私(『ESQUIRE』UK版のシニアエディター、オリヴィア・オーベンデン)の友人は、ロンドンがロックダウンされる1週間前に、“運命の相手”に出会いました。共通の友人の誕生日パーティーで初めて会った2人は、互いの側を片時も離れずに過ごしました。時が止まったかのように何時間もソファーで話し、立ち上がる機会は何度もあったにもかかわらず、どちらも動こうとはしなかったそうです。

 数日後政府の発表によって、彼らの初々しい関係が違法同然になってしまったため、彼らは恋愛関係を一時停止することにしました。話はできても、会ったり触れ合うことができないということを考えると、カフェや公園で一緒に時間を過ごすことができないという現実を思い出して、あまりにも辛くなってしまうというのが理由です。

 運命の相手に出会った直後に、その相手に会うことを禁じられてしまうというのは、シェイクスピア的に無残な悲劇です。21世紀版ロミオとジュリエットは家族に引き裂かれる代わりに、薄幸な恋人たちが飲んだ毒のように、キスで移ってしまうウイルスによって引き裂かれてしまったのです…。

 ロックダウン中も恋の炎を絶やさないように努力しているカップルや、無限に感じられる時間を新しい出会い探しに費やしている人たちは、パンデミックが広がるにつれてユーザー間の距離を近づけるための機能を開発し続けているデート・マッチングアプリ業界に流れています。

 新しい機能には、バーチャルデートに興味があることを示すバッジやビデオ通話、ボイスメッセージ、バーチャルデートを成功させるための機能などがあります。2020年3月にマッチングアプリの「Bumble」は、デリバリーアプリの「Uber Eats」と提携(※日本は対象外)。ユーザーが同じお店からの料理を同じ時間に食べられるようにしました。

 デートアプリ「Tinder」では、複数のユーザーがアプリ内でクイズゲームに参加できるビデオ機能をテスト中で、デジタル時代のスピードデートのようなきっかけをつくろうとしています。

 相手と実際に会う代わりに、互いの交流を画面上に限定してしまうと、デートや偶然の出会いなどによるワクワクを感じられない…と思うかもしれません。しかし、長い会話を通して互いをよく知り合う時間をかけることで、今までにない親密さが生まれることに気づいた人もいるようです。

デートする男女
Graphic House//Getty Images

 マンチェスターに住む30歳のジェームズさんは、ロックダウン中「Bumble」を使ってバーチャルデートを楽しんできました。アプリで話していた女性と初めてビデオデートをしたときには、同時にカツカレーと餃子のデリバリーを注文して、食事を共有しているような環境をつくったそうです。

 「最初はビデオ通話をしているのが、少し居心地悪く感じました。ですが、10分ほど経ったころには、一緒にレストランにいるような感覚になりました」と、話しています。

 食事の後に2人はバーチャルレストランを出て、それぞれが考えたバーチャルパブでお酒を飲んだり、ロックダウン中に聞きたい曲を10曲選んでプレイリストをつくったりしたそうです。

 「物理的なことはできませんが、お互いのことをよく知り合う機会になりました…今後、人々はこれまでとは異なる方法でデートをするようになると思います」と、ジェームズさんは言います。

 「Bumble」がビデオ通話や音声通話機能を導入したのは、2019年のことですが、2020年3月中旬の統計によると、88%のユーザーがそれまでバーチャルデートを行った経験がなかったにもかかわらず、世界中のロックダウンや隔離によって変わったデートのカタチとして使うのではなく、不可欠な機能になったと感じているそうです。

 ジェームズさんも「Bumble」が、ロックダウン中につながりをサポートした多くのユーザーの1人ですが、「パンデミック中に世界中でやり取りされるメッセージ数は21%増加し、ビデオ通話は56%の増加を記録した」と言います。

「多くのユーザーが、“デート前のデート”としてアプリ上でビデオ通話を使っています」

 「Bumble」のEMEAマーケティング・アソシエイトディレクターのナオミ・ウォークランドさんは、バーチャルデートによってより長い時間をかけて互いを知り合うことになったため、意味のある深い会話をする場所ができたと考えています。

 「バーチャルデートが当たり前になることは間違いないでしょう」、と話すナオミさん。最近の統計では「Bumble」ユーザーの29%が、「ロックダウン解除後もビデオデートを続けたい」と考えているそうです。

 「多くのユーザーが、“デート前のデート”としてアプリ上でビデオ通話を使っています」「恋愛における一段階になっていることが想像できます。まずはビデオ通話で最初のデートをしてから、実際のデートにつながっていくのです」とナオミさん。

