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十分な水分補給によって血圧が健康的な範囲に保たれる、そんなアドバイスを医師から受けたことがある人は少なくないのではないでしょうか。水分補給と血圧とは切っても切れない関係にあり、いずれも健康維持のためには重要な要素となります。

水分補給の重要性

心臓専門医のメアリー・グリーン博士は、「私たち成人の身体の約60%は、水分(体液)であることがわかっています。そこには血液も含まれています。血液のみに焦点を当てるのであるならば、およそ体重の13分の1(約8%)が目安の量と示されており、さらにズームアップするなら血液の半分以上(およそ55~60%)が、約90%が水分とされる血漿(けっしょう)成分です。

血漿成分とは血液の中でさまざまな物質を含む溶液であり、それ以外が血球成分と言われる赤血球、白血球、血小板など。 血漿成分に含まれる物質は、タンパク質、ブドウ糖、脂質、金属イオン、電解質、ホルモン、ビタミン、老廃物などなどさまざまです。

上記から単純計算し、低く見積もっても49.5%が水分となる血液。つまり、血液の主成分と言える水分が不足してしまえば、その影響は大きなものになるでしょう。グリーン博士はこう言います。

「血液の主成分である水分が不足すると、血圧に影響が出ます」

これに加えて、「例えば発汗、嘔吐(おうと)、下痢などの症状によって、取り込むよりも失われる水分が多くなってしまうような場合、水分不足による機能不全が体内で生じる危険性もあります」とのこと。つまり、水を飲まなければ脱水症状に陥ってしまう可能性が増すのです(主たる自覚症状は下記で説明します)。

「脱水状態は、血圧の変動を引き起こします。それはどの程度脱水しているのか、そして脱水状態であった時間、さらにそのときの健康状態によって変動の強さは変わってきます」と述べているのは、パーム・ビーチ・ガーデンズ・メディカルセンターグッド・サマリタン・メディカル・センターで心臓専門医として勤務するオーラル・ウォルド(Oral Waldo)博士です。

「だからこそ、一日を通じて水分を十分に摂ることが重要なのです」と、ウォルド博士は注意を促します。血流を良い状態に保つことで、酸素と栄養を効率よく全身に行きわたらせることができるのです。「血圧の変化によって、脳、腎臓、心臓などへの影響が及ぶ可能性もあるため、潜在的にとても危険であると言えるのです」と、ウォルド博士は警鐘を鳴らします。

では以下で、脱水症状がどのように血圧を上下させるのか? そして、脱水による血圧変動がどれだけ危険なのかを解説していきます。

脱水症状とは何か?

脱水症状とは何か?
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「体内の水分=体液が大量に失われることで、身体が正常に機能しなくなったときに起こるのが、いわゆる脱水症状と呼ばれる状態です。そのような状態を回避するためには、とにかく水を飲んで水分を補うことで血圧を正常に保つことが大切です」と述べているのは、開業医のキム・ユー博士です。

「そんなときに、水分補給として最適と言えるのが水です。が、その他にもコーヒー、お茶、スポーツドリンクなども水分補給に役立ちます」と、ユー博士は言います。しかしながらアルコール類に関しては、「脱水症状を悪化させる可能性があるため、控えるのが賢明」と強調します。

ある研究*1によれば、男性は1日に平均15.5カップ、女性は平均11.5カップの水分が必要とされています。ですが、「これは絶対的な量ではありません。運動量の多寡(たか)や外出時の気温の違いなどによって、その必要量は上下します」と、ユー博士は捕捉します。「喉の渇きを感じない程度の水分補給」というのが、ユー博士が推奨する目安です。

しかしながら、中には物事に夢中になって、その渇き自体も感じないことがあるかもしれません。なので、何かに夢中になっているときこそ、定期的に自分の体調を確認することも重要です。

*1参照:Water is essential to good health. Are you getting enough? These guidelines can help you find out.

マンハッタン循環器センター(Manhattan Cardiology)の循環器専門医ロバート・ピルチック博士は、「十分に水を飲むことで、最適な血液量を維持できるでしょう」と説明します。そして、「すると血管が拡張することで、血流に対する抵抗が減るというわけです。これは血圧を正常に保つのに、大いに役立つことです」と続けます。

脱水状態を示す7つの兆候

前出の心臓専門医であるオーラル・ウォルド博士によれば、「脱水状態に陥ると、めまいや眠気といった軽い症状から、筋肉の損傷や臓器の機能低下などといった重い症状まで幅広い影響が現れます」ということなので、注意が必要です。

そこで脱水症状を示す兆候をいくつか挙げておきましょう。

  • 喉が極度に乾く
  • 排尿回数の減少
  • 尿の色が濃くなる
  • ドライマウス
  • めまい
  • 混乱状態に陥る
  • 頭痛

血圧とは何か?

