※本記事は「エスクァイア」スペイン版が、ブルガリのアンバサダーに就任したスペイン俳優ハイメ・ロレンテに、行った独占インタビューです。

「ぼくが誰かに何かを証明する必要なんて、全くないんだ」

 ハイメ・ロレンテ(1991年生まれ、スペイン・ムルシア州出身)は、まだ30代にもなっていませんが、俳優になってからの5年間で、すでにかなりのキャリアを積んでいます。

 最近もブルガリの新アンバサダーに就任したばかりで、感情の起伏が激しい彼でも、ここのところは上昇し続けるジェットコースターさながら、アドレナリンが鎮(しず)まる暇もないでしょう。

 スペインで最も成功したと言っても過言ではない2つのNetflixドラマシリーズ、『ペーパー・ハウス(La casa de papel)』(2017)と『エリート(Élite)』(2018)で、それぞれ赤いジャンプスーツのデンバーとナノを演じて、文字どおり世界中にその存在が知れわたりました。ですが、この2作品だけでアーティストとしての彼を語るのはフェアではありません。なぜなら、(彼の)ほんの少し奥をのぞいただけで、まさにアーティストという言葉にふさわしい姿が出現するからです。

 「ぼくは俳優で、そのための勉強をやって真剣に打ち込んできた」と、今回のインタビューの中で彼は語っています。映画・テレビ・舞台で俳優として大きな成功を収めた彼は、昨年(2020年)末、マドリードのテアトロ・カミカゼで上演された『Matar Cansa』に主演して観客と批評家を驚かせました。

 これは彼にとっても大きなチャレンジでしたが、さらに、彼は俳優だけにとどまらず、音楽や文学といった分野でも活躍しており、『A propósito de tu boca(口について)』という詩集を出しているほか、広告にも手を広げています。

 彼をアンバサダーに起用したブルガリのようなブランドの、若い世代にもっとアプローチしたいという希望をかなえるためには、この新世代の俳優はまさに適役でしょう。彼を通して見えてくるのは、仕事熱心でおもしろく、フレンドリーで、文化の香りがするキャラクターなのです。

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FERNANDO ROI

 人気者の宿命で、われわれ「エスクァイア」スペイン編集部は、時計を見る暇もないほど、ハイメ・ロレンテからいろいろな話を聞きました。私の時計は携帯電話で、彼のはブルガリの新しいアルミニウム・ウォッチです。

 彼は“あるキャスティング現場”(どういう作品かは教えてくれず、ただにっこりとほほ笑んだだけでした。まさに王者の風格)からほぼ時間通りにやって来て、ランチタイムにはまた帰っていかなくてはなりません。ですが、問題はありません。こちらは準備万端です。時報が鳴りました。ただいま13時、カナリア諸島では12時です。

ちょうど『ペーパー・ハウス』の撮影が終わったところですね。スペインで最も成功したドラマシリーズで、あなたを大スターにしたプロジェクトが終了したわけです。もうこのシリーズの撮影がないとわかっている状態で家に帰るのは、どんな気分ですか?

 ぼくら俳優にとってそのことは、それほど重要なことではないと思っています。最も重要なことは、自分が演じたキャラクターとそこで築かれた関係、そのキャラクター自体がすべてなのです。

 ほかと比べたくはないですが、このキャラクターを終えるにあたっては、一種の対立した感情が生まれていました。それを埋葬しながらも、すべて終わったという気持ちには完全にはなりきれていないのが現状でしょうか。少し前に撮影を終えたところですが、ぼくとしてはまだまだそれを消化している最中なんですよ。

成功を収めたプロジェクトに別れを告げるのは、難しいものです? それとも逆に、次の新しい仕事にとりかかるのが楽しみですか?

 成功に別れを告げたことなんてないですよ。だってぼくは、成功とそんなに親しい間柄になったことはないんですからね。そもそもぼくにとって成功は、大した問題ではありません。大事なのは、映画のセットや舞台上で何が起きるかということなんです。

 そのキャラクターを演じたことで、ぼくの人生に何が起きたかという意味では、舞台を終えることはいつだって難しいです。なぜなら、生身の肉体で演じる芸術を深く表現しようとすれば、その役に入り込む必要があるわけですが、その後で今度は抜け出さなければならなくなります。このとき、ちょっとした痛みをおぼえますね。

そのような憑依(ひょうい)またはその逆の仕方というか、自分を大きく変える方法、そして戻る方法は、誰かに学ぶことができるんですか? それとも、自分自身でなんとかしなければならないんでしょうか?

 誰も教えてはくれないと思いますよ。どれだけアドバイスしてもらったところで、少なくともぼくの場合は、それを完全に消化して自分のものにすることなんて、できやしません。とにかく強い決意でもって、すべてをきちんとポジティブにやっていくしかないと思っています。

Netflix『ペーパー・ハウス』があなたの人生に––仕事上でも個人的にも––与えた影響の大きさに負けそうになったことがありますか?

 何度もあります、何度も……。 

それをどうやって克服したんですか?

 家族の支えが大きかったし、セラピーを受けて、スポットライトも、有名人も、スター気取りも、自分の仕事とは何の関係もないことだと考えるようにしました。そういったことはぼくの創作方法とも、仕事を続けたいという欲求とも無縁のもので、お金のために魂を売るような仕事をしてはいけないって思いましたね。 

『ペーパー・ハウス』“デンバー”の赤いジャンプスーツから卒業することが、あなたのこれまでの人生で最も重要なミッションだったのでしょうか?

