瀬戸 健・RIZAPグループ代表取締役インタビュー

[目次]

▼ 大量出店で会員数ナンバー1にチョコザップが覆した概念とは

▼ 営業赤字を続けても店舗拡大を目指した勝算

▼ 新サービス導入前には必ずテストして反響を調べる

▼ 筋トレ上級者は対象外思い切ったアプローチ

▼ ジムを生活の一部と見る米国人、「特別な場所」と見る日本人

▼ AIによって無人で店舗が回る仕組み作りにも挑戦

※2024年2月28日に「ダイヤモンド・オンライン」に掲載された、小尾拓也氏(ダイヤモンド・ライフ編集部 編集長)、まとめは大根田康介(記者)による記事の転載になります。


大量出店で会員数ナンバー1に
チョコザップが覆した概念とは

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――計画的な大規模投資により、直営店舗の高速大量出店が続けられてきたchocoZAP(以下、チョコザップ)は、今年2月中旬に会員数が112万人(アクティブ会員のみ)を超え、フィットネス業界首位を走っています。昨年11月から、計画を前倒しで単月黒字も継続中です。足もとでは出店ペースを落とし、サービスの品質向上に集中しているそうですが、来期から再び出店攻勢をかけると聞きます。好調の要因は何でしょうか。

既存のジムは主に上級者や運動経験者が利用する施設でしたが、チョコザップはその概念を完全に覆すことを目指しました。

rizapグループ代表取締役 瀬戸健
RIZAP
瀬戸健(せと・たけし)RIZAPグループ代表取締役1978年福岡県生まれ。2003年に健康コーポレーションを設立、06年上場。12年からパーソナルトレーニングジム「RIZAP」事業を開始。16年、RIZAPグループに社名変更。ヘルスケア・美容、ライフスタイル、インベストメント事業などのグループ会社を束ねる。

運動の初心者や未経験者などのライト層に焦点を当て、会費の安さに加えて、生活圏内にありアクセスが容易、24時間利用可能、着替えが不要といった利便性を追求し、気軽に運動する機会を提供してきました。このアプローチが、顧客に受け入れられた最大の要因であると考えています。

当社の基幹事業であるライザップとの事業連携についても、ようやく芽が出てきました。ライザップは「結果にコミットする」というコンセプトの通り、体重や体格の変化において高い目標を持つ層が中心ですが、チョコザップは気軽に運動したいという層を対象にしています。

しかし、その中の一定数の人が本格的な運動に目覚めて「もっと体を鍛えたい」「減量をしたい」といった、より高い目標に挑戦したいと感じるようになり、次のステップに進んでいます。実際、データによると、今年1月には、ライザップの新規入会者のうち7.8%がチョコザップの経験者でした。この取り組みはまだ始まったばかりですが、強い手ごたえを感じています。

営業赤字を続けても
店舗拡大を目指した勝算

――ライザップ事業と連携できるのは大きなメリットですね。主にチョコザップへの投資によって、全社としてはしばらく営業赤字が続いてきましたが、2024年3月期第3四半期は、同事業の早期黒字化により、連結営業利益で四半期黒字を達成しました。足もとで店舗数は全国44都道府県、1300店以上まで増えています。なぜチョコザップの急速な拡大を目指したのでしょうか。

チョコザップには、「投資に見合うリターンが期待できる」という確信があったからです。その根拠は、テストマーケティングなどで高い成功率が見込まれたことです。投資に対する入会者数や利用継続期間、そして資金回収の見込みなどを考慮した上で、事業を始めました。

多くの人がインターネットで、「チョコザップは素晴らしいけれど、もっと自宅の近くに店舗があればすぐにでも利用したい」というクチコミをしていました。フィットネスの店舗は、それくらい自宅からの距離が重要なのです。

チョコザップ会員の割合は、自宅から1Km圏内が60%以上、2Km圏内だと85%以上になります。商圏が非常に限られているため、複数の店舗を展開することで顧客の幅を広げることが必要です。

たとえば、通信販売は出店場所と売り上げの関連性があまりないし、飲食店は自分にとって特別な場所であれば駅をまたいで遠方に行く人もいるでしょう。しかし、運動は日々の習慣ですから、施設利用者の通いやすさが大きく影響します。そのため、ジムはいかに自宅から近いか、どれだけ多くの店舗を生活圏に出せるかが大きなポイントです。出店への集中投資はそのために必要不可欠でした。

