2023年モデルとして発表されたメルセデスAMGの新型EVセダン「EQE 53 4MATIC+」ですが、“AMG初のピュアEV”ではありません。2014年に限定生産されたスポーツカー「SLS エレクトリックドライブ」こそが、その栄誉に浴すべき1台でした。

そしてその電動スピリットは、未来志向のフラッグシップパフォーマンスモデル「EQS」へと引き継がれました。そんな「EQS」をコンパクトかつ実用的にしたモデルとして生み出されたのが、今回新たに発表された「EQE 53 4MATIC+」です。

AMGの単一モデルとなる最新型EV「EQE 53 4MATIC+」ですが、確かな実力を備えたパワートレインを搭載していて、標準仕様の全輪駆動で617馬力を誇ります。オプションとなる「ダイナミックプラス」のパッケージなら677馬力と、さらに高出力となります。

EPA基準の航続距離は未公表ですが、少なくとも「250マイル(約400キロ)は下らない」と見られています。販売価格も明かされてはいませんが、14万8495ドル(約2000万円)のAMG「EQS 4Matic+」よりは手頃で、おそらくは「E63 S」セダンの10万9550ドル(約1500万円)さえ下回る価格設定となる可能性もあるかもしれません。

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MERCEDES AMG
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標準仕様で402馬力のメルセデス「EQE」が、さらなるハイパフォーマンスモデルとなって登場したことにより、ちょっとした疑問が生じます。いかにAMGとは言え、あの獰猛(どうもう)な内燃機関エンジンが取り去られてしまった今、興奮に満ちたドライビングエクスペリエンスを提供することが可能なのでしょうか?

そんな疑問に対する回答とまではいきませんが、AMG「EQE 53 4MATIC+」では搭載されたサウンドシンポ―ザー・システムにより、車の内外に装備したスピーカーからは合成された走行音(電子音)が鳴り響き、それによって体感的な効果を演出する努力がなされています。エンジン音そのままという訳にはいきませんが、アクセルの状況に応じて音量と音程を変化させることで、疑似的効果をもたらそうというシステムです。初期設定の「オーセンティック」モードと、より激しい「パフォーマンス」モードという2種類のオプションが用意されています。

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ただし、私たち(米国カーメディア「CAR AND DRIVER」)がフランスで行った走行テストでは、残念なことに期待したほどの音響効果を得ることはできませんでした。映画『スターウォーズ』のライトセーバーの効果音を彷彿とさせるサウンドスケープは、確かに面白いものではありましたが…。

その理由として、攻めた走りをしようとすると、どうしても違和感の生じるノイズとなり、ドライバーの気が散ってしまうのです。少なくとも私たちの体験からすると、「EQE 53 4MATIC+」のスピードと小気味よい足回りについては、このサウンドシステムを切ってしまったほうがより素直に楽しめるという結果になりました。

搭載する装備は幅広いものの、0-100km/h加速はやや見劣りか?

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メルセデスベンツ「EQE」の低速走行時における驚きの静寂にはかないませんが、メルセデスAMG「EQE 53 4MATIC+」でのクルージングもなかなかの静けさです。強烈な加速性能の反応の素晴らしさは、特筆すべき完成度と言えます。アクセルペダルは、「まるで重力加速度を操るフェーダー」とでも呼びたくなるほどの仕上がりです。

出力はダイナミックモードの切り替えによってその数値が変化します。滑りやすい路面用の「スリッパリー」モードで308馬力、「コンフォート」モードで493馬力、「スポーツ」モードで555馬力、「スポーツ+」モードなら617馬力まで上昇します。

さらに「ダイナミックプラス」パッケージのオプションを加えれば、「レーススタート」機能を起動させた場合に限り、瞬間的に677馬力までオーバーブーストさせることも可能。ただし、そこまでしなくとも標準仕様のままですでに、過激なほどの速さを備えていることは間違いありません。

