そうです…、ザック・エフロンの“正しさ”は確かにそこにありました。彼がジャケットを脱いでそれを椅子にかけると、私(筆者ローレン)の目はたちまち、Tシャツの下から見えている上腕二頭筋に釘づけになりました。くっきりと浮き出た血管が、まるで皮膚から飛び出してきそうです。

ザック・エフロンが誇る筋肉美

エフロンの上腕二頭筋なら、以前、彼がロケ地で写真の撮影をしていたときにも見たことがあります。マリブの北に位置する丘にある牧場に私が到着したとき、彼は四輪バギーに乗っていて、フォトグラファーの周囲をぐるぐると土煙を巻き上げて走っていました。私は安全を確保するため少し離れた場所にいましたが、そのシャープな腕のラインは、もうもうと上がる土煙の中でもはっきり見ることができたものです。

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私たちが人目につかないよう、キッチンの裏にあるバックルームをスタッフが用意してくれたサウザンドオークスのステーキハウスにやってきたエフロンが、まるで上腕二頭筋を見せるためのような姿勢を取ったので――前かがみになり、軽く合わせた両手をテーブルについた――私はいかがわしい覗(のぞ)き見をしている気分でした。

その上腕二頭筋のことを書いていると、ますますいかがわしい真似をしている気分になるのですが、要するに、エフロンの腕はいまや、彼の身体の一部分であるのはもちろんのこと、彼のアイデンティティの一部にもなっているということが言いたいのです。

2017年の『ベイウォッチ』では、スクリーン上の彼の腹筋はまるで描き加えられているかのように見えました。エフロンにとっては、あの映画が肉体派としてのお披露目作であり、以降、皆が彼の身体をじっくり見るようになったというわけです。

俳優ザック・エフロン:経歴とキャリア

17歳のときに出演した『ハイスクール・ミュージカル』で、元気はつらつとしたビーバー・ヘアのディズニー的キャラクターを演じた2006年から、ずっと注目され続けてきたエフロンでした。その後も数多くのロマンスものやコメディ、ロマンチック・コメディなどに主演してきました。

『ネイバーズ』『一枚のめぐり逢い』『ウィー・アー・ユア・フレンズ』『恋人まで1%』『ウェディング・フィーバー ゲスな男女のハワイ旅行』などなど。その若さにしては、彼の出演作は驚くほどたくさんあり、ジャンルも多岐にわたっています。『ベイウォッチ』の後、彼はドラマ映画への方向転換を図ったほか、『ザック・エフロンが旅する明日の地球』という、持続可能性をテーマにしたNetflixの旅行番組にも出演しています。

その後、パンデミックが発生したため、何でもやることのできたこの男が――ティーンエイジャーの頃から、常にいろいろなことをやっていました――ほとんど何もやっていませんでした。彼はオーストラリアの海辺の保養地、バイロン・ベイに引きこもっていたのです。樹木につるしたハンモックで寝たり、一般人とデートをしたりしました。彼が動くたびに光を放つ発光プランクトンとともに、月明かりの下で泳いだりもしました。

その間、ほかの人々はまだ彼の肉体を話題にしていました。2020年7月、『ザック・エフロンが旅する明日の地球』がNetflixで配信されるようになると、彼の“オヤジ体形”についてコメントする人が現れました――もちろんそのオヤジ体形は、彼のライフガード体形と比較してのものであって、「ニューヨーク・ポスト」紙には「彼が『ベイウォッチ』で見せた筋骨隆々の身体とは似ても似つかないもの」と書かれ、ツイッターでは彼はオヤジと呼ばれていました。

遠く離れた土地でエフロンもまた、かつて彼のトレードマークだった体形について考えていました。自分がどのような食事をして(ヴィーガン)、どのようなトレーニングを行い(ものすごくハード)、どのような睡眠を取っていたか(貧弱)、改めて考えてみました。