――新しいビジネスモデルを構築し、商圏を確立するために大きな投資をしてきたのですね。月額3000円程度で24時間使い放題という価格設定は、かなり革新的だと思います。損益のバランスはどのように考えているのでしょうか。

これまでフィットネスジムといえば、総合型が月額1万円以上、安い24時間ジムでも月額7000円くらいの価格設定が一般的でした。ユーザーの頭の中でも、そういう価格が形成されていたと思います。そこで当社は、損益のバランスを考えるというよりも、まずは日本中の人々が「チョコザップに行かなければ損だ」と感じる価格まで下げてみようというチャレンジをしました。

――「固定観念を打ち破ろう」という発想ですか。それが結果的に急成長につながったと考えると、目論見は見事に当たったというわけですね。

「そのくらいの価格なら妥当じゃない?」と誰も驚かない程度だったら、顧客も「やらなければ損」とは思わないでしょう。社内で反対されるくらいがちょうどいいと考えていました。もちろん、価格を決めるまでには様々なテストを重ねました。

新サービス導入前には
必ずテストして反響を調べる

――新規出店にかなり力を入れてきたと思いますが、店舗を現在のような形態にしたのは、どのような判断があったのでしょうか。

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RIZAP
chocoZAPのサービスのひとつ「セルフホワイトニング」。

新規出店と同時に、どのマシンがどれだけ使われているのかを常に検証してきました。コンビニエンスストアで、各商品の売り上げデータを取得するのと同じです。

当社はジムというサービスを提供しているので、マシンの使用率や使用人数などのデータをきちんと分析して、より良いサービスとして還元する必要があります。供給者側の視点だけでマシンを配置しても意味がありません。結局のところ、需要と供給のバランスが重要で、どのマシンがどれだけ需要があるかを検証し、それに基づいて適切な台数を検討しながら品揃えを調整しています。

コンビニのように、新しい商品があれば提案しています。その一例が、昨年9月に発表した「セルフホワイトニング」「セルフネイル」「マッサージチェア」など6種類のサービスです。新サービスを導入する際には、必ずテストを行い、反響の変化や既存店舗との比較を行います。利用者数や継続率にどれだけ影響を与えるかを含め、すべてのデータを収集し、導入するかどうかを判断しています。そうした結果、現在のような店舗形態になっているのです。

――これだけ店舗数が多いと、個々の顧客の属性を分析するのは難しくないですか。

そこはあまり苦労していません。ただ、他のサービスでも同じように、顧客の購買履歴や好みに基づいてパーソナライズされた提案を続けていると、サービス内容が類似してくるという課題もあります。そのため、顧客の潜在的なニーズに応えるような新しいコンテンツを定期的に導入することが、顧客を飽きさせず、他社と差別化する上でも重要だと考えています。

――チョコザップとライザップの顧客層を比べて、性別、年齢、職業、年収、趣味などの属性で大きな違いはありますか。

チョコザップの顧客は20代から50代まで幅広く、男性と女性の割合はほぼ均等ですが、女性の割合がやや多いです。一方ライザップは、顧客の年代や性別などはチョコザップと大きな差はありませんが、ボディメイクに対する明確な目標や目的意識をお持ちの方が多いです。

通常のジムでは男性が多数を占めることが一般的ですが、チョコザップでは女性会員の獲得にも重点を置いています。たとえば、セルフネイルなどのサービスを導入することで、多くの女性会員の方にご利用いただいています。

筋トレ上級者は対象外
思い切ったアプローチ

――チョコザップ事業の説明資料において、筋トレ上級者が会員の「対象外」とされているのを見ましたが、これは面白いですね。

そうですね。チョコザップのマシンは重りを一般的なマシンと比べて軽めにしていますから(笑)。筋トレに慣れた人にとっては少し物足りないかもしれません。ジムは過去、運動にこだわりを持つ上級者によって成り立ってきた部分も大きいですが、未来を考えると、もっと若い人や初心者の選択肢を広げないといけません。

――最初から「女性会員を増やしたい」という明確な目的があったのでしょうか。

男性が多すぎると女性が通いづらくなるため、ジム全体のバランスを考えると、男性会員より女性会員の割合が若干多いくらいが望ましいです。年齢層に関しては、以前は20代が3割以上で最も多かったですが、最近は40代や50代の比率が増え、50歳以上の方が3割程度になっています。