とは言え、0-100km/h加速が3.2秒という「EQE 53 4MATIC+」の数値は、同じカテゴリーのライバルと目されるテスラ「モデルSプレイド」やポルシェ「タイカン ターボS」の異次元の加速性能と比べれば、やや中庸ということにはなるかもしれません。

シャシーに関しては、この「EQE 53 4MATIC+」のパワーと重量を見事に受け止めるべく設計されています。車重の大部分は90.6kWhのバッテリーパックによるもので、重心を低く抑えるよう設置されており、方向転換の際の安定感やボディーロールの少なさにその効果がよく表れています。

ミシュラン製のノーマルタイヤ「パイロットスポーツ4S」の優れたグリップ性能にも助けられ、全体的にバランス良く仕上がってはいるものの、厳しいコーナーではその重量の大きさを意識せずにはいられません。反応の正確なステアリング、高負荷でも安定性を損なわないアダプティブダンパーとスプリングを備えてはいますが、曲がりくねった峠道などを走ろうとすれば、「EQE 53 4MATIC+」の巨体と重量とを無視することはできないでしょう。

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「EQS 53」は、複数のドライブセッティングが選択可能です。ですが、強烈な加速性能や人工的な音響効果の切り替えということ以外、大きな変化を体感できる訳ではありません。乗り心地はどのセッティングにおいても快適そのもの。「スポーツ」と「スポーツ+」では、ステアリングの重さなどに変化を感じ取ることができますが、それはほんのわずかな変化に過ぎません。

明確な違いを感じるのは、スタビリティコントロールを「スポーツ」モードに切り替えた際です。AWD(全輪駆動)システムのトルク配分がリアに移行しつつ、余計なスリップが生じないよう制御が働いているのが実感できるはずです。

試乗したテストカーには、オプションとしてカーボンセラミックブレーキが装備されていました。が、標準装備の回生ブレーキによって、最大260kWの出力をモーターから回収できることを思えば、これは不要とさえ思えるほどでした。

回生ブレーキはステアリングの裏側のスイッチで3段階の切り替え操作が可能で、最も弱いモードにおいてはアクセルを抜くと惰性走行しながら減速し、最も強力なモードではワンペダルと同様のブレーキ効果を得ることができる仕様となっています。

「EQE 53 4MATIC+」をDC急速充電器に接続すれば、最大170kWを取り込むことが可能です。これは、航続距離112マイル(約180キロ)分の電力をわずか15分で充電できることを意味します。

かなり優れたEVなのは確か。ただ、EVへの以降過渡期における車づくりの難しさも感じられました

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AMG版ではない、メルセデス「EQE」を試乗した際にも感じたことでしたが、やはりこの「EQE 53 4MATIC+」の場合においても乗りこなすようになるまでには、多少の馴れが必要かもしれません。キャブフォワード(編集注:キャビンが車体に対して総じて前方寄りに設計されているスタイル)のプロポーション、そして曲線的なルーフラインを基調とした外観についてもAMGのこれまでのセダンと比べ、「クラシカルなエレガンスに欠けている」と違和感を覚える人もいるかもしれません。

インテリアに目を向ければ、ダッシュボード全体がスクリーンになった「ハイパースクリーン」仕様の場合、「高級セダンのキャビン」と言うよりも「テレビの視聴ブース」のような印象を受けます。

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あくまで実際に試乗してみた個人的な感想ですが、今回の「EQE 53 4MATIC+」によって、AMGは優れたEVを生み出せることを自ら証明してみせました。しかし、同社の車にこれまで備わってきたあの直感的とも言える興奮が、この「EQE 53 4MATIC+」からはあまり感じられませんでした。

その問題は何も、AMGに限ったことではありません。EVへの移行に伴って生じる感覚的な車づくりの難しさという問題に、パフォーマンスカーを手掛けるあらゆる自動車メーカーが直面しているかのようです。

けたたましく、そして手のかかる車の居場所など、EVの未来にはもう残されていないのかもしれません。ですが、この「EQE 53 4MATIC+」を試乗して改めて感じたのは、そんな荒々しさへの欲求でもありました。

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です