血圧とは動脈内の血流の勢いを数値化したもの、というのがクリーブランド・クリニックによる解説です。心臓の鼓動にともない動脈へと送り込まれた血液によって、身体機能にとって必要な酸素や栄養素が体内の隅々へと供給されることになります。

血圧を計るには、2種類の測定値を見る必要があります

  • 収縮期血圧:「最高血圧」、あるいは単に「上の血圧」と呼ばれる数値です。心臓が血液を動脈に送り込む際の、動脈内の圧力を表しています。
  • 拡張期血圧:「最低血圧」、あるいは単に「下の血圧」と呼ばれる数値です。鼓動と鼓動の間、心臓が休んでいる状態での動脈内の圧力を表しています。

血圧はmmHg(ミリメートル・エイチ・ジー、またはミリ水銀)という単位で表されます。Hgは水銀を示す記号です。例えば、血圧160mmHgは「水銀を160mm押し上げる力」で血管を押しているということになります。

脱水症状により血圧が低下するのはなぜ?

脱水症状により血圧は低下しますが、ときに急激に上昇してしまうこともあります。「体内の水分不足にともなう血圧の低下をまず心配すべきなのです」と、心臓専門医のウォルド博士は言います。

脱水症状により血圧が低下するのはなぜ?
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「ホースを通る水の量が不足している状態を想像してみましょう」と、ウォルド博士。「それが、血管内の血液量が低下した状態です。脱水状態に陥れば全身の水分が不足することになりますが、それは血管の内部にまで及ぶのです」。

また「十分な血液が全身に供給されなければ、臓器の機能を維持するために、血圧や血流を身体が維持しようと動くのです」と、循環器専門医のピルチック博士は述べています。その結果として血圧が急上昇してしまうことがあるというのです。さらに脱水状態によって心臓に負担がかかり、ときに失神してしまうこともあるとのこと。

低血圧の兆候を知っておきましょう!

日本心臓財団では、「低血圧とは、収縮期血圧が100mmHg未満の場合である」と定義しています。また世界的な基準してアメリカの場合も見ておきましょう。米国立心肺血液研究所の基準では、90/60mmHgという血圧を下回った状態を「低血圧」と定義しています。

低血圧は以下の徴候をともないます:

  • 混乱状態
  • めまいや立ち眩み
  • 失神
  • 目のかすみ
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 動悸

「重度の脱水症状に陥れば、急激かつ大きな血圧低下によってショック状態が引き起こされ、ときに死の危険性も生じかねません」と、前出の開業医ユー博士は念を押します。

脱水状態により血圧が上昇するのはなぜ?

「体内の水分が不足すると当然、血液量も低下します。すると、身体は正常な機能とその恒常性を保とうとして、血圧を維持しようと頑張るのです」と、前出の心臓専門医のグリーン博士は言います。

血液中の水分が減少したら、血液は濃縮されます。すると、血中のナトリウム濃度が高まることが想像できるはずです。腎臓でナトリウム濃度の上昇を感知すると、脳からバソプレシン(vasopressin)というホルモンが放出されます。このバソプレシンは、利尿を抑えることが知られています。そうして身体は、体内の水分が保持しようとするのです。

ですが、バソプレシンは厄介でもあります。「バソプレシンはまた、血液量が減少すると体内組織への灌流圧(かんりゅうあつ=体内の臓器・組織・細胞に血液などを流し込む際の圧力)を維持しようと血管を収縮させようと働きます。その結果として、血圧の上昇が起きるというわけです」と、グリーン博士は続けます。

また、「脱水症状により交感神経系が活性化することで身体がストレスに晒(さら)され、アドレナリンのようなホルモンの分泌も生じます」と、前出の循環器専門医ピルチック博士は捕捉しています。これもまた血管を収縮させ、心拍数を押し上げることで血圧の上昇へとつながるとのこと。

高血圧の兆候を知っておく

高血圧の兆候を知っておく
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日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会では、高血圧とは「病院や健診施設などで測定した血圧値が、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上(140/90mmHg以上)の状態」を指しています。自宅で測定する家庭血圧では、それより低い「135mmHg以上または85mmHg以上(135/85mmHg以上)が高血圧」と定義しています。

また米国立心肺血液研究所の基準では、130/80mmHgという血圧を上回った状態を「高血圧」と定義しています。高血圧は自覚症状をともなわないことが多く、そのため「サイレントキラー(silent killer)」とも呼ばれていることも覚えておきましょう。

※ですが、現在では「高血圧」の考え方はさまざまとも言えます。いくつかの研究で、は、その基準の幅に違いもあります。ですので、ご自身でぜひとも確認し、自身の考えを整理しておく必要もあるでしょう。

脱水状態による血圧変動の危険性

「特に脱水状態によって起こる血圧の変化は、心臓のみならず身体全体に影響をおよぼすため有害である可能性があります」と、循環器専門医のピルチック博士は注意を呼びかけます。そしてこう続けます…

「脱水状態と高血圧の関係を知っておくことは、心臓を健康に保つためにとても重要です。脱水状態によって血圧のコントロールが不安定になることが予想できますし、そればかりか、その延長として身体全体の健康にマイナスの影響を与えるでしょう…」

一例を挙げるなら、血圧の急激な変動によって腎臓機能に問題が生じ、それによって心臓発作や脳卒中のリスクが高まるでしょう。

「健康な心臓を維持するための第一歩としても、水分補給こそ最優先事項としなければなりません」というのが、ピルチック博士の結論です。

Source / Men’s Health US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。