私(筆者:クリストファー・フェニモア)が17年前に設立されたブランド「3Sixteen」の創設者兼共同経営者アンドリュー・チェンに出会ったのは、ごく最近のことです。しかし彼を知っている人なら同意してくれると思いますが、彼はまるで何十年も前から知り合いだったかのように感じさせてくれる特別な人です。また、優しさが成功と知恵のレベルに正比例するという、稀な例でもあります。

アンドリューは妻と2人の子どもと一緒に、ニューヨークのクイーンズに住んでいます。父親としての役割を果たす一方で、彼は共同設立したブランド「3sixteen」にも力を注いでいます。

セルビッジデニムのジーンズを買おうと思ったら、「3sixteen」を見逃すわけにはいかないでしょう。「3sixteen」はデニムが有名ですが、彼らがつくっているのはジーンズだけではありません。2020年のコロナ禍に店舗をオープンした多くの企業と同様に、「3sixteen」もマンハッタンのダウンタウン、ソーホー地区にあるエリザベスストリートに新しい旗艦店をオープンするために、多くの苦難を乗り越えてきました。

そんなアンドリューに、どのような障害を乗り越えてきたのか? ブランド設立から17年後に新しい服をつくるインスピレーションを得た方法、そして、ハドソンバレーでワインを買うおすすめの場所などについて、話をうかがいました。

andrew chen
Christopher Fenimore
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3sixteen」について話しましょう。どのようにして、なぜこのブランドを始めたのですか? 設立当初からどのように変化してきましたか? 他のブランドと比べて「3sixteen」が特別な理由は何ですか?

ブランドを始めたのは2003年で、当時は副業でした。パートナーであるヨハンも初日から参加しており、2007年にはオーナーになりました。彼がいなかったら、今のブランドはありませんし、おそらくこのようなカタチにもなっていないでしょう。

最初はグラフィックTシャツから始め、フリース、アウターウェア、シャツ、ボトムスなど、年々ラインナップを増やしていきましたが、飛躍したのはデニムでした。「3sixteen」のグラフィックTシャツを別の店舗で扱っていた親友のキヤ・ バッザーニが、サンフランシスコのミッション地区にデニムを得意とするブランド「Self Edge」の1号店をオープンしました。

彼は、最初のジーンズのデザインを手伝ってくれました。半年後には、全員で協力してロウアーイーストサイドに「Self Edge New York」をオープンさせました。デニムのカテゴリーは当時つくっていたどの商品よりもすぐに売り切れたため、デニムに軸足を移したのです。それ以来、私たちは後ろを振り返ることなく、今日に至るまで収益のほとんどをジーンズから得ています。

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私たちの生地は特別です。岡山県のクロキ株式会社と協力して、独自のカスタムデニムをデザインしています。つまり、服に合わせて生地をつくっているのです。2011年に最初の一歩を踏み出したとき、これは私たちのような小さな会社にとって大きなリスクでした。ですが、競争力を高めて真にオリジナルな製品を提供するためには、完全に自分たちの仕様に合わせてジーンズをつくることが重要でした。

時間が経つにつれ、「私たちのジーンズが特別なのは、“経年変化”だ」と考えるようになりました。私たちはこの原則を他のコレクションにも応用し、耐久性があり、着れば着るほど味が出るような素材を開発するよう努めています。

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あなたの経歴について、聞かせてください。どのようにして小売業とデニムの世界に入ったのですか? なぜニューヨークに来たのですか?

小売業を始めたきっかけは、2009年にヨハンと私がキヤと彼の妻デミトラと一緒にオープンした「Self Edge NY」でした。私にとっては試練の連続でしたが、キヤは長い間小売業に携わっており、「Self Edge」は彼にとって3番目の店です。デミトラは、ファミリービジネスの経営者でした。ヨハンは小売業で育ち、ロサンゼルスの「El Mercado」というショップでストアバイヤーをしていたので、彼らから店舗運営のノウハウを学びました。

この10年間、私は彼らの知識を吸収し、それを私自身が小売店に求める要素と組み合わせて「Self Edge NY」とオープンしたばかりの「3sixteen」の旗艦店の両方で、親切で思いやりのあるホスピタリティあふれる接客を心がけてきました。

ブランドとしては、「Self Edge」で形成された関係から多くのことを学びました。世界でも有数のデニムブランドに囲まれているからこそ、私たちは鋭い状態を保てているのだと思います。

ニューヨークに来たきっかけですが、私はニューヨークの北に位置するウェストチェスターで育ち、1997年に進学のためにシカゴに引っ越しました。2005年に戻ってきたのは、ある女性と出会ったからです。

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マンハッタンのダウンタウンにあるソーホーに、店舗をオープンしたばかりですね。ロサンゼルスに1号店をオープンしてから、この街に2号店をオープンするまでの道のりはどのようなものでしたか? また、パンデミック中はどのように対処しましたか?