その理由の一つは、60歳以上が注目するメディアに広告を出したりして、年配の方々に受け入れられるようなアプローチも行っているからです。コンビニでも幅広い年代に向けた取り組みが行われているように、あらゆる年代に対するアプローチが重要だと考えています。

――米国ではフィットネス人口が約20%であるのに対し、日本では約3%にとどまっています。逆にいえば、日本市場にはまだ大きな伸びしろがあります。チョコザップに興味を持ちそうな、初めてジムに通いたいという人や、軽い筋トレから始めたいという人の人口は、今後どれくらい増えていくと見込んでいますか。
  
「健康でいたい」という願いはみんな共通しているので、チョコザップの対象者は実質的に国民の100%に近いと言えます。そのために、身近な手段としてフィットネスがどれだけ利用できるようになるかという状況次第ですね。

米国では、自宅外で着る服と室内で着る服の違いがあまりありません。たとえば、スパッツや屋外で歩くための靴は、室内で使うものと同じことが多く、フィットネスは生活の一部として位置づけられています。さらに、マンション内でもジムが利用できる場合があるし、健康保険に加入しているとジムが無料で利用できるサービスもあるので、ジムを利用するのもそれほど難しくありません。

ジムを生活の一部
と見る米国人、
「特別な場所」と見る
日本人

一方、日本では「運動はこれだけやらないと意味がない」と言われたりして、ジムが特別な場所と見なされている傾向があるので、健康の手段としてフィットネスをより身近に感じてもらいたいです。そのためには、ジムを利用する心理的なハードルを下げて、フィットネスが生活にどう役立つかを示していく必要があります。

たとえば、認知機能の向上や睡眠の質の改善、心の健康へのプラスの影響などが挙げられます。当社の調査によれば、幸福度とフィットネスの間には強い相関関係があることが分かっています。しかし、そうしたことを知らない人も意外と多いですね。

ちょっとした有酸素運動で心拍数を上げるだけで認知機能が改善することがあります。エレベーターを使わずに階段を使うのもいいですが、ちょっと散歩をするだけでも自分の体重を支えるために相当な筋力が必要だし、立ち上がって歩くだけでも効果があります。

ジムで有酸素運動
wombatzaa
※写真はイメージです。

――チョコザップが流行ったことで、今はジムを使う側の敷居がかなり下がったように思います。 

これまで、多くの人が肩身の狭い思いをしてきました。たまにSNSで、「チョコザップでスマホを見ながら10分くらいバイクをこいで帰る人がいて、笑った」といった投稿があり、本気で取り組む上級者とそうではないライト層の間で議論が起きることもありました。

上級者にマシンを独占されて、ストレスを感じているライト層もいるでしょう。ジムは場所を共有しているので、1つのマシンをずっと使用されると他の人に影響が出ます。同じ利用権を持っているので、公平な利用が求められます。当社はその問題を解決してきました。

AIによって無人で店舗が
回る仕組み作りにも挑戦

――チョコザップをさらに成長させていく上で、課題はありますか。

高度経済成長期の日本社会は、たくさんの人がいて、その人たちが臨機応変に動く「人ありきの時代」でした。しかし、今後は少子高齢化が進み、人手不足になり、人に頼っていると社会がうまく回らなくなるでしょう。

それを補うべく、デジタル技術が進化しています。たとえば、当社のアプリケーションを使えば、トレーナーの代わりにアドバイスを提供したり、生活記録をつけたり、食事の栄養を解析したりすることができるようになりました。

また、チョコザップでは、1万台以上のAI(人工知能)カメラを設置して遠隔監視を行っています。不審な行動や転倒などに反応して、1日に約4000件の異常値を検知しています。このように、無人でもジムがうまく回る体制を確立しようとしていますが、汎用AIはまだ決められたルールの範囲でしか動作しません。状況に応じて判別する汎用AIが実現するのは、まだ先の話でしょう。

我々は、社会の過渡期において試行錯誤しながら、無人でも必要な機能を確保して、快適で安全な環境を提供することに力を入れています。ただし、そこがまだ完璧ではなく、社会の変化に合わせてジムのインフラを進化させる必要があり、それが大きな課題ですね。

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