 そうだね…でも、それより結局のところ重要なのは、自分が何者であるかを知ることなんだって思っています。ぼくが誰かに何かを、証明する必要なんてまったくないんだと。

 どんな監督にも、どんなキャスティング担当者にも、ぼくが違う役でもこなせることを証明する必要なんてないんです。話をして違う役を演じるチャンスがもらえるにこしたことはありませんが、何かを証明するための仕事はやりたくないんです。 

あなたが昨年末、『Matar Cansa』を成功させた劇場「テアトロ・カミカゼ」の閉鎖が発表されたとき、どう思いました?

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Matar Cansa 1 - El Pavón Teatro Kamikaze
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 ぼくにとっては文字通り、悲劇でした。

 悲劇というのは死から生まれます。何か、もしくは誰かの死で。テアトロ・カミカゼは、美しい場所として死んでいったんだと思っています。困ったことにテアトロ・カミカゼばかりでなく、上演場所がテアトロ・カミカゼしかなかった多くのカンパニーも死んでいく羽目になりました。なにしろあそこは、新しい企画に門戸を開放していた劇場だったんですからね。テアトロ・カミカゼの死によって、そういう役目を果たしてくれる場所を失ったカンパニーも死んでいくんです。これは本当に残念なことだと思っています。

『Matar Cansa』はあなたにとって、どんな意味を持っていましたか?

 大きな意味がありました。これは企画レベルで一種の“トゲ(心にひっかかっていたもの)”でした。

 台本ではなくて、一緒にやったカンパニーにとってです。アルベルト・サビーナとアントニオ・マテオスは、ぼくがムルシアにいた頃からの友人なんですが、マドリードで一緒に何かをやりたいという“トゲ”があって、テアトロ・カミカゼがそのチャンスを与えてくれたんです。

 それに、ひとりのプロフェッショナルとしてもすごくやりたかったテレビの仕事をたくさんやってきたので、自分の仕事を再確認するためにも必要でした。演技の根本は舞台にあって、『Matar Cansa』の舞台装置は椅子と本だけなんです。それがすべてを物語っていますね。

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映画やテレビドラマの撮影よりも、舞台に立っているほうが楽しいですか?

 自宅にいるほうが楽しいですよ。この場所があるからこそ、多くの仕事をやることができるんです。

 仕事を前提とした人生の幸福なんて“、真っ平ごめん”だと思っています。もし仕事を優先していたら、いつか仕事がなくなったときにぼくは不幸になってしまうことになりますからね。だからぼくの使命は、自分の家にいることが楽しいと感じることで、仕事場ではできるだけ素晴らしい時間を過ごす努力をすることなんです。残念ながら、そうはいかないときもありますが、まあそれは仕方がないですよね。

舞台・映画・テレビに、そして最近では音楽も加わって、「Mirando al sol(太陽を見ながら)」がリリースされました。あなたのキャリアの中で音楽は、どんな役割を果たしていますか? あるいは、将来どんな役割を果たすことになりますか?

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Jaime Lorente - Mirando al Sol (Official Video)
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 ぼくは俳優です。こんなことを言っても、なんの役にも立たないかもしれませんけれど、とにかくぼくは俳優なんです。そのための勉強もやってきたし、その仕事に自分を捧げています。

 音楽をやるようになったきっかけは、音楽プロデューサーのパブロ・ガレタ(Pablo Gareta)で、気がつくと彼と一緒に閉じこもって仕事をやっていました。そうして互いに連絡を取り合うようになったんです。ぼくにとって音楽とは、彼との個人レベルの関係であって、一緒にスタジオで仕事をするときは、楽しい時間を過ごしています。気をつかう必要もなく、言いたいことをズバズバ言える関係性なんです。 

最近、ブルガリのアンバサダーに就任しましたね。このブランドのことは前からよくご存じだったと思いますが、特に気に入っているのはどんなところですか?

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 上品でエレガントそのものだと思っています。ミルクみたいな感じですかね。大好きです。 

ブルガリで最も重要なラインナップは、宝石と時計のふたつと言えるでしょう。男たち、とりわけ若い男性たちは、なぜ以前よりも宝石やこういったタイプのアクセサリーを身につけるようになったんだと思いますか?

 ぼくがわからないのは、「男は、いつから宝石を身につけることを控えなければならなくなったのか」ってことですね。

 つまり、「好きなものがあるなら身につけたらいいじゃないか」ってことです。幸いぼくらが生きている現在は、やりたいことを気兼ねなくできる時代であって、倫理観は大切ですけど、美意識も同じように大切です。ですので、ブルガリの男性用ジュエリーのコレクションをぜひ、身につけてください。とても素晴らしいものです。 

あなたは自分の美意識を大切にしていますか?

 はい、でもぼくは同時に、ものすごくシンプルな人間でもあると思っています。ぼくが好きなのは古風で、シンプルで、エレガントなものなんです。だからブルガリは、ぼくにぴったりなんです。

Video: Diego Rueda · Photography: Fernando Roi · Styling: Blanca Hidalgo · Video editing: Diego Rueda · Photography editor: Carolina Álvarez · Makeup: Laura Eiroa (Mery Makeup) · Production: Mariana González

Source / Esquire ES
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。

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