2022年のハイテク株暴落で、投資家は相当懲りていたのかもしれないが、チャットGPTはAI(人工知能)の可能性を具現化させ、ウォール街の新しい期待を集めることになった。
ダイヤモンド・オンラインの記事『チャットGPTにファンドを作らせたら「8週間で+4.9%」、人気上位10ファンドを蹴散らした』に詳細は譲るが、英国の主要10ファンドの基準を参考に、優良企業の株式から成るポートフォリオをチャットGPTに作成させたところ、その「疑似ファンド」が主要ファンドたちをパフォーマンスで圧倒することになった。
他にもチャットGPTを使ったユニークな投資方法が発見されたようだ。かつて、日本経済新聞の朝刊を読んで、その日の株価を予想する人がいたが、それをチャットGPTにやらせようという試みだ。
米フロリダ大学のファイナンス分野の助教であるアレハンドロ・ロペスリラ氏は、ニューヨーク証券取引所、ナスダックを含む主要な米国の証券取引所に上場している株式に関するデータベンダーからの4138社に関する6万7586件のヘッドライン(記事の見出し)を調べた。ニュースのヘッドラインが企業の株価にとって良いニュースか悪いニュースか、もしくは無関係のニュースかについてチャットGPTを用いて評価し、その評価が株式市場と相関関係にあるかどうかを検証した。
同論文によれば「高度な言語モデルを投資の意思決定プロセスに組み込むことで、より正確な予測が可能になり、定量的取引戦略のパフォーマンスが向上することを示唆している。予測可能性は小型株に集中し、悪材料のある企業でより顕著」だという。
適切な指示さえ出せば、英国の主要10ファンドの運用成績を上回ったチャットGPTだが、今回の論文でも、金融・経済系のニュースの見出しを理解し、それが株価にどのような影響を与えるかを判定する能力を持つ可能性があることが分かった。米金融街のウォール街の超高給取りたちの仕事はなくなってしまうのではないか。米投資銀行ゴールドマン・サックスが3月26日に出したレポートによれば、金融関係の仕事の約35%がAIによって自動化される可能性があると推測されている。
今回は、チャットGPT関連企業とその将来性について述べていこうと思う。チャットGPTをはじめとするAIの台頭がテック界に旋風を巻き起こしている。
ジェネレーティブAI(生成AI)、すなわち、テキストや画像、音声、動画などを創り出すAIというものは、その誕生からまだ日が浅い。しかし、大量の情報を処理し、利用者からの要求に対応して精緻なコンテンツを創り出すというこのツールは、すでに企業や教育機関、政府、そして個人に至るまで、影響力を広げつつある。
数十億ドルから100億ドルという莫大な資金をこの技術へつぎ込む大手テクノロジー企業が存在し、スタートアップ企業は莫大な資金調達を行い、AIを駆使したビジネスモデルの開発は今、猛スピードで進んでいる。
米調査会社ピッチブックのアナリストは、生成AI企業へのベンチャー投資は、22年の45億ドル(約6200億円)という水準の数倍になり、AIアプリケーションの市場は法人向けだけでも、23年の426億ドル(約6兆円)近くから26年には981億ドル(約13.6兆円)にまで上昇すると予測した。
チャットGPTは、AIサービスの名称であり、そのチャットGPTを構築した企業である米オープンAIは上場していない。そのためチャットGPTに直接的に投資することはできないが、その関連銘柄にはできる。
その代表例が、オープンAIに複数回にわたって投資している米マイクロソフトだ。株価は、この半年(6月9日現在)で29.4%上昇している。
マイクロソフトは、1975年にビル・ゲイツ氏らにより設立された。85年、OS「Windows」をリリースし、デスクトップコンピューティングの主流となった。その後の95年には、インターネットの普及に伴い、ウェブブラウザ「Internet Explorer」をリリースした。
2000年代に入ると、企業向けのソフトウェアやクラウドサービスといった新たな領域へと事業を拡大。10年代からは、AIとクラウド事業の推進を強化している。IT業界における巨大コングロマリット企業となったマイクロソフトにおいて、チャットGPT関連事業はまだまだ事業規模としては小さい。
しかし、マイクロソフトは今、チャットGPTを搭載した検索エンジン「Bing」で大きな賭けに出ており、同社のサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)は新しい検索エンジン競争が起きていると発言している。
検索市場を失うわけにはいかない米グーグルの親会社である米アルファベットは、オープンAIのライバルに当たるアンスロピックに3億ドル以上を投資した。米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が確認した投資家向けプレゼンテーションによると同社は、「今後2年以内に最大50億ドルを調達し、スタートアップのチャットGPTのライバル『クロード』を動かす大規模言語モデルを進化させる見込み」(ウォール・ストリート・ジャーナル、5月8日)だという。
複数年で100億ドルをオープンAIに投資するといわれているマイクロソフトとの「検索」競争は激化している。
さらに「オープンAIのチャットGPTは1980年代以降で最も重要な技術的進歩である」と語るゲイツ氏は5月22日、ゴールドマン・サックスと投資ファンドSVエンジェルが米サンフランシスコで開催したAIをテーマにしたイベントで次のようなことを語っている。
「将来AIのトップ企業が、人に代わって特定のタスクをこなすパーソナルなデジタルエージェントを作り上げる可能性が高い」
「この技術は非常に奥が深く、ユーザーの行動を根本的に変えてしまうかもしれない」
「パーソナルエージェントを制する者が誰であろうと、それは大きな意味を持つ。なぜなら、あなたは二度と検索サイトには行かず、生産性向上サイトには行かず、アマゾンにも二度と行かなくなるだろうからだ」(米CNBC、5月22日)
チャットGPTを含む生成AIは、働き方や勉強の方法、休日の過ごし方といった私たちの日常生活を根底から変えてしまう可能性がある。これらの技術は新しすぎて、どのように利用し、どうやってマネタイズ(収益化)するのか試行錯誤は始まったばかりだ。利用しても本当に安全なのかという疑問もある。
ただ、生成AIに関連する会社の株が大いに注目されることになり、その株価は急激に上がっている。新しい技術への投資が加熱し、結局バブルがはじけるという失敗はこれまで何度も犯してきたような気もする。しかし、リスクを取ることを恐れない投資家は、この分野の株に投資するのが悪い考えとは思わないだろう。
マイクロソフトは、この生成AI関連の企業群では最も安定した投資先と考えられる。同社はAIを活用したさまざまな商品を提供しており、オープンAIとの提携により、将来的には生成AI技術の進歩から大きな利益を得ることができるはずだ。
オープンAIへの巨額投資を武器に検索市場の圧倒的王者だったグーグルに挑むマイクロソフトの鼻息は荒い。