そしてエフロンは、私たちの多くと同じように、パンデミックの期間を繭(まゆ)の中で過ごしたあと、太陽の光に目を細めながら、新しく生まれ変わった自分を見せようと再び姿を現したのです。新学期を迎えるときのような楽観主義でもって…。

映画『史上最高のカンパイ!〜戦地にビールを届けた男〜
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映画『史上最高のカンパイ!〜戦地にビールを届けた男〜』Apple TV+

エフロンは、健康とフィットネスに関する新しい哲学だけでなく、新しい映画――『史上最高のカンパイ!〜戦地にビールを届けた男〜』(2022年9月30日からApple TV+で公開)で、ラッセル・クロウとビル・マーレイの相手役を務めています――もあり、新しいキャリアに飢えているところです。

キャリアにおける新しい段階を迎えたエフロンが求めているのは、深みです。バランスの取れた人生をおくる俳優と役選びの両面において、彼の目標となっているのはレオナルド・デカプリオであり、同じく元ティーン・スターのロバート・パティンソンです。

しかし現在34歳で、『ハイスクール・ミュージカル』以降の16年間に大量の映画に出演してきたエフロンですが、いまだに今後数十年間にわたって自分を活かしてくれる分野が見つかっていないと言っていいでしょう。これまで役のために肉体改造を行ってきた彼は、いま、より深い部分での変化を追求しているのです。

エフロンは友人を訪ねたり、ミーティングに参加したりと、ロサンゼルスで過ごす時間を“わずか”に留めておきたいと思っています。最終的に彼は、自分の土地を所有していると伝えられているバイロン・ベイ(オーストラリアの海辺の保養地)に戻るつもりですが、それ以外の場所ではかなりの短期滞在です。

「ぼくはバンに乗って旅をして、世界のできるだけ多くの場所を見て回りたいと思っているんだ、あるいは、森の中を歩いてキャンプをしたりとかね」と、エフロンは言います。もちろん、彼が携帯品を多く持ち過ぎるようなことはありません。彼が言うには、Tシャツが10枚、トレーニング用の短パンが5枚、下着とスウェットシャツが2着ずつ、そして彼がいつも着ている、ルルレモンの短パンとパーカーのトラックスーツが2着。「だいたいそんなところかな」。

ステーキハウスのメニューを眺めているとき、彼はこれが久しぶりの外食であることを打ち明けました。彼は周りのファンがメロメロになる俳優であり、また、みんなが気兼ねなくアプローチできるようなタイプの俳優なのです。

それは筆者の私にもわかりました。威圧的と思えるくらい、均整の取れた彫りの深い顔立ちなのに、とても人懐こそうな表情をしているのです。青い目がキラキラと輝き、笑顔でないときでも、いまにも笑顔を見せてくれそうな感じがします。これまでも彼は、私の友人が“自意識過剰のアニキ”と呼んだような、非常に親しみやすいキャラクターを何度か演じてきました。また、『テッド・バンディ ~とてつもなく悪辣で、驚くほど卑劣で邪悪~』で演じたテッド・バンディにしても、決して人を不快にするようなキャラクターではありませんでした。

「ぼくはとにかく、外出がいやでね。人が大勢いると、広場恐怖症が顔を出すんだ」と彼は言います。目の前にいるのが誰であろうと、「その人の2倍のエネルギーでもって周囲の人を和ませたい」という強い欲求を持っていそうなエフロンの口から、こんなコメントが飛び出してくるとは意外でした。

実は「ヴィーガン」が続かなったザック・エフロン

接客係のエリンがやって来て、おすすめ料理の説明を始めます。エリンは快活でテキパキしていて、私は目の前の2人のどちらが相手の注意を引きつけるか見比べていました。シーフードタワーのおすすめポイントを並べていくエリンに、エフロンが「ワオ」と声を漏らし、食い入るような目で彼女を見つめました。そして、説明が肉の部――とりわけ、日本産のA5和牛ステーキ――に移る頃には、エフロンはそれにうっとりと聞き入っていました。彼はその肉がグラスフェッドではなくてグラスフィニッシュであることを確認すると、A5和牛を2人で分けようと私にもちかけました。

