羽田空港で撮影した、
ANAの女性スタッフの動画が大きな話題に

先日、東京在住の中国人男性インフルエンサー・@東京温哥さんが、中国の動画プラットフォームに投稿した動画が大きな反響を呼び、話題になった。温さんの友人Aさんが羽田空港で撮影した動画を引用し、解説付きで投稿したものだ。@東京温哥さんの了解を得て、動画の内容を紹介する(30秒くらいから空港の様子が始まる)。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

彼の友人Aさんが、東京から富山へ出張に向かったときのこと。羽田空港に到着した時点で、もう搭乗時間ギリギリだったため、ANAのスタッフがAさんを搭乗口まで案内することになった。ANAのある女性スタッフは、片手でAさんのキャリーケースを持ち、長い通路やエスカレーターを全力疾走。途中、キャリーケースを右手、左手と持ち替えながら、とにかく一生懸命先へ先へと走る。

その姿に胸を打たれたAさんは、彼女の後ろについていきながら、途中からその様子をスマホで撮影していた。なんとか2人が搭乗口に着くと、その女性スタッフは嫌な顔をするどころか、「ありがとうございました。お気をつけて、いってらっしゃいませ」と笑顔でAさんを見送った。Aさんの話によると、およそ1kmは走ったという。

「私も日本旅行でよくしてもらった」
というコメントが続々

この動画にはあっという間に30万以上のアクセスが集まり、4月末現在120万回以上再生されている。コメント欄はものすごい数の書き込みで埋め尽くされた。

「感動した! これこそ日本のサービスだ!世界一だ!」

「ハイヒールを履いて、お客さんのキャリーケースを持ちながら、一生懸命走る姿に心がジンとして、目がウルウルしてしまった……まさに、日本人の仕事をまっとうする精神の表れだ!」

「この動画は何回見ても飽きない、感動する。心が洗われた気がした」

称賛の声がたくさん上がっただけでなく、これを見た大勢の中国人が「私もこんな経験をした」「私もこんなことがあった」と、日本の空港で同じような経験があったとコメントし、さまざまな体験談がコメント欄を賑わせた。

例えば、ある在日中国人はこんなエピソードを披露した。

「子どもがあるコンテストに参加するため、熊本行きのANAに乗った。CAのスタッフがそれを知り、わざわざ激励の手紙を書いてくれた。今でも子供がこの手紙を宝物として大事に保管している。そのあと、私たち家族はすっかりANAのファンになった」

「2019年に日本を観光した時に爆買いした。帰国する時、空港で、機内持ち込みの買い物袋がたくさんありすぎたので、3人のスタッフがそれらを手分けして、搭乗口まで運んでくれた。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。忘れられない思い出となった」

他にも、日本旅行中に「日本人に道を尋ねていたら、分かりやすい交差点までわざわざ案内してくれた。日本語が分かったら、いっぱいお礼を伝えたかった」「雨の中でタクシーを拾ってくれ、行き先を運転手に伝えてくれた」など、空港以外の場所でも、日本人に親切にしてもらった話がたくさん書き込まれていた。

中国人が感動している「いい話」が、
日本では「当たり前」?

ネガティブな反応がなかったわけではない。「動画を撮る余裕があったのに、女性に荷物を持たせるなんて、男がやることなのか?」とAさんを非難するコメントもあった。さらに、中国国内のネットユーザーの中には「この動画はひょっとして、アクセス数を稼ぎたいために、自作自演したのではないの? だって乗客は、自分の荷物を自分で持つべきだろう?」「ここまで航空会社がやってくれるものだろうか」などと疑う声も一定数あった。

こうした声に対して、「こんなことは特に珍しくない、日本では日常茶飯事だ」と多くの在日中国人が反論した。日本人も、おそらく同じ思いであろう。こうしたことは日本では珍しくない。しかし、日本人が当たり前に思うことが、中国人から見れば、「心に残る、感動的なシーン」ということになる。

a day after state of emergency declaration in japan
Masashi Hara//Getty Images
※写真はイメージです。

