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 1875年にフランスのアルルに生まれたジャンヌ=ルイーズ・カルマン(Jeanne-Louise Calment )さんの生涯は、故郷アルルで1997年に幕を閉じました。計算してみましたか? 彼女は人類史上最も長生きをしたとされるフランス人女性であり、この122歳という寿命は今のところ、人類史上最高齢として記録されています。そんなカルマンさんは100歳まで自転車に乗り、118歳までタバコを続けていたそうです(この122歳164日まで生存したことに対し、生存中から専門家・学者から疑義が呈されてはいましたが、2019年9月にフランスの国立保健医学研究所(INSERM)は新旧データを見直し、「彼女はやはり間違いなく史上最高齢の記録保持者である」との見方も示されている)。

◇人類の寿命はいったいどこまで延びるのでしょうか?

 おおよその平均寿命なら、なんとなく推定することができるでしょう。ですが、上限値を導くとなると、極めて複雑な計算をしなければならないはず。それは統計学的な要素から離れ、どこか信ぴょう性の薄さを感じることになるかもしれません。

 それでも推定でもいいので、われわれの寿命はいったいどこまで延びるのでしょうか? 知りたい方も少なくないでしょう。

 すでに日本(特に沖縄)サルディーニャ島など、地球上の他の地域よりも数多くのセンテナリアン(百寿者)がいることで知られる場所もあります。 現在、世界最高齢として認定されているのは福岡県福岡市に在住の女性、田中力子さんであり、2021年1月2日には118歳の誕生日を迎えたスーパーセンテナリアン、そしてギネス世界記録保持者として世界でも話題となりました。

 WHOが発表した2021年版の世界保健統計(World Health Statistics)によれば、世界全体の平均寿命は73.3歳。そのうち男性が70.8歳で、女性が75.9歳です(ちなみに平均寿命が最も長い国は日本で、84.3歳でした。 2位はスイスで83.4歳)。1950年には46~48歳(研究発表した団体によって誤差あり)だった世界の平均寿命ですが、現在は73歳を超えるまでに達しています。

 これを踏まえれば、「現在生きている人間の寿命は、何歳なんだ? 一体、人間が生きながらえる限界は何歳なのだろう?」と、期待と共に考える方も少なくないでしょう。日本政府は「人生100年時代」と銘打って、その時代を見据えた経済社会システムを創り上げるための構想会議を2017年から9回ほど開催してもいます。

 そうした中、「私たち人類の生物学的年齢の限界は、150歳になるだろう」という説が、最新の研究によって浮上しました。 

◇逆に言えば、150歳が限界!?

 2021年5月25日、『Nature Communications』が公開した新たな研究結果によると、仮に病気・ストレス・事故によって死に至らなったとしても、人間は120~150歳のどこかの時点で寿命が訪れるということが発表されました。

 つまり、150歳まで生きながらえる可能性が大いにあるわけですが、逆に言えば150歳までが限界だとする内容です。

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◇寿命の限界、化学的な研究

 この研究発表は、シンガポールのバイオテクノロジー企業で高品質の生活を維持しながら人間の死亡を遅らせる新薬のポートフォリオを確立することを目指す、「Gero」によるもの。ここに所属するティモシー・ピルコフ博士らによる研究チームによって、血液・DNA・ライフスタイルに関する大量のサンプルデータから、最大寿命を決定づける要素「回復力」を導き出したものになります。 

 その研究では、UKバイオバンク(UK Biobank)(被験者数471,473、年齢範囲39~73)と、米国国民健康栄養調査(NHANES=National Health and Nutrition Examination Survey)(被験者数72,925、年齢範囲1~85)のデータセットが用いられたそうです。そして、これらデータをAI(人工知能)システムで分析することで、人間の寿命に関与する2つの重要な要素を発見したことを報告しています。それは以下になります。

  • 1. 生物学的年齢(Biological age)

※ストレスやライフスタイル、病気に関連するもので、これらをなくして健康的な生活をおくれば、人間の寿命は延びるというもの。

  • 2. 回復力

※これは、1の要素の生物学的年齢がどれだけ早く正常に戻るかを示すもの。

◇回復力の低下には抗えない!?

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 さらに研究では、健康な被験者は非常に高い回復力を擁しており、回復力の低下が慢性疾患や死亡リスクの上昇に関連していることを示唆。またストレスを受けた後、元の状態に回復する速度は、加齢とともに低下するという数値も出ました。つまり、回復に必要な時間はどんどん長くなるということになります。

 実際に40歳の健康な成人では、約2週間だった回復時間が、80歳の集団では平均して6週間まで延長していたと言います。

 そしてピルコフ博士は、このように述べています。

「この傾向が年齢を重ねて維持されていけば、120~150歳ごろには身体の回復力が完全に失われることになります」

senior hispanic man blowing out birthday candles
Jose Luis Pelaez Inc//Getty Images

 この結果は、現在、人類の平均寿命が着実に延びていることを実感しているにもかかわらず、最大寿命がほとんど更新されないことを納得させる説明にもなります。平均寿命は、より多くの人が死亡リスクを軽減させることで延長するものです。つまり、年齢を重ねることによって回復力が低下すれば死亡リスクは高まるのですが、それを医療技術の発展とともに健康的ライフスタイルの向上によってカバーしていると言えるでしょう。

 しかしながら、根本的に回復力がゼロになってしまったらどうなるでしょう? どんな発展、向上によってカバーしようとも意味がなくなります。そんな計算のもと、この研究で「最大寿命は、回復力の限界が見える120~150歳だ」という結果になったわけです。

◇150歳以上は望めるのか?

 同じくこの研究に参加する、米・ロズウェルパークがん研究所に所属するアンドレイ・グドコフ(Andrei Gudkov)博士は、こう述べています。

「この研究は加齢による回復力の低下と、回復力の低下に続く『死への執行官』としての加齢性疾患の役割を明確にし、そして分離した点で画期的なものと言えるでしょう」

 人間の最大寿命をさらに延ばすためには、死の根本原因と言える「回復力の進行性喪失」に立ち向かう必要があるというわけです。

 さらにGero社のCEOであるピーター・フェディチェフ(Peter Fedichev)氏によれば、現在のところ、「回復力低下への介入に邪魔をする自然法則は、まだ見い出されていない」ということ。

crisis recovery concept
olm26250//Getty Images

 つまり、今回の研究で回復力における老化モデルが発表されたわけですが、いつかはこの現状を打破する強力な延命療法が開発されるかもしれないという可能性も示しています。医学と医療技術の発達、そしてバイオテクノロジーの進歩などから計算するなら、約300年後には人類の多くが寿命の限界である150歳まで生き長らえるようになるだろうということ。そして、それ以上は望んではいけないことなのでしょうか。

 果たして地球上の科学技術によって、この老化現象に打ち勝つ日が来るのでしょうか? 科学者たちの研究は今後も真摯に続くはずです。とは言え、現在はそれ以前以上に、地球自体の延命措置に努めなければなりません。300年後も美しい地球であるように、環境問題にも真摯に取り組むべきときであることも忘れずに。

Source / Esquire IT
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。