そのほか、フィレミニョンとシーフードタワー、そして2種類のサイドメニューも分け合うことにし、エフロンが「身体を大きくしているところなんでね」と言って、笑いながらメニューをエリンに返しました。そして彼女が部屋から出て行くと、「まさか自分があんな言葉を口にするとは」と…。まるでそれが、「ザック・エフロンにしては、あまりにもザック・エフロンさを極めすぎた台詞だったかな?」というような表情とともに言うのです。

エフロンのように厳格につくり上げられた肉体の持ち主は、果たしてステーキハウスで食事をするのか? 食べるとすれば何を食べるのか? 私は以前からずっと知りたいと思っていました。そして彼がヴィーガンだった時期――『ザック・エフロンが旅する明日の地球』の共演者で、健康のエキスパートであるダリン・オリエンの影響もありました――は、あまり長くなかったことがわかりました。

ヴィーガンになって2年後、エフロンは自分が衰えているのを感じて、「また何でも食べるようになったらどうなるだろう?」と考え始めたのです(それで気分がよくなったわけではありませんが、食物過敏性に関する一連のテスト結果を受けて、タンパク質重視の食生活に落ち着きました。また、食事の前にはリンゴ酢を飲むようにしています)。

フレキシタリアン」としてのザック・エフロン:食事メニューは?

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「道義的には、もちろん今でもヴィーガンでありたいと願っているよ」と、彼は言います。しかし今夜の彼は、陸と海の生き物に舌鼓を打つのです。

まもなく、シーフードタワーが運ばれてきました。砕いた氷の山にカニの爪とカキを並べたもので、山のてっぺんにはドライアイスを入れた容器があって、ダンジネスクラブ(アメリカイチョウガニ)の身を盛りつけた深皿の下から流れ出ています。

エフロンの身体は確かに大きくなっていましたが、それはまだ発表されていない役のためと、彼は説明してくれました。しかし、『ベイウォッチ』のトレーニングのときと同じくらい、熱心に準備に取り組んでいるわけではありません。彼はもう、あのような身体は欲しくないのです。と言うよりも、あの身体を手に入れるためにやったことは、もうやりたくないというわけです。

「『ベイウォッチ』のときの身体は、ちょっとやそっとのことではなれないようなものだよ。皮膚中の水分量が、ものすごく少なかったんだ。とても本物には見えない。まるでCGさ。あんなふうになるためには、強力な利尿剤が必要だったね。だから、もうあんなことをやる必要はないんだ。体脂肪が2~3パーセント余分についているくらいのほうが、ずっといいね」。

体脂肪率ひと桁を追い求める危険性とデメリット

利尿剤だけでなく、激しいトレーニングも行って、毎日3回同じ食事を摂っていました。さらに、睡眠も十分ではありませんでした。撮影が終わったのが深夜であっても、トレーニングをするため、朝の4時に起きていたのです。最初のうちは『ベイウォッチ』に出ることに興奮していました――これが楽しいアクション・シリーズになると考え、自分のキャラクターも気に入っていました――しかし、そこからの回復が彼を苦しめたのです。

エフロンは、「愚痴をこぼしているように聞こえるのは嫌だ」と言いながらも、今回は口を開いてくれました。というのも、『ベイウォッチ』のような身体を手に入れようとしている人たちに、それがいかに過酷で、トレーニングの悪影響が長く続いたかを知ってほしいからです。

「不眠症になりはじめて、ひどいうつ状態に長く苦しめられた。あの経験の何かが、ぼくを燃え尽きさせたんだ。集中力を取り戻すのにすごく苦労したよ。最終的に彼らはそれを、大量の利尿剤を長く使い過ぎたせいで、何かがおかしくなったと結論づけたんだ」。