 デートアプリ「Hinge」のCEO兼創業者のジャスティン・マクロードさんも、バーチャルデートがパンデミック中の人々をつなげる役割を担っていると考えています。「プラットフォーム上で送られるメッセージの量はおよそ30%増加しています」「みんなこの時間を使って、恋愛に集中しようとしているということです」と、Zoomで話してくれました。

 「採用面接のスクリーニングのようだ」と感じる人もいるかもしれませんが、目的はまさに同じです。マクロードさんはビデオデートが今後もユーザーにとって、相手を見極めるためのプロセスの一部であり続けるだろうと予想します。

 「相性がいいか確かめるために使うことで、恋愛の成功率が上がるでしょう。デートに出かけて相手を見た瞬間に、タイプではなかったとがっかりするような経験をしなくてすむのですから…」とのこと。

 物理的に離れていても、バーチャルデート機能はゆっくりと育まれる親密さを生み出すことができます。平日夜の限られた時間でするデートとは違って、メッセージのやりとりを続けることができるからです。

 ある男性は、急いでデートの予定を決めなくてはいけないプレッシャーから解放されて、相手をよく知り合う時間を持てるようになったと話していました。急いでデートをしても、結局は時間の無駄になってしまうことが多いからです。また複数の女性が、「ビデオデートはちょっと気まずいけれど、赤の他人と会う前に身の安全を確かめるための有効な手段」と話しています。

電話する男性
Larry Ellis//Getty Images

 音声通話やボイスメッセージを使うことで、入念に練られたメッセージを読む代わりに、相手の実際の話し方を感じることができるのです。メッセージに頼りきりで、電話に出るのをなるべく避ける世代にとっては、「誰かの声を聞く」というのはかなりドキドキする経験です。ボイスメッセージでは言葉をどう発音するか、寝起きにどんな話し方をするのか、どんな笑い声をしているかなど、文章では伝わらない相手の側面が見えてくるのです。

 ある女性は、同僚がマッチした相手から送られてきたボイスメッセージを聞かせてくれたそうなのですが、とても個人的で、マッチング後のやり取りというよりは、誰かの日記帳をのぞいているような気持ちになったそうです。

 これは体の関係を持つための気軽な出会い探しに、デートアプリを使用していた人の目的からは、かけ離れているように見えるかもしれません。しかし実は多くの人が、ロックダウンによって親密になることが難しくなる前から、デートアプリを真剣な出会いの場として求めている傾向にありました。

 エッセイストのエミリー・ウィットさんは、2016年に著書『Future Sex』の中で、デートアプリがセックス目的ではなく、純粋な出会いの場になってきていることを指摘しています。「デートアプリは、『A Clean, Well-Lighted Place(清潔で明るい場所)』であるべきだ」とヘミングウェイの短編のタイトルを用いて表現し、「性に関して女性に優しい環境をつくることが女性ユーザーを惹きつけ、結果的に男性ユーザーを惹きつけるためにデートアプリが目指すべき目標である」と書かれています。

 「セックスについてあからさまに言及しないことによってインターネットでの出会いは、食事の説明をせずにオススメのレストランについて話し合っている人たちであふれた部屋にいるようなものでした」「いいえ、もっとひどかったかもしれません。『お腹が空いているのに、天気の話をしている人たちであふれた部屋』と言ったほうが的確でしょう」と、ウィットさんはこれまでのデートアプリについて書いています。

 もちろん出会い系プラットフォームでは、ストリップビデオや夜中のセクシーなメッセージ交換やテレフォンセックスなども行われます。しかし、アプリは出会いの体験を“意味のあるつながり”(恋愛関係に発展する可能性がある相手とのやりとり)をつくる場として提供しようとしており、通話時間やメッセージの交換数などでパフォーマンスを測定しています。

バーチャルデートは、人間的な魅力を感じる機会を逃してしまうという危険性がある

 ウィットさんの言う「空腹時に天気の話をする」という考え方は、セックスができないロックダウン中に耐えられないほどの性的緊張が加わったため、より過激なものとなっています。ある女性は完璧なバーチャルデートをしていたのですが、お互い酔っ払って我慢できなくなってしまったそうです。最終的にUberで相手の部屋に行き、翌朝ひどい二日酔いとロックダウンのルールを破ってしまった罪悪感で目が覚めたとのことです。この男性とは、二度と話すことはなかったそうです…。

 もしバーチャルデートにとどめておいたら、後悔するような行為に走ることはなかったかもしれません。しかし同時に、「関係を深めてきた4カ月後に身体の相性が最悪なことがわかった」という事態は、避けられたとも言えます。

 バーチャルデートは、実際のデートの代わりとなるものなのでしょうか?

