hcxg5e star wars episode vi return of the jedi, 1983, harrison ford, carrie fisher, mark hamill
Getty Images

2023年6月2日、「スター・ウォーズ」シリーズのオリジナルトリロジー(オリジナル3部作=旧三部作)全てが、イギリスにおいて正式に“ミドルエイジ(中年期)”の仲間入りを果たしました。つまり、ジョージ・ルーカス製作総指揮によるこの3部作のフィナーレを飾る『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』はこの日、イギリスでの初公開日となった1983年6月2日から40年という大きな節目を迎えることになったのです。

「スター・ウォーズ」の
オリジナル3部作は2023年に
40周年を迎える

つまり、人間で言うなら人生の折り返し地点を過ぎたことになります。そして、その公開を映画館で観た者たちの多くは、高年の域に達しようとしていることでしょう。ちなみにアメリカでの初公開は1983年5月25日で、日本での初公開は1983年7月2日になります。

余談ですが、日本公開時のときのタイトルは『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』でした。ルーカスフィルム社は当初、このエピソード6のサブタイトルを“Revenge of the Jedi”としていたのは事実で、今でもYouTubeのアーカイブの中からこの“Revenge of the Jedi”と飾られた予告編動画を確認することができます。ですが、公開前にルーカスフィルム社は正式サブタイトルを、“Return of the Jedi”として再発表します。

すでに公開に向けて準備が進行している真っ最中、そこで“Revenge”を“Return”へと単語を置き換える必要が発生し、宣伝から告知まで全てやり直すことに。グッズを取り扱う業者はもちろん、さまざまな関連企業が大混乱したことは間違いありません。ですが、そんななか日本だけはそのまま「復讐」で公開したというわけです。ちなみにこれが『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』という邦題に変更されたのは、2004年4月にオリジナルトリロジー旧三部作がDVDとなって発売されたタイミングになります。そのとき、劇場公開版とは別に追加映像および大幅な編集がなされた特別編の邦題が現在の「…ジェダイの帰還」に修正されたのでした…。

イウォーク族の存在が、
この物語をソフトに仕立てた

この作品を初めて観たのはいつだったのか、正直覚えていません。ですが、ある日曜日の午後、私(筆者=トム・ニコルソン)と私の兄弟が一番観たかったのはこの作品でした。私にとって「スター・ウォーズ」と言えば、この『ジェダイの帰還』なのです。私はスピーダーバイクでのチェイスや、蟻地獄のようなサーラック(雑食性のクリーチャー)がいる穴からのルーク・スカイウォーカーの大脱出劇がお気に入り。私の兄のほうは宇宙に浮かぶ帝国軍の艦隊の細かな描写に夢中になり、弟はイウォーク族が大好きでした。

そう、イウォーク族です。彼らの登場によって、『ジェダイの帰還』がオリジナル3部作の中で最もソフトでユーモアにあふれる作品だと記憶している人も多いことでしょう。ですが、私はそのような評価は不当なものと判断しています。

確かにこの作品で主人公側は皆、幸せな日々を手に入れます。ハン・ソロに関しては、ついにレイア姫と結ばれるというストーリーなのですから…。そこには、ルークがタトゥイーンで2つの太陽を見つめるエピソード4『新たなる希望』のような映像詩も、エピソード5『帝国の逆襲』のように哀愁ある陰鬱さを漂わせたマッチョなストーリーテリングもありません。ですが、私にとってこの作品は誰も予想できない方法で、「スター・ウォーズ」が「スター・ウォーズ」の話であることを再認識させるものだったのです。

d31h0p star wars episode vi, return of the jedi image shot 1983 exact date unknown
Getty Images

ジョージ・ルーカスが
『地獄の黙示録』の
監督をしていたら…

70年代初めを振り返るなら、ジョージ・ルーカスは当時、戦争映画の『地獄の黙示録』(アメリカでは1979年、日本では1980年公開)を製作することにもなっているなか、「スター・ウォーズ」を製作する話も持ち上がりました。最終的に『地獄の黙示録』の監督を務めたにはフランシス・フォード・コッポラですが、彼は1969年に当時駆け出しの映画監督だったルーカスとともに製作スタジオ「アメリカン・ゾエトロープ」を設立しています。

そこでハリウッドの既成概念にとらわれず、他ではできないような映画をつくろうと高い志で臨んだ彼らは、『地獄の黙示録』をそのスタート地点としようと意気込んでいたそうです。そしてコッポラは、その監督をルーカスに任せるつもりだったということ。ですが…戦争を題材にしていることが世間で物議を醸すようになり、資金繰りがつかなくなって一時とん挫します。

その間、コッポラにはパラマウント映画から監督として、『ゴッドファーザー』の製作依頼が舞い込んでくると彼はそれを引き受けます。そうして晴れて1972年に公開され、その続編であるPARTⅡも1974年(日本は1975年)に公開します。その頃ルーカスのほうは、青春映画『アメリカン・グラフィティ』の撮影で忙しい毎日を送っていました。そして1973年に、その映画も公開に至ります。

そんな中でルーカスは、戦争がまだ続いていたベトナムでテレビのニュース映像のように、16mmカメラとフィルムで『地獄の黙示録』を撮る計画までしていたそうです。やがて1976年には、『地獄の黙示録』の製作準備がやっと整うのですが…。