筆者が先日、仕事で来日した中国人団体のアテンドをしたときのこと。公務の合間に、銀座での買い物に付き合った。雨が降っていたので、どの店も紙袋にビニール袋をかぶせ、店員が店の入口まで持って来て両手でお客さんに渡し、「ありがとうございました」とお礼を言いながらお辞儀をした。一行はこのおもてなしに感激し、「それほど高価な買い物をしたわけでもないのに、こんなに丁寧に礼をされるなんて! またここで買い物したい気持ちになる。これが日本のソフトパワーだね」と、しみじみ話していた。

日本の接客は「笑顔が表面だけ」
「やりすぎ」という声も

このように、日本に来て、丁寧なサービスや接客に感激する中国人は多い。しかし、日本人の外国人観光客への「おもてなし」が、すべて相手に喜ばれているかというと、かなり怪しい。

実は、中国人旅行者の中には「やりすぎな部分がある、逆に恐縮して、居心地が悪い」という見方をする人も少なくない。

温泉旅館や懐石料理店などで、従業員が床に膝をついて話しかけてくることがある。これをやられると中国人の多くはあわてて、どう対応すればいいのか分からなくなってしまう。実際、筆者もこうした場面に居合わせた時は、後で「これは日本の伝統文化で、お客さんに対しての礼儀作法だ」と説明するのだが、それでも「やっぱり慣れない」と多くの人が答える。

中国では、“ひざまずく”というのは、尊敬する年長者、神や重要な崇拝対象に対して敬意を示すための大礼、あるいは人や物事に対して謝罪するためのものである。現代中国では、「ひざまずくのは、天と地と両親にだけ」ということわざがあるほどだ。

もう一つ、中国人観光客がよく言うのは、「日本の店員さんは笑顔で接してくれるが、これは恐らく表面だけの笑顔で、本心はどう思っているのかが分からない」というものだ。

これについて、筆者の知人で、高校時代からカナダに渡り、現在交換留学生として日本の国立大学に留学中の中国人の女性は、次のように話してくれた。

「内心から発した笑顔か、作り笑顔かは、我々お客さんにはあまり関係ないと思う。これは日本のサービス文化であり、店員さんが受けた教育であり、店員さんが仕事に臨んでいる態度だからだ。その意味で素晴らしい。別に店員さんと友だちになるわけではないので、お客さんがお金を払って、サービスを享受して気持ちが良くなれば、それでいいんじゃないかな。ぶっきらぼうな自国のサービスと比べれば、きわめて対等で上質な関係だ」

サービスレベルの高さは、
インバウンドの武器になる

冒頭の動画の話に戻る。感激したAさんは、富山での仕事が終わり東京に戻ってきた際、羽田空港のANAカウンターを訪れた。富山で買った手土産にお礼の手紙を添えて、先日の女性スタッフに渡してほしいとお願いした。そして、その場でANAの会員に加入したという。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

さらに、この動画はとうとうANA本社の目に留まり、担当者から「ANAをご利用いただきありがとうございました。動画を全社員に紹介させていただくことは可能でしょうか。我々の仕事を認めてくださったことを感謝いたします」という連絡があったという。ANAはいつもやっていることがなぜこんなに話題になったのか、不思議に思ったのではないだろうか。

この春、日本を訪問する外国人が急増していると報じられている。中国人の来日はまだ少ないが、徐々に回復していくだろう。日本のサービスレベルの高さは、ソフトパワーの一つとして自信を持っていい。中国人のみならず、世界中の人々に「日本、すごい」と深く感銘を与えていることは間違いない。

一方、日本式の“おもてなし”は、本当に喜ばれているのか、一回立ち止まり、外国人の視点でチェックしてみたほうがいいかもしれない。よかれと思って提供しているサービスが、相手にどのように伝わっているのか。考えてみる価値は大いにあるはずだ。

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