「3sixteen」の最初の旗艦店をロサンゼルスのダウンタウンにオープンしたのは、4年前です。私たちのブランドは以前から、アートディストリクトにオフィスと倉庫を構えており、個人的にもこの地域と深いつながりがあります。私たちのコレクションをすべて扱っているショップはなかったので、1つの屋根の下で、そのシーズンに生み出したすべてを私たちが意図した文脈で見られるスペースをつくることが重要だと考えました。この店舗は売り上げだけでなく、顧客からのフィードバックという面でも成功したので、ニューヨークに店舗をオープンすることにしたのです。

ご存知のように、NYCの小売業は独特です。2019年12月に、ノリータに旗艦店の賃貸契約を結びましたが、翌年に何が起こるか知る由もありませんでした。2020年2月に着工した後、新型コロナウイルス感染症がピークに達したため、すべてを一時停止せざるを得ませんでした。何も進まないまま家賃を払い続けるのは、小さなビジネスにとって楽なことではありませんでした。が、ニューヨークの街はもっと大きな問題を抱えていました。

ある週には、15分ごとに救急車のサイレンが聞こえてきて、現実離れしていましたよ。パンデミックの最中に、アメリカでは黒人に対する警察の残虐行為について大規模なデモも行われていました。その結果、開店が大幅に遅れてしまいましたが、それは仕方のないことだと認識していました。2020年8月にようやくオープンしたときには、違和感を覚えました。万事うまくいっていて、日常が戻ってきたというような印象を与えたくありませんでしたが、状況はこれからも長い間変わらないことを理解していたので、慎重に進めるようにしました。

社会的距離やマスクをして手を消毒することが重要な時代に、小売店を開くことは簡単ではありません。ですが最善を尽くしており、今のところ結果は上々です。

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自分のビジネスを持つというのは、素晴らしいことです。が、お金を稼がなければいけませんよね。この2つは密接に関係しているかもしれませんが、ビジネスを成功させることと、自分が興味を持ってワクワクするような服をつくることを、どのように両立させていますか?

まず、私たちには幸運なことに、毎年値引きや一掃整理をしなくても在庫を維持できる、強力なコアコレクションがあります。つまり、ジーンズ、Tシャツ、スウェットシャツを1年中つくっていて、製品が時代遅れになることがないのです。これらのコアアイテムがビジネスの大部分を占めているので、その収益に頼ることができます。この基盤があるからこそ、シーズンごとのコレクションや年間を通して行われる小規模なリリースやコラボレーションで、新しいアイデアやコンセプトを追求できるのです。それらの商品の利益率はそれほど高くないかもしれませんが、私たち自身も顧客も飽きずにいられます。私たちのブランドが持つバランスの良さには、とても感謝しています。

とは言え、同じジーンズをつくり続けているからといって、より良いものをつくるための方法を常に検討していないわけではありません。私の友人であるトーマス・フーパーはタトゥーアーティストですが、彼は以前、「繰り返しに美を見出す」のだと言っていました。同じ題材を何度も描いたり彫ったりすることで、何を改善すべきか検討する余地が生まれるのだそうです。私たちは常にコアアイテムをより強く、より長く使える、より価値のあるものにするために、どんな小さなことでもいいので何かできる調整がないか考えています。一般の顧客は、ジーンズの違いに気づかないかもしれません。ですが、私たちは小さな縫製や金具、トリムのディテールを見るだけで、そのジーンズがどの世代のものかわかります。

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家族を大切にしていらっしゃいますよね。私は素敵なパートナーの話が大好きなのですが、奥さんとはどこで出会ったのですか? どのように父親業とビジネスを両立させていますか?

