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「カエル混入は自作自演じゃないの?」
という人が知らない現実

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 thumnail
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「工場や厨房でみんなチェックするのに、生きたカエルが入っているなんてあり得ない」、「ちょっと前にサラダにカエルが入っていたニュースを見て、それを真似したんじゃないのか」――。

丸亀製麺の新製品「シェイクうどん」に“生きたカエル”が混入していた動画をアップした人は当初、SNS上で「自作自演」を疑われていた。

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中には疑うどころでは気が済まず、「そんな動画をアップして恥ずかしくないのか」「企業から賠償請求されることを覚悟した方がいい」など誹謗中傷をする人までいた。

要するに、承認欲求の強い人が「いいね」がほしくて、被害者を装って不適切動画を投稿した、と受け取った人が一定数いらっしゃったのだ。

ほどなくして、丸亀製麺側が混入の事実を認めて、公式サイトに謝罪文をアップ。晴れて、この人物の潔白も証明された…と思いきや、ネットやSNSでは「客を疑うことを避けて、仕方なく丸亀製麺側が折れたかもしれないのに、謝罪が出ただけで素直に信じるなんて日本人はおめでたすぎる」なんて感じで、今でも「自作自演説」がくすぶっている。

なぜこうなってしまうのか。パッ思い浮かぶのが、「国民性」だ。

背景にあるカット野菜の需要拡大、
「いい事ずくめ」のはずが…

ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏の性加害を告発した男性がSNSで「うそつき」「売名」などと叩かれているように、日本では権威や組織の問題を告発する人に対して、強烈な嫌悪感を抱く人がいる。実際、筆者も自社の不正を内部告発した社員が、「恩をあだで返すのか」「みんなの迷惑を考えろ」と叩かれ、陰湿なイジメにあって会社を去っていく、という姿をこれまで何度も見てきた。

ただ、今回の異物混入の「自作自演」を疑う人が続出するという現象が起きた最大の原因は、「カット野菜の異物混入リスク」を理解していない消費者が多いからではないか、と個人的には思っている。

ご存じの方も多いだろうが今、カット野菜の市場が成長している。この10年間で2倍以上となり、昨年度は2000億円近い規模になっているそうだ。

カット野菜
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スーパーで売っているような市販のカット野菜の場合、忙しい人の「手抜き」や「少人数にちょうどいい」というのが人気の秘密だ。しかし、外食チェーンの多くで用いられる「業務用カット野菜」の需要が増えた理由は、主にコストと衛生面によるものだ。

野菜を厨房で水洗いして、切ってということになると、その作業をやる分の人件費が発生してしまう。しかし、業務用カット野菜を用いれば、袋から使う分だけを出して盛り付けるだけなのでそういうコストはかからない。しかも、野菜を丸ごと購入するよりも安い場合がある。多くの店舗をもつ大手チェーンの場合、野菜から「業務用カット野菜」へスイッチしただけで、かなり大幅なコストカットができるのだ。

しかも、衛生的だ。スーパーで売っている市販のカット野菜でもたまに「洗わないで食べられます」と書いてあることからもわかるように、多くのカット野菜工場では安全面や衛生面に非常に神経を尖らせている。食べやすい形に切っているだけではなく、食の安全性を担保しつつ殺菌や洗浄もしっかりやってくれる。異物混入がないように、金属探知機やX線などで検査をするような工場もある。しかも、使う分だけ袋から出して消費するので、ゴミも少なく済んで厨房も衛生的なのだ。

さて、このような話を聞くと、「そこまで食の安全を意識しているなら、異物混入リスクなどそれほどないのでは」と感じる人も多いだろう。しかし、そんな「高い意識」こそが、異物混入リスクを高めているというなんとも皮肉な現実がある。

なぜ異物混入リスクが高まる?
店舗責任者目線で考える

一体どういうことかをご理解していただくには、外食チェーンの店舗責任者になったと想像していただくといいかもしれない。

さて、あなたがこのような「安全性に信頼がある業務用カット野菜」を仕入れる立場だったら、調理担当者やバイトの店員にどんな使い方を指示するか。

袋から出して皿に盛り付けする前に、水洗いさせるだろうか。野菜の表面などを細かくチェックして、色がおかしくないか、葉の間に虫などの異物が入っていないかなどを確認するだろうか。

恐らく「忙しくない時はやるかもしれないけど、店が混雑してきたらやらないかな」という人が多いのではないだろうか。当然だ。カット野菜は工場でしっかりとした品質管理のもとで生産されている「原料」だからだ。

飲食店が丸ごとの野菜を仕入れたら、それは「食材」なので、厨房で調理担当者が洗って、切ってという下ごしらえをする。その際に、異物がついてないかなどのチェックするのは、調理担当者の役目でもある。

しかし、これが「原料」ならば、そうならない。飲食店をやっている人で、取引先から仕入れた醤油や牛乳など使用する前に、中身を一度皿などにぶちまけて、異物混入がないかチェックするという人はまれだろう。大多数の調理担当者は「原料」は容器からそのまま出して使う。袋に入った「カット野菜」も同じだ。

つまり、「カット野菜」というのは野菜という食材でありながらも、それを仕入れている店舗側の扱いとしては「原料」なので、調理担当者が品質を厳しくチェックしない、という問題が生じるのだ。

