームズ被告に11年3カ月の禁錮刑を下し、続いて同年12月6日に元社長兼最高執行責任者(COO)ラメシュ・バルワニ被告対して12年11カ月の禁錮刑を下しました。

この主人公エリザベス・ホームズが立った舞台は、たった数滴の血液でさまざまな病気の有無が判定できると「医療の民主化」をうたったアメリカの血液検査ベンチャー企業「セラノス」。画期的なシステムの開発は、多くのセレブリティや投資家の注目を集め、関わった人物の中にはクリントン元大統領など政界の人物も含まれていました。

そんなセラノスの元CEOエリザベス・ホームズは、ずっとビリオネア(億万長者)になることを夢見てきた人物。それを動機に、いやその動機だけで、彼女は荒唐無稽な夢を実現させたのです。2015年の絶頂期には、「フォーブス」誌は彼女の純資産を45億ドルと推定しています。

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相

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しかしその後、すべては一気に崩壊しました。このセラノスの栄枯盛衰は、詐欺の実態を最初に明らかにした「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のジョン・カレイロウによるルポルタージュ『BAD BLOOD シリコンバレー 最大の捏造スキャンダル 全真相(原題:Bad Blood: Secrets and Lies of a Silicon Valley Startup)』から始まり、同名のポッドキャストまで息つく暇もなく詳細に伝えられてきたのです。

以来、セラノスを題材にしたプロジェクトが次々と発表されています。例えばアマンダ・セイフライドがホームズを演じ、ゴールデン・グローブ賞テレビ部門(リミテッド部門)で作品賞と主演女優賞の候補となった米Huluのミニシリーズ『The Dropout』(2022)。HBOのドキュメンタリー・シリーズ『The Inventor』(2019)、そしてジェニファー・ローレンス主演による映画も制作中です。

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The Inventor: Out for Blood in Silicon Valley (2019) | Official Trailer | HBO
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多くのプロジェクトと同様に『The Dropout』はエリザベス・ホームズの半生を描き、テキサス州ヒューストンで過ごした彼女の幼少期から、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のためにカレイロウが行った調査の後、セラノスの実態解明に至るまでが描かれています。

マイケル・ショウォルターが監督を務めるこのシリーズは、結末直前部分が大幅にカットされることを除けば、悪名高い企業スキャンダルをほぼそのまま再現していると言えます。ホームズと彼女の元恋人でもあったラメッシュ・"サニー"・バルワニがともに実刑判決を受ける中、セラノス崩壊以来起こったことについて知っておくべきことのすべてがここに描かれているということで、さらに注目が高まっているというわけです。

ホームズとサニー・バルワニが受けた刑は?

2022年11月18日、ホームズは投資家から数億円をだまし取ったとして、「135カ月の連邦刑務所収監」という実刑判決を受けました。また出所後は、3年間の監視下に置かれることになります。ホームズは裁判所から、2023年4月27日に自首して刑期を開始するよう命じられました。その後、カリフォルニア州サンノゼの新聞「The Mercury News」によれば、ホームズは上訴したことがつづられています。そして、再審が認められるべき最大10の理由を主張し、上訴が終わるまで彼女の自由を認めるよう裁判所に求めているとのこと。

その一方で、共犯者で一時期年の離れた恋人だったサニー・バルワニは2022年12月7日、12年11カ月間の禁錮刑を言い渡されています。彼とホームズの違いは、血液検査を利用した実際に病気を患う人々をだましたかどうか…。バルワニは患者への詐欺罪で有罪判決を受けたのに対し、ホームズはそうではありませんでした。彼の刑期は、ホームズが数週間前に受けた刑期よりはるかに厳しいもので、連邦検察当局の求刑はもっと長く15年でした。そしてバルワニのほうも、上訴したことを「ブルームバーグ・ロウ(Bloomberg Law)」が報告しています。

ホワイトカラー犯罪弁護団のコール・ショッツ(Cole Schotz)法律事務所会長のマイケル・ワインスタインは「ワシントン・ポスト」のインタビューに答え、次のように語っています。

「(この判決は)明らかにシリコンバレーに対し、『誇大広告や詐欺、不当表示は起訴され、当然の結末を迎え、最終的には何十年も刑務所に入る可能性があるのだ』という警告を送っています」

セラノスが破綻した後、何が起こったのか?