2004年にまだシカゴに住んでいたとき、ある週末にニューヨークに遊びに来ました。親友の家に泊めてもらっていたのですが、彼は私と気が合いそうな女性を紹介しようと、グループでのディナーを企画してくれました。彼女は前日の夜に体調を崩して欠席したのですが、別の友人が今の妻となる女性を連れてきたんです。その夜、私たちは意気投合し、私がシカゴに戻ってからもすぐに話すようになりました。そして、1年間遠距離恋愛をして、1年後に結婚したというわけです。この8月に15周年を迎えたばかりです。

ビジネスと父親業の両立は、決して容易ではありませんでした。新店舗をオープンしたばかりの時期にパンデミックが発生したこともあり、ここで新たな局面を迎えることになります。

私たちは2人の息子を家に置いて、フルタイムの遠隔教育を受けさせることにしました。これは、私たち家族にとって正しい選択だったと強く感じています。ですがそれは、「ノートパソコンの電源を入れて、子どもたちに任せればいい」というような単純なことではありません。先生方は一生懸命がんばっていますが、遠隔教育は難しいものです。いまだに慣れませんね。

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「ワインとおいしいものが大好きだ」と、うかがいました。お気に入りのワインボトル、生産者、ショップはありますか? また、ニューヨークのレストランのトップ5を教えてください。

最近は、ハドソンバレーの超小規模生産者である「Wild Arc」のワインをたくさん買って飲んでいます。夫婦と娘さんたちのみで経営しているワイナリーなのですが、コールドスプリングにあるショップで1本買って衝撃を受けてから彼らのことを知り、オーナーのトッドとインスタグラムでチャットをするようになり、気がつけば農場に招待されていました。

彼らはバイオダイナミック農法を学んでおり、植えてから実がなるまでに数年かかるので、その間は基準を満たした他の農場から購入してワインを生産し、ハドソンバレーの人々にバイオダイナミック農法のメリットを教えています。

最も有名なのはピケットで、これは基本的にブドウの2回目の搾りかすを使って、アルコール度数の低いワインのような飲み物をつくったものです。昔のワイナリーではピケットで従業員の給料を支払ったり、いわゆる「使用済み」のブドウからつくられたアルコールを飲んだりしていたそうです。とても興味深く、しかも、おいしい。暑い日にバーベキューをするときなどに、とても飲みやすくておすすめです。

ショップでは、私の友人のジェレマイア・ストーンとファビアン・ヴォン・ハウスケ・ヴァルティエッラ、そして彼らのパートナーであるダリル・ヌーンがオープンした「Peoples」をご紹介します。ロウアーイーストサイドのエセックス・クロッシングの中にあり、ワインショップとヨーロッパスタイルのワインバーが一緒になっています。小さな料理を注文してグラスでワインを飲み、隣の店でボトルを買って帰ることができるという実にクールなお店です。パリではよく見かける光景ですが、ニューヨークでは珍しいですね。

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あと、ニューヨークのレストランのトップ5ですね? これは難しいですね。とても大きな街ですから…。でも、私の住む地域でのトップ5を値段が高い順に挙げてみようと思います。

まず、ジェレマイアとファビアンが経営する2つのレストラン、「Contra」と「WILDAIR」での食事は欠かせません。「WILDAIR」はカジュアルなアラカルトスポットで、Contraは季節ごとに変わるテイスティングメニューを提供していますが、どちらも毎回心を揺さぶられます。この2つは「高いレストラン」に分類しましたが、正直なところ、お金以上のものを得られる場所です。また、彼らは親切で素晴らしい人々ばかりです。

一方で、チャイナタウンのクリスティ・ストリートにある「Wah Fung #1 Fast Food」に行くと、5ドルでローストポーク・オン・ライスが食べられます。

昔のオフィスがあったフォーサイス・ストリートのすぐ隣には、市内でも有数のタイ料理店「Wayla」があります。

もしディナーの予約が取れなかったら、すぐ隣にある姉妹店の「Little Wayla」でランチを楽しむのがおすすめです。ここでは、階下のレストランでディナーに提供している料理と同じものを、10ドルのボックスランチとして楽しめます。パンデミック中、彼らは「支払えるだけ支払ってもらう」方式のランチを提供することで、コミュニティ内で必要とする人々に食事を供給できるような方向に舵を切ったのですが、私はその点でも彼らを尊敬しています。

そしてニューヨークは、ピザなしには語れません。「Prince Street Pizza」はもちろんですが、「Spicy Spring」もおすすめです。私のルールは、通りすがりに行列が5人以下であれば並びます。それ以上待つようであればパスします。

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初めてローデニムを買う人に、何かアドバイスはありますか? ローデニムを購入する際のルールはありますか? ローデニムを特別なものにしたり、お金を払う価値があるものにするためのポイントは何ですか? デニムの手入れはどうしていますか?

