食事制限やダイエットを意識している人にとっては、「カロリー計算」をないがしろにはできないと思います。本記事は、「カロリー計算」否定論をむやみに推奨するものではありません。実際に、日本人成人の1日に必要なエネルギー量を意識するメリットもあります。

 今回は、何を目的として「カロリー計」が必要なのか、その重要性を専門家に訊いてみました。

専門家による監修:ヨー博士ってどんな人?

 ジャイルズ・ヨー博士は、ケンブリッジ大学で20年にわたり肥満の研究に携わってきた遺伝子学者です。著書に『Why Calories Don't Count(なぜカロリーは重要ではないのか)』や『Gene Eating(食べる遺伝子)』があります。

一般的に、低カロリーの食事は減量のキーポイントとされています。しかし、ヨー博士は、「ほとんどのダイエット方法というものは、最終的に失敗する」と主張されています。これはなぜですか?

ヨー博士:ある意味、大半のダイエット法は有効に機能するでしょう。ダイエットとは食べる量を減らすということなので、つまりは、体重を減らすことを意味するのは想像できるはずです。

 ここでの問題は、その減らした体重を維持し続けることです。人間は進化の過程において、体重が減ることを脳が嫌うようになっています。なぜなら脳は、「あなたの生存の可能性が減少している」と判断するからなのです。よって脳は、あなたの代謝をわずかに低下させながら、空腹感を煽(あお)るようにするでしょう。なので、極端なダイエットを実践した場合には、さらに酷い結果をもたらすかもしれません。体重は、あっと言う間に戻ってしまうに違いありません。

代替案はどういったものですか?

ヨー博士:減量を唯一成功させる方法とは、永遠に食生活を変えるしかありません。あなたはその理想の体重を維持するための、ライフスタイル自体から戦略を構築しなければならないのです。これはかなり難しいものです。「そんなの簡単だ!」と言う人は、嘘をついています。

これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

なぜカロリー計算が、ライフスタイル戦略の一つになってはいけないのでしょうか?

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Men's Health UK

ヨー博士:カロリーは、食品のエネルギー含有量を反映しているので、ある程度は重要ではあります。まずは、カロリー計算がどのように役立つかを説明しましょう。

 摂取量を減らす必要があるならば、フライドポテトの量を半分に減らせばいいのです。つまり、500キロカロリーあるとするなら250キロカロリーに、みたいなイメージです。それは同じ食べ物なので、その計算も簡単なことです。

 また、カロリー計算は食品購入時にも役立つでしょう。スーパーマーケットで、食べたいマフィンに「400キロカロリー」と表示されていたら、それを買うかどうか迷うことでしょう。

 とは言え、すべてのカロリーは同じだと思っている人が多いので、やみくもにカロリーを計算しても意味がないとも言えます。例えばセロリを100キロカロリー食べるのと、砂糖を100キロカロリー摂取するのでは意味は異なるからです。

それは誤っているのですか? 栄養価はともかくとして…。

ヨー博士:当然です。われわれは食品ごとに、大きく異なる方法で分解しているのです。パッケージに記載されている数字は、最終的に摂取するカロリー数とは一致しません。そこに反映されていないのは、そのカロリーを「得る」ために必要なエネルギー量です。脂肪のようなものは、分解するのにそれほど大変なものではありません。カロリー的には、およそ97%が吸収されることになります。

 炭水化物の場合はどうでしょう? 全粒粉のパンと砂糖では異なってきます。全粒粉のパンは92〜95%、砂糖は95〜97%が吸収されることになるのです。この大きな違いは、タンパク質量の違いにあります。タンパク質は100キロカロリーに対して、70キロカロリーしか吸収できないわけです。

どれくらいの差があるのですか?

ヨー博士:食事ごとでは大きな違いはありません。しかしながら人生における食事全体として換算すれば、これは大きな違いとなるでしょう。

 高品質ではない食品、特に超加工食品に目を向けると、分解する際に消費するカロリーの割合が多いタンパク質と繊維質の含有が少ない傾向にあります。つまり超加工食品には、カロリーの吸収効率の高い栄養素の割合が高いということになるわけです。

 よって、タンパク質と繊維質の量は、品質を示す簡単な指標となります。またこの2つは、満腹感も得やすい栄養素です。生物学的にも、自然に満腹感を得られるようになればそれ以上食べようとしないわけですから、少なくとも勝算はあるはずです。

栄養学と食品科学を扱う医学雑誌『フード & ニュートリションリサーチ』に掲載されたある研究では、2つのグループに同じカロリーのサンドイッチを用意し、一方には全粒粉を、もう一方には加工度の高いものを用意しました。すると前者は、「消化に47%のエネルギーを必要としました」という研究結果が報告されています。

辛くない方法で持続的に痩せたいと思っている人へ、どのような言葉をかけますか?

ヨー博士:「苦労せずに実現することできる」、なんてことは言えません。

それでは次に、その辛さを最小限に抑える方法はあるかについてうかがいます。どのようなアドバイスがありますか?