正常な感覚がようやく彼に戻ってきたのは、映画の撮影が終わってから6カ月後のことでした。

うつ状態からの回復:持続可能な健康的な肉体作り

オーストラリアで長期休暇を過ごすまでは、彼がフィットネスに対するアプローチを見直すことはありませんでした。この仕事をするようになって初めて、エフロンは本当の休息を取る機会を得たのです。それは、体形が崩れる機会でもありました。

「ある時期、それはぼくの夢だった――常に体形を維持する必要がなければ、どんなにいいだろうってね」と彼は言います。彼は少年時代からずっと、父親と一緒にランニングをやって、一定レベルのフィットネスに慣れ親しんできました。「もし、“なんとでもなれ”と言って自分を解放したらどうなるだろう? と思った。だから試してみて、それが功を奏したよ。こうなればきっと素晴らしいだろうと思っていたから、ぼくはみじめだったんだ。自分の身体が健康だと感じられなくて、生きている気がしなかったね。動きが鈍くて、のろまに感じてたんだ…」。

しかしながら、トレーニングはしていなくても彼はトレーニングのことを考えていました。本をたくさん読み――特に、ターボ・アスリートのデヴィッド・ゴギンズの『Can't Hurt Me』を読んだときは、彼の“ステイ・ハード”主義に共感を覚えました――トレーナーのベン・グリーンフィールドのような、バイオハッキングの専門家にアドバイスを求めました。

「バイオハック(biohack)」とは? …自身の身体と心を理解しようと望み、最先端のサイエンスとツールなどをして、最高の状態の自分に持っていくこと。バイオハックの考え方には主に2つのタイプに分けられ、1)「 最先端の科学やテクノロジー等を用いて、身体と能力を強化・進化する方法」と、2)「 人間本来の潜在能力を自然な手法で最大限に引き出すために、最先端の科学やテクノロジーをライフスタイルに活用する」という方法がとられています。

「ぼくは、これをやらなければならないというところまで、自分を追い立てて細かく計画を立てていくことを楽しんでるんだ。でないと、自分が自分でないような気がしてね」と、エフロンは言います。彼は、トレーニングを続けることを積極的に望んでいました――彼のフィットネス哲学も、建設的なみじめさを受け入れることのひとつです――ただし、それは前よりも注意深く。

いま彼はフォームローラーの熱狂的なファンのようで、さまざまなサイズのフォームローラーを10個ほど持っており、トレーニング前に30分、そして就寝前にたっぷり1時間それを使っています。

彼はストレッチとセルフマッサージ(「ぼくはセラガンなしでは生きていけないね」)とヨガの信奉者で、また最近は、アイスバスにも賛同の意を示しています。「一日でいちばん好きな時間だよ。以前は、それがいちばんみじめな時間で、最後に意を決して飛び込んでいたけどね。その後、心の奥深くにあった何かを克服したんだ。誰も風邪なんかひきたくない、これは最も単純な哲学さ。やりたくないことは習慣にするべしという…ね」

『ベイウォッチ』後の回復という手厳しい教訓のおかげで、エフロンは怪我に対して新たな認識を持つようになりました。

ザック・エフロン顔の怪我を含む重傷の秘話

4年ほど前(2018年くらい)、彼は1年半の間に前十字靱帯の断裂、肩の脱臼、手首の骨折、そしてぎっくり腰に、次々と見舞われました。ほかにも、あごが砕けたことがありましたが、彼が言うには、「それはトレーニング中の怪我ではなかった」とのこと。ソックスをはいて家の中を走っているときに足を滑らせ、花こう岩でできた噴水の角にあごをぶつけたのだとか…。彼は気を失い、意識が戻ったときにはあごの骨が顔からぶら下がっていたそうです。

私は、カニの脚を食べている彼をよく観察してみました。あごのあたりは以前とほとんど変わりがないように見えました。もしかしたら、これは特ダネ情報かもしれません。というのも、2021年4月、米科学者のビル・ナイが気候変動への意識を高めるため開催する『アース・デイ・スペシャル』のプロモーション映像にエフロンが登場して以降、インターネットでは再び、エフロンの身体に関する話題が盛んになっていたからで、今回は彼が顔を整形しているかどうか? という問題です。