初めてローデニムを買う人への一番のアドバイスは、店頭で試着してから買うことです。住んでいる場所によっては不可能なこともあると思いますが、可能であればお店に行きましょう。

実際に見て、触って、はいてみないとわからないことがたくさんあります。そして、もっと重要なのは、知識のある人に案内してもらうことです。

知識の豊富なスタッフはジーンズのサイズを的確に教えてくれますし、はき始めてから数週間、数カ月の間に何を期待すべきか教えてくれます。生地の中にはストレッチがかなり効くものからまったく伸びないものまであるので、サイズを決める際にはそれを念頭に置く必要があります。ジーンズを試着する際には質問をし、満足のいく答えが得られない場合には、他の店を利用するようにしましょう。

他の多くの衣料品と同様に、ジーンズを特別なものにするのは、フィット感と生地の組み合わせが重要です。ディテールもそうですが、私はクリーンであまり特徴のないデザインが好きなので、私たちのジーンズにもそれが反映されています。素晴らしい生地を使ったジーンズを見つけても、カットが自分に合っていなければ意味がありません。インターネットでは必要以上の情報を得ることができますが、その情報量に圧倒されてしまうこともあります。

ですが、ジーンズに関してはさまざまなブランドが時間の経過とともに、どのように色あせていくのかというデータベースがありますので、これは大いに役立ちます。ジーンズをはく人や、その人がどのような手入れをしているかが関係していることが多いのですが、生地の質の違いは時間の経過によって明らかになります。大量生産された安価なデニムは、色落ちの深さやコントラストが少ないことが多いのです。

私は、ジーンズをとても大切に扱っているわけではありません。いつもはいているし、月に一度は洗濯機で水洗いして干しています。良いジーンズには手間暇かける必要はありませんが、「かなり頻繁に洗う必要がある」と私は思っています。生地を健康に保つことができますし、あなた自身も健康になれるでしょう。私たちはまだパンデミックの真っ最中です。ジーンズを洗いましょう。

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どのように、新しい服をつくるためのインスピレーションを得ていますか? 個人的には何があなたを支えていますか? クリエイティブやビジネス上の決断をする際に、指針となるようなものはありますか? ブランドが長続きするための原則や秘訣は何だと思いますか?

多くのデザイナーと同様に、私たちも常にビンテージウェアからインスピレーションを得ていますが、シルエットだけでなく、生地の経年変化にも注目しています。私たちはローデニムを専門としていますが、ここ数年はさまざまなリンスやウォッシュ加工にも手を出しています。服は着る人に与えるものですから、ダメージ加工はしていません。とは言え、他の方法では時間がかかってしまう生地の興味深い特性が引き出されるのであれば、ウォッシュ加工に対してはオープンに考え始めています。すべては素材次第です。安い素材を使えば、それはそれでジーンズ自体に表れてきます。丁寧につくられたもの、つまり、経年変化を考慮した生地を使えば、より良い結果が得られるでしょう。

指針について聞いてくださって、ありがとうございます。私とヨハンにとって、神への信仰以上に大切なものはありません。初日から私たちの指針となっていて、これまで何度も迷ったり近道をする機会があっても、集中力を保つことができました。正直で誠実なビジネスを行うために信仰が必要だとは思いませんが、私たちにとってはそれが理由です。私たちは業者、チームメンバー、そして顧客に敬意と価値をもって接するために、日々最善を尽くしています。また、このブランドが毎日楽しく、オープンで、働きがいのある場所になるように努めています。私たちは利益よりもチームや顧客のニーズを優先してきました。そして、これからもできる限り、そうしていきたいと思っています。

また、多くのキリスト教徒が、力を手に入れるという幻想のために自らの誠実さを手放している時代に、私たちの信仰は、困っている人を助けるために自分の声を使う駆動力となっています。私たちの仕事は、「ただ服をつくるだけではない」ということを心から信じているのです。

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長く続いているブランドや企業の特徴のひとつは、方向性だと私は考えています。確かに顧客の声に耳を傾け、取り入れていくことは必要です。顧客なしでは、私たちは成り立ちませんから…。

私が尊敬するブランドは、しっかりとした自分の考えを持ち、顧客と一緒に行動しています。クラウドソーシングが普及し、企業があらゆるニーズに応えようと躍起になっている今、自分たちが何者で、何のために存在しているのか? をしっかりと主張しているブランドに私は惹かれます。顧客は、はっきりとした声を持つブランドに共感するものです。そうでなければ、全く同じものの色違いをつくればいい…という話になってしまうのですから。

Source / ESQUIRE US
Trasnalation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。

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