その頃のルーカスは、『スター・ウォーズ』という(当時としては)小さなプロジェクトに夢中になっていたのです。「もう、そこから抜け出せないくらい熱中していた」と、のちに盟友コッポラは語っています。構想をまとめながら、4年間もその脚本に取り組んでいたということです。

考えてみれば、これは幸いなことでした。

枯葉剤が使用されていた過酷な戦争の現場で8カ月も過ごした後に、スペースオペラ(宇宙を舞台にした壮大な冒険活劇)の製作をするとなると、もっと困難を極めたでしょう。

しかし実際は、
「スター・ウォーズ」も
タイトルどおり
戦争を扱った話…

コッポラの映画『地獄の黙示録』は、『スター・ウォーズ』とは全く違って血なまぐさく残酷なシーンを明示的に描いています。そんな作品の製作から離れ、『スター・ウォーズ』を監督することになったルーカスですが、彼は後に、「『スター・ウォーズ』が実際はベトナム戦争を下敷きとした物語であり、ウォーターゲート事件(1972年にワシントンの民主党本部があるウォーターゲートビルで、盗聴器を仕掛けようとして男たちが捕まった事件。ニクソン大統領の側近や関係者が不正や違法行為に関与していたことが明らかになり、大きな政治スキャンダルに発展した)後、アメリカ国民に大きく広がったニクソン政権へのシニシズム(世間の風潮や事象を冷笑する見方や態度)を反映したものだった」と告白しています。

そう考えると、『ジェダイの帰還』の戦闘シーンのほとんどは森や沼地、山が舞台になっていることに気がつきます。オリジナル3部作の中で“暗黒のストーリー”に位置づけられているのはエピソード5『帝国の逆襲』ですが、ルーカスは最終作であるエピソード6でも暗黒的要素を意識していたのです。彼が当初、鬼才デヴィッド・リンチや、『ヴィデオドローム』で狂気の世界へ引きずりこまれていく男の姿を衝撃的な映像で描いたデヴィッド・クローネンバーグを監督に起用することを考えていたのは、そのためだったのです。

実際、監督に抜てきされたのは、リチャード・マーカンドです。そしてルーカスは彼に、「ヤブ・ナブ!」と意味不明な勝利の雄たけびを上げる小さな熊のようなキャラクター「イウォーク族」を登場させ、サイゴン陥落までのベトナム戦争の最末期を寓話的に再現させたのです。イウォークたちはゲリラ部隊さながらに、技術で勝る侵略者たちを自分たちのホームグランドに誘い込み、有利な土地勘と用意周到なブービートラップで次々に倒していきます。こうして「スターウォーズ」シリーズにおけるオリジナル3部作のフィナーレを飾るストーリーは、アメリカ中に強者を追い詰める弱者を応援させるという偉業を成し遂げたのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Return of the Jedi: Theatrical Trailer 1982
Return of the Jedi: Theatrical Trailer 1982 thumnail
Watch onWatch on YouTube

北ベトナム側の民族解放戦線を、奇妙な慣習を持ち理解不能な言語を操るイウォーク族に例えるという意図は、不適切な気もします。かといって、最後に宇宙要塞デス・スターが破壊されるシーンで、緑豊かな森林惑星「エンドア」に死に至らせるものを降り注ぎイウォークを焼き尽くすという、ホロコーストのような話にはしてほしくありません。これでは、『ジェダイの帰還』ではなくなってしまいますし…。

重要なのはベトナム戦争の寓話に着地することで、全体の完結感があるということです。後年における『スター・ウォーズ』作品は、SF映画『フラッシュ・ゴードン』のスタイル(植民地支配者とそれに抵抗する人々についての物語というイメージとしっかり紐づけられている)を使っているものと言えるでしょう。

例えば、オープニングなどに『フラッシュ・ゴードン』のスタイルが用いられているのが、Disney+が配信する『スター・ウォーズ』フランチャイズのSFテレビドラマシリーズ『キャシアン・アンドー(Andor)』で、反乱軍のスパイの暗躍を描いたノワール風スリラーに仕上がっています。同じくDisney+の『ボバ・フェット(The Book of Boba Fett)』もよいのですが、ギャングストーリーなのか? 「名無しの男」的な西部劇なのか? スカイウォーカーとベビーヨーダのバディ映画なのか? 実に曖昧な印象です。

「スター・ウォーズ」も
40歳を迎えることで、
ぜい肉がつき始めてきた⁉

中年期を迎えた者にはありがちなように、「スター・ウォーズ」にも少し“ぜい肉”がつき始めた感があるように思えます。3部作は6部作になり、さらに9部作になって、新3部作の可能性も浮上しています。過去5年間で4つの実写版スピンオフシリーズが登場し、2024年には3つの新作とドナルド・グローバー演じる『ランド(Lando)』シリーズが控えています。

ジェームズ・マンゴールド、デイヴ・フィローニ、タイカ・ワイティティ、シャーミーン・オベイド=チノイ(脚本は『ピーキー・ブラインダーズ』のスティーブン・ナイト)の製作も発表されており、さらに多くの候補作品がスカイウォーカーランチ(ルーカスフィルムのスタジオ)の書類棚のどこかに保管されているかもしれません。「スター・ウォーズ」には続編構想がつきものなのです。

このような理由から『ジェダイの帰還』は、そのソフトさゆえに実に特別な作品となっています。そして冒険物語が終わってもなお、広大かつ無限に変化する「スター・ウォーズ」という銀河の中で、今となっては最も貴重になったエンディングが存在するのが、このエピソード6『ジェダイの帰還』というわけです。

source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です