この「死角」こそが近年、カット野菜の異物混入が増えている原因ではないかと筆者は考えている。

そう聞くと、「なぜ厨房がチェックをしていないと言い切れるのだ!うちの店ではカット野菜も袋から出してちゃんと洗って、盛り付けの時に目視で確認してから提供しているぞ」と不愉快になる飲食店も多いだろう。

ただ、丸亀製麺に関してはそういうプロセスを踏んでいない可能性がある。なぜそういえるか。

「原料」を仕入れている取引先が
「やらかした」

5月23日に丸亀製麺が公表した「お詫びとお知らせ」の中の一文が、騒動の背景を、雄弁に語っている。

「弊社では、直ちに管轄保健所に指導を仰ぎ、原材料(野菜加工工場)由来の混入と判断したため、生野菜を扱う取引先の全工場において立ち入り検査を実施し検品体制を強化いたします」

消費者の感覚では、いくら原材料由来の混入だったとしても、野菜を盛り付けているのは厨房の調理担当者なのだから、そこのチェックが不十分ではなかったのかと思う。実際、SNSで「自作自演説」を唱えている人の中には、飲食店関係者もいて、「調理担当者が野菜を盛り付ける時に気づかないわけがない」という指摘も多い。

だが、丸亀製麺の今回の「お詫び」の中に、「加工野菜を洗ったり、盛り付ける時に調理スタッフも混入に気づくことができませんでした」なんて言及はない。再発防止策に関しても「取引先への立入検査」のみ。店にはなんの非もないというスタンスを貫いている。

それを象徴するのが「検品」という言葉だ。この文脈で使われている検品は、取引先工場から仕入れた原料の品質を確認するという意味だ。つまり、丸亀製麺にとって今回の異物混入は自社のミスではなく、あくまで取引先が「やらかした」という認識だ。

これに似た考え方がうかがえる騒動は、2014年にも起きている。

かつてマクドナルドが原料を仕入れていた中国の工場が期限切れ鶏肉を出荷していた実態が明らかになったことがある。当時の経営者は「自分たちもだまされた。被害者だった」というようなニュアンスのことを会見で述べて炎上した。多くのサプライヤーから原料を仕入れる大手外食チェーンはどうしても、「原材料由来の異物混入」も他人事で考えてしまう傾向があるのだ。

「バイトテロ」のように厨房で起きたことは自社の責任だが、原料はあくまで仕入れているものなので、悪いのは取引先であって、自社は巻き込まれただけ。それは企業としては当たり前の考え方だろう。しかし、消費者はそう都合よく解釈してくれない。

しかも、そういう「セクショナリズム」というか他人事感が、カット野菜の異物混入を増やしている側面もあるのだ。どんなに衛生管理をしても、野菜という自然のものなので必ず何かしらの生き物がまぎれ込むからだ。

「カエル混入」がゼロになるのは無理?
問われる飲食店の姿勢

今回の騒動前の5月11日、長野県上田市内のスーパーで売られていた「緑黄色野菜がとれるパリパリ麺のサラダ」という商品にカエルが混入していた。これを製造したのは、松本市でコンビニの弁当などを納入している食品会社なので、やはり「業務用カット野菜」を用いていた可能性が高いだろう。

報道によれば、このカエルは国内に広く分布する体長2〜4センチほどの「二ホンアマガエル」でちょうど5〜6月に繁殖で大量発生する。ある専門家は、「自然由来のものに虫やカエルが紛れ込むのはしょうがない」という主旨のことを言っていた。

実際、この時期のカエル混入は数年前も起きている。2018年5月にはガスト南熊本店の「チーズINハンバーグ&海老フライ弁当」の中にカエルの死骸が入っていた。厨房にカエルが入ることは考えにくく、これもやはり原材料由来、つまりはカット野菜に紛れ込んだものだろう。

このような傾向は、日本だけではない。

「クーリエジャポン」の『カット野菜に隠れた「別の緑」の正体は…カエルだった!』(19年7月30日)によれば、アメリカで動物科学を専門とする4人の研究者らが調査をしたところ、2003~2018年の間にカット野菜に、ネズミや虫などの動物が混入したケースが40件報告されていたという。そしてうちなんと20件はカエルなどの両生類だったという。

カエル,peekaboo frog
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これはあくまでネットなどで話題になったものだけなので、実際はもっと混入している可能性が高い。アメリカは日本よりも早く80年代から「カット野菜」が普及しているので、安全管理もそれなりにしている。にもかかわらず、これだけの異物混入が確認されているということは、「カエル混入ゼロ」はかなり難しいということだ。

カエルや虫を殺すような殺菌をすれば当然、人間にも何かしらのマイナスの影響があるだろう。AIやセンサーなどで確認するといったところで、機械である以上どうしてもミスもでてくるはずだ。野菜という自然由来のものを、できる限り新鮮に、かつ大量にパッケージをして市場に出すということをやれば、一定の割合でカエルや虫はくっついてくるものなのだ。冷静に考えれば当然のことだ。

つまり、これからも毎年5月や6月になると「カエル混入カット野菜」は市場に出回るということだ。しかも、賃金が上がらない「安いニッポン」において、外食の安売り競争は今後も激しさを増していくので、効率化やコストカットの流れからも「カット野菜」の需要は今後さらに高まっていくだろう。その時、飲食店は「検品」だけで乗り切れるのか。

食材のようで食材ではない、原料のようで原料でもない。異物混入リスクが高いわりに、責任の所在があいまいな「カット野菜」が引き起こす騒動は、今後も増えていくのではないか。

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