 それとも、デートアプリがこの10年間でつくり上げてきた右スワイプ中毒をやめさせるための薬のようなものでしょうか? その答えは人によって異なるでしょう。

 お気に入りのレストランの画像を背景にして、一緒に食事をするようなバーチャルデートは、現実世界を一時的に代用しているだけだと考える人もいます。一方で、「すべてのメッセージは、物理的に会うという目的に一歩近くためのものだ」というプレッシャーから解放され、デジタルデートの可能性を楽しんでいる人もいます。

 「Tinder」と「Bumble」では距離のフィルターを、全国または世界規模へと広げたので、現実では出会うことがないであろう人ともデートすることができるようになりました。世界中を覗き見るような感覚で、地球の反対側の見知らぬ人と会話することができるのです。90年代のチャットルームやサイバーセックスの進化版といったところでしょう。

 精神科医のエッシャー・グウィンネルさんは、1998年の著書『Online Seductions: Falling in Love With Strangers on the Internet』の中で、患者の体験したインターネット上での恋愛は「内側から外側に向けて育まれた」ため、「他にはない親密性」を生み出したと書いています。

 しかしその落とし穴として現実世界に持ち込まれた際に、「ネット上での運命の相手は、幻覚や個人が抱える精神病以上のものになり得る」とも書かれています。

ヴァーチャルデート
Mirrorpix//Getty Images

 私的なデジタル通信の世界で生まれて育まれた恋愛が、現実世界でも同じ親密さを保つことができるかは、今後明らかになってくるでしょう。結局のところ、恋愛はこれからも変化していくものなのです。

 「Bumble」や「Hinge」などのアプリがビデオ通話で実現しようとしている“相性チェック”は、今後も自然な見極めのプロセスとして使われていくかもしれません。また、すでに効率化が進んでいる恋愛は、Netflixのようなプレビュー機能によって、より効率的になっていくかもしれません。

 「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された『The Tyranny of Convenience』という記事の中で、コロンビア大学ロースクールの教授でライターのティム・ウーさんは、「利便性は常にいいことであるという考え方をやめるべきだ」と主張しています。

 「利便性という夢は、肉体労働の悪夢を前提にしています。しかし、肉体労働は常に悪夢だと言えるでしょうか? すべての肉体労働から解放されたいと、私たちは本当に望んでいるのでしょうか? 私たちの人間性は、不便な行動や時間をかけて追求することで表現されることもあると思います」「すべてに利便性を求める現在の風潮は、困難こそが人間の経験を形づくる特徴であることを忘れています。利便性は終着点であり、旅ではないのです」と、ウーさんはつづっています。

 バーチャルデートの利便性は、「最悪なデートの終わりに夜行バスを待ったり、帰りたいのに相手がのんびりビールを飲み終わるのを待たなければならない」といった事態を避けることができるため、魅力的に感じられます。

 しかし、相手の香りや歩き方もわからなかったり、ビデオ通話の気まずさだけが先行して、あなたの話を遮らずに聞いてくれるかなど、人間的な魅力を感じる機会を逃してしまうという危険性もあるのです。

 デートアプリでは無限に相手が表示され、出会いの運命をアルゴリズムの手に委ねることになります。それからスマホ上で時間をかけて相手を吟味し、スクリーンの外で相手を見る機会はないかもしれない…というのが、次に考えられるステップです。忙しい人や見知らぬ人に会うのは不安だという人にとっては便利ですが、私たちが誰と出会うかをテクノロジーに制御されることにつながります。

 これは人間同士の交流でのみ生まれる可能性を潰してしまうものであり、実際に会うことなく相手のことを本当に深く知ることができるのかという疑問を投げかけてもいます。

 先日、“運命の相手”に出会ったけれどバーチャルデートしないことに決めた先述の友人と話しをしました。すると、「その彼女と、社会的距離を保って公園を散歩した」と話しをしてくれました。ですが時間が来て、別れるときに気づいたそうです。「数カ月前に感じた、あの特別なつながりは消えてしまった…」と。

 バーチャルデートをしていたら「関係はもっと続いていたかもしれない 」、それとも「もっと早くに運命の相手でないことに気づいていたかもしれない」という可能性は考えられますが、結局のところ、それに対する明確な答えはできません。

 「いずれにしても、Zoomで別れ話をすることもなかったので安心した」と、話していました…。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。