2016年、セラノスは不明瞭な検査結果で訴えられ、証券取引委員会、司法省、FBIから調査を受けました。アメリカ合衆国保健福祉省下の政府機関メディケア&メディケイドサービスセンター(Center for Medicare & Medicaid. Services)は、同社が 「患者の健康と安全に対する差し迫った危険をもたらしている」と述べたとCNNは報告しています。そうして2018年、ホームズは大規模な詐欺行為で証券取引委員会により訴えられ、2019年にセラノスは正式に閉鎖。その後、訴訟が始まりました。

エリザベス・ホームズ
Taylor Hill//Getty Images
2015年「タイム」誌の“もっとも影響力のある100人”に選出され、ガラ・パーティーに出席したホームズ

2018年6月、連邦大陪審はバルワニを「複数の電信詐欺」および「電信詐欺の共謀の罪」で起訴しました。彼らの犯罪の被害者は、投資家と患者であるとされています。両者とも無罪を主張し、いったんは保釈されたのですが…。2020年9月、バルワニの要請によって、連邦地方裁判所の裁判長エドワード・ダビラ判事は「バルワニとホームズは別々に裁判を受ける」と発表しました。

エリザベス・ホームズは今どこに?

2022年1月3日にエリザベス・ホームズは、「投資家に対する犯罪的詐欺行為」7件のうち4件で有罪判決を受けました。残る3つの容疑については、陪審員が全員一致で評決に達することができず、患者詐欺に関連する4つの追加要件については無罪となります。検察側は29人の証人を使い、セラノスの血液検査能力と事業見通しについてホームズは嘘をつき、意図的に投資家と患者を欺いたという主張を展開しました。

elizabeth holmes
NICK OTTO//Getty Images
2021年に始まった裁判の陪審員選任初日に到着した、エリザベス・ホームズ。

その一方でホームズは、財産を担保に50万ドル(約6600万円)の保釈金を得て、出所しています。カリフォルニア州ウッドサイドにある名高いグリーンゲイブルズの74エーカー(30万㎡≒9万坪)、1億3500万ドル(約180億円)の豪邸に、現パートナーのビリー・エヴァンスとその息子と一緒に住んでいると伝えられています。エヴァンスは南カリフォルニアのホテル王ビル・エヴァンスの息子で、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業して数学とテクノロジーを専攻。2人が出会ったのは2017年で、最初に一緒にいるところを目撃されたのは2018年、野外フェス「バーニングマン」でセラノスの従業員に会社解散の警告メールが届く前のことだったようです。エヴァンスはプロポーズとしてMITのシグネットリング(※)を贈り、バーニングマンでの出会いから1年もたたないうちに2人は秘密裏に結婚式を挙げたのです。

※正式には印章や紋章を彫刻し、署名にも使用していたリングのこと。ここでは、「MITの」となっているのでクラスリングのことだと思われます。つまり、MIT卒業生クラスの記念リングです。ちなみにホームズは、スタンフォード大学をドロップアウト(中退)しています。

サニー・バルワニは今、どこに?

バルワニは元恋人とは異なり、セラノス社を退社してからは比較的控えめに活動を続けています。2019年後半、ホームズがバルワニを虐待で告発し、セラノスの失敗の責任を彼の肩に押しつけることを計画していることが明らかとなり、バルワニの名前は一時的にニュースの見出しに登場しました。

そんなバルワニは、この告発についてメディアに語ることを拒否。代わりに一連の法廷報告書を通じて対応しました。「バルワニ氏は、いかなる時も虐待に関与したことを明確に否定する」と、彼の弁護士は「ロイター」が入手した2019年12月の提出書類に書いています。ホームズの裁判に彼の存在が大きく立ちはだかる一方で、バルワニ氏自身は沈黙を守り、報道陣に話したり、コメントに応じたりすることはありませんでした。

theranos executives elizabeth holmes and sunny balwani return to court
Justin Sullivan//Getty Images
サニー・バルワニ、連邦裁判所にて。

内部告発者については?

セラノスによって人生を狂わされたのは、ホームズとバルワニだけではありません。3人の社員が会社の嘘を内部告発しようと決めたとき、彼らはすべての裁判が集結するまでセラノスから逃げずにいました。そうしてこの裁判に、証言者として裁判に立つことを事実上「志願」したのです。

その後2014年に仕事を辞めたこの3人…アダム・ローゼンドルフ、エリカ・チャン、タイラー・シュルツらにとって、ようやく終わりが見えてきたと言えるでしょう。

セラノスの元研究所所長ローゼンドルフと研究所の助手であるチャンは、ホームズの裁判で自分たちの経験について幅広く証言することになりました。特にローゼンドルフは、検察側の主張のカギを握る存在でした。彼は4日間にわたって、ホームズ被告に送った多くの電子メールについて供述。そこには、研究所に対する懸念についての訴えが書かれていました。