私がこの点について尋ねたところ、彼は咬筋(こうきん=歯を食いしばった時に顎の外側で硬くなる筋肉)の話をしてくれました。咬筋は咀嚼(そしゃく)するときに使う筋肉で、顔のほかの部分の筋肉と「シンフォニーのように」一緒に働きます。彼が怪我をしたとき、顔とあごの内側にある筋肉でそれを補わなければなりませんでした。彼は専門家の協力を得て、そのための理学療法を行ったと言いましたが、オーストラリアに行っていた間はそれも休んでいたそうです。「咬筋が強くなっただけなんだよ」と言って、彼が肩をすくめました。「本当に、ものすごく大きくなったんだ」。

エフロンは母親から電話がかかってきて、整形手術をしたかどうか訊かれるまで、“あごの整形疑惑”がささやかれていることは知らなかったそうです。というのも、彼はSNSを、自分が取り組んでいるプロジェクトのプロモーションにとっては有効な手段になりうると評価しているものの、基本的には避けているからです。これはひとつのサバイバル戦略であって、17歳で有名人になって以来、彼は考え方を研ぎ澄ませてきました。「ほかの人がぼくについて言っていることをいちいち真に受けてたら、この仕事は絶対にやっていられないよ」。

SNSから距離を置く精神的メリットとデメリット

エフロンがほとんどの話題について率直に意見を述べるのは、おそらく、デジタル大衆から距離を置いているからでしょう。彼は、例えばロマンスに関する質問でも嫌がったりはしません。ですが、「もっとほかに、しゃべることがあるのになぁ…」とも言います。

「ぼくは自己実現や自分の得意分野を見つけることに、ものすごく時間をかけて集中してきた。ぼくが探し求めていた人に出会うのは、たぶん、全くそれを期待していないときだろうって思っているよ」

インスタグラムでこのような発言をすれば、大量のDMが送られてきたそうです。私がそれを指摘すると、彼は、「インスタグラムで特定の相手と直接コミュニケーションを取れないことも、SNSから距離を置いている残念な点のひとつさ」と言って、ため息をつきました。なかなか難しい問題です。

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Apple TV+『史上最高のカンパイ! 戦地にビールを届けた男』あらすじ

彼は映画の役についても、注意深く話をしてくれました。ですが、ふざけているように見られないよう、気をつけているようにも見えました。シーフードをあらかた食べ終わった頃、私はエフロンに、「AppleTV+のコメディ映画『史上最高のカンパイ!』のどこに惹かれたのか?」を尋ねました。この後の会話では、彼は映画について楽しくざっくばらんに語ってくれたものの、その口調はだんだん静かになって、言葉をより正確に選んでいくようになりました。

『史上最高のカンパイ!〜戦地にビールを届けた男〜』は、ジョン“チッキー”ドナヒューによる同名の回想録が原作になっています。彼は1967年11月、ベトナムの戦地で戦う故郷の友人全員にビールを届けに行きました。一見すると、エフロンが演じているのは“戦場のヒンボー(ハンサムでルックスは良いが頭が空っぽの男性)”という、彼が過去のコメディ作品でも演じていた役のバリエーションのように見えます。

ですが、このキャラクターが持っている謙虚さは、物語が進んでいくうちにどんどん深まっていくのです。それと同じように物語自体も、前半部分のユーモアは徐々に戦争の恐怖と複雑さに取って代わってゆきます。最後の四分の一ほどの時間はかなり本能的で生々しいものとなるので、PBR(Pabst Blue Ribbon=映画のポスターにも登場している、ドナヒューが実際に持っていったアメリカのビールのブランドのひとつ)を題材にした友情コメディだと期待して飛びつくと、驚いてしまうことでしょう。