ヨー博士:それには、自分が食べている食品の質にまず関心を持ってください。われわれは方針の立案者として、そして科学者として、また食品の選択をしようとする人々として、この点をもっと改善すべきと言いたいですね。食事の質を向上させる方法を探求すれば健康も向上しますし、そして健康を重視すれば、体重も自ずと減っていくものなのです。

スタンフォード大学の研究では、「砂糖や加工食品を控え、全粒粉の食品を多く摂るなど、食事の質にこだわることはカロリーや分量にこだわるよりも、より大きな減量につながる」という結果が報告されています。

カロリー計算をして体重を減らすことを第一の目的としている多くの人は、この点を論議するのではないでしょうか…。

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ヨー博士:まずは、「なぜ痩せようとしているのか?」を問うことから始めましょう。そして、正直になりましょう。それには理由があるはずです。

 見た目を良くするために体重を減らしたいのであれば、あなたの「良い」という定義は何でしょうか? 「ブラッド・ピットのようになりたいのですが、自分はそうではないので…」ですか? とは言え、自分の見た目に満足していないかもしれませんが、健康は維持しているのでは? 自分の子どもを抱き上げることもできますよね? 外に出て、サイクリングすることだってできるでしょう? おまけに、質の高い食品を食べるよう心がけていますよ? これらの答えがすべて「イエス」であり、理想の体重が維持できているのであれば、それで良いのではないでしょうか。現実を真摯に受け取りながら生きてゆくのも大切です。

「セットポイント」と言われるデフォルトの体重の概念はありますか?

ヨー博士:私は通常、それは一定の範囲を指します。

●体重の「セットポイント」とは?
…最も持続されやすく、体重を減らした後や増やした後に自然と戻る体重のことを指します。

 例えば、体重を半分に減らしたとします。その体重を維持し続けるには、かなりの努力が必要となります。ですが、今のままの状態をキープするのであれば、努力はほとんど必要ないでしょう。運動して、通勤して、週末には好きなものを食べるという現在の私の習慣では、体重は増えておりません。

 セットポイントの範囲とは、体重の落ち着いているところです。

 もちろん格闘家やモデルであれば、別の話となります。そして、そういった職業の人の現役期間は短いものですし、われわれの多くは息切れせずに階段を上ったり、走ったりできるようになりたいといったレベルの願いであるはずなので。

確かに、多くの人は体重を減らす必要があるでしょう。なので、「そんなことしなくていいよ!」と言っているわけではありません。ですが、これは言えます。「多くの人は、もっと健康になる必要がある」ということを。

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博士は、体重による偏見と戦うことの重要性についてよく話していますね。肥満の研究をされているので、それは難しいことだと感じていますか?

ヨー博士:われわれは成熟した人間なので、2つの考えを同時に頭の中に持つことができるはずです。肥満であることを問題視し、さらに心配します。それと同時に、その問題に苦しんでいる人々を非難するといった衝動にかられるのです。このように多くの人は、この心配と大きなお世話と言える非難、この2つを混同してしまうのです。

 間違いなく、「体重は自分で決めるもの」という考え方は一般的な考え方です。私たちは、自分自身のことしかわからないのですから(自分にことすら「わからない」と言う方もいるでしょうが)。

 ここで考えてみてください。もしあなたが、ピザを2枚食べた後に「もうお腹が空いていない」ということで食べるのをやめたとします。そのときあなたは、4枚も食べている人を目の前で見たらきっと、「4枚も食べる必要あるの?」と問いただしてしまうでしょう。

 ですが、それはあなたが1枚を食べた時点で誰かに止められ、「2枚目は食べてはいけない」と言われるのと同じことではないでしょうか。私たちのリミッターは、生物学的に人それぞれ異なった数値で設定されているのです。「自分は意志が強いから、あなたも」と思ったのかもしれませんが、それは自身の考えを他人に押しつけているのと同じになるのです。

ヨー博士自身の研究によると、「一部の人々は過剰な食欲に対して、「ノー」と途中で遮断できる意志が5%ほど低い」という結果が導かれたということ。これに対して、「その要因には遺伝的な面が考えられる」とも言います。そんな人々にとって重要なことは、「繊維質やタンパク質を多く含む、満腹感のある食品を選ぶこと」になります。

明らかにこれには、微妙な差異が存在する複雑な問題と言えますね。とは言え、博士自身がすすめる食事ガイドラインは、とてもシンプルなものですね。たっぷりのタンパク質、繊維質を摂取して上で、砂糖や肉類の摂取を減らすというものですね。

ヨー博士:退屈に聞こえるでしょう。でも、このガイドラインは、私が研究することの最終目標に近い内容となっています。そしてそれは、ダイエット方法ではないのです。それは、分別持って賢明に食べること、それこそが最も大切なことと言えるのです。

Source / Men's Health US
Translation / Kazuhiro Uchida
※この翻訳は抄訳です。