このシーンは実際に、ドラマ『The Dropout』で描かれています。ローゼンドルフ(劇中ではマーク・ロースラーという名前になっている)が、辞める直前に個人的なメールアカウントにいくつかのメールを転送しています。彼はそのとき、証拠が必要になるかもしれないと思ったのです。最近では、博士でもあるローゼンドルフは診断、検出、ライフサイエンス研究に特化した医療技術企業である「パーキンエルマー(PerkinElmer)」社でメディカルディレクターとして働いています。

clinton global initiative 2015 annual meeting day 4
Taylor Hill//Getty Images
ビジネスから「落ちこぼれる」前のエリザベス・ホームズ、2015年のグローバルサミットにて。

エリカ・チャンの証言は、セラノスの技術的失敗に関するローゼンドルフの証言に科学的根拠を与えるものでした。「CNBC」によると、チャンは6時間かけてセラノスの代表的な検査装置「エジソン」についての質問に答えています。

彼女は、同社の血液検査の失敗率の高さについて詳しく説明し、陪審員に対して「検査結果が正しいか間違っているかは、コインを投げるのと同じくらいの運だったでしょう」と語りました。セラノス社を去ってからチャンは独立し、さまざまなプロジェクトで忙しくしているようです。

彼女は自身のことをLinkedInのプロフィール欄で「テクノロジーとイノベーションのエコシステム構築者」と説明し、友人でセラノスの内部告発者でもあるタイラー・シュルツと共同で設立したNPO団体「Ethics In Entrepreneurship(起業精神における倫理)」を率いる活動を主要な優先事項の1つと述べています。 

エリザベス・ホームズ
Jeff Kravitz//Getty Images
タイラー・シュルツ(左)とエリカ・チャン。2019年撮影

シュルツについて言えば、彼はなぜ自分が証人喚問されなかったのか、よくわからないようです。「私の電子メールが証言してくれたのだろうね」と、2022年初めに行われた「NPR」のインタビューで語っています。シュルツは、裁判のことはほとんどニュースを通して知っていたものの、最終弁論には裁判所に顔を出し、人で満杯状態となったところから裁判を見守ったと言います。

「ツイッターで自分の人生を見るよりも最終弁論を間近で聞いて、リアルに感じたかったのです」と、彼は「NPR」に語っています。 有罪判決が出ると、彼は家族と一緒にシャンパンを開けて祝ったそうです。シュルツは現在、不妊検査と診断に特化したバイオテクノロジーのスタートアップ企業を経営していますが、投資家を常に驚かせなければならないというプレッシャーを毎日味わっているそうです。「このような環境が、エリザベス・ホームズのような人物を生み出すことが実感できました」と、シュルツ氏は説明しています。

セラノスの熱烈な支援者であった元国務長官ジョージ・シュルツ、つまり祖父との関係については、「完全に回復することはなかった」とのこと。祖父は謝罪しなかったものの2021年2月に亡くなる前、孫に対し「正しいことをしたと信じている」と語ったそうです。


裁判所の判決、内部告発者、そしてドラマが明らかにするのは、ベンチャービジネスや起業の投資家の反応を窺う資金調達の仕組みそのものに詐欺的要素が生まれやすい構造があるということ。ゴールデン・グローブ賞にノミネートされている『The Dropout』の邦題は、『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』です。

ですが、告発者たちの声を聞けば、「ホームズがシリコンバレーを騙した」というよりも、「シリコンバレー自体が、人を騙しても仕方がない状況に追いやる」と言ったほうが相応しいかもしれません。

自由主義のもと、ゴールド・ディガー(一攫千金の金脈探し・砂金堀り。現在では転じて金銭目的で恋愛・結婚すること)精神がもてはやされ、“グレー”な部分が多い事業も「大きく儲けること=アメリカン・ドリーム」だと肯定してきた米国において、この「シリコンバレー史上最悪の詐欺」が再び炎上している現状を世界も注目しているはず。これを手本にビジネスをするか、反面教師にするかは、エリカ・チャンが自らの団体に名づけたように…起業家・企業家・投資家たちの“ethics(倫理観)”にかかっていると言えるのではないでしょうか。 

そんなタイミングで日本の消費者庁では、ITビジネスにおけるインフルエンサー・ビジネスやステルス・マーケティングの規制、またアフィリエイトの誇大広告や詐欺的触れ込みに対しての規制に動き出しています。

※この記事は抄訳です

From: Esquire US