当時エフロンは、自分に持ち込まれる役の数々にがっかりさせられていました。ですが、『史上最高のカンパイ!』にはすぐに惚れこんだそうです。脚本・監督は『グリーンブック』でオスカーを受賞したピーター・ファレリーで、この映画はインターネットでは酷評されましたが――アカデミー賞の受賞も論議を呼んだ――彼は好きでした。「ページをめくる手を止めて場面を思い浮かべたり、同じところを読み返したり、ときには台詞を声に出したりしていると、脚本を読むのに2日くらいかかることもあるんだ。でも、『史上最高のカンパイ!』の脚本はとても具体的でわかりやすかった」。

エフロンは、その脚本を1時間半で読み終わったそうです。彼はベトナム戦争中という設定の重みや、人間性とユーモアで緊迫感とのバランスを取っている点が気に入りました。そればかりでなく、自分のキャラクターにも共感できたのです。「親しい友人がみんな最前線で戦っているとき、ニューヨークにいる男の味わっている気分が、ぼくにもよくわかったんだ。これまででいちばん時間がかからなかった決断だった」。

そのとき私たちの間にあったシーフードタワーが、ブクブクと不気味な音を立て始めました。エフロンはその音を気にせずに話していましたが、私は音のほうに気を取られていました――タワーがいまにも爆発しそうな音に聞えたのです。

「彼は人間性と人間関係を通じて、観客を惹きつけているんだ」と、エフロンはファレリーについて語ります。そんな肝心なときに、私は他のことに気を取られてしまっていて…そのことに気づいたエフロンは会話を途中でやめることに…。一瞬、彼の顔に不満の色が浮かんだものの、すぐにそれが愉快そうな表情に変わります。そして、残っていたダンジネスクラブ(アメリカイチョウガニ)の身をドライアイスの中から慎重に取り出し、ドライアイスのボウルをテーブルの上に置きます。

ですが、それでは大した変わりません。次に彼は、空いていた後ろのテーブルにドライアイスの薄い煙をたなびかせながら運んでいきました。彼は、その話の続きをしようとしましたが、ドライアイスを遠ざけたことでますます状況は悪化したようで、ゴボゴボと威嚇するようにうなり声を上げる始末です。

すると、ようやくウエイターアシスタントが数人がやって来て、シーフードタワーと小さくなったドライアイスを下げてくれました。次にステーキが運ばれてきて、それに続いてエリンが再び姿を現し、「これ以上のA5和牛を食べたことがありますか?」とエフロンに尋ねました。「まるでフォアグラを食べているみたいだよ」と、彼が答えます。脂肪が目に見えないほどの細かさで、網の目のように肉全体に広がっています。

「ほらね、この味とこの気分がすぐ手の届くところにあるから、もうヴィーガンじゃないんだよ」と、彼は言います。そしてまた真面目な表情に戻って、『史上最高のカンパイ!』の話を続けたくてうずうずしている様子です。彼はこの映画での仕事を大いに楽しむことができた…という内容を話続けました。なぜなら、彼はこの作品に魅了され、意欲をかき立てられたからです。この役をきちんと演じることに大きなプレッシャーを感じていたようです。なぜなら、(原作者の一人であり、この映画の主人公そのもののである)チッキー・ドナヒューがこの映画を観ることになるからです。

もちろんエフロンはそれまでも、ヒンボーのレパートリーを演じることに自らの目的を見出すことができていました。彼は“self-aware bro(自己認識に長けたアニキ)”という表現を高く評価し、この種のキャラクター(「学び、耳を傾け、オープンな心と頭を持っている人」)について優しく論じてくれました。しかし、楽しいことの大好きな“self-aware bro”を演じることは、自身が楽しいことが大好きな“self-aware bro”であるエフロンにとって、それほど意欲をかき立ててくれるものではないようです。

エフロンはアイスバスのような役――「心の奥深くにある何かを克服」するくらい意欲をかき立ててくれる――に飛び込んでいく準備はできているようですが、この業界の人々が彼をそのように見ているかどうかについては、自信がありません。

ピーター・ファレリー監督が語る
ザック・エフロンという俳優

何年も前に会ったときから、ずっとエフロンと仕事をしたかったファレリー。そんな彼も、エフロンが演じた映画『テッド・バンディ』(2019年)の主人公デッド・バンディ役――好感の持てないキャラクターをエフロンがチャーミングに仕立てていた――を観ていなかったら、『史上最高のカンパイ!』に彼を起用することはなかったかもしれないということを認めています。「私は気がついたんだ。そうか、この男は、役をふくらませたいタイプなんだと…」、そうファレリー監督は述懐(じゅっかい)しています。「そういうことが彼にどれだけやれるかわかっていなかったんだ」と…。

エフロンは、“おれはなんでも知ってるぞ”というふうに映画に登場するタイプではありません。「むしろ彼は、これまでよく演じていた“全米のアイドル”とは異なるキャラクターを演じることに全力を傾けている感じであることは読み取れたんだ」と、ファレリーは言います。ファレリー監督によると、『史上最高のカンパイ!』の試写を観た人の中には、「彼がザック・エフロンだと気づいたのは、映画が始まってかなりたってからだった」と言う人がかなりいたそうです。「実際の彼は、もう少し神経質だ」と、監督はエフロンについて語りました。「彼はまさに、役の中に入り込んでいたよ」。

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しかしながら、枠に収まりきらない多くの役を克服する前に、まず彼はファンを克服しなければなりません。私たちがレストランから出るとき――その前に彼はエリンの娘のために誕生祝いのビデオを撮っていた(彼女にはその資格が十分にありました)――中年の男が追いかけて来て、「誕生日の娘と一緒に写真を撮らせてほしい」と頼みます。するとエフロンは、それを喜んで引き受けます。次に男が走って来たかと思ったら、自分のテーブルへ引き返し、十代の娘ふたりを連れて戻ってきました。誕生日の娘と笑顔でポーズを取ったエフロンが、近くに立っていた誕生日でないほうの娘に向かって、彼女も写真を撮りたいか尋ねると、彼女はうなずいてこう言ったのです。「でも、セルフィでいいですか?」と…。

あれこれ質問をしながらエフロンと数時間過ごしてきた私は、ひょうきんに振る舞っているその裏で、彼が多少の居心地の悪さを感じていることを察知していました。去っていく父親と娘たちにあわただしく別れの言葉を告げると、彼は文字通り、走ってその場を後にしたのです。駐車係の男を探してビルの角を曲がり、あっという間に姿が見えなくなりました。

エフロンを見送って持ち場に戻ってきた駐車係が、ややうろたえたような表情で私に手招きをしました。「面白い人ですねって…彼に言っちゃったよ」と、駐車係の男が後悔したように言いました。

「でも、いま考えてみると、全然そんなことなかったね!」。確かにエフロンはコメディに出ています。なので、それも当然とも言えますが、駐車係は自分が無礼なことを言ったと思い込んでいました。「彼なら、『トワイライト』のあいつみたいになることもできたよ」と彼が言いました。ロバート・パティンソンのこと? 「そうそう、ロバート・パティンソン。もし彼があのシリーズに出てたら、すごいことになってただろうね! アカデミー賞確実! 彼にそう伝えておいて!」。

なんとこの駐車係の男は――おそらく、エフロンとはほんのわずかのやりとりしか交わしていないと思われますが――エフロンが周囲にこう思われたいと望んでいるであろう印象を、一瞬の彼から的確に受け取っていたのです。たぶん、ほかのすべての人もいずれそうなっていくことでしょう。

ザック・エフロン動画インタビュー

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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「メンズヘルス」では、ザック・エフロンに動画での取材も行っています。彼はいくつかのカジュアルな質問にも快く答えてくれていますので、ぜひご覧ください。ちなみに彼がこの世界で最も好きな食べ物の香りは…、焼き立てのソフトクリームのコーンと日本のラーメン店だそうです。

Source / Men's Health US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。